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第16章 6 1時間後の約束
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泣きたい気持ちをこらえて、私は電車に揺られて新小岩駅まで帰ってきた。改札を出ればそこに直人さんが手を振って待っていてくれているようで…でもどこを探してみても姿は無くて。それがたまらなく辛かった。そして改めて思った。私はいつの間にかこんなにも直人さんの事を好きになっていたと言う事に。絶望的な気持ちで駐輪場に向かい、自転車を引き出した時に不意にスマホがなった。
まさか直人さんっ?!期待に胸膨らませて着信相手を見ると、相手は亮平からだった。
「もしもし…」
『鈴音、今どこだ?』
亮平の声には私を心配している様子が感じ取れた。
「今、駅についてこれからマンションへ帰るところだよ?」
『そ、そうか。分かった。鈴音、また1時間後に電話入れるからな?いいか、必ず電話するから絶対に出るんだぞ?!』
何故か念押ししてくる亮平。
「うん…分かった。それじゃまた後でね…」
そして私は自転車に乗ってマンションへ向かい、思った。どうして私と直人さんのマンションは隣同士なんだろうと。これでは今の状況があまりにも辛すぎる。普通の女性だったら何度も何度も電話をかけたり、メールを入れたりするのかもしれない。もしくは相手の家まで押しかけることもあるのかもしれないけれど…私にはそのどれもが出来そうに無かった。こんなに目と鼻の先に住んでいるというのに、合鍵だって貰っているのに、私は怖くて何も出来なかった。そして思った。私はこんなにも恋愛に対して臆病な人間だったのだと―。
マンションに着いて駐輪場に自転車を止めると私はなるべく直人さんの住んでいるマンションを見ないようにして自分の部屋へと帰った。
「ただいま…」
力ない声で言うと、壁のスイッチに触れて部屋の電気をつける。
「…」
もう何もしたくなかった。このまま座り込んでしまいたいくらいだったけど、そんな事をすれば動けなくなってしまいそうだった。だから気力を振り絞ってタンスから着替えとバスタオルを出すとシャワーを浴びにバスルームへと向かった。
シャーッ・・・
熱いシャワーを頭から浴び、髪と身体をゴシゴシ洗った。この辛くて悲しい気持ちを全て洗い流せたらいいのにと思いながら―。
****
シャワーを浴びて、髪を乾かした後は見たくもないテレビをつけながら洗濯物を畳んでしまうと手持ち無沙汰になってしまった。いつもならだいたいこの時間は直人さんとメールをしたり、電話をしたりしていた。そう言えば、昨夜の私はこの時間何をしていたっけ…?
「お酒でも…飲もう」
今の時間は午後10時15分。亮平が電話を入れてくる約束の時間まで後15分ある。私は立ち上がるとキッチンへ向かって小さな冷蔵庫をガチャリと開けた。
中には色々な食材が入っていて、その奥にはグレープフルーツ味の缶チューハイが入っていた。
それを取り出すと部屋に移動し、ベッド前に置かれたガラス製のサイドテーブルに置くと、ベッドを背もたれ代わりに座り、プルタブをプシュッとあける。
ゴクッゴクッゴクッ
半分くらい一気に飲み干し、トンとガラステーブルの上に置いた時…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
ガラステーブルの上に置かれたスマホが鳴り響き、着信を知らせる。相手は亮平からだった。
スマホを手に取り、電話を取った。
ピッ
「はい、もしもし…」
『良かった…鈴音…。』
開口一番、亮平から出てきた言葉だった。
「え?何が良かったの?」
『いや…鈴音が…無事で…』
亮平の声は泣いているように聞こえた。
「え?無事って?一体どういう事?」
すると亮平は言った。
『俺…てっきり鈴音が失恋のショックで死ぬんじゃないかと思って…気が気じゃ無くて…』
「え…?亮平。もしかして私がショックで自殺でもするんじゃないかと思っていたの?それで1時間後に電話入れるって言ったの?」
『ああ、もちろんその通りだ。もし電話に出なかったら…お前のマンションに行くつもりだったんだよ…』
やっぱり、電話越しの亮平の声は…泣いているように聞こえた―。
まさか直人さんっ?!期待に胸膨らませて着信相手を見ると、相手は亮平からだった。
「もしもし…」
『鈴音、今どこだ?』
亮平の声には私を心配している様子が感じ取れた。
「今、駅についてこれからマンションへ帰るところだよ?」
『そ、そうか。分かった。鈴音、また1時間後に電話入れるからな?いいか、必ず電話するから絶対に出るんだぞ?!』
何故か念押ししてくる亮平。
「うん…分かった。それじゃまた後でね…」
そして私は自転車に乗ってマンションへ向かい、思った。どうして私と直人さんのマンションは隣同士なんだろうと。これでは今の状況があまりにも辛すぎる。普通の女性だったら何度も何度も電話をかけたり、メールを入れたりするのかもしれない。もしくは相手の家まで押しかけることもあるのかもしれないけれど…私にはそのどれもが出来そうに無かった。こんなに目と鼻の先に住んでいるというのに、合鍵だって貰っているのに、私は怖くて何も出来なかった。そして思った。私はこんなにも恋愛に対して臆病な人間だったのだと―。
マンションに着いて駐輪場に自転車を止めると私はなるべく直人さんの住んでいるマンションを見ないようにして自分の部屋へと帰った。
「ただいま…」
力ない声で言うと、壁のスイッチに触れて部屋の電気をつける。
「…」
もう何もしたくなかった。このまま座り込んでしまいたいくらいだったけど、そんな事をすれば動けなくなってしまいそうだった。だから気力を振り絞ってタンスから着替えとバスタオルを出すとシャワーを浴びにバスルームへと向かった。
シャーッ・・・
熱いシャワーを頭から浴び、髪と身体をゴシゴシ洗った。この辛くて悲しい気持ちを全て洗い流せたらいいのにと思いながら―。
****
シャワーを浴びて、髪を乾かした後は見たくもないテレビをつけながら洗濯物を畳んでしまうと手持ち無沙汰になってしまった。いつもならだいたいこの時間は直人さんとメールをしたり、電話をしたりしていた。そう言えば、昨夜の私はこの時間何をしていたっけ…?
「お酒でも…飲もう」
今の時間は午後10時15分。亮平が電話を入れてくる約束の時間まで後15分ある。私は立ち上がるとキッチンへ向かって小さな冷蔵庫をガチャリと開けた。
中には色々な食材が入っていて、その奥にはグレープフルーツ味の缶チューハイが入っていた。
それを取り出すと部屋に移動し、ベッド前に置かれたガラス製のサイドテーブルに置くと、ベッドを背もたれ代わりに座り、プルタブをプシュッとあける。
ゴクッゴクッゴクッ
半分くらい一気に飲み干し、トンとガラステーブルの上に置いた時…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
ガラステーブルの上に置かれたスマホが鳴り響き、着信を知らせる。相手は亮平からだった。
スマホを手に取り、電話を取った。
ピッ
「はい、もしもし…」
『良かった…鈴音…。』
開口一番、亮平から出てきた言葉だった。
「え?何が良かったの?」
『いや…鈴音が…無事で…』
亮平の声は泣いているように聞こえた。
「え?無事って?一体どういう事?」
すると亮平は言った。
『俺…てっきり鈴音が失恋のショックで死ぬんじゃないかと思って…気が気じゃ無くて…』
「え…?亮平。もしかして私がショックで自殺でもするんじゃないかと思っていたの?それで1時間後に電話入れるって言ったの?」
『ああ、もちろんその通りだ。もし電話に出なかったら…お前のマンションに行くつもりだったんだよ…』
やっぱり、電話越しの亮平の声は…泣いているように聞こえた―。
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