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川口直人 54
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「いやぁ~…君が次期社長となる直人君か…良く来てくれたな」
常盤商事の社長は満面の笑みを浮かべながら妙に親しげに話しかけてきた。
「い、いえ。この度は御社が業務提携の話に賛同して下さったそうでありがとうございます」
頭を下げた。
それにしても直人君だって?そんな風に名前を呼ばれるとは思わなかった。隣に立つ父をチラリと見ると、やはり戸惑っているように感じた。
「まぁ、堅苦しい話は後にしよう。とりあえずはそこのソファに移動しよう」
常盤社長は傍らにある立派な革張りソファの方を指し示し、立ち上がった。
「「はい」」
父と俺は返事をし、常盤社長と女性がソファに移動したので一緒についていくことにした。
そして向かい合わせに座ると早速常盤社長が隣に座る女性を紹介した。
「これは私の娘の恵利で年齢は23歳だ。さ、恵利。直人君にご挨拶しなさい」
娘…?秘書じゃなかったのか?けれど何か嫌な予感がする。
「はい、常盤恵利です。現在この会社の社長室で働いています。どうぞよろしくお願い致します」
「はい、此方こそよろしくお願い致します」
「どうぞ宜しくお願い致します」
父と交互に挨拶する。そうか…秘書だったのか。だから同席していたのか。
すると次の瞬間、常盤社長からとんでもない台詞が飛び出した。
「どうだ?恵利?彼の事はどう思う?」
「ええ、とても素敵な男性ね。背も高いし、ハンサム。それに優しそうじゃない」
え?何だって…?
突然の2人の会話に驚きを隠せなかった。父も目を見開いている。
「うん、そうだな。なかなかの好青年だ。私も気に入ったよ。育ちも良いし…。それならもう決定だな?」
「勿論よ」
親子の会話にとうとう我慢でなくなった俺は2人に尋ねた。
「あの、先程からお2人が何を話されているのか話が読めないのですが…一体どういう事なのでしょうか?」
すると常盤社長が言った。
「ああ、君と恵利の縁談の話だよ」
「「えっ?!」」
俺と父は同時に声を上げた。
「あ、あの…お待ち下さい。本日は御社との業務提携のお話では無かったでしょうか?!」
父が常盤社長に焦りを交えて尋ねた。
「ああ、そうだよ。それは川口家電と我社が縁戚関係になることで業務提携をしようと言う話だ」
「な、何ですってっ?!そんな話は初耳です!」
俺は思わず声を荒らげてしまった。すると社長令嬢が眉をひそめる。
「お父さん、一体これはどういう事なの?今日は私とこの男性とのお見合い話じゃなかったの?」
その言葉に耳を疑った。
「な、何ですって…見合い…?」
自分の顔が青ざめていくのが分かった。
「直人…」
父が心配そうにこちらを見ている。
「ああ、そうだ。そうでもなければ今にも倒産しそうな会社と業務提携しようなどと物好きな会社はあるまい」
「!!」
その言葉に父がビクリとする。
「お断りしますっ!俺には結婚を考えている大切な恋人がいるんですっ!」
目の前の2人に大きな声で言った。
「え…?直人…お前…そんな相手がいたのか…?」
父が目を見開いて俺を見る。
「お父さんっ!どういう事よっ!恋人がいる男性を見合い相手にしよとうしていたのっ?!」
「うむ…まさか恋人がいたとはな…とんだ誤算だった。だが、恵利。お前は彼を気に入ったのだろう?」
「ええ、そうよ」
目の前では父娘が勝手な話をしている。俺も父も呆気に取られてその様子を見ていた。
「なら、決まりだな」
常盤社長は頷くと俺を見た。
「君、その恋人とはすぐに別れるのだ」
な、何だって…?
俺は…いや、俺と父は自分たちが騙されていた事にようやく気がついた―。
常盤商事の社長は満面の笑みを浮かべながら妙に親しげに話しかけてきた。
「い、いえ。この度は御社が業務提携の話に賛同して下さったそうでありがとうございます」
頭を下げた。
それにしても直人君だって?そんな風に名前を呼ばれるとは思わなかった。隣に立つ父をチラリと見ると、やはり戸惑っているように感じた。
「まぁ、堅苦しい話は後にしよう。とりあえずはそこのソファに移動しよう」
常盤社長は傍らにある立派な革張りソファの方を指し示し、立ち上がった。
「「はい」」
父と俺は返事をし、常盤社長と女性がソファに移動したので一緒についていくことにした。
そして向かい合わせに座ると早速常盤社長が隣に座る女性を紹介した。
「これは私の娘の恵利で年齢は23歳だ。さ、恵利。直人君にご挨拶しなさい」
娘…?秘書じゃなかったのか?けれど何か嫌な予感がする。
「はい、常盤恵利です。現在この会社の社長室で働いています。どうぞよろしくお願い致します」
「はい、此方こそよろしくお願い致します」
「どうぞ宜しくお願い致します」
父と交互に挨拶する。そうか…秘書だったのか。だから同席していたのか。
すると次の瞬間、常盤社長からとんでもない台詞が飛び出した。
「どうだ?恵利?彼の事はどう思う?」
「ええ、とても素敵な男性ね。背も高いし、ハンサム。それに優しそうじゃない」
え?何だって…?
突然の2人の会話に驚きを隠せなかった。父も目を見開いている。
「うん、そうだな。なかなかの好青年だ。私も気に入ったよ。育ちも良いし…。それならもう決定だな?」
「勿論よ」
親子の会話にとうとう我慢でなくなった俺は2人に尋ねた。
「あの、先程からお2人が何を話されているのか話が読めないのですが…一体どういう事なのでしょうか?」
すると常盤社長が言った。
「ああ、君と恵利の縁談の話だよ」
「「えっ?!」」
俺と父は同時に声を上げた。
「あ、あの…お待ち下さい。本日は御社との業務提携のお話では無かったでしょうか?!」
父が常盤社長に焦りを交えて尋ねた。
「ああ、そうだよ。それは川口家電と我社が縁戚関係になることで業務提携をしようと言う話だ」
「な、何ですってっ?!そんな話は初耳です!」
俺は思わず声を荒らげてしまった。すると社長令嬢が眉をひそめる。
「お父さん、一体これはどういう事なの?今日は私とこの男性とのお見合い話じゃなかったの?」
その言葉に耳を疑った。
「な、何ですって…見合い…?」
自分の顔が青ざめていくのが分かった。
「直人…」
父が心配そうにこちらを見ている。
「ああ、そうだ。そうでもなければ今にも倒産しそうな会社と業務提携しようなどと物好きな会社はあるまい」
「!!」
その言葉に父がビクリとする。
「お断りしますっ!俺には結婚を考えている大切な恋人がいるんですっ!」
目の前の2人に大きな声で言った。
「え…?直人…お前…そんな相手がいたのか…?」
父が目を見開いて俺を見る。
「お父さんっ!どういう事よっ!恋人がいる男性を見合い相手にしよとうしていたのっ?!」
「うむ…まさか恋人がいたとはな…とんだ誤算だった。だが、恵利。お前は彼を気に入ったのだろう?」
「ええ、そうよ」
目の前では父娘が勝手な話をしている。俺も父も呆気に取られてその様子を見ていた。
「なら、決まりだな」
常盤社長は頷くと俺を見た。
「君、その恋人とはすぐに別れるのだ」
な、何だって…?
俺は…いや、俺と父は自分たちが騙されていた事にようやく気がついた―。
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