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第35日目 奪われた魔鉱石 ③

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「・・・で、エリス。お前は俺に何を頼みたいのだ?」

壇上の上で宝石が散りばめられた立派な椅子に座りながらタリク王子は足を組み、右ひじをひじ掛けにつき、顎を支えながら尋ねて来る。
タリク王子の左右には何故か2人の兵士?が大きなクジャクの羽のような団扇であおがされている。彼等はこの上なく迷惑そうな顔であおいでいるのが見に見えて分かった。

「あ、あの実はですね、エタニティス学園から一緒に来たオリバー・ヒューストンと言う方にノッポとベソの魔鉱石を奪われてしまったんですよ。それで彼は今この国のカジノに潜伏している事が分かりまして、そちらに3人で向かったのですが・・服装が良くないとの理由で追い返されてしまったんです。そこで・・・タリク王子のお力添えで、何とかカジノに入れて貰えないかと思いましてね・・・。」

愛想笑いをしながらタリク王子を見上げると、団扇であおいでいた2人の兵士から厳しい声が飛んできた。

「女っ!勝手に顔をあげるなっ!」

「そうだ!無礼だぞっ!」

すると突然タリク王子がすっくと立ち上った。ひええ・・・こ、怖い。ひょっとしたらタリク王子にも怒鳴られてしまうのだろうか・・・と思った矢先・・・。

「煩いっ!無礼なのはお前達の方だっ!」

言いながらタリク王子はまず右側にいた兵士の頬を思い切りげんこつで殴り飛ばす。

「ヘベブッ!!」

訳の分からない声を上げつつ、床にもんどりうつ兵士その1。

次にタリク王子は左側に立っていた兵士に右ストレートをぶちかます。

「プギャアアッ!!」

何とも情けない声を上げて、壁際に叩きつけられる兵士のそ2。

「キャアアアッ!」

あまりのタリク王子の暴君ぶりに思わず女性らしい悲鳴をあげてしまった。
すると何を思ったか、くるりとこちらを振り向いたタリク王子は再び宝石がふんだんに散りばめらた肘掛け黄金椅子に座ると言った。

「すまなかったな?エリス。こいつらがお前に失礼な態度を取ってしまって。だからお前の目の前で成敗してやったぞ?どうだ?胸がすかっとしただろう?それで何処まで話をしたっけ?確か魔鉱石がどうとか言ってなかったか?おや?どうしたエリス。何だか顔色も悪いし小刻みに震えているじゃないか?どこか具合でも悪いのかい?少し城で休んで行くか?」

両脇で伸びている2人の兵士をものともせずに肘掛け椅子に座りなおし、ニコニコするタリク王子を見て背筋が寒くなった。2人の兵士がぶん殴られたのは絶対私のせいだとは思えない。何故ならこんなに快適な広間なのに団扇であおいでもらう程ではないよね?しかもあんなゆっくりしたあおぎ方ではそよ風にも劣るのでは?恐らくあの兵士達は以前からタリク王子に目を付けられていたのだ。そしてここぞとばかりに私の事を持ちだして、彼等をノックアウトしたに決まってるっ!

「い、いえっ!そ・そんな滅相もありません!具合なんてどこも悪くありませんっ!」

「そうなのか?てっきり顔入りが青ざめているから具合が悪いと思ったのだが・・。ところで魔鉱石とか言ってたが・・いつの間にお前達は採掘していたんだ?あの迷宮
『マターファ』でリヤカーを引っ張り、最深部に辿り着いたところまでは何となく覚えているのだが・・・その後の記憶が全く無いのだ。気付いた時にはベッドの上だったのだ。城の者の話では何故か発見された時、俺は城の前でうずくまっていたらしいのだが・・・。」

そしてジロリと鋭い眼光で私を見つめて来た。

「お前達は・・その辺の事情について何か知ってる事は無いか?」

「え、ええと・・・ですね。た、確かに私達はタリク王子をし、城の前に置いてきましたが・・それはタリク王子が気を失っていたからで・・そんな状況で城の人を呼べば、ま、真っ先に私達がタリク王子に何かしたと疑われてしまうと思ったので・・。」

何とか必死で言いわけを考えつつ、タリク王子の様子を伺う。タリク王子は普段は仏頂面で面白くなさそうな表情を見せているのに何故か今日に限ってニコニコと微笑んでいる。その姿が言い知れぬ恐怖を感じる。

「うんうん。そうか、成程な。確かに王族の俺が気絶した状態で城に運べば確かに色々とまずい事になるかもしれないしな?それで?俺の分の魔鉱石が無いのはどういう事なんだ?」

「えっと!そ・そ・それはですね・・・。魔鉱石はとっても貴重な鉱石なので・・・道端に眠ったままのタリク王子を置いておけば・・ど、どんな輩に魔鉱石を奪われるか分かったものではないので・・か、代わりにタリク王子の分まであ、預からせて
貰っていたんですっ!!」

最期は思い切り力を込めて言う。
ウウウ・・・・怖い・・な、何故私一人がこんな目に・・・?

「おお、成程な・・・そう言う事なら納得だ。そうかそうか。ちゃんと俺の分の魔鉱石もあるって言う事だな?」

タリク王子はこの上なく満足そうに言う。

「ええ。ですから・・・どうか私達のお願いを聞いて頂けないでしょうか?」

するとタリク王子はすかさず言った。

「ああ、当然だ。他ならぬお前の頼みだからな。すぐにカジノへ入れるようにふさわしい衣装を用意しよう。勿論ベソとノッポの分もだ。」

「ほ、本当ですかっ?!タリク王子っ!」

「ああ、本当だ。但し・・・条件がある。」

「条件?」

私が首を傾げると、タリク王子がゴージャス金ぴか肘掛椅子から立ち上がるとツカツカと私の元へと歩み寄る。

ヒエエエエ・・・こ、今度は一体何なのよっ?!

思わず後ずさりかけ・・・タリク王子にグイッと引き寄せられ、顎を摘ままれた。

「但し・・・俺もお前達に同行するのが条件だ。」

言いながらタリク王子は目を閉じると、私の方へ顔をグググッと近づけ・・・。

バキッ!!

「べフッ!!」

タリク王子が悲鳴を上げる。

「あ・・・。」

気付けば私はタリク王子の顔面をグーパンチで殴りつけていた・・・。



「エ・エリフ・・・お、おまへ・・・ひったいなんれ俺を殴りつけらんら・・・?」

涙目になって恨めしそうに私を見るタリク王子の唇はまるでたらこの様に腫れている。う~ん・・・自分でやっといて何だが・・・かなり痛そうだなあ・・。

「も、申し訳ございません、タリク王子。あまりにもいきなりの事で驚いてしまったので・・。」

氷嚢でタリク王子の唇を冷やしながら、必死で弁明する。

「ほうか、ほうか。それほろおまへは恥ずかしかっらのらな?かわひい奴め。」

「はあ・・・そうですね・・・。」

もう面倒くさい、適当に話を合わせておいてやれ。取りあえず今の私達の目的はコンピューターウィルスに侵されたオリバーが奪っていった魔鉱石を手中に収めるのが先決なのだから・・・。


 それから約1時間後―

ドレスアップした私達はカジノの前に立っていた。ベソはサテン系の濃紺スーツ、そしてノッポは白い上下のスーツ。タリク王子は上品な黒の燕尾服。そして私は・・。

「ううう・・・な、何故私一人こんな恥ずかしい恰好を・・・。」

手持ちのバックで胸元を隠すようにしながら恨めしそうにタリク王子を見る。

「何故だ?エリス。お前は背は低いが、スタイルは抜群だ。とても良く似合っているぞ?」

タリク王子が鼻の下を伸ばしながら言う。

「うん。馬子にも衣裳ですよ。」

ベソが頷く。

「ええ、いつものエリスさんが今は新鮮に見えますよ。」

ノッポも賛同するが・・・冗談じゃないっ!こんなドレス・・・・。
私が今着ているドレスはいわゆるスリップドレスという物だが、こんな露出の激しいドレスを着て人前に出るなんて・・・っ!

肩ひもは今にもズレてしまいそうだし、胸元は胸の谷間を強調するかのようなデザインだ。ドレスのラインはまるでチャイナドレスの様に身体にピタリと張り付いて、歩きにくい。

こんな衣装を着るぐらいなら・・・戦闘メイド服に着替えた方がましだっ!
カジノの会場へ入ったらオリバーを見つけ出して、すぐに変身してウィルスを退治してやる―!!

私は心に強く誓った・・・。






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