上 下
6 / 57

6話 婚約者との関係

しおりを挟む
――16時

本日全ての講義が終わって帰り支度をしているオリビエに、エレナが声をかけてきた。

「それじゃ、オリビエ。また明日ね」

「ええ、また明日」

エレナは手を振ると、急ぎ足で去って行った。教室の入口には彼女の婚約者、カールが待っている。

「……2人で一緒に帰るのね。デートでもするのかしら?」

ポツリとつぶやき、ギスランの顔を思い浮かべた。
オリビエとギスランは子供時代から婚約者していたが、一度も一緒に登下校したこともなければ2人きりで出かけたこともない。
ただ月に数回、学校が休みの週末にだけ顔合わせという名目でどちらかの屋敷で会うだけだった。
その際、特に会話をするわけでもない。同じ空間にいれば良いだけなので、ギスランはいつも持参した本を読み、オリビエを相手にしようとはしない。
そこでオリビエは出来るだけ読書の邪魔にならないように、気を使って静かに刺繍をして過ごし……時間になるとギスランは帰って行く。

そんな関係がずっと続いていた。

本当はもっとギスランと仲良くなりたいと思っていた。しかし、相手がそれを望んでいない以上どうすることも出来なかった。

どうせいずれは結婚するのだから、2人の関係もそのうち変わって来るだろうとオリビエは割り切ることにしたのだが……シャロンが15歳になった頃から変化が起こり始めた。

気づけばギスランとシャロンが急接近し、オリビエとの距離が遠のいていたのだ。
2人はオリビエが気づかない間に親密になり……今では隠すこと無く堂々と一緒に過ごすようになっていた。
それが、たとえオリビエの眼の前であろうとも。


「……仕方ないわね。シャロンは私と違って、可愛らしくて魅力的だもの……」

ポツリとつぶやき、自分のダークブロンドの髪にそっと触れる。
シャロンの髪はオリビエと違い、眩しく光り輝くようなプラチナブロンドだった。瞳は深い海のような青い色。

容姿だけでは、どれもオリビエには敵わない。ただ、シャロンより秀でていることがあるとすれば頭の良さだけだったろう。
オリビエは才女だったが、シャロンはそれほど賢くは無かった。だが、頭の良い女性は男性からは敬遠されがちだった。

「婚約解消されるのも時間の問題かもしれないわね……そして代わりにシャロンと……」

ため息をつくとオリビエは立ち上がり、教室を後にした――


****



 オリビエは大学の図書館を訪れていた。
家に自分の居場所が無いオリビエは、あまり早く帰りたくはなかった。そこで放課後は大学の図書館に立ち寄るのが日課になっていたのだ。

放課後にわざわざ図書館に寄る学生は、滅多にいない。静かな図書館でオリビエは小説を探していた。

(何か、ときめくような恋愛小説は無いかしら……)

家族からは勉強しか脳がないと思われているオリビエだったが、実は恋愛小説を読むのが趣味だった。
棚の中から適当に女性向け小説を手に取り、パラパラと試し読みをしてみる。

「これは中々面白そうだわ……今日はこれを借りることにしましょう」

オリビエは早速、貸出カウンターへ向かうと目を見開いた。

驚くべきことにカウンターに座っていたのは、侯爵令嬢のアデリーナだったのだ――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...