172 / 519
第12章 7 私がICUを出る日
しおりを挟む
それは私が交通事故から目覚めて1週間が経過した時の出来事だった。
「加藤さん、今日からいよいよ個室に移りますよ。」
看護師さんがベッドで横たわる私に声を掛けて来た。
「は・・・はい。」
弱々しくも私は何とか返事をした。いまだに私の身体には血圧計と脈拍系のモニターに点滴が繋がれていたけれども、先生の話ではようやく危険な状態を切り抜ける事が出来たみたいで、今日ICUから個室へと移ることが出来るようになったらしい。
先生や看護師さんの話によると、私は交通事故で意識を失ってから3か月ちょうどで目が覚めた。3か月を超えてしまうと回復するのが難しくなり、最悪植物状態に陥ってしまう事があるとの事だった。だから私は本当に助かるギリギリのラインで突然目が覚めたので、先生やICUに勤める看護師さんたちは全員口をそろえて奇跡が起こったと、大喜びしたそうだ。
「もうこれは必要なくなりましたから外しますね。」
看護師さんは私の腕からそっとモニターを外してくれた。その時、私は自分の腕を見てギョッとしてしまった。そこにあった私の腕はまるで針金の様だったからだ。
怖い・・・。
一体今の私はどれだけ痩せてしまったのだろう?自分の姿を鏡で確認するのが怖くてまだ一度も私は鏡を見ていない。
私のベッドの周囲に4人の看護師さんが付いた。これからベッドごと私はICUの隣の個室に移される。まだ私の腕には点滴やらいろいろチューブが付いているから4人がかりでベッドを移動することになったみたいだった。
「ではベッドを動かしますね。」
枕元に立っていた看護師さん声を掛けて来た。
「は、はい・・・お願い・・します・・・。」
何とか返事をすると、看護師さんは笑みを浮かべた。
ガコン・・・。
やがて私を乗せたベッドはゆっくり動きだした。するとICUにいた先生や看護師さんたちが皆私の方を向いてパチパチと拍手をして見送ってくれる。中にはおめでとうと声を掛けて来る先生もいた。
どうして拍手をするんだろう・・・?私が不思議そうな顔をしているのが分かったのか先ほどと同じ看護師さんが教えてくれた。
「あのね、ICUに一度入院した患者さんは・・回復するのが難しい人達ばかりなの。それで3か月以上経過すると意識が戻らなくても個室に移動することがあるのだけど・・加藤さんみたいに意識が戻って個室に移動するケースは珍しいのよ?だから皆拍手をして加藤さんを祝ってくれているの・・・ってどうかしたの?!加藤さん!どこか痛むのっ?!」
ベッドを移動させながら看護師さんは私を見て驚いている。
「い、いえ・・・そうじゃ・・・ないんです・・。皆が・・私の意識が戻った事・・こんなにもお祝いしてくれることが・・う、嬉しくて・・。」
私は必死で言葉を絞り出しながら涙を流していた。目が覚めてから1週間・・全身の激しい痛みと戦って・・時にはあのまま死んでいた方がましだと思うような辛かった日々もあったけど・・こんなに皆が私を心配してくれていたなんて・・・。
「あ・・ありがとう・・ございます・・本当に・・・。」
泣きながら私はお礼を言うと、私のベッドを動かしている看護師さんたちも・・皆赤い目で私を見下ろしていた・・・。
「はい、加藤さん。今日からここが貴女の部屋よ。明日から・・少しずつリハビリしていきましょうね。」
私についている点滴の残量を確認しながら看護師さんが言った。
「リハビリ・・ですか・・・・?」
そんな事・・・今の私に出来るのだろうか・・・腕だって鉛のように重くてまともに動かすことも出来ないのに・・。
「大丈夫、今日から高カロリーの点滴の量も増やしていくから・・ちょっとずつ体力も追いついて来るから心配しないで?」
「はい・・・分かりました・・・。」
すると看護師さんは私を見てニコリと笑みを浮かべると言った。
「本当に・・加藤さんって素直な人よね?それに我慢強いし・・だから色々な人に好かれるのかしら?」
「え・・・?」
それは一体・・どういう意味なのだろう・・・?
私が看護師さんの言葉の意味を知るのは、その翌日の事だった―。
「加藤さん、今日からいよいよ個室に移りますよ。」
看護師さんがベッドで横たわる私に声を掛けて来た。
「は・・・はい。」
弱々しくも私は何とか返事をした。いまだに私の身体には血圧計と脈拍系のモニターに点滴が繋がれていたけれども、先生の話ではようやく危険な状態を切り抜ける事が出来たみたいで、今日ICUから個室へと移ることが出来るようになったらしい。
先生や看護師さんの話によると、私は交通事故で意識を失ってから3か月ちょうどで目が覚めた。3か月を超えてしまうと回復するのが難しくなり、最悪植物状態に陥ってしまう事があるとの事だった。だから私は本当に助かるギリギリのラインで突然目が覚めたので、先生やICUに勤める看護師さんたちは全員口をそろえて奇跡が起こったと、大喜びしたそうだ。
「もうこれは必要なくなりましたから外しますね。」
看護師さんは私の腕からそっとモニターを外してくれた。その時、私は自分の腕を見てギョッとしてしまった。そこにあった私の腕はまるで針金の様だったからだ。
怖い・・・。
一体今の私はどれだけ痩せてしまったのだろう?自分の姿を鏡で確認するのが怖くてまだ一度も私は鏡を見ていない。
私のベッドの周囲に4人の看護師さんが付いた。これからベッドごと私はICUの隣の個室に移される。まだ私の腕には点滴やらいろいろチューブが付いているから4人がかりでベッドを移動することになったみたいだった。
「ではベッドを動かしますね。」
枕元に立っていた看護師さん声を掛けて来た。
「は、はい・・・お願い・・します・・・。」
何とか返事をすると、看護師さんは笑みを浮かべた。
ガコン・・・。
やがて私を乗せたベッドはゆっくり動きだした。するとICUにいた先生や看護師さんたちが皆私の方を向いてパチパチと拍手をして見送ってくれる。中にはおめでとうと声を掛けて来る先生もいた。
どうして拍手をするんだろう・・・?私が不思議そうな顔をしているのが分かったのか先ほどと同じ看護師さんが教えてくれた。
「あのね、ICUに一度入院した患者さんは・・回復するのが難しい人達ばかりなの。それで3か月以上経過すると意識が戻らなくても個室に移動することがあるのだけど・・加藤さんみたいに意識が戻って個室に移動するケースは珍しいのよ?だから皆拍手をして加藤さんを祝ってくれているの・・・ってどうかしたの?!加藤さん!どこか痛むのっ?!」
ベッドを移動させながら看護師さんは私を見て驚いている。
「い、いえ・・・そうじゃ・・・ないんです・・。皆が・・私の意識が戻った事・・こんなにもお祝いしてくれることが・・う、嬉しくて・・。」
私は必死で言葉を絞り出しながら涙を流していた。目が覚めてから1週間・・全身の激しい痛みと戦って・・時にはあのまま死んでいた方がましだと思うような辛かった日々もあったけど・・こんなに皆が私を心配してくれていたなんて・・・。
「あ・・ありがとう・・ございます・・本当に・・・。」
泣きながら私はお礼を言うと、私のベッドを動かしている看護師さんたちも・・皆赤い目で私を見下ろしていた・・・。
「はい、加藤さん。今日からここが貴女の部屋よ。明日から・・少しずつリハビリしていきましょうね。」
私についている点滴の残量を確認しながら看護師さんが言った。
「リハビリ・・ですか・・・・?」
そんな事・・・今の私に出来るのだろうか・・・腕だって鉛のように重くてまともに動かすことも出来ないのに・・。
「大丈夫、今日から高カロリーの点滴の量も増やしていくから・・ちょっとずつ体力も追いついて来るから心配しないで?」
「はい・・・分かりました・・・。」
すると看護師さんは私を見てニコリと笑みを浮かべると言った。
「本当に・・加藤さんって素直な人よね?それに我慢強いし・・だから色々な人に好かれるのかしら?」
「え・・・?」
それは一体・・どういう意味なのだろう・・・?
私が看護師さんの言葉の意味を知るのは、その翌日の事だった―。
14
お気に入りに追加
865
あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる