424 / 519
亮平 69
しおりを挟む
俺は鈴音を連れて焼き鳥屋へ行った。鈴音がどんな食べ物を好きなのかは十分承知している。何しろ俺と鈴音は子供の頃からずっと一緒だったんだから。
それに焼き鳥屋を選んだのはわけがある。何故なら焼き鳥屋と言えば鈴音が川口と良く行っていたからだ。そして予定通りなら今日、川口は結婚することになっていた。そして鈴音は今もそれを信じている…。川口の事を意識させつつ、俺は思い切ってあの言葉を言うんだ。
そこで俺は自分を勇気づけるために度数の強い焼酎を水のようにがぶ飲みした。そしてそんな俺を鈴音は不思議そうに見つめながら梅酒をゆっくり飲んでいる。
よ、よし…そろそろ頃合いだろう…。俺はじっと鈴音を見つめた。
「な、何よ?」
ぼんじりを食べている鈴音に俺は言った。
「なぁ…鈴音」
心臓は早鐘を打ち、今にも口から飛び出しそうだ。
「何?」
「俺たちも…一緒に…。…結婚…するか?」
そして鈴音の顔をじっと見る。鈴音は…何と返事をしてくれるだろうか…?
「は?」
鈴音はポカンとした顔で俺を見ている。そして次の言葉に俺は凍りつく。
「何言ってるのよ。亮平はお姉ちゃんていう結婚相手がいるだろうけど、私はつきあってる人もいない、お一人様なのは知ってるでしょう?大体…今日は直人さんの結婚式だったんだから…」
「…やっぱりまだ川口の事忘れられていなかったんだな…」
唇を噛み締めながら言う。
「それは…そうだよ…だって、あんな別れ方したんだもの…」
予想はしていたけど…それでもショックだった。おまけに鈴音が俺の言葉を本気で捉えていないという事が悲しいくらい分かってしまう。
鈴音はしんみりした様子で梅酒を口に入れた。
「そうか、分かったよ。鈴音の気持ちは。結局そうなるか…」
結局…俺では駄目だって事なのか…?思わず目頭が熱くなりそうになった。
「亮平…?どうかしたの?」
どうかした?おおありだよ!
「ほら、そんな事より折角の焼き鳥が冷めるだろう?早く食べろよ」
胸の痛みを堪えながら俺は鈴音に言う。
「お前は…俺が幸せにしてやるよ。幼馴染だからな?」
うまく笑って言えただろうか…?
「う、うん…?」
鈴音は不思議そうな表情を浮かべながらも、俺の言葉に頷いた―。
****
その日の夜、俺は川口に電話を入れた。
『もしもし?』
5コール目で川口が電話に出た。
「ああ、久しぶりだな。どうだ?今日…本来はお前の結婚式だったはずだろう?」
『…それは取りやめになったのは知ってるだろう?あれから色々な手続きを済ませるために…どれくらい大変だったかお前に分かるか?』
「そんなの…俺の知ったことかよ。実はな、今夜鈴音を誘って焼き鳥屋へ行ったんだよ」
『何だって?』
川口の声に殺気が宿る。
「どうだ?羨ましいか?鈴音はなぁ…今日はお前と婚約者の結婚式だったと信じて疑っていなかったぞ?」
『そうか…くそっ!彼女があんな事言い出さなければ…鈴音の前に堂々と姿を見せる事が出来るのに…ッ!』
川口は心底悔しそうに言う。だが、お前はまだ知らないだろう?鈴音が…どれほどお前の事を今も思っているかなんて…。悔しいからお前には教えてやるものか。
「それで…今も元婚約者と会っているのか?」
『まさか!会うはず無いだろうっ?!俺は完全に彼女とは縁を切ったんだから…』
「そうかよ。とにかく、あと半年…せいぜい世間の目を騙すんだな。それじゃ」
『え?何だ?一体何故俺に電話かけてきたんだよ?!』
「え…?」
そう言えば…俺は何故川口に電話をかけたんだ?ひょっとして…鈴音に振られたからその腹いせに…今はまだ鈴音と会うことも出来ない川口を嫉妬させたかったのかも知れない。
「さあな、今どうしてるか気になっただけだよ。じゃあな」
『お、おい…っ!』
プツッ
まだ何か話したげにしていた川口の電話を俺は一方的に切ってしまった―。
それに焼き鳥屋を選んだのはわけがある。何故なら焼き鳥屋と言えば鈴音が川口と良く行っていたからだ。そして予定通りなら今日、川口は結婚することになっていた。そして鈴音は今もそれを信じている…。川口の事を意識させつつ、俺は思い切ってあの言葉を言うんだ。
そこで俺は自分を勇気づけるために度数の強い焼酎を水のようにがぶ飲みした。そしてそんな俺を鈴音は不思議そうに見つめながら梅酒をゆっくり飲んでいる。
よ、よし…そろそろ頃合いだろう…。俺はじっと鈴音を見つめた。
「な、何よ?」
ぼんじりを食べている鈴音に俺は言った。
「なぁ…鈴音」
心臓は早鐘を打ち、今にも口から飛び出しそうだ。
「何?」
「俺たちも…一緒に…。…結婚…するか?」
そして鈴音の顔をじっと見る。鈴音は…何と返事をしてくれるだろうか…?
「は?」
鈴音はポカンとした顔で俺を見ている。そして次の言葉に俺は凍りつく。
「何言ってるのよ。亮平はお姉ちゃんていう結婚相手がいるだろうけど、私はつきあってる人もいない、お一人様なのは知ってるでしょう?大体…今日は直人さんの結婚式だったんだから…」
「…やっぱりまだ川口の事忘れられていなかったんだな…」
唇を噛み締めながら言う。
「それは…そうだよ…だって、あんな別れ方したんだもの…」
予想はしていたけど…それでもショックだった。おまけに鈴音が俺の言葉を本気で捉えていないという事が悲しいくらい分かってしまう。
鈴音はしんみりした様子で梅酒を口に入れた。
「そうか、分かったよ。鈴音の気持ちは。結局そうなるか…」
結局…俺では駄目だって事なのか…?思わず目頭が熱くなりそうになった。
「亮平…?どうかしたの?」
どうかした?おおありだよ!
「ほら、そんな事より折角の焼き鳥が冷めるだろう?早く食べろよ」
胸の痛みを堪えながら俺は鈴音に言う。
「お前は…俺が幸せにしてやるよ。幼馴染だからな?」
うまく笑って言えただろうか…?
「う、うん…?」
鈴音は不思議そうな表情を浮かべながらも、俺の言葉に頷いた―。
****
その日の夜、俺は川口に電話を入れた。
『もしもし?』
5コール目で川口が電話に出た。
「ああ、久しぶりだな。どうだ?今日…本来はお前の結婚式だったはずだろう?」
『…それは取りやめになったのは知ってるだろう?あれから色々な手続きを済ませるために…どれくらい大変だったかお前に分かるか?』
「そんなの…俺の知ったことかよ。実はな、今夜鈴音を誘って焼き鳥屋へ行ったんだよ」
『何だって?』
川口の声に殺気が宿る。
「どうだ?羨ましいか?鈴音はなぁ…今日はお前と婚約者の結婚式だったと信じて疑っていなかったぞ?」
『そうか…くそっ!彼女があんな事言い出さなければ…鈴音の前に堂々と姿を見せる事が出来るのに…ッ!』
川口は心底悔しそうに言う。だが、お前はまだ知らないだろう?鈴音が…どれほどお前の事を今も思っているかなんて…。悔しいからお前には教えてやるものか。
「それで…今も元婚約者と会っているのか?」
『まさか!会うはず無いだろうっ?!俺は完全に彼女とは縁を切ったんだから…』
「そうかよ。とにかく、あと半年…せいぜい世間の目を騙すんだな。それじゃ」
『え?何だ?一体何故俺に電話かけてきたんだよ?!』
「え…?」
そう言えば…俺は何故川口に電話をかけたんだ?ひょっとして…鈴音に振られたからその腹いせに…今はまだ鈴音と会うことも出来ない川口を嫉妬させたかったのかも知れない。
「さあな、今どうしてるか気になっただけだよ。じゃあな」
『お、おい…っ!』
プツッ
まだ何か話したげにしていた川口の電話を俺は一方的に切ってしまった―。
11
お気に入りに追加
865
あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

政略結婚だけど溺愛されてます
紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。
結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。
ソフィアは彼を愛しているのに…。
夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。
だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?!
不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる