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川口直人 35
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少し寂しい住宅街で加藤さんに出会った。彼女はうつむき加減で歩いていた。
「加藤さんっ!」
思わず大きな声で呼びかけると、驚いたように顔を上げてこちらを見た。
「え…?」
一瞬驚いたように俺を見た加藤さんが笑みを浮かべて言った。
「今晩は…偶然だね」
「よ、良かった…間に合って…」
思わず安堵の声で言う。
「え?間に合って?」
「加藤さんの幼馴染の…亮平って男から電話がかかってきたんだよ。加藤さんが今マンションに向かっているから迎えに行って欲しいって」
それに…会いたかった…。でも、その台詞は言わない。
「ええっ?ご、ごめんなさいっ!亮平がとんだ迷惑な事を川口さんに頼んで…!」
加藤さんは慌てたように頭を下げてきた。
「いや、そんな事は全然気にしなくていいんだよ。むしろこんな遅い時間に1人で歩いて帰ってくる方が心配だから」
すると加藤さんは俺を見て目を見開いた。
「あ、あの…ひょっとしてシャワーか何か浴びていた…?」
「あ…やっぱり分かってしまったかあ…」
照れ隠しに笑う。
「ほ、本当になんてことを…!ごめんなさいっ!」
しかし、ますます加藤さんはオロオロした様子で俺に頭を下げてきた。
「いいから、いいから。さ、一緒に帰ろう」
彼女は知らない。俺がどれだけ君に恋い焦がれているかということに…。
「はい…」
「加藤さん…やっぱり俺の連絡先…登録しておいてもらえないかな?」
「え?でも…それは…」
「心配なんだよ…突然眠くなってしまう発作があるんだろう?歩いているときに発作が来る時だってあるかもしれないじゃないか?何かあった時に俺が駆け付けられるように…」
俺はポツリと言った。加藤さんは黙って話を聞いている。
「加藤さんの事が好きだから…心配でたまらないんだ…友達としてでもいいから…」
そしてじっと彼女の目を見つめた。気づけば、そこはもうマンションの前だった。
「そ、それじゃ…私の連絡先…教えておくね…」
「え?!本当に?!」
まさか連絡先を教えてくれるとは思わなかった。そして俺は加藤さんに連絡先を教えてもらった。すると再び欲が出てきてしまう。
「あの…さ、毎日連絡入れてもいいかな?」
「え?」
俺の言葉に加藤さんが顔を上げる。
「い、いや、そんなしょっちゅうって言うわけじゃないよ。1日3回位…とか…?」
やはり…駄目、だろうか…?
するとクスリと笑って加藤さんが俺を見た。
「うん…いいよ?」
「本当?!本当に…いいの…?」
「うん。私は別に構わないよ?」
「あ、ありがとうっ!」
まさか…許可をもらえるとは思ってもいなかった。
「それじゃ…私、もう行くね?」
「うん、お休み」
「お休みなさい…」
そして加藤さんとその場で別れた―。
****
『今夜は俺の我儘を聞いてくれてありがとう。改めて…これからよろしく』
部屋に戻り、すぐに加藤さんにメッセージを送った。
「いきなり、メッセージなんか送って迷惑だったかな…」
しかしその反面、俺は加藤さんからの折り返しの連絡を待っている自分がいた。
どうにも気分が落ち着かず、冷蔵庫からビールを取り出し、1缶目を飲み終えた時だった。
スマホに着信を知らせる音楽が鳴り響いた。
「加藤さんからかっ?!」
『こちらこそ、これからよろしく。おやすみなさい』
短いメッセージだったけど…とても嬉しかった。今返信が来たって事は…電話をかければすぐに出てくれる…?
加藤さん…。さっき別れたばかりなのに…彼女の声が聞きたい。…2人で話がしたい…。
気づけば俺はスマホをタップしていた。
何回目かのコール音の後…。
『もしもし?』
電話越しから綺麗な声が聞こえてくる。
「もしもし、加藤さん?」
『どうかしたの?』
「いや…声をちょっと声を聞きたくなって…迷惑だったかな?」
ためらいがちに尋ねた。
『そんな事無いよ』
クスクスとした笑い声と共に加藤さんが言う。
「本当?!良かった…。あのさ…明日も朝…電話かけてもいいかな?」
図々しい願い…だろうか?だけど加藤さんは言った。
『うん、いいよ』
「そっか…そ、それじゃお休み」
『うん。おやすみなさい』
たったそれだけの会話だった。
だけど…すごく幸せを感じた―。
「加藤さんっ!」
思わず大きな声で呼びかけると、驚いたように顔を上げてこちらを見た。
「え…?」
一瞬驚いたように俺を見た加藤さんが笑みを浮かべて言った。
「今晩は…偶然だね」
「よ、良かった…間に合って…」
思わず安堵の声で言う。
「え?間に合って?」
「加藤さんの幼馴染の…亮平って男から電話がかかってきたんだよ。加藤さんが今マンションに向かっているから迎えに行って欲しいって」
それに…会いたかった…。でも、その台詞は言わない。
「ええっ?ご、ごめんなさいっ!亮平がとんだ迷惑な事を川口さんに頼んで…!」
加藤さんは慌てたように頭を下げてきた。
「いや、そんな事は全然気にしなくていいんだよ。むしろこんな遅い時間に1人で歩いて帰ってくる方が心配だから」
すると加藤さんは俺を見て目を見開いた。
「あ、あの…ひょっとしてシャワーか何か浴びていた…?」
「あ…やっぱり分かってしまったかあ…」
照れ隠しに笑う。
「ほ、本当になんてことを…!ごめんなさいっ!」
しかし、ますます加藤さんはオロオロした様子で俺に頭を下げてきた。
「いいから、いいから。さ、一緒に帰ろう」
彼女は知らない。俺がどれだけ君に恋い焦がれているかということに…。
「はい…」
「加藤さん…やっぱり俺の連絡先…登録しておいてもらえないかな?」
「え?でも…それは…」
「心配なんだよ…突然眠くなってしまう発作があるんだろう?歩いているときに発作が来る時だってあるかもしれないじゃないか?何かあった時に俺が駆け付けられるように…」
俺はポツリと言った。加藤さんは黙って話を聞いている。
「加藤さんの事が好きだから…心配でたまらないんだ…友達としてでもいいから…」
そしてじっと彼女の目を見つめた。気づけば、そこはもうマンションの前だった。
「そ、それじゃ…私の連絡先…教えておくね…」
「え?!本当に?!」
まさか連絡先を教えてくれるとは思わなかった。そして俺は加藤さんに連絡先を教えてもらった。すると再び欲が出てきてしまう。
「あの…さ、毎日連絡入れてもいいかな?」
「え?」
俺の言葉に加藤さんが顔を上げる。
「い、いや、そんなしょっちゅうって言うわけじゃないよ。1日3回位…とか…?」
やはり…駄目、だろうか…?
するとクスリと笑って加藤さんが俺を見た。
「うん…いいよ?」
「本当?!本当に…いいの…?」
「うん。私は別に構わないよ?」
「あ、ありがとうっ!」
まさか…許可をもらえるとは思ってもいなかった。
「それじゃ…私、もう行くね?」
「うん、お休み」
「お休みなさい…」
そして加藤さんとその場で別れた―。
****
『今夜は俺の我儘を聞いてくれてありがとう。改めて…これからよろしく』
部屋に戻り、すぐに加藤さんにメッセージを送った。
「いきなり、メッセージなんか送って迷惑だったかな…」
しかしその反面、俺は加藤さんからの折り返しの連絡を待っている自分がいた。
どうにも気分が落ち着かず、冷蔵庫からビールを取り出し、1缶目を飲み終えた時だった。
スマホに着信を知らせる音楽が鳴り響いた。
「加藤さんからかっ?!」
『こちらこそ、これからよろしく。おやすみなさい』
短いメッセージだったけど…とても嬉しかった。今返信が来たって事は…電話をかければすぐに出てくれる…?
加藤さん…。さっき別れたばかりなのに…彼女の声が聞きたい。…2人で話がしたい…。
気づけば俺はスマホをタップしていた。
何回目かのコール音の後…。
『もしもし?』
電話越しから綺麗な声が聞こえてくる。
「もしもし、加藤さん?」
『どうかしたの?』
「いや…声をちょっと声を聞きたくなって…迷惑だったかな?」
ためらいがちに尋ねた。
『そんな事無いよ』
クスクスとした笑い声と共に加藤さんが言う。
「本当?!良かった…。あのさ…明日も朝…電話かけてもいいかな?」
図々しい願い…だろうか?だけど加藤さんは言った。
『うん、いいよ』
「そっか…そ、それじゃお休み」
『うん。おやすみなさい』
たったそれだけの会話だった。
だけど…すごく幸せを感じた―。
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