158 / 519
第11章 11 お詫びついでに・・・
しおりを挟む
季節も2月半ばへと入っていた。
今日は遅番の日だったので私は小腹を減らしながら足早にマンションと向かっていた。
町の中は人であふれ、店先であちこちでバレンタインフェアを開催している。
「明日いよいよバレンタインか・・・。」
紙袋を片手に白い息を吐きながら店先に出ているのぼりをチラリと見た。
今迄の私は毎年欠かさず亮平にバレンタインのプレゼントを渡していた。しかも市販品ではなく、毎回手作りチョコや、チョコレートケーキを作って渡していた。
けれど、もう今年は・・私は亮平にはバレンタインのプレゼントはしないと決めていた。その代わり、職場の人たちに手作りのチョコを渡すつもりで、今日のお昼休みにチョコの材料を買ってきたのだ。
「早く帰ってチョコを作らなくちゃ。」
私の趣味はお菓子作りだった。まだお姉ちゃんと仲良く暮らしていた学生時代は時間があればクッキーやケーキを作っていたけれども、社会人になってからはさっぱりお菓子作りからは遠ざかっていた。でも、明日はバレンタインだし、久しぶりに何か手作りのお菓子をつくって見ようと思ったのだ。
住宅街に入り、後半分くらいの道のりでマンション・・と思った矢先に前方から男の人が歩いてきた。そしてその男性は街灯の下で突然ピタリと足を止めると声を掛けて来た。
「もしかして・・加藤さん?」
「え・・?川口さん・・?」
「何だか・・久しぶりに感じるな。・・元気にしていた?」
川口さんは私に近付いて来ると数歩手前で足を止めた。
「う、うん・・元気にしていたよ・・?」
別に川口さんとは付き合ったことも無いのに、何故か居心地が悪くて私は目を伏せながら返事をした。だけど・・こんなところで会うことになるとは思わなかった。最近ずっと会う事も無かったし・・。ううん、逆にそもそも今まで会わなかったことの方が不思議なのかもしれない。だって住んでるマンションは隣同士だし、ゴミ出しの共有スペースも同じなのに、一月近く顔を合わせなったのだから。
「加藤さん・・その紙袋、重そうだね。マンションの前まで持って行ってあげるよ。」
突然の川口さんの申し出に驚いてしまった。
「え?あ・・そ、そんな。これ位は1人で持てるから大丈夫だよ。」
だけど川口さんは言った。
「いいからいから。マンションまではまだ5分以上歩くし、そんな細い体なのに重そうな荷物を持って・・・。さっきふらつきながら歩いていたじゃないか。」
ふらつきながら・・?自分では意識していなかったかもしれないけどそうだったのかな・・?だけど・・・。
「川口さん・・・本当は駅の方に用事があったんじゃないの?だってマンションの方から歩いてきたじゃない。」
「あ・・・うん。実は・・コンビニへ行こうとしていたんだ。でも別にいいんだ。行かなくてもさ。ほら、持つよ。」
「あ。」
川口さんは半ば強引に私から紙袋を取ってしまった。仕方ない・・。
心の中で溜息をついて、仕方なく川口さんと2人でマンションへ向かう事になってしまった。
「・・・。」
隣を歩く川口さんをチラリと見ながら思った。う・・気まずい。どうしよう・・何か話さなくいちゃいけないのに・・。
その時・・・。
「ねぇ、これ・・何が入っているの?」
不意に川口さんが尋ねてきた。
「え?あ・あの、これは・・明日はバレンタインだから職場の人たちにチョコレートを作ろうと思って・・その材料だよ。」
「そうか・・明日はバレンタインだったね。彼にもあげるの?」
「え?彼って?」
「加藤さんの幼馴染だよ。」
「・・ううん。あげるつもりは無いよ・・それに会う約束もしていないし・・。」
「どれくらい作るつもりなの?チョコ・・あまりそう?」
「え?」
突然何を言い出すのだろう。驚いて顔を上げると、そこには真剣な目で私を見る川口さんがいた。
「好きなんだ・・。」
「え?!」
ま、まさかの・・告白っ?!そ、そんないきなり・・。思わず焦っていると、川口さんは言った。
「俺・・実は甘いものが大好きなんだ。それで・・・さっきもコンビニへ買いに行こうかと思って・・。」
川口さんは照れたように言う。あ・・・何だ・・そっちか・・。途端に安堵のあまり笑みが浮かんでしまった。
「何?」
川口さんは突然私が笑みを浮かべたのを見て不思議そうな顔をした。
「川口さんはでも・・彼女からチョコ貰えるんじゃないの?」
「いや、彼女とは別れたから。」
川口さんが素早く応える。
「え?あ・・そ、そうなの?ごめんなさい・・・。」
咄嗟に謝ると、川口さんはとんでもないことを言ってきた。
「それじゃあさ、お詫びついでに・・・俺にもチョコ・・作ってくれるかな?」
「え・・・?」
そこには笑みを浮かべた川口さんがいた―。
今日は遅番の日だったので私は小腹を減らしながら足早にマンションと向かっていた。
町の中は人であふれ、店先であちこちでバレンタインフェアを開催している。
「明日いよいよバレンタインか・・・。」
紙袋を片手に白い息を吐きながら店先に出ているのぼりをチラリと見た。
今迄の私は毎年欠かさず亮平にバレンタインのプレゼントを渡していた。しかも市販品ではなく、毎回手作りチョコや、チョコレートケーキを作って渡していた。
けれど、もう今年は・・私は亮平にはバレンタインのプレゼントはしないと決めていた。その代わり、職場の人たちに手作りのチョコを渡すつもりで、今日のお昼休みにチョコの材料を買ってきたのだ。
「早く帰ってチョコを作らなくちゃ。」
私の趣味はお菓子作りだった。まだお姉ちゃんと仲良く暮らしていた学生時代は時間があればクッキーやケーキを作っていたけれども、社会人になってからはさっぱりお菓子作りからは遠ざかっていた。でも、明日はバレンタインだし、久しぶりに何か手作りのお菓子をつくって見ようと思ったのだ。
住宅街に入り、後半分くらいの道のりでマンション・・と思った矢先に前方から男の人が歩いてきた。そしてその男性は街灯の下で突然ピタリと足を止めると声を掛けて来た。
「もしかして・・加藤さん?」
「え・・?川口さん・・?」
「何だか・・久しぶりに感じるな。・・元気にしていた?」
川口さんは私に近付いて来ると数歩手前で足を止めた。
「う、うん・・元気にしていたよ・・?」
別に川口さんとは付き合ったことも無いのに、何故か居心地が悪くて私は目を伏せながら返事をした。だけど・・こんなところで会うことになるとは思わなかった。最近ずっと会う事も無かったし・・。ううん、逆にそもそも今まで会わなかったことの方が不思議なのかもしれない。だって住んでるマンションは隣同士だし、ゴミ出しの共有スペースも同じなのに、一月近く顔を合わせなったのだから。
「加藤さん・・その紙袋、重そうだね。マンションの前まで持って行ってあげるよ。」
突然の川口さんの申し出に驚いてしまった。
「え?あ・・そ、そんな。これ位は1人で持てるから大丈夫だよ。」
だけど川口さんは言った。
「いいからいから。マンションまではまだ5分以上歩くし、そんな細い体なのに重そうな荷物を持って・・・。さっきふらつきながら歩いていたじゃないか。」
ふらつきながら・・?自分では意識していなかったかもしれないけどそうだったのかな・・?だけど・・・。
「川口さん・・・本当は駅の方に用事があったんじゃないの?だってマンションの方から歩いてきたじゃない。」
「あ・・・うん。実は・・コンビニへ行こうとしていたんだ。でも別にいいんだ。行かなくてもさ。ほら、持つよ。」
「あ。」
川口さんは半ば強引に私から紙袋を取ってしまった。仕方ない・・。
心の中で溜息をついて、仕方なく川口さんと2人でマンションへ向かう事になってしまった。
「・・・。」
隣を歩く川口さんをチラリと見ながら思った。う・・気まずい。どうしよう・・何か話さなくいちゃいけないのに・・。
その時・・・。
「ねぇ、これ・・何が入っているの?」
不意に川口さんが尋ねてきた。
「え?あ・あの、これは・・明日はバレンタインだから職場の人たちにチョコレートを作ろうと思って・・その材料だよ。」
「そうか・・明日はバレンタインだったね。彼にもあげるの?」
「え?彼って?」
「加藤さんの幼馴染だよ。」
「・・ううん。あげるつもりは無いよ・・それに会う約束もしていないし・・。」
「どれくらい作るつもりなの?チョコ・・あまりそう?」
「え?」
突然何を言い出すのだろう。驚いて顔を上げると、そこには真剣な目で私を見る川口さんがいた。
「好きなんだ・・。」
「え?!」
ま、まさかの・・告白っ?!そ、そんないきなり・・。思わず焦っていると、川口さんは言った。
「俺・・実は甘いものが大好きなんだ。それで・・・さっきもコンビニへ買いに行こうかと思って・・。」
川口さんは照れたように言う。あ・・・何だ・・そっちか・・。途端に安堵のあまり笑みが浮かんでしまった。
「何?」
川口さんは突然私が笑みを浮かべたのを見て不思議そうな顔をした。
「川口さんはでも・・彼女からチョコ貰えるんじゃないの?」
「いや、彼女とは別れたから。」
川口さんが素早く応える。
「え?あ・・そ、そうなの?ごめんなさい・・・。」
咄嗟に謝ると、川口さんはとんでもないことを言ってきた。
「それじゃあさ、お詫びついでに・・・俺にもチョコ・・作ってくれるかな?」
「え・・・?」
そこには笑みを浮かべた川口さんがいた―。
11
お気に入りに追加
865
あなたにおすすめの小説

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?


関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載

忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる