悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第34日目 迷宮『マターファ』(モンスター討伐)その①

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 今、私は2人の男性達のおごりで朝から豪華な朝食、別名『セレブレディの優雅な朝食セット』を頂いている。
最高級の鶏が産んだ卵のオムレツ、最高級の小麦が原料のテーブルパン、最高級の牛のミルクにヨーグルト、バター等々・・・食材も一流ながら、シェフも一流と呼ばれる、ここ『アルハール』でも最高級5つ星レストランの料理に舌鼓を打っていた。

「あ~やっぱり超一流レストランの食事は最高・・・。」

うっとりしながらフワフワオムレツを口にしていると、恨めしそうな視線でこちらを見るベソとノッポの姿が視界に入って来る。
ちなみにオリバーは今だにランニングから戻ってきていない。

「う・・・・俺達の1週間分の給料が・・・。」

「こんなくだらない事で消えて無くなるなんて・・・。」

ノッポとベソが嘆きながら牛乳だけを飲んでいる。

私はそんな彼等を見ながら言った。

「何言ってるのよ。貴方達は私を置いて素敵なホテルに泊まったでしょう?私なんかねえ、古くて何処かカビ臭い宿屋の固いベッドの上で、煩い騒音の為に殆ど眠れぬ夜を過ごしたんだからね?挙句にこんな寝不足状態でこれからモンスター討伐に行かなければならないんだから、栄養を付けるのは当然だと思わない。」

最もな話をしながら、フォークに刺したローストビーフを頂く。

パクリ。

モグモグ・・・・ゴックン。

あ~し・あ・わ・せ・・・・。

「ううう・・・。ずるい、オリバーさんだけエリスさんの説教も受けず、奢る事も無く、1人ランニングへ行ってるなんて・・・。」

「差別だ・・・これは明らかに差別だ・・・。」

ノッポとベソが恨めしそうにブツブツと文句を言っている。

「ふ~ん・・・。でも宿屋の主が言っていたけど、先に煩くて眠れないから他の宿屋に移ると訴えに来ていたのはベソとノッポの方だと聞いたけど?」

ジロリと2人を睨むように言うと、明らかにビクリと大きく肩が跳ね上がる2人。
本当に分かりやすいなあ・・・・。

「それで?あれから何か良い対策は見つかった?」

料理を口に運びながら私は2人に問いかけた。
良い対策・・・それは言うまでもない、これから向かう迷宮『マターファ』の攻略についてだ。

「いえ・・・それがまだ・・・。」

「俺達も妙案が思い浮かばなくて・・・。」

ベソとノッポが困り顔知恵で言う。

この『マターファ』と呼ばれる迷宮はアルハール砂漠の北にある鍾乳洞である。
この鍾乳洞では貴重な鉱石が沢山採掘する事が出来るのだが、中はまるで迷路のように入り組んでいる。それ故迷宮と呼ばれている。
先の宿屋の店主、『早耳のザヒード』の話では、ここ『アルハール』は石油の原料採掘と、『マターファ』で採掘される鉱石が国の経済を担っており、労働者の3分の1が石油採掘か、鉱石採掘の仕事に携わっているらしい。
そして鉱石採掘労働者達は迷路のような鍾乳洞を迷わず歩けるように巨大な畜鉱石を要所、要所に設置しておいたのだが、一月ほど前に畜鉱石の殆どが何者かに破壊され、鍾乳洞の奥から不気味な音が響き渡るようになったと言う。
それでも鉱石を採掘する事を諦めたくない人々が、『マターファ』の中で何が起こっているのか調べる為に、何処までも長く伸び続ける魔法のロープをくくり付けてラクダを数頭送り込んだのだが・・、引き寄せてみると、ロープはちぎられており、一頭もラクダは戻って来る事は無かった。

そして人々は囁き合った。

恐らく『マターファ』にはモンスターが巣くっているに違いない・・・と。

「まあ、迷宮攻略は・・・多分『右手法』を使えば・・何とかなるかもしれないけどさ。」

私はデザートの苺ソースがかかったパンナコッタを口にしながら言った。

そんな私の食べる姿を見てごくりと喉を鳴らすベソとノッポ。
しかし、悪いが君達にこのデザートを上げる訳にはいかないのだよ?!

「問題はモンスターの正体・・・ですよね?」

ベソが上目遣いに私を見ると言った。

「そう、それよ。」

「一度も迷宮から出て来た事が無いから、正体が分からないと言ってましたよね?」

ノッポが言う。

「はい、ではここで問題です。このモンスターは何故迷宮の奥から出てこないのでしょうか?分かる方。」

2人を交互に見ながら私は尋ねた。

「「さ・・・さあ・・?」」

ベソとノッポは互いの顔を見つめながら首を傾げた。

「んもうっ!貴方達・・・それでもゲームプログラマーなの?!何故モンスターが迷宮から出てこないのか?そこには何か理由があるからに決まっているでしょう?仮にもゲームを作る会社の社員なんだから、シナリオ位考えたりはしないの?!」

「無茶言わないで下さいよっ!俺達はプログラマーですよ?!」

「そうですっ!ゲームシナリオを考えるのは我々の仕事では無いのですから!」

ベソとノッポが交互に言う。

はあ~・・・。私は頭を抱えると言った。

「それじゃあ・・・これは私なりの個人的な意見だけど・・・。」

すると、ベソとノッポは身を乗り出してきた。

「何故、モンスターは迷宮から出てこないのか・・・それは出たくても出られない理由があるからに決まってるでしょう?いい?砂漠と言えば、砂に覆われ、水分が全く無い暑い場所、一方の鍾乳洞は水分が豊富にあり、湿気が多く涼しい場所・・・・。つまり、このモンスターは暑さや乾燥に弱いモンスターだと思うのよ。」

私の言葉にウンウンと頷く2人。

「だから、多分だけど・・・炎系の攻撃が弱点なんじゃ無いかな・・・?」

「おおっ!」

「成程っ!確かに・・・っ!」

口から出たほぼ出まかせの話なのに、何故かこの2人は完全に私の言う事を信用しきっている。まさかこれ程までにベソとノッポが私のいい加減な推理に乗っかって来るとは思いもしなかった。

「それで?エリスさん。俺達はどんな準備をすればいいですか?」

ベソが目をキラキラさせながら続きを促してくる。

「もったい付けないで早く教えて下さいよっ!」

ノッポが身を乗り出してきた。

「ここ『アルハール』は石油の原料採掘で有名な国だから・・・。炎の攻撃用アイテム・・・とかがあればいいんじゃないかな?」

と・・・ここまで話した時、何故か私達の周囲に人の気配を感じた。そして辺りを見渡して、思わず固まってしまった。

何といつの間にか私とベソ、ノッポのテーブルの周りには大勢のギャラリーたちが集まっているではないか!

「あ、あの・・・あなた方は一体・・?」

顔を引きつらせながら一番近くにいた口髭を生やした若い男性に尋ねた。すると男性は言った。

「お嬢さん!凄いじゃないか!話を聞いただけで、モンスターの弱点を見つけるなんてっ!お嬢さんに付いて行けば、きっとあの忌々しい正体不明のモンスターを倒す事が出来そうだっ!なあっ?!皆もそう思うだろう?!」

若い男性の掛け声とともに、一斉に辺りは盛り上がりを見せる。

「ちょ、ちょっと待って下さいっ!そんなに期待されても困りますっ!これはあくまで私の勘で・・・・。」

その時、扉がバアアアンッ!と開け放たれ、そこにタリク王子が現れたのだ。
げけっ!な、何故タリク王子がここにっ?!咄嗟にベソとノッポの背後に回り込んで隠れる。

「おいっ!ここに『マターファ』に巣くうモンスターの正体に見当をつけた旅人がいるそうじゃないかっ!一体何処にいるのだっ!」

言いながら、どんどんこちらへ向かって近付いてくる・・・!

そして・・・。

「ああっ!お、お前は・・・エリス!エリスじゃないかっ!」

ああ・・・ついにタリク王子に見つかってしまった・・・。

私はがっくりと肩を落とすのだった—。
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