上 下
99 / 129

第33日目 幻のアイテム

しおりを挟む
「あ、あの・・あなた方・・・って一体だ、誰の事・・・なんでしょうね・・・?」

ガタガタと震えながらノッポが情けない顔でこっちを見て来る。

「そ、それは・・・・。」

言い淀みながら私はノッポを見た。
ねえ?本気で分からなくて・・・そんな聞き方をするの?それとも自分の考えている事とは違う内容を私に言って欲しくて質問してきてるの?
しかし・・・私はベソとノッポに関しては、思った事を正直に話すと決めている。
ここは・・心を鬼にしても、はっきりと言わなくては。

「そんな事はもう決まっているでしょう?あなた方って言うのは、私と・・。」

「いいですっ!分かってますから言わないで下さいよぉっ!!」

ベソが泣きながら制止する。そして・・・。

「ベソ・・・。」

「ノッポ・・・。」

2人の男は見つめ合うと・・・ガバッと抱き合い、ウォンウォンと泣き崩れた。
チッ・・・!全く・・男のくせに女々しい奴らめ・・・。
まあそれも当然なのかもしれない。自分達は蚊帳の外だと思い油断していただけに、いきなりこんな緊急事態に巻き込まれれば・・・それだけショックも大きいだろう。仕方がない・・・。好きなだけ泣かせてやるか・・・。

しかし、その後彼等は5分経っても10分経っても泣き止まない。
うう~・・・もう、我慢の限界だ!

「ちょっと!2人供!もういい加減に泣き止みなさいよっ!」

「うっ・・・うっ・・・だ、だけど・・そ、そんな事言われたって・・・・。」

ベソがベソベソ泣きながら言う。

「そ、そうですよ・・・無茶言わないで下さいよ・・・。ウウ・・・な、何故俺達までエリスさんの巻き添えに・・・。」

ノッポの言葉にカチンときた。


「はあ・・・?今・・・聞き捨てならない事を言われた気がするんですけど・・・?」

眉をピクピクさせ、腰に手を当てると私は言った。

「そもそも、巻き添えを食ったのはむしろ私の方なんですけどっ!だって考えてもみなさいよっ!私が元々この世界へやって来たのは乙女ゲームをクリアするのが目的だったはずよ!それが・・気が付けば、今私が置かれている立場は、乙女ゲームどころか、さながらコンピューターウィルスと戦うアクションゲームのような世界に連れて来られた感覚しかないんですけどっ?!」

「うっ!」

「た、確かにそれは・・・。」

ノッポとベソが交互に言う。

「どう?これで少しは私の立場も理解出来た?」

「「はい・・・。すみませんでした。」」

同時に謝罪する2人。そんなベソとノッポを前に私は言った。

「いい?今はそんな事言ってる場合じゃないのよ?何としても1週間以内に『白銀のナイト』達全員の好感度を奪い返さないと・・・私たちは全員・・二度とこのゲームの世界から抜け出すことが出来ないのよ・・・?」

「ひいいっ!そ、それだけはい、嫌ですっ!読みかけの漫画が・・・っ!」

「俺だって・・・まだ全巻制覇していないDVDのドラマが残ってるのにッ!」

やけにリアルな話を持ち出すノッポとベソ。それを言うなら私だってまだ攻略途中のゲームが残っているんだからねっ!

「いい?だから3人で力を合わせて、何としてもオリビアから好感度を奪う事を考えないと・・・。この際、どんな手段を使ってでもねっ!」

私が力説すると、ベソとノッポが何故か顔を見合わせて、小声でぼそぼそと相談を始め、互いに頷き合う。

「え?ちょっと何よ・・・2人だけで話し合って勝手に納得して・・何か良い手段が思いついたなら教えてよ。」

「え・・?」

「い、いいんですか・・・?」

ベソとノッポが戸惑いながらこちらを見る。

「うん、勿論よ。だって後残り1週間で全員の好感度を奪い返さないとならないんだから・・・。何かよいアイデアがあるなら、皆で積極的に出し合わないと。それで?どんな方法を思いついたの?もったい付けないで教えなさいよ。」

「わ・・・分かりましたよ・・・。」

渋々ベソが言いながら私をチラリと見ると、私を手招きした。

「?一体何?」

「いえ・・・エリスさん・・お耳を拝借させて下さい・・・・。」

ベソが遠慮がちに言ってくる。

「?」

何が何だか分からないが、取り合えず言われた通りにベソの傍によると、彼は耳打ちしてきた。
その会話の内容を聞き・・・見る見るうちに激しい怒りが沸いてくる。

「・・・どうですか?エリスさん。」

びくびくしながらベソが言う。

「この方法なら・・・一番確実に好感度を上げられると思いますけど・・・?」

ノッポも言う。

「はあ~・・?ふ、ざ、け、ないでよ~ッ!!な、何で私が・・・彼らに夜這いを仕掛けなくちゃならないのよっ!冗談じゃないわっ!このゲームはそもそも全年齢対象のゲームだったわよね?PCゲームと勘違いしてるんじゃないのっ?!そんな真似するくらいなら3人でこのゲームの世界で一生暮らした方がましよっ!」

「な、何言ってるんですかっ!」

ノッポが悲鳴を上げる。

「俺たちまで巻き込まないで下さいよっ!」

ベソが泣きべそをかく。

「あのねえ・・・そこまで言うなら、貴方達がエリスになって彼らに夜這いを仕掛けなさいよ。仮にも貴方達はプログラマーでしょう?自分たちの画像データくらい、簡単にエリスの画像に変更する事位可能なんじゃないの?私の姿に化けて、代わりに彼等とよろしくやって頂戴よ。」

腕組みをしながらベソとノッポをジロリと見下ろす。うん、自分で言うのも何だが・・・これはナイスなアイデアだ!

「ヒイイッ!お、お願いですっ!どうかそれだけは勘弁して下さいっ!」

ベソが震えあがった。

「そ・そ・そうですよっ!お、俺達はノーマル人間なんですからっ!」

ノッポは顔を青ざめさせている。
恐らく・・・2人共脳内で『白銀のナイト』達の相手をする自分達を想像したな・・・?
私も彼らのそんな様子を想像し・・・。

「あ・・・エリスさん・・。」

ノッポがギョッとした様子で声を掛ける。

「何故・・よだれを垂らしているんですか?」

ベソが不思議そうに尋ねてきた。

いけいない、いけない。またしても私はBLの世界を連想してしまった。
しかし、ベソとノッポもイケメン、白銀のナイト達もイケメン。どうしてもBLの世界が頭に浮かんできてしまう。

 ゴホンと咳払いしながら私は言った。

「と、とにかく・・・その方法は絶対に却下よ。もっと建設的な他の手段を考えないと。」

「そうですよね・・・。」

ノッポも腕を組む。

「あ、彼らの好感度が上がるスペシャルアイテムがあるじゃないですか。そのプレゼントを上げればいいんですよっ!」

ベソがポンと手を打ちながら言う。

「それよっ!それはいい考えだわっ!確か全員が大好きなスペシャルアイテムがあったはずっ!」

「「「魔鉱石っ!」」」

3人で声を揃えて言う。
そう、この魔鉱石と言うのはとても貴重な鉱石で、砂漠の国『アルハール』でのみ採掘され、市場には滅多に出回ることは無い。そしてこの魔鉱石は彼等白銀のナイト達のように強すぎる魔力を吸収し、必要な時は吸収した魔力をいつでも放出したり、吸い上げる事も可能で、半永久的に使用する事が出来るのだ。一説によるとこの魔鉱石をプレゼントしただけで、好感度ゼロの相手でも、MAXにする事が出来ると言われている幻のアイテムなのだ。

「魔鉱石・・・魔鉱石はアイテム一覧にあるのっ?!」

私は液晶画面を表示させ・・・必死で6つの目で確認したが・・・無情にもプレゼント一覧には表示されていなかった。代わりに欄外に魔鉱石について注意書きが記されていた。
私達は期待に胸躍らせて、注意書きを表示させる。

『魔鉱石』
※プレミアムアイテム モンスター討伐のクエストのみで入手。
アルハールの迷宮「マターファ」に住む魔鉱石を守るモンスターの巣窟内にて採取可能。


「「「・・・・。」」」

私達は・・・無言で互いの顔を見つめ合うのだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

悪役令嬢には、まだ早い!!

皐月うしこ
ファンタジー
【完結】四人の攻略対象により、悲運な未来を辿る予定の悪役令嬢が生きる世界。乙女ゲーム『エリスクローズ』の世界に転生したのは、まさかのオタクなヤクザだった!? 「繁栄の血族」と称された由緒あるマトラコフ伯爵家。魔女エリスが魔法を授けてから1952年。魔法は「パク」と呼ばれる鉱石を介して生活に根付き、飛躍的に文化や文明を発展させてきた。これは、そんな異世界で、オタクなヤクザではなく、数奇な人生を送る羽目になるひとりの少女の物語である。 ※小説家になろう様でも同時連載中

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

悪役令嬢日記

瀬織董李
ファンタジー
何番煎じかわからない悪役令嬢モノ。 夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢がとった行動は……。 なろうからの転載。

処理中です...