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川口直人 24
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加藤さんに会いたい気持ちを抑えつつ焼き鳥屋の約束の日をひたすら待ちながら俺は日々の生活を過ごしていた。
異変を感じたのは半月ほど過ぎた辺りからだった―。
「あいつ…また加藤さんのマンションへ来ているな…」
仕事帰り、時折加藤さんの幼馴染の男を見るようになった。しかし、部屋に入ることもなく郵便受けをチェックするだけですぐに帰って行ってしまう。
「一体何なんだ…?」
モヤモヤした気持ちを抱えつつ、加藤さんと一度も顔を合わすこと無く…ついい約束の3月15日がやってきた。
「加藤さん、遅いな…」
焼き鳥屋の前で俺は腕時計を見ながらひたすら加藤さんを待った。時刻は20時半。すでに約束の時間を1時間半も過ぎている。
「一体…何があったんだ…?」
それでも俺は加藤さんを待ち続け…ついに22時を回ったところで、諦めて1人で店の中へ入って1人で焼き鳥を食べ…ビールを何杯も飲み…悪酔いをした状態でマンションへと帰って行った…。
加藤さん…。
俺との約束をすっぽかすほど…避けられてしまったのだろうか…?だが、それでも俺は彼女を諦めることが出来なかった―。
****
それは加藤さんとの約束の日から半月程経過した4月のある夜の出来事だった。コンビニからの帰り道、加藤さんの自転車に空気を入れている男を見かけたからだ。
あ!あの男は…!
俺は急いで男の元へと向かった―。
「加藤さんの幼馴染だよな?!加藤さんは…彼女はどうしたのか教えてくれないか?!」
男の名前は…確か亮平?だっただろうか?すると男は吐き捨てるように言った。
「さぁな…何でお前に鈴音の事を報告してやらなくちゃならないんだよ。俺は忙しいんだ。じゃあな」
そう言って、帰ろうとする。冗談じゃない!ようやく加藤さんとの接点を持つ男に会えたっていうのに…みすみす帰らせられるかっ!
「おい!待ってくれ!」
男の肩を掴むと、ウッと小さく呻く声が漏れた。
「あ…わ、悪かった。つい…」
しまった。つい、強く掴んでしまった。
「お願いだ…どうか教えて欲しいんだ。俺…加藤さんと3月15日に会う約束をしていたんだ。なのに…いくら待っても彼女は現れなくて…。そしたら郵便ポストにガムテープは貼られているし…一体何が遭ったのかと思ってずっと心配で…」
頭を下げ、必死になって頼んだ。
「鈴音の…連絡先、お前は知らなかったのか?」
俺の言葉に男は驚いた様子でこちらを見る。
「…知らない。俺の連絡先は渡してあるけど…加藤さんから連絡が来たことは一度も無かったから…」
「え?そうなのか?」
そして男は少し考え込む素振りを見せた後、言った。
「分かったよ…鈴音のこと…教えてやる」
「そうか…ありがとう。立ち話もなんだから俺の部屋で話をしないか?」
「ああ、いいぜ」
そして俺は男を自分のマンションに招いた―。
****
「お待たせ…」
俺はコーヒーをテーブルに置いた。
「ああ。悪いな…」
男はコーヒーを一口飲むと驚いたように言った。
「…旨いな…」
「そうか?ありがとう。ドリップで淹れたコーヒーだからかな?」
すると男は次にとんでも無い事を言ってきた。
「鈴音は…この部屋に来たことがあるのか?」
「まさか!ある筈ないだろう?大体俺は連絡先すら教えてもらっていないんだから…」
それは確かに…この部屋で彼女と一緒に過ごすことが出来たら…と何度も思ったことはあるが、所詮それは叶わないことだ。
「ふ~ん。そうか。鈴音とは外でしか会った事が無いってわけだ」
男の言葉にどこか優越感のようなものを感じ、惨めな気持ちになってきた。そうだ…この男は何度も加藤さんのマンションに…。
「それで…加藤さんは?彼女は今どうしているのか教えてくれ」
でもそんな事はどうでもいい。まずは加藤さんのことを聞き出さなければ。
「ああ、いいぜ。鈴音は…」
そして男は驚愕の事実を口にする―。
異変を感じたのは半月ほど過ぎた辺りからだった―。
「あいつ…また加藤さんのマンションへ来ているな…」
仕事帰り、時折加藤さんの幼馴染の男を見るようになった。しかし、部屋に入ることもなく郵便受けをチェックするだけですぐに帰って行ってしまう。
「一体何なんだ…?」
モヤモヤした気持ちを抱えつつ、加藤さんと一度も顔を合わすこと無く…ついい約束の3月15日がやってきた。
「加藤さん、遅いな…」
焼き鳥屋の前で俺は腕時計を見ながらひたすら加藤さんを待った。時刻は20時半。すでに約束の時間を1時間半も過ぎている。
「一体…何があったんだ…?」
それでも俺は加藤さんを待ち続け…ついに22時を回ったところで、諦めて1人で店の中へ入って1人で焼き鳥を食べ…ビールを何杯も飲み…悪酔いをした状態でマンションへと帰って行った…。
加藤さん…。
俺との約束をすっぽかすほど…避けられてしまったのだろうか…?だが、それでも俺は彼女を諦めることが出来なかった―。
****
それは加藤さんとの約束の日から半月程経過した4月のある夜の出来事だった。コンビニからの帰り道、加藤さんの自転車に空気を入れている男を見かけたからだ。
あ!あの男は…!
俺は急いで男の元へと向かった―。
「加藤さんの幼馴染だよな?!加藤さんは…彼女はどうしたのか教えてくれないか?!」
男の名前は…確か亮平?だっただろうか?すると男は吐き捨てるように言った。
「さぁな…何でお前に鈴音の事を報告してやらなくちゃならないんだよ。俺は忙しいんだ。じゃあな」
そう言って、帰ろうとする。冗談じゃない!ようやく加藤さんとの接点を持つ男に会えたっていうのに…みすみす帰らせられるかっ!
「おい!待ってくれ!」
男の肩を掴むと、ウッと小さく呻く声が漏れた。
「あ…わ、悪かった。つい…」
しまった。つい、強く掴んでしまった。
「お願いだ…どうか教えて欲しいんだ。俺…加藤さんと3月15日に会う約束をしていたんだ。なのに…いくら待っても彼女は現れなくて…。そしたら郵便ポストにガムテープは貼られているし…一体何が遭ったのかと思ってずっと心配で…」
頭を下げ、必死になって頼んだ。
「鈴音の…連絡先、お前は知らなかったのか?」
俺の言葉に男は驚いた様子でこちらを見る。
「…知らない。俺の連絡先は渡してあるけど…加藤さんから連絡が来たことは一度も無かったから…」
「え?そうなのか?」
そして男は少し考え込む素振りを見せた後、言った。
「分かったよ…鈴音のこと…教えてやる」
「そうか…ありがとう。立ち話もなんだから俺の部屋で話をしないか?」
「ああ、いいぜ」
そして俺は男を自分のマンションに招いた―。
****
「お待たせ…」
俺はコーヒーをテーブルに置いた。
「ああ。悪いな…」
男はコーヒーを一口飲むと驚いたように言った。
「…旨いな…」
「そうか?ありがとう。ドリップで淹れたコーヒーだからかな?」
すると男は次にとんでも無い事を言ってきた。
「鈴音は…この部屋に来たことがあるのか?」
「まさか!ある筈ないだろう?大体俺は連絡先すら教えてもらっていないんだから…」
それは確かに…この部屋で彼女と一緒に過ごすことが出来たら…と何度も思ったことはあるが、所詮それは叶わないことだ。
「ふ~ん。そうか。鈴音とは外でしか会った事が無いってわけだ」
男の言葉にどこか優越感のようなものを感じ、惨めな気持ちになってきた。そうだ…この男は何度も加藤さんのマンションに…。
「それで…加藤さんは?彼女は今どうしているのか教えてくれ」
でもそんな事はどうでもいい。まずは加藤さんのことを聞き出さなければ。
「ああ、いいぜ。鈴音は…」
そして男は驚愕の事実を口にする―。
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