悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
116 / 129

第36日目 私は女優?

しおりを挟む
『おはようございます。36日目の朝がやってまいりました。<白銀のナイト>達の攻略を今すぐ始めてください。』

「は?」

何故かは分からないが、私は強制的に起こされてしまった。しかも明け方前の4時に・・・。目の前には例の如く液晶画面が浮かんでいる。

「ふ・・・ふっざっけないでよ~っ!!」

ガバッと飛び起き、液晶画面目掛けて枕を投げつけてやる。そしてそのまま枕は
私の顔面へと落下してきたのだった—。

「大体、何でこんな朝早くから起こされなくちゃならないのよ。皆まだ眠っているはずでしょ?」

ブツブツ文句を言いながら、腕時計のパネルを操作して『白銀のナイト』達の居場所をチェックしてみると・・・何と全員が一か所に集められているでは無いかっ!

「え?う・・嘘・・・・な、何で・・?これは・・ひょっとしてこのゲームを作った上層部がサービスしてくれたのかな?」

取りあえず私は急いでメイド服に着替えると、まだ夜も明けきらない夜の園庭を走りぬけ、白銀のナイト達がいる場所へ向かい・・・固まった。

「エ・・?更衣室・・?」

私は頭を抱えてその場にうずくまってしまった。・・・やってしまった・・・。
震える手で液晶画面を再度タップして見ると、確かに場所は『白銀のナイト』用の更衣室をさしている。

「思わず更衣室に迄来てしまったけれども・・。夜明け前にこんな所で待っていたら痴女扱いをされてしまうかもしれないわ・・・。」

取りあえず、帰ろうと思った矢先・・突然ドアがガチャリと開けられ、中から『白銀のナイト』のアベルが出て来た。彼は正式な衣装を着用している。
う~ん・・・相変わらずこの騎士の制服は格好いい・・・。
等と思っていると、私よりは背が高いアベルが嫌みな笑顔で見下ろすと言った。

「おやあ~誰かと思えばチビのベネットじゃないか?お前、何しにこんな所に来てるんだよ?」

おおっ!こ、この塩対応ぶりは・・半端ではないっ!一体彼の今の好感度は・・・見上げた瞬間に思わず絶句してしまった。恐ろしい事にアベルの好感度はゼロになっているではないかっ!

「そ、そんな・・・。」

あまりのショックで、思わず目じりに涙がうかんでくる。すると何を勘違いしたのか、アベルが後ずさった。

「な、な、何だよっ!と、突然泣きそうになって・・・。」

その時、私は見た。アベルの左胸にヴィータのブローチが付けられている事に。
ま、まさか・・・。

「何だよ、アベル。入口を塞ぐな。出られないじゃ無いかっ!」

押し分けて出てきたのはジェフリー。彼の左胸にも同様にヴィータのブローチが縫い付けられている。

「何だ?ベネット・・・お前どうしてここにいるんだよ?」

やはり彼も冷たい瞳で私を見る。もしや・・・この展開は・・?
さらに出てきたのはエディ、エリオット、フレッドにアドニス、最期にアンディが外へ出て来ると全員が私を不機嫌そうに見ている。
そして私の予想通り全員が左胸にヴィータの守りを身に着け、好感度も全員がゼロである。

ああ・・・間違いない。これから『白銀のナイト』達は死を覚悟して命を懸けた激しい戦いに赴くのだ。

『白銀のナイト』達が左胸に付けているヴィータと呼ばれているお守り・・。
子のお守りはゲーム中でもラストに出て来る邪神との戦いの時に自分達の死を覚悟した彼等は生命をつかさどる神、ヴィータの守りのブローチをそれぞれの左胸につけ、聖女の力を身に宿したオリヴィアと共に戦いに赴いた。
そして激しい死闘の末・・・彼等はついに勝ち、死にゆく大地を守った。その代償としてオリヴィアは聖女の力を失ったが・・『白銀のナイト』全員に愛されて・・この世界のオリヴィアは女版ハーレムを・・・・っ!てそんな話はもうどうでも良いが、つまり彼等はこれから勝てるかどうかも分からない戦いに向かうという事なのだっ!

「全く・・・、これから生きるか死ぬかって戦いに行かないとならないのに、最期の時によりにもよってお前に会ってしまうとはな。」

フレッドは面倒くさそうに言う。

「あ~あ・・。こんな時に君が現れるなんて・・ほんと最悪。縁起が悪すぎるよ。」

アドニスは冷たい瞳で私を睨む。

「おい、俺達は忙しいんだ、お前に構っている暇はないんだ。」

エリオットは不機嫌そうに言う。

「・・・。」

エディは黙って睨み付けている。するとアンディが口を開いた。

「何か俺達に用事があって来たんだろう?要件は何だ?早く言え。」

白銀のナイト達全員から白い目で見られ、彼等の好感度は全員ゼロ。
おまけに今から彼等は生きて帰って来れるかも分からない戦いに行く。
そんな・・・ここまで来たのに・・・私はこの滅茶苦茶なゲームシステムのせいで、一生ヴァーチャル世界から抜け出せなくなってしまうのだろうか・・・?
必ず元の世界に戻って、「株式会社 アースプロダクツエンターテイメント」に制裁を与えてやろうと思ったのに・・・。こんな志半ばで・・・。
思わず目頭が熱くなり、俯いた。

「おい・・・?ベネット・・お前・・泣いているのか・・?」

すると頭上でエリオットの声が聞こえて来た。そこでエリオットを見ると・・
おおっ?!奇跡が起こったのか?!それとも見間違いでは無いだろうか・・・?なんと彼の好感度がゼロだったはずが50迄回復したのである。
ま、まさか・・他の『白銀のナイト』達を見るとやはり彼等も好感度が50回復していた。どうやら彼等は完全に私の涙の意味を勘違いして捉えてくれているようだ。それなら・・これを利用しない手は無いっ!私は顔を上げると一世一代の演技に出た!

「はい、そうです。お恐らく皆さんが『白銀のナイト』の正装の姿で、胸にヴィータの守りのブローチを左胸に付けていると言う事は・・・これからとても危険な戦いに挑むわけですよね・・?それで・・・つい・・涙が・・グスッ・・。」

俯きながら声を震わせて渾身の演技力で訴える。

「エリス・・・。お前、そんなに俺達を心配しているのか・・?」

フレッドの口調が変化して来た!よし、もう一押しっ!

「はい。なので皆様に私からのプレゼントをお渡ししたいのですが・・・どうか受け取って頂けないでしょうか?『マターファ』と呼ばれる迷宮に入り、モンスターを討伐して、私が手に入れて来たものです。」

言いながら、袋の中から光り輝く魔鉱石を取り出した。

「ああっ!こ、これは・・!」

アドニスが驚く。

「ま・・・魔鉱石じゃ無いかっ!」

エディは食い入るように魔鉱石を見た。よし、いい感じだっ!このまま一気に彼等を攻め落とすっ!

「はい。何度も命の危機に遭いながらも・・皆様を思い、魔鉱石を採掘して来ました。この魔鉱石があれば・・きっと戦いに役立てるでしょう。どうか・・受け取って頂けないでしょうか・・?」

そして目をウルウルさせながら、彼等に魔鉱石を手渡して行く。勿論手渡すときには一言添えるのを忘れない。

アンディには
「お願いです、死なないで下さい」

アベルには
「お帰りをずっと待っています」

エリオットには
「生きて帰って来てください」

フレッドには
「どうぞ、御武運を」

アドニスには
「無事をお祈りしております」

エディには
「勝てる事を信じて待っています」

ジェフリーには
「無事に帰ってこれたなら最高のトランプマジックを披露しますね」

色々な言葉を言いつくして、最期のジェフリーには何やら変な言葉を送ってしまったかもしれないが・・・・・でもこれで私に対する彼らの好感度がうなぎ上りに上昇したのは言うまでも無かった。見たか、私の名演技を―。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...