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第17章 11 忘れたいのに
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その後、亮平は22時まで片付けの手伝いをしてくれた。お陰で殆どの段ボール箱は片付いた。
「よし、こんなものだろう」
亮平は部屋を見渡すと言った。
「ありがとう、亮平。お陰で殆ど片付いたよ。後は1人で出来るから平気だよ」
「ああ、そうだな。もう残りの段ボール箱も1箱だけだし。それじゃ俺は帰るからな」
亮平はコートを羽織ると玄関へ向かって行く。私も見送りの為に玄関までついて行った。
皮靴を履いた亮平は私の方に向き直ると言った。
「じゃあな、鈴音。ちゃんと戸締りして寝ろよ?明日は来れないけど…平気か?」
その顔は心配気に見えた。
「うん。遅くまでありがとう。大丈夫だってば。それに明日はお姉ちゃんとデートなんでしょう?」
「デート?あ、ああ。まあな」
「それじゃお姉ちゃんによろしく伝えて置いてね。後、気を付けて帰ってね」
「馬鹿だな~俺は男なんだから余計な心配するなよ。」
亮平は私の頭を軽く小突くと言った。
「そうだったね」
「じゃあな。」
「うん。お休み」
互いに玄関で手を振ると亮平は部屋を出て行った。
バタン…
マンションの扉が閉まると、途端に部屋の中がシンとなる。
カチコチカチコチ…
時計の規則正しく時を刻む音だけがやけに大きく響いて聞こえる。
「とりあえず…お風呂に入ろうかな…」
玄関からバスルームへ行くと、お風呂の扉を開けた。
「うん。やっぱりお風呂がある部屋っていいな。」
目の前には今まで無かったお風呂がある。洗い場と浴槽を入れても、2畳ほどしかない広さだけども、シャワーしか無かった部屋に比べれば雲泥の差だ。そして再び直人さんの事を思い出してしまった。
「直人さんのマンションのお風呂場は広かったな…」
時々一緒にお風呂に入ったりしたことがあったけれども、2人で浴槽に入っても十分すぎる位の広さだった。私も直人さんも温泉が大好きだったから、色々な温泉の素を入れて温泉気分に浸ったっけ…。
「駄目駄目!直人さんの事は忘れなくちゃ!」
わざと口に出してブンブン頭を振って直人さんとの記憶を消そうと思ったけれどもどうにも無理だった。だって今日はクリスマスイブ。本来なら直人さんと一緒に素敵な部屋でデートを楽しむ予定だったから。
よし、こうなったら…。
バスタブの栓をすると蛇口のレバーをお湯の方に捻り、温度を確認してお湯をためはじめた。
「こんな時は…これだよね?」
脱衣所の棚から私はとっておきの入浴剤を取り出した。それは今回このマンションに引っ越した記念に買った薔薇の入浴剤だ。今夜はクリスマスイブ。この入浴剤を入れて少しでもリッチな気分を味わおう。
そしてお風呂のお湯をためている間にバスタオルや着がえを取りに部屋へ戻った。
それから約10分後―
再びお風呂場に顔を出すと、バスタブには丁度良い具合にお湯がたまっている。そこでお湯を止めると、早速薔薇の入浴剤の蓋を開けてお湯の中に投入した。途端にお風呂場が薔薇の香りで満たされる。
「うん…いい香り。落ち着くな…」
幸い、この香りは直人さんと試した事は無かった。同じ入浴剤だったら再び直人さんを思い出してしまいそうで、あえて伝統的な入浴剤は買わなかった。
「よし、お風呂に入ろう」
私は衣類を脱ぐと、シャワーを捻った―。
****
「ふう~…気持ちよかった」
お風呂から上がり、タオルドライをしながら部屋へと戻るとスマホにメールの着信を知らせるライトが点滅していた。お姉ちゃんか亮平かな?
何気なく手に取り、スマホをタップして私は息を飲んだ。何と着信相手は恵利さんだったのだ。この間恵利さんは私の住む部屋にやってきた時にほぼ強引にアドレス交換をさせられた。あの時はメールが来るとは思っていなかったのに…。しかも画像ファイル付きだった。
ドクドクドクドク…
私の心臓がうるさい程鳴っている。震える手でメッセージをタップして目を見開いた。
『ありがとう。貴女のお陰ね。素晴らしい部屋でクリスイブを過ごせているわ』
メッセージと共に送られてきた画像には見覚えのある部屋で楽し気に笑う恵利さんが映っていた―。
「よし、こんなものだろう」
亮平は部屋を見渡すと言った。
「ありがとう、亮平。お陰で殆ど片付いたよ。後は1人で出来るから平気だよ」
「ああ、そうだな。もう残りの段ボール箱も1箱だけだし。それじゃ俺は帰るからな」
亮平はコートを羽織ると玄関へ向かって行く。私も見送りの為に玄関までついて行った。
皮靴を履いた亮平は私の方に向き直ると言った。
「じゃあな、鈴音。ちゃんと戸締りして寝ろよ?明日は来れないけど…平気か?」
その顔は心配気に見えた。
「うん。遅くまでありがとう。大丈夫だってば。それに明日はお姉ちゃんとデートなんでしょう?」
「デート?あ、ああ。まあな」
「それじゃお姉ちゃんによろしく伝えて置いてね。後、気を付けて帰ってね」
「馬鹿だな~俺は男なんだから余計な心配するなよ。」
亮平は私の頭を軽く小突くと言った。
「そうだったね」
「じゃあな。」
「うん。お休み」
互いに玄関で手を振ると亮平は部屋を出て行った。
バタン…
マンションの扉が閉まると、途端に部屋の中がシンとなる。
カチコチカチコチ…
時計の規則正しく時を刻む音だけがやけに大きく響いて聞こえる。
「とりあえず…お風呂に入ろうかな…」
玄関からバスルームへ行くと、お風呂の扉を開けた。
「うん。やっぱりお風呂がある部屋っていいな。」
目の前には今まで無かったお風呂がある。洗い場と浴槽を入れても、2畳ほどしかない広さだけども、シャワーしか無かった部屋に比べれば雲泥の差だ。そして再び直人さんの事を思い出してしまった。
「直人さんのマンションのお風呂場は広かったな…」
時々一緒にお風呂に入ったりしたことがあったけれども、2人で浴槽に入っても十分すぎる位の広さだった。私も直人さんも温泉が大好きだったから、色々な温泉の素を入れて温泉気分に浸ったっけ…。
「駄目駄目!直人さんの事は忘れなくちゃ!」
わざと口に出してブンブン頭を振って直人さんとの記憶を消そうと思ったけれどもどうにも無理だった。だって今日はクリスマスイブ。本来なら直人さんと一緒に素敵な部屋でデートを楽しむ予定だったから。
よし、こうなったら…。
バスタブの栓をすると蛇口のレバーをお湯の方に捻り、温度を確認してお湯をためはじめた。
「こんな時は…これだよね?」
脱衣所の棚から私はとっておきの入浴剤を取り出した。それは今回このマンションに引っ越した記念に買った薔薇の入浴剤だ。今夜はクリスマスイブ。この入浴剤を入れて少しでもリッチな気分を味わおう。
そしてお風呂のお湯をためている間にバスタオルや着がえを取りに部屋へ戻った。
それから約10分後―
再びお風呂場に顔を出すと、バスタブには丁度良い具合にお湯がたまっている。そこでお湯を止めると、早速薔薇の入浴剤の蓋を開けてお湯の中に投入した。途端にお風呂場が薔薇の香りで満たされる。
「うん…いい香り。落ち着くな…」
幸い、この香りは直人さんと試した事は無かった。同じ入浴剤だったら再び直人さんを思い出してしまいそうで、あえて伝統的な入浴剤は買わなかった。
「よし、お風呂に入ろう」
私は衣類を脱ぐと、シャワーを捻った―。
****
「ふう~…気持ちよかった」
お風呂から上がり、タオルドライをしながら部屋へと戻るとスマホにメールの着信を知らせるライトが点滅していた。お姉ちゃんか亮平かな?
何気なく手に取り、スマホをタップして私は息を飲んだ。何と着信相手は恵利さんだったのだ。この間恵利さんは私の住む部屋にやってきた時にほぼ強引にアドレス交換をさせられた。あの時はメールが来るとは思っていなかったのに…。しかも画像ファイル付きだった。
ドクドクドクドク…
私の心臓がうるさい程鳴っている。震える手でメッセージをタップして目を見開いた。
『ありがとう。貴女のお陰ね。素晴らしい部屋でクリスイブを過ごせているわ』
メッセージと共に送られてきた画像には見覚えのある部屋で楽し気に笑う恵利さんが映っていた―。
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