上 下
117 / 519

第8章 14 心配の影には

しおりを挟む
 翌朝9時―

ピンポーン

部屋のインターホンが鳴った。念の為にドアに近付きドアアイで確認すると、そこにはマフラーを巻き付け、ダウンジャケットを着た亮平が両手に紙袋を下げて立っていた。

「おはよう、亮平。」

ガチャリとドアを開けると亮平は震えながら言った。

「おはよう・・・う~寒いっ!中へ早く入れてくれ。」

「う、うん・・。」

避けると亮平は玄関の中へ入り込み、さっさと靴を脱いで上がり込んでくると、紙袋をドサリとテーブルの上に置いた。

「ね、ねぇ・・何?この紙袋は?」

マフラーと上着を脱ぐ亮平に私は尋ねた。

「うん?これは差し入れだ。」

「差し入れ?」

「そう、母さんから。色々おかずを作ったから鈴音に持たせてやってくれって。相変わらず昔から母さんは鈴音に甘いよな?あ、ハンガーあるか?」

亮平は脱いだマフラーと上着を手に持つと私に言った。

「あ、ハンガーね?うん。ちょっと待ってて。」

クローゼットを開けて私はハンガーを取り出すと亮平に手渡した。

「はい、どうぞ。」

「ああ、サンキュー。」

亮平は脱いだ上着、マフラーをハンガーにかけてフックに引っ掛けると私に言った。

「寒かった。熱いコーヒーでも淹れてくれよ。」

「うん。ちょっと待ってて。とりあえず、適当に座っていてよ。」

やかんに水を入れてガスコンロに掛けると、亮平のお母さんが持たせてくれたコンテナボックスに入ったおかずを紙袋から取り出した。
中にはお煮しめやきんぴらごぼう、ひじきの煮物、里芋の煮っころがし、青菜の胡麻和え、ミートソース等々合計10種類のおかずが入っていた。

「うわぁ・・すごい!こんなにたくさん・・・!」

思わず感動の声を上げると床に胡坐をかき、テレビを眺めていた亮平が声を掛けてきた。

「鈴音、食いきれなかったら小分けにして冷凍保存しておけって母さんが言ってたぞ。」

「うん。そうだね・・そうさせてもらうよ。」

ちょうどその時、ピーッとお湯が沸く音が鳴ったのでガスを止めると、昨日買ってきたばかりのインスタントコーヒーを開封した。
マグカップにティースプーンで小さじ2杯、亮平が好む味だ。そこにお湯を注いで2人分のコーヒーを用意すると両手に持って部屋に入り、亮平の前のテーブルにトンと置いた。

「はい、コーヒー淹れたよ。ちょっと待ってて。今何か食べ物出すから。」

立ち上がろうとすると亮平が引き留めた。

「いや、大丈夫だ。朝飯食べた来たばかりだから。それより鈴音、お前もここに座ってコーヒーを飲めよ。」

亮平は自分の真向かいの席を人差し指でトントン叩きながら言った。

「うん・・・分かった・・・。」

言われた通りに座ると亮平は黙ってコーヒーを飲みながら私をじっと見た。

「鈴音・・・お前、本当にちゃんと食ってるのか・・・?去年忍と一緒に住んでいた時と比べて、えらく体形が変わってしまったじゃないか・・。」

そして溜息をつくと、再びコーヒーに口をつける。

「あ、ありがとう。心配・・・してくれているんだよね?」

「ああ、そんなの当然だろう?」

それを聞いた私は嬉しくなった。けど・・次の瞬間、亮平の言葉に凍り付いた。

「全く・・・忍が調子悪いって言うのに・・鈴音まで具合悪くしたら・・いざって時に忍に何かあったら俺一人じゃ対処できないかもしれないじゃないか。だからさ、鈴音はちゃんと体調管理しておけよ?」

「!」

え・・?それって・・・お姉ちゃんの為に体調管理しておけって事なの・・?でも、一応私の事を心配してくれいるんだよね・・?

「う、うん・・・分かったよ・・。」

何とか亮平に返事をする。

「よし、鈴音。それじゃさっそく始めようか?」

突然亮平が言った。え・・・?始める・・?一体亮平はこれから何を始めると言うんだろう?

私は亮平の言葉に首を傾げた―。




しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

癒しの花嫁は幼馴染の冷徹宰相の執愛を知る

はるみさ
恋愛
伯爵令嬢のメロディアは、公爵で若き宰相のアヴィスへ嫁ぐことになる。幼い頃から婚約者と決まっていた、いわば幼馴染の二人だったが、彼が公爵家を継いでからは多忙ゆえにまともに会うこともできなくなっていた。しかし、王太子が結婚したことで幼い頃からの予定通り二人は結婚することになる。 久しぶりの再会も結婚式も全く嬉しそうではないアヴィスにメロディアは悲しくなるが、初恋を遂げることができた初夜、感極まったメロディアがある奇跡を起こして……?! 幼馴染に初恋一途なメロディアとアヴィスの初恋じれキュンストーリー♪ ※完結まで毎日6話配信予定です。 ※期間限定での公開となります。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

処理中です...