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4話 悪女? の登場
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「何を怒ってらっしゃるのですか? ディートリッヒ様」
侯爵令嬢アデリーナは真っ直ぐにディートリッヒを見つめている。
「お前は俺が何故怒っているのか分からないのか!?」
ディートリッヒはアデリーナを指さした。
「ええ、分かりませんから尋ねているのです。それはさておき……ディートリッヒ様」
キッとアデリーナはディートリッヒに鋭い目を向ける。
「な、何だ?」
「いくらなんでも、人を指差すのはどうかと思いませんか? 礼儀という言葉を、もしやご存じないのでしょうか?」
「何っ! おまえ、誰に対してそんな口を叩くんだ! 仮にも俺は……!」
「ええ、ディートリッヒ・バスク候爵。私の婚約者ですわよね? それなのに何故でしょう? 私よりも、そちらの令嬢と親しげに見えるのですが」
そして栗毛色の女子学生を見つめた。
「こ、怖い! ディートリッヒ様!」
女子学生は咄嗟にディートリッヒの背後に隠れた。
「大丈夫、俺がついている。サンドラ」
サンドラと呼ばれた女子学生を慰めるように髪を撫でると、再びアデリーナを指さすディートリッヒ。
「そんな目付きの悪い目で睨みつけるな! サンドラが怖がっているだろう!」
「別に睨みつけてなどいませんわ。私は元々このような目つきですから。ですが先ほども申し上げましたが、あまり2人きりで学園内を歩き回られないようにお願いいたします。一応、私とディートリッヒ様は婚約者同士なのですから」
「な、何だと……大体、お前と俺は親同士が勝手に決めた婚約者なだけであって、お前のことなんか認めていないからな!」
「別に認めていただかなくても、私は一向に構いませんが?」
「な、何だって!? 全く本当に可愛げのない女だ。サンドラ、あんな女は放っておこう」
「はい、ディートリッヒ様」
ディートリッヒはサンドラの肩を抱き寄せると、去っていった。
「……全く、呆れた男ね。私達の婚約は覆すことなど出来ないのに」
アデリーナは気にする素振りもなく、踵を返し……。
「あら?」
ことの一部始終を物陰から見ていたオリビエとエレナに鉢合わせしてしまった。
「「あ……」」
3人の間に気まずい雰囲気が流れる。
「あなたたちは……?」
怪訝そうに首を傾げるアデリーナ。すると――
「た、大変申し訳ございませんでした! 中庭で大きな声が聞こえたので、つい何事かと思って……決して覗き見をしようとしていたわけではありません! どうぞお許しください!」
エレナは必死で謝った。何しろ相手は悪女と名高いアデリーナ侯爵令嬢なのだ。
一方のオリビエは言葉を発することもなく、ただアデリーナを見つめていた。
その様子に気付いたエレナが慌てる。
「ちょ、ちょっと! オリビエ! あなた何してるの! アデリーナ様に謝りなさいよ!」
「あ……申し訳ございませんでした! アデリーナ様!」
エレナに注意され、我に返ったオリビエは慌てて頭を下げた。
「あら、謝るのはむしろ私の方よ。中庭で騒ぎを起こしてしまって驚いたでしょう? ごめんなさいね。それじゃ、失礼するわ」
アデリーナはフッと口元に笑みを浮かべると、立ち去っていった。
その後姿を2人は見つめていたが……。
「こ、怖かった~……」
不意にエレナがガタガタ震えた。
「まさか高貴な身分のアデリーナ様とディートリッヒ様のしゅ、修羅場を覗き見してしまったなんて……心臓が止まるかと思ったわ。そう思わない? オリビエ……って、ど、どうしちゃったの!?」
オリビエは両手を胸の前で組んで、アデリーナの背中を見つめていた。
「アデリーナ様……あの凛とした佇まい……なんて素敵な方なの……」
「え? オリビエ……? ちょっと、大丈夫? オリビエったら!」
エレナに肩を揺すぶられるオリビエ。
彼女の頭の中は、既にアデリーナのことで一杯になっていたのだった――
侯爵令嬢アデリーナは真っ直ぐにディートリッヒを見つめている。
「お前は俺が何故怒っているのか分からないのか!?」
ディートリッヒはアデリーナを指さした。
「ええ、分かりませんから尋ねているのです。それはさておき……ディートリッヒ様」
キッとアデリーナはディートリッヒに鋭い目を向ける。
「な、何だ?」
「いくらなんでも、人を指差すのはどうかと思いませんか? 礼儀という言葉を、もしやご存じないのでしょうか?」
「何っ! おまえ、誰に対してそんな口を叩くんだ! 仮にも俺は……!」
「ええ、ディートリッヒ・バスク候爵。私の婚約者ですわよね? それなのに何故でしょう? 私よりも、そちらの令嬢と親しげに見えるのですが」
そして栗毛色の女子学生を見つめた。
「こ、怖い! ディートリッヒ様!」
女子学生は咄嗟にディートリッヒの背後に隠れた。
「大丈夫、俺がついている。サンドラ」
サンドラと呼ばれた女子学生を慰めるように髪を撫でると、再びアデリーナを指さすディートリッヒ。
「そんな目付きの悪い目で睨みつけるな! サンドラが怖がっているだろう!」
「別に睨みつけてなどいませんわ。私は元々このような目つきですから。ですが先ほども申し上げましたが、あまり2人きりで学園内を歩き回られないようにお願いいたします。一応、私とディートリッヒ様は婚約者同士なのですから」
「な、何だと……大体、お前と俺は親同士が勝手に決めた婚約者なだけであって、お前のことなんか認めていないからな!」
「別に認めていただかなくても、私は一向に構いませんが?」
「な、何だって!? 全く本当に可愛げのない女だ。サンドラ、あんな女は放っておこう」
「はい、ディートリッヒ様」
ディートリッヒはサンドラの肩を抱き寄せると、去っていった。
「……全く、呆れた男ね。私達の婚約は覆すことなど出来ないのに」
アデリーナは気にする素振りもなく、踵を返し……。
「あら?」
ことの一部始終を物陰から見ていたオリビエとエレナに鉢合わせしてしまった。
「「あ……」」
3人の間に気まずい雰囲気が流れる。
「あなたたちは……?」
怪訝そうに首を傾げるアデリーナ。すると――
「た、大変申し訳ございませんでした! 中庭で大きな声が聞こえたので、つい何事かと思って……決して覗き見をしようとしていたわけではありません! どうぞお許しください!」
エレナは必死で謝った。何しろ相手は悪女と名高いアデリーナ侯爵令嬢なのだ。
一方のオリビエは言葉を発することもなく、ただアデリーナを見つめていた。
その様子に気付いたエレナが慌てる。
「ちょ、ちょっと! オリビエ! あなた何してるの! アデリーナ様に謝りなさいよ!」
「あ……申し訳ございませんでした! アデリーナ様!」
エレナに注意され、我に返ったオリビエは慌てて頭を下げた。
「あら、謝るのはむしろ私の方よ。中庭で騒ぎを起こしてしまって驚いたでしょう? ごめんなさいね。それじゃ、失礼するわ」
アデリーナはフッと口元に笑みを浮かべると、立ち去っていった。
その後姿を2人は見つめていたが……。
「こ、怖かった~……」
不意にエレナがガタガタ震えた。
「まさか高貴な身分のアデリーナ様とディートリッヒ様のしゅ、修羅場を覗き見してしまったなんて……心臓が止まるかと思ったわ。そう思わない? オリビエ……って、ど、どうしちゃったの!?」
オリビエは両手を胸の前で組んで、アデリーナの背中を見つめていた。
「アデリーナ様……あの凛とした佇まい……なんて素敵な方なの……」
「え? オリビエ……? ちょっと、大丈夫? オリビエったら!」
エレナに肩を揺すぶられるオリビエ。
彼女の頭の中は、既にアデリーナのことで一杯になっていたのだった――
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