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亮平 16
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忍が入院してからも俺と鈴音の関係は殆ど変わることは無かった。鈴音が家に食事に来た時に偶然発見した鈴音の家族写真。鈴音の顔の部分だけ大きく切りつけられていたおぞましい写真。その写真を傷つけたのは忍だと言う事実を知ってしまった。
今、俺の中には二つの感情が入り乱れている。忍の事が恐ろしいのに、鈴音に強く惹かれているくせに…その反面、忍に対する執着心を捨てきれずにいる自分に―。
鈴音が実家に戻って来て何日か経過したある日の事だった。
仕事が終わって家に帰ってきた時、たまたま鈴音が自宅の鍵を開けている所に出くわした。
「あれ、鈴音じゃないか?今帰って来たのか?」
「うん、そうだよ。亮平も今だったんだね。」
振り向いて笑顔で答える鈴音。その顔を見ただけで何故か胸が締め付けられそうになった。それに何だか笑顔で明るく見える。最近の鈴音は悲しんだり、怒った姿ばかり見て来たからそんな表情を見せてくれるとこちらまで幸せな気持ちになって来る。
鈴音に機嫌が良さそうな理由を尋ねたら、これから近所に出来たスーパー銭湯に行くと言う話だった。
スーパー銭湯か…。よし。
「俺も行く。そのスーパー銭湯に。何分ぐらいで準備終わる?」
俺は笑顔で鈴音に言った―。
****
鈴音と一緒に行くスーパー銭湯はとても楽しかった。2人で並んで歩くのも楽しかったし、銭湯は気持ちよくて幸せを感じた。俺は湯に浸かりながら思った。
これから先もずっと…鈴音と同じ時間を共有できればいいのにと―。
それなのに…風呂上がりにちょっとした不愉快な事があった。
「ふぅ~…気持ちよかったな…」
上下のスウェットに着替えて鈴音と待ち合わせ場所のフロントへ行ってみると、俺と同世代の男が鈴音に声を掛けていたのだ。鈴音は俺の姿を探しているのかキョロキョロしている。
「あの男…っ!」
カッと俺の中の怒りに火が付いた。無言で2人の方へ近づいていく。2人は俺がすぐそばまで近寄ってきているのに気づかない。
「あの…私、人と待ち合わせをしていて…」
鈴音がいかにも困った素振りで男を見上げている。妙に色気のある目で男をみているその姿にも俺は何故か苛立ちを感じてしまう。
「そうなの?友達と来てるの?女の子?」
「俺と一緒に来てるんだけど?」
俺は鈴音の背後に立つと、肩を掴んで自分の腕の中に囲い込みながら男に言った。
「おい、お前…人の女に手、出すなよ」
気付けば自分の願望を口にしていた。普段の俺なら絶対にそんな事はしないのに…。
「え?」
腕の中の鈴音が意外そうな声を出す。そりゃ…そうだよな。
「な、何だよ…男連れかよ…」
男は舌打ち混じりにその場を去って行く。
「亮平…」
腕の中の鈴音が俺を見上げた。湯上りの鈴音…。ほっそりしたうなじからは鈴音が使っているシャンプー剤なのか、薔薇のような香りがする。白い肌にピンク色に染まった頬に思わず心臓の鼓動が大きくなる。そして俺は…。
「まったく…お前をナンパするなんて物好きな男がいるもんだな」
またしてもこんな言葉を吐いていた―。
****
スーパー銭湯の帰り道、月夜の下を俺と鈴音は歩いていた。
あの後、俺の台詞が気に入らなかったのか鈴音は少し不機嫌だったが食事が進む頃には機嫌も直っていた。食事中…2人で色んな話をした。鈴音はどう思っていたか分らないが、俺はとても充実した時間を過ごす事が出来たと感じていた。
それにしても…。
俺は少し前を歩く鈴音をじっと見た。とても痩せ細った身体にあまり食事を食べる事も出来ない。今にも倒れてしまうのではないかと心配になってくる。そうだ、どうせ忍は今入院中なんだ…。
「…俺んちで暮らさないか?」
気付けば俺は鈴音に同居の提案をしていた。鈴音は驚いたように俺を見ている。
いや、むしろ一番驚いているの他ならぬ自分だった。これじゃ、まるで告白みたいじゃないか…!だが、むしろそう思われた方が自分にとっては好都合かもしれない。
けれど、鈴音の出した答えは「No」だった。
挙句の果てに…明日、自分のアパートへ帰ると言い出してしまった。
余計な事を言わなければ良かったと激しく後悔したが、もう遅かった。そしてその言葉通り、鈴音は本当にアパートへ帰ってしまい…再び俺と鈴音は離れてしまった―。
今、俺の中には二つの感情が入り乱れている。忍の事が恐ろしいのに、鈴音に強く惹かれているくせに…その反面、忍に対する執着心を捨てきれずにいる自分に―。
鈴音が実家に戻って来て何日か経過したある日の事だった。
仕事が終わって家に帰ってきた時、たまたま鈴音が自宅の鍵を開けている所に出くわした。
「あれ、鈴音じゃないか?今帰って来たのか?」
「うん、そうだよ。亮平も今だったんだね。」
振り向いて笑顔で答える鈴音。その顔を見ただけで何故か胸が締め付けられそうになった。それに何だか笑顔で明るく見える。最近の鈴音は悲しんだり、怒った姿ばかり見て来たからそんな表情を見せてくれるとこちらまで幸せな気持ちになって来る。
鈴音に機嫌が良さそうな理由を尋ねたら、これから近所に出来たスーパー銭湯に行くと言う話だった。
スーパー銭湯か…。よし。
「俺も行く。そのスーパー銭湯に。何分ぐらいで準備終わる?」
俺は笑顔で鈴音に言った―。
****
鈴音と一緒に行くスーパー銭湯はとても楽しかった。2人で並んで歩くのも楽しかったし、銭湯は気持ちよくて幸せを感じた。俺は湯に浸かりながら思った。
これから先もずっと…鈴音と同じ時間を共有できればいいのにと―。
それなのに…風呂上がりにちょっとした不愉快な事があった。
「ふぅ~…気持ちよかったな…」
上下のスウェットに着替えて鈴音と待ち合わせ場所のフロントへ行ってみると、俺と同世代の男が鈴音に声を掛けていたのだ。鈴音は俺の姿を探しているのかキョロキョロしている。
「あの男…っ!」
カッと俺の中の怒りに火が付いた。無言で2人の方へ近づいていく。2人は俺がすぐそばまで近寄ってきているのに気づかない。
「あの…私、人と待ち合わせをしていて…」
鈴音がいかにも困った素振りで男を見上げている。妙に色気のある目で男をみているその姿にも俺は何故か苛立ちを感じてしまう。
「そうなの?友達と来てるの?女の子?」
「俺と一緒に来てるんだけど?」
俺は鈴音の背後に立つと、肩を掴んで自分の腕の中に囲い込みながら男に言った。
「おい、お前…人の女に手、出すなよ」
気付けば自分の願望を口にしていた。普段の俺なら絶対にそんな事はしないのに…。
「え?」
腕の中の鈴音が意外そうな声を出す。そりゃ…そうだよな。
「な、何だよ…男連れかよ…」
男は舌打ち混じりにその場を去って行く。
「亮平…」
腕の中の鈴音が俺を見上げた。湯上りの鈴音…。ほっそりしたうなじからは鈴音が使っているシャンプー剤なのか、薔薇のような香りがする。白い肌にピンク色に染まった頬に思わず心臓の鼓動が大きくなる。そして俺は…。
「まったく…お前をナンパするなんて物好きな男がいるもんだな」
またしてもこんな言葉を吐いていた―。
****
スーパー銭湯の帰り道、月夜の下を俺と鈴音は歩いていた。
あの後、俺の台詞が気に入らなかったのか鈴音は少し不機嫌だったが食事が進む頃には機嫌も直っていた。食事中…2人で色んな話をした。鈴音はどう思っていたか分らないが、俺はとても充実した時間を過ごす事が出来たと感じていた。
それにしても…。
俺は少し前を歩く鈴音をじっと見た。とても痩せ細った身体にあまり食事を食べる事も出来ない。今にも倒れてしまうのではないかと心配になってくる。そうだ、どうせ忍は今入院中なんだ…。
「…俺んちで暮らさないか?」
気付けば俺は鈴音に同居の提案をしていた。鈴音は驚いたように俺を見ている。
いや、むしろ一番驚いているの他ならぬ自分だった。これじゃ、まるで告白みたいじゃないか…!だが、むしろそう思われた方が自分にとっては好都合かもしれない。
けれど、鈴音の出した答えは「No」だった。
挙句の果てに…明日、自分のアパートへ帰ると言い出してしまった。
余計な事を言わなければ良かったと激しく後悔したが、もう遅かった。そしてその言葉通り、鈴音は本当にアパートへ帰ってしまい…再び俺と鈴音は離れてしまった―。
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