7 / 57
7話 憧れの人
しおりを挟む
(どうしてアデリーナ様がここに……? 今まで一度も図書館で出会ったことがないのに)
躊躇っているとアデリーナがオリビエの姿に気付き、声をかけてきた。
「本を借りに来た方ですか? どうぞ」
「は、はい……」
オリビエは呼ばれるままに貸出カウンターに来ると、自分の借りようとしている小説が何だったかを思い出した。
(そうだった……! この本は恋愛小説だったわ。アデリーナ様のように知的な女性の前でこんな本を借りるなんて……軽蔑されてしまうかも!)
「では、貸出手続きを行うので本を貸していただけますか?」
アデリーナは笑顔で話しかけてくる。
こんなことなら歴史小説でも借りれば良かったとオリビエは後悔したが、今更引き返すことなど出来ない。
「お願いします……」
恐る恐る抱えていた本をカウンターに置いた。するとアデリーナは笑顔になる。
「まぁ、あなたもこの本を借りるのですか? 私も以前読んだことがあるのですよ。とてもロマンチックな恋愛小説でした。お勧めですよ?」
「え? ほ、本当ですか?」
まさか借りようとしていた本をアデリーナが読んでいたことを知り、オリビエは嬉しい気持ちになった。けれど、自分のことを全く覚えていない様子に少し寂しい気持ちもある。
「ええ、夢中になって頁をめくる手が止まらずに、3日で読み終わってしまいました。では、貸出カードに名前を書いて下さい」
「はい。分かりました」
オリビエは卓上のペンを手に取ると、名前を書いた。
「お願いします」
貸出カードに名前を書いて、アデリーナに差し出した。
「オリビエ・フォードさんですね? 貸出期間は2週間になります。では、どうぞ」
アデリーナから本を受け取ったものの、オリビエはまだ話がしたかった。
「あ、あのアデリーナ様!」
「え? どうして私の名前を?」
「私のこと、覚えておりませんか? 今朝、友人と中庭でお会いしたのですけど」
その言葉に、アデリーナはじっとオリビエを見つめ……。
「あ、思い出したわ! 何処かで会ったような気がしていたけれど、今朝会っていた人だったのね?」
「はい、そうです。私のこと思い出していただき、嬉しいです」
「今朝はお恥ずかしいところを見せてしまったわね。ただでさえ私はこの赤毛のせいで悪目立ちしているのに。本当にいやになってしまうわ」
オリビエは自分の髪を見つめて、ため息をつく。
「あの、アデリーナ様はもしかして……ご自分の髪の色が……?」
「ええ、好きではないわ。小さい頃から、この赤毛がコンプレックスだったのよ。何しろ私の婚約者も、『お前のような気の強い女にはお似合いの色だ』と言うのだから」
「そんなことありません!」
突如オリビエは大きな声をあげた。
「え? オリビエさん?」
「私、アデリーナ様のように情熱的な美しい髪色を見たのは生まれて初めてです! 何て素敵な色なのだろうと、見惚れてしまうほどです。とても良くお似合いだと思っています。なので全くコンプレックスを持つ必要など無いです!」
「……」
アデリーナは驚いたようにオリビエを見つめている。
その途端オリビエは我に返って、頭を下げて必死に謝った。
「あ……も、申し訳ございません! 私、つい……自分の考えを押し付けるようなことをしてしまいました! お許しください!」
するとアデリーナが声をかけてきた。
「顔を上げて、オリビエさん」
「は、はい……」
顔を上げると、アデリーナが満面の笑みを浮かべて自分を見つめている。
「ありがとう、オリビエさん。あなたのお陰で自分の赤毛が好きになれそうだわ」
「アデリーナ様……」
「オリビエさん。今月一杯は放課後、ここの図書館で貸出委員を務めることになっているの」
オリビエはアデリーナから『また会いましょう』と言われているように感じ……気づけば自分の気持を口にしてしまった。
「アデリーナ様、すぐに本を読み終えて返却に来ます。その時、もしよろしければお勧めの本を教えていただけますか?」
「ええ。もちろん。おすすめの本を探して、ここでオリビエさんを待っているわ」
アデリーナは美しい笑みを浮かべた――
躊躇っているとアデリーナがオリビエの姿に気付き、声をかけてきた。
「本を借りに来た方ですか? どうぞ」
「は、はい……」
オリビエは呼ばれるままに貸出カウンターに来ると、自分の借りようとしている小説が何だったかを思い出した。
(そうだった……! この本は恋愛小説だったわ。アデリーナ様のように知的な女性の前でこんな本を借りるなんて……軽蔑されてしまうかも!)
「では、貸出手続きを行うので本を貸していただけますか?」
アデリーナは笑顔で話しかけてくる。
こんなことなら歴史小説でも借りれば良かったとオリビエは後悔したが、今更引き返すことなど出来ない。
「お願いします……」
恐る恐る抱えていた本をカウンターに置いた。するとアデリーナは笑顔になる。
「まぁ、あなたもこの本を借りるのですか? 私も以前読んだことがあるのですよ。とてもロマンチックな恋愛小説でした。お勧めですよ?」
「え? ほ、本当ですか?」
まさか借りようとしていた本をアデリーナが読んでいたことを知り、オリビエは嬉しい気持ちになった。けれど、自分のことを全く覚えていない様子に少し寂しい気持ちもある。
「ええ、夢中になって頁をめくる手が止まらずに、3日で読み終わってしまいました。では、貸出カードに名前を書いて下さい」
「はい。分かりました」
オリビエは卓上のペンを手に取ると、名前を書いた。
「お願いします」
貸出カードに名前を書いて、アデリーナに差し出した。
「オリビエ・フォードさんですね? 貸出期間は2週間になります。では、どうぞ」
アデリーナから本を受け取ったものの、オリビエはまだ話がしたかった。
「あ、あのアデリーナ様!」
「え? どうして私の名前を?」
「私のこと、覚えておりませんか? 今朝、友人と中庭でお会いしたのですけど」
その言葉に、アデリーナはじっとオリビエを見つめ……。
「あ、思い出したわ! 何処かで会ったような気がしていたけれど、今朝会っていた人だったのね?」
「はい、そうです。私のこと思い出していただき、嬉しいです」
「今朝はお恥ずかしいところを見せてしまったわね。ただでさえ私はこの赤毛のせいで悪目立ちしているのに。本当にいやになってしまうわ」
オリビエは自分の髪を見つめて、ため息をつく。
「あの、アデリーナ様はもしかして……ご自分の髪の色が……?」
「ええ、好きではないわ。小さい頃から、この赤毛がコンプレックスだったのよ。何しろ私の婚約者も、『お前のような気の強い女にはお似合いの色だ』と言うのだから」
「そんなことありません!」
突如オリビエは大きな声をあげた。
「え? オリビエさん?」
「私、アデリーナ様のように情熱的な美しい髪色を見たのは生まれて初めてです! 何て素敵な色なのだろうと、見惚れてしまうほどです。とても良くお似合いだと思っています。なので全くコンプレックスを持つ必要など無いです!」
「……」
アデリーナは驚いたようにオリビエを見つめている。
その途端オリビエは我に返って、頭を下げて必死に謝った。
「あ……も、申し訳ございません! 私、つい……自分の考えを押し付けるようなことをしてしまいました! お許しください!」
するとアデリーナが声をかけてきた。
「顔を上げて、オリビエさん」
「は、はい……」
顔を上げると、アデリーナが満面の笑みを浮かべて自分を見つめている。
「ありがとう、オリビエさん。あなたのお陰で自分の赤毛が好きになれそうだわ」
「アデリーナ様……」
「オリビエさん。今月一杯は放課後、ここの図書館で貸出委員を務めることになっているの」
オリビエはアデリーナから『また会いましょう』と言われているように感じ……気づけば自分の気持を口にしてしまった。
「アデリーナ様、すぐに本を読み終えて返却に来ます。その時、もしよろしければお勧めの本を教えていただけますか?」
「ええ。もちろん。おすすめの本を探して、ここでオリビエさんを待っているわ」
アデリーナは美しい笑みを浮かべた――
931
お気に入りに追加
3,966
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる