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第33日目 『アルハール』再び

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「すっげー。本当にたった一瞬で『アルハール』へ着くなんて・・・。」

オリバーが大きなリュックを背負い、感心したように辺りをキョロキョロ見渡しながら言った。

「うううう・・こ、怖かった・・・。」

「き、気持ちが悪い・・・。」

ベソとノッポは道端に座り込んでいる。全く・・・軟弱な男達だ・・・。

「『アルハール』へ着いたのはいいですけど・・・モンスターは何所にいるんでしょうね・・・。」

道行く人々を眺めながらオリバーに尋ねてみた。

「そうか、それなら城に行けば何か分かるんじゃないか?」

オリバーがポンと手を叩きながら言う。

え?城・・・・そ、それはまずいっ!城には・・タリク王子がいるっ!

「い、いえ。城に行くのはやめましょうよ。ほ、ほら・・・良く言われてるじゃないですか。聞き込みをするには酒場が一番って。何所か酒場に行きましょうよっ!」

「うう・・・もう俺達はこれ以上無理です・・・。」

ノッポが青ざめた顔で言う。

「そうですよ・・・何処かの宿を取って、休ませて下さいよ・・・。」

ベソは半べそを・・。

「だから!半べそはかいていませんってばっ!」


そんなベソとノッポの様子を見かねたのか、オリバーが言った。

「ったく・・・仕方ないな。それじゃ、エリス。俺と2人で一緒に酒場に行って聞き込みをしてくるか?」

「その前に宿を取りましょうよっ!」

「道端で行き倒れたくありませんよっ!」

ベソとノッポが駄々をこねている。本当はここに捨てていきたいくらいだが、一応人手不足で、こんな彼らでも戦力扱い。放っておく事は出来ない。

「オリバー様・・・。それでは宿屋を探しましょうか・・・。」

「ああ。この2人を道端に放り出しておくわけにはいかないからな。よし、ノッポ、それにベソ。今宿屋を探して来るからここで大人しく待ってろよ。くれぐれも知らない奴について行ったら駄目だからな?」

まるで2人を子ども扱いするオリバー。

「ついて行くわけ無いじゃないですかっ!」

ノッポが喚く。

「大体ついていく気力や体力すらありませんよっ!」

ベソが言うが・・・その言い方だとまるで気力や体力があればついて行くように聞こえるんですけど・・・・。

「よしよし、それじゃ何か食べ物も買ってきてあげるから、ここでじっとしてるのよ?」

私がしゃがみ込んでいる2人の頭を撫でる。てっきり文句を言われるのかと思ったら・・。

「そうですか?それじゃ食べ物だけじゃ無くて飲み物買ってきて下さいよ。」

ノッポが言うと、ベソも続いた。

「あ、俺は甘いスイーツもお願いします。」

う~ん・・・どうやらこの2人・・・・かなり参ってるように見える。でも何故だろう?そんなにあの魔法の絨毯は疲れるのだろうか・・・?

そして私とオリバーはベソとノッポを道端に残し、2人で『アルハール』の町を歩き始めた。
並んで歩いていると、突然オリバーがあろう事か、手を繋いできた。

「あの?オリバー様?!」

「いや~こうして2人で昼下がりの町を歩いていると、早めに仕事が終わった夫の帰りをまだか・まだかと待ちくたびれた新妻が、我慢できずに夫を迎えに行く途中で偶然2人は出会い、仲睦まじげに家路につく新婚夫婦の様に思えないか?」

流暢にペラペラと舌を噛まずに自分の脳内妄想の世界を嬉しそうに語るオリバーに私は半ば呆れて彼を見上げてしまった。知らなかった・・・オリバーはこんなにも妄想癖のある男だったとは。・・・そう言えばトビーの昔からの知り合いだと言ってたし・・・。オリバーの様子を見れば、トビーの関係者だと言われても、ああ、成程ねと何処か納得できる自分がいる。

 本当なら手を振り払いたいところだが、オリバーは何と言っても私やベソ、ノッポの護衛みたいなもの。そんな事をしてオリバーの御機嫌を損ね、モンスター討伐についてきて貰えなければ元も子もない。
やむを得ず、我慢して手を繋がれて歩いていると、オリバーがピタリと足を止めた。

「お?エリス。ここなんかいいんじゃないのか?」

そこには看板が立っていた。

<簡易宿泊所『アマン』割引料金実施中>

「へえ~変わったホテルですねえ。ひょとして今日はお得な値段で宿泊できる特別な日なのかもしれませんね。」

「ああ。個室が4部屋空いてるといいな?」

「ええ。出来れば食事も付いてると尚更ありがたいのですが・・。」

「そうだな、取り合えず中に入って聞いてみるか?」

2人で宿泊所『アマン』の前でそんな会話をしていると、何故か道行く人々がこちらをジロジロ見ていく。

「何だ・・?俺達何だか注目を浴びていないか?」

オリバーが首を傾げる。

「う~ん・・・何でしょうね?着ている服が珍しいのかな・・?」

うん、きっとそうに違いない。『アルハール』に住む人々は皆、砂漠の民のような民族衣装を身に纏っているからね。

「まあいいか、それじゃ中に入って聞いてみるか?」

「そうですね。」

そして2人で宿屋の中へ入って行った。

「いらっしゃいませ。」

するとカウンターと受付の間に何故かカーテンが引かれ、その奥から男の声が聞こえて来た。

「部屋を借りたいんだが・・・空いているんだろう?」

オリバーが尋ねる。

「ええ、勿論です。この時間から利用する客は滅多にいないですからね。」

「そうか、それは助かる。利用する客は男性3人、女性1人の合計4人だ。」

するとカーテンの外でガタガタッと大きな音と共にドスンッ!とまるで床の上に重たいものが落ちるような音が聞こえて来た。

「おい?!大丈夫か?!」

オリバーがカーテン越しに声を掛ける。するとカーテンの奥から狼狽した声が聞こえて来た。

「ま・・・・ま・まさか・・・そ、そんな組み合わせで・・・?」

何をそんなに驚いているのだろう?

「そんな組み合わせって・・・別にそれ程おかしな組み合わせには思えませんけど?それで個室4つ・・・空いているのですか?」

私が質問すると、途端にカーテンがシャッ!とあけられ、男性が顔を表した。

「あなた達・・ここが何処か知っていて来たんじゃないのですか?」

「え?だって宿屋だろう?ここは?」

オリバーが言う。

「それに割引料金実施中とありましたよ?今なら安く泊まれるんですよね?」

私が尋ねると、途端に店員の顔色が変わった。

「あ・・・あなた達・・ここがどういう場所か知らないで来たんですね・・?わ、悪いですがここは宿屋じゃありませんっ!宿屋ならこの先、5件目がそうですからそちらに行って下さいっ!」

そしてカーテンは再びシャッと閉められた。


「全く・・・何なんだ?今の店員の態度は・・・。まさか追い出すとは・・・。」

「本当ですよね?あれが客に対する態度とはとても思えませんよ。」

2人で文句を言いながら、宿屋を後にした私は何気なく、今訪れた宿屋を見て・・・息を飲んだ。

そこには大きな看板が立てられていた。

『ご休憩2時間~ご利用可能。プライバシーはしっかり守らます。安心してご利用下さい。』

「・・・・。」

私はその看板を見て思わず絶句してしまった。つまり・・・今の宿屋は・・・そういう目的の宿屋だったと言う訳だ。
道理で宿屋の前で立ち話をしていた私達を『アルハール』の人達にジロジロと見られていたはずだ!

イヤアアアアッ!!知らなかったとは言え・・・私とオリバーはとんでもない場所へ行ってしまった事になる。

オリバーはその事実に全く気付いていないようで、前方を歩いている。
よし、この事は絶対にオリバーには黙っていようと私は心に誓った―。



 


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