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7話 憧れの人

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(どうしてアデリーナ様がここに……? 今まで一度も図書館で出会ったことがないのに)

躊躇っているとアデリーナがオリビエの姿に気付き、声をかけてきた。

「本を借りに来た方ですか? どうぞ」

「は、はい……」

オリビエは呼ばれるままに貸出カウンターに来ると、自分の借りようとしている小説が何だったかを思い出した。

(そうだった……! この本は恋愛小説だったわ。アデリーナ様のように知的な女性の前でこんな本を借りるなんて……軽蔑されてしまうかも!)

「では、貸出手続きを行うので本を貸していただけますか?」

アデリーナは笑顔で話しかけてくる。
こんなことなら歴史小説でも借りれば良かったとオリビエは後悔したが、今更引き返すことなど出来ない。

「お願いします……」

恐る恐る抱えていた本をカウンターに置いた。するとアデリーナは笑顔になる。

「まぁ、あなたもこの本を借りるのですか? 私も以前読んだことがあるのですよ。とてもロマンチックな恋愛小説でした。お勧めですよ?」

「え? ほ、本当ですか?」

まさか借りようとしていた本をアデリーナが読んでいたことを知り、オリビエは嬉しい気持ちになった。けれど、自分のことを全く覚えていない様子に少し寂しい気持ちもある。

「ええ、夢中になって頁をめくる手が止まらずに、3日で読み終わってしまいました。では、貸出カードに名前を書いて下さい」

「はい。分かりました」

オリビエは卓上のペンを手に取ると、名前を書いた。

「お願いします」

貸出カードに名前を書いて、アデリーナに差し出した。

「オリビエ・フォードさんですね? 貸出期間は2週間になります。では、どうぞ」

アデリーナから本を受け取ったものの、オリビエはまだ話がしたかった。

「あ、あのアデリーナ様!」

「え? どうして私の名前を?」

「私のこと、覚えておりませんか? 今朝、友人と中庭でお会いしたのですけど」

その言葉に、アデリーナはじっとオリビエを見つめ……。

「あ、思い出したわ! 何処かで会ったような気がしていたけれど、今朝会っていた人だったのね?」

「はい、そうです。私のこと思い出していただき、嬉しいです」

「今朝はお恥ずかしいところを見せてしまったわね。ただでさえ私はこの赤毛のせいで悪目立ちしているのに。本当にいやになってしまうわ」

オリビエは自分の髪を見つめて、ため息をつく。

「あの、アデリーナ様はもしかして……ご自分の髪の色が……?」

「ええ、好きではないわ。小さい頃から、この赤毛がコンプレックスだったのよ。何しろ私の婚約者も、『お前のような気の強い女にはお似合いの色だ』と言うのだから」

「そんなことありません!」

突如オリビエは大きな声をあげた。

「え? オリビエさん?」

「私、アデリーナ様のように情熱的な美しい髪色を見たのは生まれて初めてです! 何て素敵な色なのだろうと、見惚れてしまうほどです。とても良くお似合いだと思っています。なので全くコンプレックスを持つ必要など無いです!」

「……」

アデリーナは驚いたようにオリビエを見つめている。
その途端オリビエは我に返って、頭を下げて必死に謝った。

「あ……も、申し訳ございません! 私、つい……自分の考えを押し付けるようなことをしてしまいました! お許しください!」

するとアデリーナが声をかけてきた。

「顔を上げて、オリビエさん」

「は、はい……」

顔を上げると、アデリーナが満面の笑みを浮かべて自分を見つめている。

「ありがとう、オリビエさん。あなたのお陰で自分の赤毛が好きになれそうだわ」

「アデリーナ様……」

「オリビエさん。今月一杯は放課後、ここの図書館で貸出委員を務めることになっているの」

オリビエはアデリーナから『また会いましょう』と言われているように感じ……気づけば自分の気持を口にしてしまった。

「アデリーナ様、すぐに本を読み終えて返却に来ます。その時、もしよろしければお勧めの本を教えていただけますか?」

「ええ。もちろん。おすすめの本を探して、ここでオリビエさんを待っているわ」

アデリーナは美しい笑みを浮かべた――


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