本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
433 / 519

川口直人 8

しおりを挟む
 今日は大晦日だった。
加藤さんに買い物に付き合って貰う約束の日だ。あの日から既に5日が経過している。もう風邪の具合は良くなっているのだろうか…?


 今年最後の仕事を終えた俺は急いで着がえをしていた。今の時刻は17時半。加藤さんとは18時に新小岩駅の改札前で待ち合わせをしていた。

急がなければ…!

その時、不意に先輩が声を掛けて来た。

「おい、今日は今年最後の仕事だっただろう?皆で飲みに行かないか?」

飲み会…。新入社員という立場柄、今まで誘われば必ず飲み会に参加していたが…今夜だけは違う。

「すみません。実は今日約束があるので参加出来ません。申し訳ありません」

頭を下げた。すると別の先輩が会話に入ってきた。

「何?川口…お前飲み会に参加しないのか?誘えば必ず参加してきたのに?ひょっとすると約束の相手って女だろう?」

「ええ、そうですね」

隠していてもしょうがないだろう。

「何だ?デートか?どんな相手なんだよ?」

更に別の先輩まで話に加わって来る。

「別にデートってわけじゃありませんよ。ただ一緒に買い物に行くだけですから」

「そうか~?その割には随分楽しそうに見えるけどな?」
「ああ、そうだ。俺にもそう見えるぞ?」
「白状しろ?本当はデートだって」

今日の先輩たちはやけに絡んでくる。

「いい加減にして下さいっ!約束の時間に遅れてしまいますからっ!」

そして俺は先輩達の質問攻めにあいながらも着がえを終えて逃げるように会社を後にした―。



****

 18時―

新小岩駅の改札目指して俺は走っていた。

「全く…先輩たちのせいで酷い目に遭った」

本当はもっと早く駅に着いている予定だったのに…時間に遅れてしまった。出来れば加藤さんを待たせたくは無かった。以前付き合っていた彼女は自分より後に来れば機嫌を悪くするような女性だったからだ。勿論加藤さんがそんなタイプの女性だとは思っていないが、そういう過去の経験から女性を待たせてはいけないと言う考えが頭の中に出来上がっていた。


 改札に着くと駅は人であふれかえっていた。キョロキョロ探していると、改札付近でスマホを眺めている加藤さんの姿が目に飛び込んできた。やっぱりもう着いていたのか…。

「加藤さん!」

大きな声で呼ぶと、加藤さんがこちらを振り向いた。大きな瞳の彼女は…やはり綺麗だった。急いで駆け寄り、話しかけた。

「お、お待たせ…しました…。ちょ、ちょっと仕事が長引いてしまって…」

ハアハア息を吐きながら言うと、加藤さんはクスリと笑った。

「別にいいですよ、慌てなくても。私もついさっき、来たばかりですから」

「そうですか?それじゃ行きましょうか?」

そして俺と加藤さんは2人で並んで商店街へと向かった―。


****

「これなんかどうですか?彼女へのプレゼントに」

「マグカップ…ですか?」

加藤さんが差し出して来たのはペアのマグカップだった。…どうしよう。完全に加藤さんは俺と、いもしない恋人と2人で使えるお土産だった。はっきり言ってこれはいらない。

「はい、ほらこのマグカップ…2人の名前を入れてくれるんですよ。ペアのマグカップなんておしゃれじゃないですか」

名前を入れる相手もいないのに…こうなったら本人に直接尋ねた方が良さそうだ。

「う~ん‥なるほど‥。それじゃ加藤さんだったら何が欲しいですか?」

「はい、加藤さんだったら男性からどんなプレゼントが欲しいですか?」

「私だったら…」

加藤さんは少し考えた素振りの後、ぽつりと言った。

「私なら、好きな人からのプレゼントならどんなプレゼントでも嬉しいな…」

「加藤さん?」

やっぱり…彼女には好きな男がいるのだろうか…?

「あ、す・すいません!今のじゃ参考になりませんでしたね。う~んと…。あ、アロマグッズが欲しいです」

加藤さんは笑みを浮かべて俺を見た―。
しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

処理中です...