本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
1 / 519

プロローグ 結婚するって本当ですか?

しおりを挟む
 7月 大安吉日の日曜日―

私は海辺にひっそりと建つ小さなチャペルに誰よりも一足早くやって来ていた。
式に参列する客も、新郎新婦もまだ来ていない。空を見上げれば雲一つない青空が広がっている。海から拭く潮風をもっと身体に感じたくて、目を閉じ、両手を広げて思い切り吸い込んだ。

「何て清々しい陽気なんだろう・・・。」

そして目を開けると改めて眼前に立つ教会を見上げた。
海を背景に、草原の中にひっそりと建つ美しい教会。真っ白な壁で出来た建物は左右に大きな赤いとんがり屋根が付いている。
入口は大きなアーチ型でお洒落な木の扉になっている。
まるで1枚の大きなアートのような風景だ。
この教会で結婚式を挙げようと決めたのは新郎新婦と私の3人。
本当は私なんかが2人の結婚式に口を挟める権利は無いのに、何故か2人は私にも選んで欲しいと強く訴えて来たのだ。だから申し訳ないけれども教会選びに参加させて貰い、3人でここに決めたのだった。

中央には時計台もあり、てっぺんには当然の如く大きなベルが取り付けられている。
時刻は午前8時をちょっと過ぎた所だ。式は10時からだから、私は2時間も早くここへ来てしまった事になる。

「お姉ちゃん・・・今頃心配してるかな・・・。それに・・亮平・・・。」

ポツリと呟き、思わず目頭が熱くなってくる。

「駄目だな・・・私ってば・・・こうなる事をずっと願っていたはずなのに・・いざとなると・・こんなに辛いなんて・・。」

私は涙が出てこないように必死で楽しい事を考えた。姉と2人で旅行へ行った事・・亮平と一緒に学校帰りにファミレスに行った事・・・3人で居酒屋に行ったり、カラオケをした事・・。
駄目だ・・・。結局私の楽しかった思い出は全て姉と亮平に関わる事ばかりだ。
私はますます悲しみが込み上げてきて・・・ついに堪えきれなくなり、涙が溢れだしてきた。一度流れ出した涙は止まる事を知らない。
そう、私が式の2時間も前に教会へやって来た目的は・・・今から涙が枯れ果てるまで泣く為にやって来たのだ。だってそうでもしなければ、私は悲しみに耐えきれず、2人のおめでたい結婚式の最中に泣きだしてしまうかもしれないから。


ごめんなさい、お姉ちゃん・・・亮平・・・。
本当は2人の事をお祝いしてあげたいのに・・・今はとてもそんな気持ちになれないよ・・・自分で決めた事なのに。全ては覚悟の上だったのに。

神様、どうかお願いします。

2人が式を挙げている間・・・・私が泣きだしませんように・・・。

2人の幸せを心から願えますように・・・。

私はいつまでもいつまでも両手で顔を覆って泣き続けた—。
しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

処理中です...