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第19章 16 ショットバー
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20時58分―
間もなく代理店が閉店する時間がやってきた。井上君を始め、早番の社員さんが半分近く帰ってしまっていたけれど、私は遅番でまだお店に残っていた。そして太田先輩も…。
カチッ
時計の針が9時を指し、閉店時間がやってきた。居残っているお客さんもいないので、私は席を立ち、同じく遅番で仕事をしている係長に声を掛けた。
「表のシャッターしめてきますね」
「ああ、頼むよ」
そこで私は社員通有口から店舗の外へ出た。
ガラガラガラガラ・・・・
シャッターを下ろしていると、不意に背後から声を掛けられた。
「手伝うよ」
「え?」
慌てて振り向くとそこに立っていたのは太田先輩だった。
「先輩…」
すると太田先輩はフッと笑みを浮かべるとシャッターをガラガラと引き下げ始めた。慌てて私も別のシャッターを閉め始めた。
「加藤さん」
シャッターを閉め終わった時、太田先輩がやってきた。
「はい」
顔を上げて先輩の顔をしっかり見つめる。
「この後…時間あるかな?話があるんだ」
太田先輩はじっと私を見つめると言った。
「はい。大丈夫です」
「良かった。それじゃまた後で」
太田先輩は代理店の中へ消えて行った。
「…」
私は黙ってその後ろ姿をみつめていた、その時…上からフワリと白い粉が降って来た。
「え?」
上を見上げると、どんより曇った空が広がっていた。そしてチラチラと白い粉雪が降り始めていた。
「雪…どうりで寒いと思った…」
そして私も代理店の中へ入って行った―。
****
私服に着替えて店の外へ出ると、既に太田先輩がガードレールの傍で立って待ってくれていた。
「すみません、お待たせしました。」
駆け足で太田先輩の元へ行った。
「いや、全然待ってないから気にしないでいいよ。それより自転車持ってこなくていいのかい?」
太田先輩が首を傾げながら尋ねて来た。
「はい、いいんです。どのお店に行くか分りませんけど、駐輪場があるお店って少ないですからね。特に駅前だと。」
「ははっ。確かにそうだね…」
そして太田先輩はコートに入れていた手を突然出すと左手を差し出して来た。
「え?」
訳が分からず首を傾げると太田先輩が言った。
「手…繋いでもいいかな?」
「手…手ぇっ?!」
驚きのあまり変な声を出してしまった。するとそれを聞いた太田先輩がクスクス笑いながら言う。
「アハハハ‥ッ。な、何だい?今のその言い方は」
肩を揺すりながら笑う先輩に私は言った。
「そ、そんなに面白かったですか?」
「うん、最高」
未だにクスクス笑いながら太田先輩は此方を見ると、突然ギュッと私の右手を握りしめて来た。
「え?お、太田先輩?」
「加藤さんが返事しないからさ~勝手に手を繋ぐ事にしたよ。さ、行こうか」
「え?ええ…?!」
でも…別にいいか。友達同士でだって女子の場合は手を繋ぐ事があるしね。
「分りました、では行きましょう」
私は先輩と繋いだ手をキュッと握りしめて、太田先輩を見上げると…太田先輩の横顔は赤く染まっていた…ように見えた―。
****
先輩が連れて来てくれたお店は驚いたことにショットバーだった。滅多にこんなお店に来たことが無かった私は緊張してキョロキョロ店内を見渡してしまった。そして気が付いた。お店に来ている女性客はみんなワンピースやスーツといったよそ行きの服を着ている。私みたいなグレーのニットにベージュのパンツスタイルの女性など誰もいなかった。途端に場違いな場所に来てしまったように感じ、身を縮込ませていると、先輩が尋ねて来た。
「どうしたの?」
「あ、あの…こんな素敵なお店に来ることが分っていれば、もっとちゃんとした服装で来れば良かったなって思って」
「別に俺はそれでもかまわないけどね」
「え?」
「加藤さんは…何を着ていても可愛いさ」
オレンジ色に照らされた間接照明の下で太田先輩は私をじっと見つめると言った―。
間もなく代理店が閉店する時間がやってきた。井上君を始め、早番の社員さんが半分近く帰ってしまっていたけれど、私は遅番でまだお店に残っていた。そして太田先輩も…。
カチッ
時計の針が9時を指し、閉店時間がやってきた。居残っているお客さんもいないので、私は席を立ち、同じく遅番で仕事をしている係長に声を掛けた。
「表のシャッターしめてきますね」
「ああ、頼むよ」
そこで私は社員通有口から店舗の外へ出た。
ガラガラガラガラ・・・・
シャッターを下ろしていると、不意に背後から声を掛けられた。
「手伝うよ」
「え?」
慌てて振り向くとそこに立っていたのは太田先輩だった。
「先輩…」
すると太田先輩はフッと笑みを浮かべるとシャッターをガラガラと引き下げ始めた。慌てて私も別のシャッターを閉め始めた。
「加藤さん」
シャッターを閉め終わった時、太田先輩がやってきた。
「はい」
顔を上げて先輩の顔をしっかり見つめる。
「この後…時間あるかな?話があるんだ」
太田先輩はじっと私を見つめると言った。
「はい。大丈夫です」
「良かった。それじゃまた後で」
太田先輩は代理店の中へ消えて行った。
「…」
私は黙ってその後ろ姿をみつめていた、その時…上からフワリと白い粉が降って来た。
「え?」
上を見上げると、どんより曇った空が広がっていた。そしてチラチラと白い粉雪が降り始めていた。
「雪…どうりで寒いと思った…」
そして私も代理店の中へ入って行った―。
****
私服に着替えて店の外へ出ると、既に太田先輩がガードレールの傍で立って待ってくれていた。
「すみません、お待たせしました。」
駆け足で太田先輩の元へ行った。
「いや、全然待ってないから気にしないでいいよ。それより自転車持ってこなくていいのかい?」
太田先輩が首を傾げながら尋ねて来た。
「はい、いいんです。どのお店に行くか分りませんけど、駐輪場があるお店って少ないですからね。特に駅前だと。」
「ははっ。確かにそうだね…」
そして太田先輩はコートに入れていた手を突然出すと左手を差し出して来た。
「え?」
訳が分からず首を傾げると太田先輩が言った。
「手…繋いでもいいかな?」
「手…手ぇっ?!」
驚きのあまり変な声を出してしまった。するとそれを聞いた太田先輩がクスクス笑いながら言う。
「アハハハ‥ッ。な、何だい?今のその言い方は」
肩を揺すりながら笑う先輩に私は言った。
「そ、そんなに面白かったですか?」
「うん、最高」
未だにクスクス笑いながら太田先輩は此方を見ると、突然ギュッと私の右手を握りしめて来た。
「え?お、太田先輩?」
「加藤さんが返事しないからさ~勝手に手を繋ぐ事にしたよ。さ、行こうか」
「え?ええ…?!」
でも…別にいいか。友達同士でだって女子の場合は手を繋ぐ事があるしね。
「分りました、では行きましょう」
私は先輩と繋いだ手をキュッと握りしめて、太田先輩を見上げると…太田先輩の横顔は赤く染まっていた…ように見えた―。
****
先輩が連れて来てくれたお店は驚いたことにショットバーだった。滅多にこんなお店に来たことが無かった私は緊張してキョロキョロ店内を見渡してしまった。そして気が付いた。お店に来ている女性客はみんなワンピースやスーツといったよそ行きの服を着ている。私みたいなグレーのニットにベージュのパンツスタイルの女性など誰もいなかった。途端に場違いな場所に来てしまったように感じ、身を縮込ませていると、先輩が尋ねて来た。
「どうしたの?」
「あ、あの…こんな素敵なお店に来ることが分っていれば、もっとちゃんとした服装で来れば良かったなって思って」
「別に俺はそれでもかまわないけどね」
「え?」
「加藤さんは…何を着ていても可愛いさ」
オレンジ色に照らされた間接照明の下で太田先輩は私をじっと見つめると言った―。
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