449 / 519
川口直人 22
しおりを挟む その日は結局先輩達にピエールマルコリーニのチョコを渡す事で、加藤さんの手作りチョコは死守する事が出来た。
そして今、家路につきながら加藤さんの事を考えていた。
「楽しみだな…帰宅したらじっくり味わってチョコを頂くことにしよう…」
そしてふと思った。これが…本命チョコだったらどんなにか良かったのに―と。
****
シャワーを浴び、すっきりしたところで俺は加藤さんからの手作りチョコを開封した。
「どれどれ…」
早速一口かじってみる。
「…美味しい」
本当に美味しいチョコだった。本来なら味わって食べるつもりでいたのに…気付けばあっと言う間に無くなってしまった。
「これだけお菓子を上手に作れるんだから…きっと料理も得意なんだろうな…」
俺は料理を作るのは好きな方だし、上手な方だと思っている。友人に作って食べさせた事もあるし、付き合ってきた女性には全員に手料理を食べさせてきた。自分が料理をするせいだからだろう。今までの俺は誰かに料理を食べさせて貰いたいと思ったことは無かったのだが…。
「一度でもいいから…加藤さんの手料理を味わってみたいな…」
そして帰り際コンビニで買って来た便箋と封筒をリュックから取り出すと、簡単な手紙を書いた。
『チョコレートありがとう。とても美味しかった。 川口』
「…これだけでいいかな…?」
本当なら手紙では無く、電話やメールで加藤さんにお礼を言いたかった。けれど、警戒されているのか、それとも俺の事など眼中にないのか、連絡先を渡したものの加藤さんからは一度も連絡が入ってこなかった。
「俺って…彼女にとって…迷惑な存在なのかな…?」
そう思うと、胸が痛くなった。何故だろう…?彼女とはあまり一緒の時間を過ごした事は愚か、話もあまりしたことが無いのに、どうしてこんなに加藤さんの事を好きになっていたのだろう?自分で自分の気持ちが分らなかった。
「明日の朝…出勤前にポストに入れるか…」
そして残り物のご飯で手早くチャーハンを作り、即席スープで晩ご飯を食べた―。
****
加藤さんに会えない日が10日程続いていた。…彼女に会いたい。だけど、一向に連絡は来ない。ポストに投函した手紙は読んでいるはずなのに…。やはり俺の存在は迷惑でしかなかったのだろうか…?こんな中途半端な状態で過ごすくらいなら、いっそのこと告白して、すっぱり振られてしまったほうが楽になれるのだろうか…?
「酒でも買って帰るか…」
仕事帰り、駅前のスーパーに立ち寄った時…何て嬉しい偶然なのだろう。加藤さんとアルコール売り場でばったり出会った。
「「あ」」
2人で顔を合わせ、同時に声を上げた。加藤さんは缶チューハイの棚の前にいた。
「こんばんは、偶然だね」
何食わぬ顔で挨拶するが、俺の心臓は煩い位にドキドキなっていた。
「う、うん。こんばんは。今仕事帰りなの?」
加藤さんはアルコール売り場で会ったことが恥ずかしいのか、うつむき加減で返事をする。でも…俺のことを尋ねてくれている。それが嬉しかった。
「ああ、そうなんだ。何かアルコールとつまみでも買って宅飲みでもしようかと思っていたんだ。ちょうど明日は仕事が休みだし」
「そうなんだ…偶然だね。私も明日は仕事が休みだから…。それじゃまたね」
え?加藤さんも明日、休み?すごい!何て偶然なのだろう。しかし、加藤さんは何故かアルコールを買わずに立ち去ろうとする。
「待って」
「何?」
「アルコール…買って帰らないの?」
「あ、そ・そうだね…でもまたでいいかなと思って」
「それならさ、どこかで2人で居酒屋に行こうよ。安くて旨い焼き鳥屋がこの近くにあるんだ。加藤さんは焼き鳥好き?」
この際だ、駄目もとで誘ってみよう。
「う、うん…好き…だけど…」
「よし、なら決まりだな」
レジカゴに入れた品物を全て棚に戻し、出口に向かって歩き出す。
「え、ちょ・ちょっと待って。私まだ行くとは…」
加藤さんが後ろから追いすがってくるのは分かっていた。…ごめん。
「あの、川口さん。私は…」
「この間のバレンタインのお返し…させてよ」
振り向くと、俺は真剣な目で加藤さんを見つめた―。
そして今、家路につきながら加藤さんの事を考えていた。
「楽しみだな…帰宅したらじっくり味わってチョコを頂くことにしよう…」
そしてふと思った。これが…本命チョコだったらどんなにか良かったのに―と。
****
シャワーを浴び、すっきりしたところで俺は加藤さんからの手作りチョコを開封した。
「どれどれ…」
早速一口かじってみる。
「…美味しい」
本当に美味しいチョコだった。本来なら味わって食べるつもりでいたのに…気付けばあっと言う間に無くなってしまった。
「これだけお菓子を上手に作れるんだから…きっと料理も得意なんだろうな…」
俺は料理を作るのは好きな方だし、上手な方だと思っている。友人に作って食べさせた事もあるし、付き合ってきた女性には全員に手料理を食べさせてきた。自分が料理をするせいだからだろう。今までの俺は誰かに料理を食べさせて貰いたいと思ったことは無かったのだが…。
「一度でもいいから…加藤さんの手料理を味わってみたいな…」
そして帰り際コンビニで買って来た便箋と封筒をリュックから取り出すと、簡単な手紙を書いた。
『チョコレートありがとう。とても美味しかった。 川口』
「…これだけでいいかな…?」
本当なら手紙では無く、電話やメールで加藤さんにお礼を言いたかった。けれど、警戒されているのか、それとも俺の事など眼中にないのか、連絡先を渡したものの加藤さんからは一度も連絡が入ってこなかった。
「俺って…彼女にとって…迷惑な存在なのかな…?」
そう思うと、胸が痛くなった。何故だろう…?彼女とはあまり一緒の時間を過ごした事は愚か、話もあまりしたことが無いのに、どうしてこんなに加藤さんの事を好きになっていたのだろう?自分で自分の気持ちが分らなかった。
「明日の朝…出勤前にポストに入れるか…」
そして残り物のご飯で手早くチャーハンを作り、即席スープで晩ご飯を食べた―。
****
加藤さんに会えない日が10日程続いていた。…彼女に会いたい。だけど、一向に連絡は来ない。ポストに投函した手紙は読んでいるはずなのに…。やはり俺の存在は迷惑でしかなかったのだろうか…?こんな中途半端な状態で過ごすくらいなら、いっそのこと告白して、すっぱり振られてしまったほうが楽になれるのだろうか…?
「酒でも買って帰るか…」
仕事帰り、駅前のスーパーに立ち寄った時…何て嬉しい偶然なのだろう。加藤さんとアルコール売り場でばったり出会った。
「「あ」」
2人で顔を合わせ、同時に声を上げた。加藤さんは缶チューハイの棚の前にいた。
「こんばんは、偶然だね」
何食わぬ顔で挨拶するが、俺の心臓は煩い位にドキドキなっていた。
「う、うん。こんばんは。今仕事帰りなの?」
加藤さんはアルコール売り場で会ったことが恥ずかしいのか、うつむき加減で返事をする。でも…俺のことを尋ねてくれている。それが嬉しかった。
「ああ、そうなんだ。何かアルコールとつまみでも買って宅飲みでもしようかと思っていたんだ。ちょうど明日は仕事が休みだし」
「そうなんだ…偶然だね。私も明日は仕事が休みだから…。それじゃまたね」
え?加藤さんも明日、休み?すごい!何て偶然なのだろう。しかし、加藤さんは何故かアルコールを買わずに立ち去ろうとする。
「待って」
「何?」
「アルコール…買って帰らないの?」
「あ、そ・そうだね…でもまたでいいかなと思って」
「それならさ、どこかで2人で居酒屋に行こうよ。安くて旨い焼き鳥屋がこの近くにあるんだ。加藤さんは焼き鳥好き?」
この際だ、駄目もとで誘ってみよう。
「う、うん…好き…だけど…」
「よし、なら決まりだな」
レジカゴに入れた品物を全て棚に戻し、出口に向かって歩き出す。
「え、ちょ・ちょっと待って。私まだ行くとは…」
加藤さんが後ろから追いすがってくるのは分かっていた。…ごめん。
「あの、川口さん。私は…」
「この間のバレンタインのお返し…させてよ」
振り向くと、俺は真剣な目で加藤さんを見つめた―。
0
お気に入りに追加
865
あなたにおすすめの小説

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?


関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載

忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる