本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

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川口直人 5

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「あの、ケーキ買うんですか?」

じっとスイーツコーナーを見つめていた加藤さんに声を掛けた。

「はい、今夜はクリスマスイブだから…でも残念です。どれも2個セットなんですね。食べきれそうにないので諦める事にします。別にケーキが無くてもイブはすごせますから」

加藤さんの言葉に言う。

「でも、本当は食べたいんですよね?」

「え?ええ…まぁそうですけど。でも別にいいんです」

加藤さんは言うとスイーツコーナーを離れようとした。

「なら2人で分けませんか?丁度ケーキを食べたいと思ったんですよ。1個ずつ分けましょう」

「え…?で、でも本当にいいんですか?」

大きな目を見開いてじっと俺を見つめる加藤さんに胸が高鳴る。

「ええ。もちろんです。ラップを買って持ち帰りましょう。だから包みやすいケーキの方がいいですね」

「ならチーズケーキなんてどうですか?これならラップに包んで持って帰れますよ?チーズケーキはお好きですか?」

やっぱり加藤さんはケーキが食べたかったようだ。

「それじゃ、買ってきますね。あ、ラップも買ってこなくちゃ」

「え?会計なら俺が…」

しかし、加藤さんは俺の声が耳に入っていなかったのか、商品を持ってレジへ行ってしまった―。



****

 コンビニを出て、簡単に自己紹介をすると加藤さんが俺にラップにくるんだケーキを渡して来た。

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

良かった、これで少しは加藤さんとお近づきになれたかもしれない。

「それじゃ、半分ケーキのお金払いますよ」

お金を支払おうとすると止められた。

「いいんですよ、ケーキ2個あって困っていたので、貰ってくれた方がありがたいんですから」

「そうですか…?」

別に遠慮する事は無いのに…。けれど、あまりしつこくするのもよくないかもしれない。

「はい、それでは失礼します」

加藤さんは頭を下げると、背を向けて歩き始める。声を掛け損ねてしまった俺は何となく無言で少し距離を開けて歩き始めると、怪訝そうに振り返った。

「あの…?」

しまった。これではストーカーと思われてしまうかもしれない。何ともバツがわるくなり、頭を掻きながら言った。

「いえ…特に言う必要は無いかと思ったんですけど、実は住んでいるマンションですけど、加藤さんのお隣なんです」

「え?そうだったんですか?」

並んで歩きながら加藤さんが俺を見上げた。

「ええ、そうですよ」

返事をしながら俺は加藤さんをじっと見た。彼女は小柄で背も低く、とても華奢な体つきで、思わず庇護欲をかりたてられてしまう。…本当に一体どんな男が彼女を手放したのだろう?俺だったら…絶対にそんな事はしないのに。

「ところで加藤さんは何のお仕事をしているんですか?」

少しでも彼女のことを知りたくて質問した。

「私ですか?旅行会社の代理店で働いています」

「そうなんですか?ひょっとすると旅行が好きなんですか?」

「そうですね…。旅行は好きですよ?学生時代は友達と温泉旅行に行ったりもしましたし」

「温泉旅行ですか…」

俺も温泉が好き友人や恋人…それに弟の和也と一緒に行ったこともある。加藤さんと行ければ楽しめるだろうな…。

「引越屋さんのお仕事って大変じゃないですか?」

加藤さんが話題を変えてきた。

「そうですね…肉体労働で大変ですけど、やりがいはありますよ。でも夏場は正直言うと大変ですね」

「でも立派ですよ。誰かがやらなければいけない仕事ですから…尊敬します」

笑みを浮かべて俺を見る加藤さんに心臓が高鳴った。何故だろう…過去に付き合ってきた彼女たちにはこんな感情を抱いた事もないのに…。もう少しだけ…一緒にいたい…。そう思ったけれども…。

マンションに到着してしまった―。

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