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川口直人 8
しおりを挟む 今日は大晦日だった。
加藤さんに買い物に付き合って貰う約束の日だ。あの日から既に5日が経過している。もう風邪の具合は良くなっているのだろうか…?
今年最後の仕事を終えた俺は急いで着がえをしていた。今の時刻は17時半。加藤さんとは18時に新小岩駅の改札前で待ち合わせをしていた。
急がなければ…!
その時、不意に先輩が声を掛けて来た。
「おい、今日は今年最後の仕事だっただろう?皆で飲みに行かないか?」
飲み会…。新入社員という立場柄、今まで誘われば必ず飲み会に参加していたが…今夜だけは違う。
「すみません。実は今日約束があるので参加出来ません。申し訳ありません」
頭を下げた。すると別の先輩が会話に入ってきた。
「何?川口…お前飲み会に参加しないのか?誘えば必ず参加してきたのに?ひょっとすると約束の相手って女だろう?」
「ええ、そうですね」
隠していてもしょうがないだろう。
「何だ?デートか?どんな相手なんだよ?」
更に別の先輩まで話に加わって来る。
「別にデートってわけじゃありませんよ。ただ一緒に買い物に行くだけですから」
「そうか~?その割には随分楽しそうに見えるけどな?」
「ああ、そうだ。俺にもそう見えるぞ?」
「白状しろ?本当はデートだって」
今日の先輩たちはやけに絡んでくる。
「いい加減にして下さいっ!約束の時間に遅れてしまいますからっ!」
そして俺は先輩達の質問攻めにあいながらも着がえを終えて逃げるように会社を後にした―。
****
18時―
新小岩駅の改札目指して俺は走っていた。
「全く…先輩たちのせいで酷い目に遭った」
本当はもっと早く駅に着いている予定だったのに…時間に遅れてしまった。出来れば加藤さんを待たせたくは無かった。以前付き合っていた彼女は自分より後に来れば機嫌を悪くするような女性だったからだ。勿論加藤さんがそんなタイプの女性だとは思っていないが、そういう過去の経験から女性を待たせてはいけないと言う考えが頭の中に出来上がっていた。
改札に着くと駅は人であふれかえっていた。キョロキョロ探していると、改札付近でスマホを眺めている加藤さんの姿が目に飛び込んできた。やっぱりもう着いていたのか…。
「加藤さん!」
大きな声で呼ぶと、加藤さんがこちらを振り向いた。大きな瞳の彼女は…やはり綺麗だった。急いで駆け寄り、話しかけた。
「お、お待たせ…しました…。ちょ、ちょっと仕事が長引いてしまって…」
ハアハア息を吐きながら言うと、加藤さんはクスリと笑った。
「別にいいですよ、慌てなくても。私もついさっき、来たばかりですから」
「そうですか?それじゃ行きましょうか?」
そして俺と加藤さんは2人で並んで商店街へと向かった―。
****
「これなんかどうですか?彼女へのプレゼントに」
「マグカップ…ですか?」
加藤さんが差し出して来たのはペアのマグカップだった。…どうしよう。完全に加藤さんは俺と、いもしない恋人と2人で使えるお土産だった。はっきり言ってこれはいらない。
「はい、ほらこのマグカップ…2人の名前を入れてくれるんですよ。ペアのマグカップなんておしゃれじゃないですか」
名前を入れる相手もいないのに…こうなったら本人に直接尋ねた方が良さそうだ。
「う~ん‥なるほど‥。それじゃ加藤さんだったら何が欲しいですか?」
「はい、加藤さんだったら男性からどんなプレゼントが欲しいですか?」
「私だったら…」
加藤さんは少し考えた素振りの後、ぽつりと言った。
「私なら、好きな人からのプレゼントならどんなプレゼントでも嬉しいな…」
「加藤さん?」
やっぱり…彼女には好きな男がいるのだろうか…?
「あ、す・すいません!今のじゃ参考になりませんでしたね。う~んと…。あ、アロマグッズが欲しいです」
加藤さんは笑みを浮かべて俺を見た―。
加藤さんに買い物に付き合って貰う約束の日だ。あの日から既に5日が経過している。もう風邪の具合は良くなっているのだろうか…?
今年最後の仕事を終えた俺は急いで着がえをしていた。今の時刻は17時半。加藤さんとは18時に新小岩駅の改札前で待ち合わせをしていた。
急がなければ…!
その時、不意に先輩が声を掛けて来た。
「おい、今日は今年最後の仕事だっただろう?皆で飲みに行かないか?」
飲み会…。新入社員という立場柄、今まで誘われば必ず飲み会に参加していたが…今夜だけは違う。
「すみません。実は今日約束があるので参加出来ません。申し訳ありません」
頭を下げた。すると別の先輩が会話に入ってきた。
「何?川口…お前飲み会に参加しないのか?誘えば必ず参加してきたのに?ひょっとすると約束の相手って女だろう?」
「ええ、そうですね」
隠していてもしょうがないだろう。
「何だ?デートか?どんな相手なんだよ?」
更に別の先輩まで話に加わって来る。
「別にデートってわけじゃありませんよ。ただ一緒に買い物に行くだけですから」
「そうか~?その割には随分楽しそうに見えるけどな?」
「ああ、そうだ。俺にもそう見えるぞ?」
「白状しろ?本当はデートだって」
今日の先輩たちはやけに絡んでくる。
「いい加減にして下さいっ!約束の時間に遅れてしまいますからっ!」
そして俺は先輩達の質問攻めにあいながらも着がえを終えて逃げるように会社を後にした―。
****
18時―
新小岩駅の改札目指して俺は走っていた。
「全く…先輩たちのせいで酷い目に遭った」
本当はもっと早く駅に着いている予定だったのに…時間に遅れてしまった。出来れば加藤さんを待たせたくは無かった。以前付き合っていた彼女は自分より後に来れば機嫌を悪くするような女性だったからだ。勿論加藤さんがそんなタイプの女性だとは思っていないが、そういう過去の経験から女性を待たせてはいけないと言う考えが頭の中に出来上がっていた。
改札に着くと駅は人であふれかえっていた。キョロキョロ探していると、改札付近でスマホを眺めている加藤さんの姿が目に飛び込んできた。やっぱりもう着いていたのか…。
「加藤さん!」
大きな声で呼ぶと、加藤さんがこちらを振り向いた。大きな瞳の彼女は…やはり綺麗だった。急いで駆け寄り、話しかけた。
「お、お待たせ…しました…。ちょ、ちょっと仕事が長引いてしまって…」
ハアハア息を吐きながら言うと、加藤さんはクスリと笑った。
「別にいいですよ、慌てなくても。私もついさっき、来たばかりですから」
「そうですか?それじゃ行きましょうか?」
そして俺と加藤さんは2人で並んで商店街へと向かった―。
****
「これなんかどうですか?彼女へのプレゼントに」
「マグカップ…ですか?」
加藤さんが差し出して来たのはペアのマグカップだった。…どうしよう。完全に加藤さんは俺と、いもしない恋人と2人で使えるお土産だった。はっきり言ってこれはいらない。
「はい、ほらこのマグカップ…2人の名前を入れてくれるんですよ。ペアのマグカップなんておしゃれじゃないですか」
名前を入れる相手もいないのに…こうなったら本人に直接尋ねた方が良さそうだ。
「う~ん‥なるほど‥。それじゃ加藤さんだったら何が欲しいですか?」
「はい、加藤さんだったら男性からどんなプレゼントが欲しいですか?」
「私だったら…」
加藤さんは少し考えた素振りの後、ぽつりと言った。
「私なら、好きな人からのプレゼントならどんなプレゼントでも嬉しいな…」
「加藤さん?」
やっぱり…彼女には好きな男がいるのだろうか…?
「あ、す・すいません!今のじゃ参考になりませんでしたね。う~んと…。あ、アロマグッズが欲しいです」
加藤さんは笑みを浮かべて俺を見た―。
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