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第16章 10 ある推理
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私は夢を見ていた。それはクリスマスイブの日の夢だった。私は直人さんと手を繋いでディズニーランドへ遊びに来ていた。そして夜のシンデレラ城の前で直人さんと一緒に綺麗な打ち上げ花火を見て…。
ピピピピ・・・
「あ…」
私はスマホにセットした目覚まし時計のアラーム音で目が覚めた。
「う~ん…」
起き上がった時にズキリと激しい頭痛を感じた。
「頭痛い‥」
ふと頬に触れると幾筋もの涙の乾いた跡が残されている。
「私…泣きながら眠っていたんだ…」
目をこすりながらカーテンから差し込む日差しを見て、思わず深いため息が出てしまった。どんなに辛いことがあっても、必ず朝はやって来る。さっき見た夢を思い出すだけで、心臓がキリキリ締め付けられるように痛い。これって同じだ…お姉ちゃんと亮平が恋人同士になった時に感じた胸の痛みと‥。いつしか胸の痛みは亮平では無く直人さんにとって代わっていたけれども。
「直人さん…」
目頭が熱くなり、ポタリとパジャマの上に涙がこぼれる。
「駄目駄目、こんな風に泣いてたりしたら…また会社の人達に心配かけちゃう。直人さんの事は今は忘れなくちゃ」
自分に言い聞かせるように言葉に出すと、私は朝の準備を始めた―。
****
午前中、私は気力を振り絞って一生懸命働いた。幸い代理店は忙しく、直人さんの事で悩んでいる余裕は無かったけれども、仲が良さそうなカップルが旅行プランの相談で訪れる姿を間近で見るのは…正直とても辛かった。
昼休み―
職場の人達に小声で挨拶をすると、私は店舗を出てランチを取る為に繁華街へと向かった。町の中はクリスマス一色にそまり、ジングルベルが鳴り響いていた。幸せそうな人たちを目にするたびに、自分がとても孤独な人間に思えてどうしようもない位悲しい気持ちが押し寄せてくる。
何所で食べるか考えもつかないままフラフラと歩いていると、不意に背後から声を掛けられた。
「待ってよ!加藤さんっ!」
気付けば私は右手首を取られ、無理やり振り向かされていた。そして私の手首を掴んでいるのは井上君だった。
「あ…井上君。どうしたの?」
私を追いかけて来たのだろうか?スーツ姿で上着も着ていない井上君は呼吸を乱しながら私の右手首を握りしめている。
「どうしたかって?それは俺の台詞だよ。加藤さん。昨日からとっても様子がおかしいけど、一体何があったんだい?俺で良ければ相談に乗るよ?」
井上君は真剣な目で私を見ている。その目は亮平と同じ…真底私を心配している目に見えた。
「だ、大丈夫…。別に何も無かったから」
私は視線をそらせながら井上君にいう。そう、本当に…直人さんの部屋は何も残されていなかった。でも…本当に何も?あの時、もぬけの殻になっていた部屋を見た途端、私は気を失ってしまった。そしてそのまま亮平が私を連れ帰ってくれたと言う。つまり私達はあの部屋には上がっていない。だけどひょっとするとあの部屋のどこかに重大なメッセージが残されていたのでは…?私の知る知識の範囲内では賃貸マンションを借りた場合、鍵を交換するケースが多かったはず。だけど私の持ってる合鍵で家主のいなくなった部屋に入る事が出来た。ひょっとしてまだあの部屋は引きはらわれていないかも…。
「加藤さん!どうしたんだよっ?!」
その時、井上君の私を呼ぶ声で一気に現実に引き戻された。
「あ…ご、ごめんね。ぼ~っとしちゃって…」
「…」
井上君は神妙な面持ちで私を見ている。
「井上君?」
一体どうしたと言うのだろう?思わず首を傾げると、次の瞬間井上君は私の右手首を掴んだまま踵を返すと、歩き始めた―。
ピピピピ・・・
「あ…」
私はスマホにセットした目覚まし時計のアラーム音で目が覚めた。
「う~ん…」
起き上がった時にズキリと激しい頭痛を感じた。
「頭痛い‥」
ふと頬に触れると幾筋もの涙の乾いた跡が残されている。
「私…泣きながら眠っていたんだ…」
目をこすりながらカーテンから差し込む日差しを見て、思わず深いため息が出てしまった。どんなに辛いことがあっても、必ず朝はやって来る。さっき見た夢を思い出すだけで、心臓がキリキリ締め付けられるように痛い。これって同じだ…お姉ちゃんと亮平が恋人同士になった時に感じた胸の痛みと‥。いつしか胸の痛みは亮平では無く直人さんにとって代わっていたけれども。
「直人さん…」
目頭が熱くなり、ポタリとパジャマの上に涙がこぼれる。
「駄目駄目、こんな風に泣いてたりしたら…また会社の人達に心配かけちゃう。直人さんの事は今は忘れなくちゃ」
自分に言い聞かせるように言葉に出すと、私は朝の準備を始めた―。
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午前中、私は気力を振り絞って一生懸命働いた。幸い代理店は忙しく、直人さんの事で悩んでいる余裕は無かったけれども、仲が良さそうなカップルが旅行プランの相談で訪れる姿を間近で見るのは…正直とても辛かった。
昼休み―
職場の人達に小声で挨拶をすると、私は店舗を出てランチを取る為に繁華街へと向かった。町の中はクリスマス一色にそまり、ジングルベルが鳴り響いていた。幸せそうな人たちを目にするたびに、自分がとても孤独な人間に思えてどうしようもない位悲しい気持ちが押し寄せてくる。
何所で食べるか考えもつかないままフラフラと歩いていると、不意に背後から声を掛けられた。
「待ってよ!加藤さんっ!」
気付けば私は右手首を取られ、無理やり振り向かされていた。そして私の手首を掴んでいるのは井上君だった。
「あ…井上君。どうしたの?」
私を追いかけて来たのだろうか?スーツ姿で上着も着ていない井上君は呼吸を乱しながら私の右手首を握りしめている。
「どうしたかって?それは俺の台詞だよ。加藤さん。昨日からとっても様子がおかしいけど、一体何があったんだい?俺で良ければ相談に乗るよ?」
井上君は真剣な目で私を見ている。その目は亮平と同じ…真底私を心配している目に見えた。
「だ、大丈夫…。別に何も無かったから」
私は視線をそらせながら井上君にいう。そう、本当に…直人さんの部屋は何も残されていなかった。でも…本当に何も?あの時、もぬけの殻になっていた部屋を見た途端、私は気を失ってしまった。そしてそのまま亮平が私を連れ帰ってくれたと言う。つまり私達はあの部屋には上がっていない。だけどひょっとするとあの部屋のどこかに重大なメッセージが残されていたのでは…?私の知る知識の範囲内では賃貸マンションを借りた場合、鍵を交換するケースが多かったはず。だけど私の持ってる合鍵で家主のいなくなった部屋に入る事が出来た。ひょっとしてまだあの部屋は引きはらわれていないかも…。
「加藤さん!どうしたんだよっ?!」
その時、井上君の私を呼ぶ声で一気に現実に引き戻された。
「あ…ご、ごめんね。ぼ~っとしちゃって…」
「…」
井上君は神妙な面持ちで私を見ている。
「井上君?」
一体どうしたと言うのだろう?思わず首を傾げると、次の瞬間井上君は私の右手首を掴んだまま踵を返すと、歩き始めた―。
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