本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

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川口直人 32

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 電話に出さなければ良かった。あいつは電話でひどく腹を立てた様子で加藤さんに文句を言っているのが分かった。だから俺は加藤さんに電話を渡すように合図を送った。

「…」

困った様子で俺にスマホを渡してきた加藤さん。俺は受話器を耳に押し当て、応答した。


「もしもし」

『あ!お、お前川口って男だなっ?!』

「そうだよ。彼女と一緒に食事しに来ているのは俺だよ」

『何勝手な事してるんだよっ!鈴音を二度と誘うなっ!』

相当苛立っているのだろう。俺を怒鳴りつけてきた。

「え?どうしてお前にそんな事言われなくちゃならないんだ?お前には恋人がいるんだろう?」

『うるさいっ!恋人がいようがいまいが、俺は鈴音の幼馴染なんだ!俺がどれだけあいつを心配しているかお前に分かるのかよっ?!』

こいつ…あたまがおかしいんじゃないのか?

「…は?…何訳の分からない事言ってるんだ?」

『いいから鈴音を出せよっ!関係ない奴は引っ込んでろっ!』

こんな横暴な男に…加藤さんを渡せるか。

「いや、加藤さんは今お前とは話をしたくないそうだ。…もう彼女には構うな」

『な、何だって…?』

うろたえた声が聞こえたが、構うことなく俺は電話を切ってやった。

「はい。スマホ…返すよ」

すると加藤さんは呆然とした顔で俺を見ている。途端に罪悪感に襲われた。

「ごめん…余計な事してしまったよね…?でも…あの電話、どうにも我慢出来なくて…」

すると、突然加藤さんが笑みを浮かべて言った。

「…ねえ、川口さん。お酒…飲まない?」

え…?急にどうしたんだろう?それに俺を見つめる目が好意的に見えた。

「う、うん。あ、でもいいのかい?交通事故に遭って退院したばかりなのに…」

「うん、多分大丈夫じゃないかな?退院する時アルコールの注意は受けていないし…」

「そうか…なら少しだけ飲もうか?」

加藤さんがそう言ってくれるなら…。

「うん、そうだね。それじゃ少しだけ…飲もう?何がいい?」

「私は何でもいいよ?」

「そうか、なら…日本酒はどうだい?ここで提供している日本酒は美味しいよ?」

「うん、それにする」

加藤さんは笑って俺を見る。その笑顔があまりにも素敵で思わず顔が赤くなってしまった―。



 2人で日本酒を飲みながら俺は尋ねた。

「加藤さん…前から聞きたい事、あったんだけど…」

「何?」

慣れない日本酒のせいだろうか?少し目元を赤くした加藤さんが俺を見た。その姿はゾクリとするほど綺麗だった。

「あの亮平って言う幼馴染の事…好きなんだろう?」

「!」

途端に加藤さんの顔がこわばる。やっぱりそうか…だとしたらひょっとする2人は相思相愛…?その事実に胸が苦しくなってくる。

「やっぱりな…」

「だけど…亮平には恋人がいるから…」

「恋人…ね…」

「そう、私のお姉ちゃんが亮平の恋人だから…」

そうして加藤さんは寂しげに笑った―。



****


 日本酒を飲んで2人で焼き鳥屋を出たものの、加藤さんの足はふらついている。

「大丈夫?加藤さん」

「うん、平気平気…。やっぱり数カ月ぶりにお酒飲んだからかな…?」

加藤さんは振り向いて返事をするけれど、とても平気そうには見えなかった。見ていられなくなった俺は加藤さんの肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。

「え?あ、あの…」

戸惑った様に俺を見上げる加藤さん。…その姿は庇護欲をそそられるほど可愛らしかった。

「1人で歩いていると危ないから…肩、貸すよ」

「あ…ありがとう…」

加藤さんの肩を抱き寄せながら2人出歩く道のり。加藤さんからは良い香りがする。さっきからうるさいくらいに心臓がドキドキしているが…バレていないだろうか?


…とても幸せな時間だった。もっとマンションが遠ければいいのに…と思えるほどに。
俺も加藤さんも無言であるき続け…やがてマンションが見えた。

「着いたから…帰るね」

加藤さんが言った、その時…。

「何してるんだよ?」

あいつが…加藤さんの幼馴染のあの男が現れた―。
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