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8話 誘い

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 その日から、オリビエは放課後毎日図書館に通うようになった。

試験期間中以外は放課後に図書館に来るような学生は滅多にいない為、アデリーナとオリビエの2人きりの空間になっていた。
はじめの頃はアデリーナと本について話をするようになっていたが、2人の親交が深まるに連れ、徐々に踏み込んだ話へ変わっていったのだった……。


――放課後、帰り支度をしていると隣の席のエレナがオリビエに声をかけてきた。

「オリビエ、今日一緒に途中まで帰らない? 私、実は自転車で通学してきたのよ」

「え? エレナ……もう自転車を乗りこなせるようになったの? 驚いたわ」

「フフフ。自転車に乗る練習にはカールに付き合ってもらったわ。彼のおかげね」

「そうだったのね? でももう自転車で通学してくるなんてすごいわ」

「でしょう? 自転車って気持ちいいわね。風を切ってスイスイ走る爽快感は素敵だわ。だから2人で自転車に乗って帰らない? 途中、どこか喫茶店に寄りましょうよ」

それは、とても素敵な誘いだった。けれど……。

「ごめんなさい、エレナ。実は今日、約束があるの」

今日、アデリーナは図書委員が休みの日だった。そこで、2人で大学構内に設けられたカフェテリアでお茶を飲むことにしていたのだ。

「そうだったのね……あ、もしかしてギスランと約束しているの? 良かったじゃない」

「いいえ、違うわ。アデリーナ様とよ」

「そう、アデリーナ様と……ええっ!? そ、その話本当なの!?」

エレナは大げさに驚く。

「ええ、本当よ。そんなに驚くことかしら?」

「もちろん、驚くことに決まっているでしょう? だって、あのアデリーナ様よ? 侯爵令嬢であり、あの……悪女と名高い」

「悪女というのは誤解よ。それはね、婚約者のディートリッヒ様があらぬ噂話を広めているだけに過ぎないのよ。何しろディートリッヒ様は他に想い人の女性がいるから」

「それは、そうかもしれないけれど……でも……」

「エレナ……」

オリビエがじっと見つめると、エレナは頷いた。

「分かったわ、他ならぬ親友のオリビエの話だから信じるわ。約束があるなら仕方ないわね、カールと帰ることにするわ」

「ごめんなさい、エレナ」

「いいのよ、それじゃまた明日ね」

「ええ、また明日」

エレナは手を振り、教室を出て行った。

「私もアデリーナ様との待ち合わせ場所に行かなくちゃ」

そしてオリビエも待ち合わせ場所に向かうことにした――


****

「オリビエさん、こっちよ」

待ち合わせ場所のカフェテリアに行くと、既にアデリーナは席に座っていた。

「お待たせして申し訳ございません」

席に座るとオリビエは謝罪する。

「いいのよ、私も5分程前に着いたところだから。それで飲み物は何にする? 私はミルクティーにするつもりだけど」

「私もミルクティーにします」

憧れのアデリーナと同じ飲み物を飲むのはオリビエにとって当然のことだった――




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