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第31日目 雨の都『インベル』 ③
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今、私はお婆さんに連れられて寂れた宿屋に来ている。いや、親切心でお婆さんが私をこの宿屋に連れて来てくれた事は十分承知しているつもりなのだが・・・何せ本当にさびれているのだ。
部屋数は聞いたところによると、1人部屋が2部屋、2人部屋が5部屋のみの小さな宿屋で、今現在宿泊客は私のみ。一応1Fは食事処になってはいるのだが、メニューも何と言うかしょぼいし・・・あ、いやいやしょぼいなんて言い方では失礼かもしれない。良く言えば質素?とでも言っておこう。
「う~ん・・・。」
私はペラペラなメニューを見ながら頬杖をついていた。
「お嬢さん。注文は決まったかね?」
先ほど私をこの宿屋に案内して来たお婆さんが注文を取りにやって来た。
「え?ええ・・・はい。決めました。ではパンと野菜のスープと干し肉をお願いします。」
「おや?随分小食なんだねえ?」
お婆さんが私を見下ろすと言った。
へ?小食?だって・・だってメニュー表にはこれしか書いていないじゃないのっ!
そう、私が頼んだメニュー。それがここの宿屋の全てのメニューなのだ。全種類?を注文したのに小食と言われるとは・・・・・。ハッ!もしかして・・・。
「あの、この宿屋にはひょっとしてお得意様限定の裏メニューがあるんですか?」
「え?裏メニュー?裏メニューって何の事だい?」
お婆さんは首を傾げる。
「えっと・・つまり裏メニューと言うのは表には出てこないメニューの事ですけど・・・?」
「いや?そんなのはうちのメニューには無いよ。」
あっさり言われてしまった。え・・?一体どういう事?
「あの・・先程私が注文したら、随分小食なんだねえと言ったじゃないですか?私はこの宿屋の全種類のメニューを注文したつもりですが、小食だと言われたので、ひょっとするとこの店にはそいういうメニューが存在していると思ったのですけど・・?」
するとお婆さんは答えた。
「いや、私が小食なんだねえと尋ねたのはね・・・お嬢さんは全ての品を1つずつしか注文しなかったからだよ?普通の人なら3つずつ注文するんだけどねえ?」
「・・・・。」
その言葉を聞いて私は思わず絶句してしまった。ひょっとするとここのメニューは内容もしょぼいが、量も相当少ないのかもしれない。しかし、幾ら量が少なくてもまずければこちらは食したいとも思わない。
「い、いえ・・・取りあえず一品ずつで結構です・・・。」
「分かりました。それでは少しお待ちくださいね。」
そしてお婆さんは厨房の奥に引っ込んだので私は辛気臭い窓の外を見ながら溜息をついた。
全く、何て気の滅入る国なのだろう?空の色は不気味で、雨は降り止まない。
さっさとコンピューターウィルスを駆除してこんな場所とはおさらばだ。すぐに事が終われば学園に戻ろう。
それにしても・・・私はムカムカして来た。
全く『白銀のナイト』達め・・・。私に対する好感度がタリク王子の虚言?によって一気に下がり、学園へ戻るなんて・・・大体体型も身長も全然違うのに、何故私だと信じて疑わないのだろう?
「どうせ、全員学園へ戻ってのんびり過ごしているんでしょう。」
ポツリと呟き、何気なく腕時計に触れて『白銀のナイト』達の居場所の確認画面を表示し・・・固まってしまった。
え?嘘でしょう・・・?思わず身体が震えてしまった。
何故なら『アルハール』へ一緒に行った『白銀のナイト』達の居場所を示したのはここ、『インベル』だったからだ—。
その事実を知った途端に私は背筋がゾッとした。
「ま、まさか・・・。」
私が呟いたその瞬間。
「はい、お嬢さん。お待たせしたね。」
お婆さんが背後から声を掛けてきた。
「キャアアアッ!」
私は思わず絶叫し・・・不覚にも気絶してしまった—。
う・・・ん・・・。何だか近くで話声が聞こえて来る・・・。
「だから言っただろう?いきなり後ろから声をかけるなって。」
うん?男の人の声だ・・・。
「いや・・・まさかあんなに驚くとは思わなかったんだよ。」
あ・・この声は宿屋のお婆さんの声だ・・。
「とにかく怖がらせないでくれよ。折角久々の旅人なんだから、逃げたらどうするんだ?」
え・・・?今何て・?
この言葉で私の意識は完全に覚醒した。覚醒したが・・怖くて目が開けられないっ!何だかものすごく物騒な話をしている気がする・・・・。
「あ、ああ・・。確かにその通りだねえ・・。ここまで連れて来られたのに逃げられては元も子もない。」
う・・嘘でしょう?この2人は・・・私をどうするつもりなのよっ!
「兎に角、調理の続きをしてくるよ。」
お婆さんが立ち上る気配を感じた。
「ああ、そうしてくれよ。折角いい獲物が手に入ったんだからさ。」
え・・・獲物・・・獲物って・・もしかして私の事?この人達・・私を食べるつもりじゃ・・・。どうしよう、このまま眠っているフリをしていた方がいい?それとも今すぐ飛び起きて逃げるか・・・。しかし私の身体は恐怖の為か今では恐らく傍目からも分かるくらいプルプルと震えているだろう。その証拠に・・・・。
「ん?何だ・・・随分震えているな・・・ひょっとして寒いのか?」
男の声がして、私に近付いてくる気配を感じ・・・・腕に触れてきた。
「イヤアアアアンッ!!お、お願いっ!食べないでえっ!」
男の腕を振り払い、ガバッと飛び起きて涙目で私は男を見た。
目の前に呆然とした顔で立っている男は私と同じ位の年齢に見えた。
ダークブラウンの髪に青みがかかった黒い瞳の持ち主で中々のイケメンではあったのだが・・・。
彼等は食人族だっ!だから私は必死で涙目になって懇願する。
「お願いです、私なんか食べてもちっとも美味しくありません。どうか食べないで下さい、見逃してください、お願いします・・・。」
何度も何度もペコペコと頭を下げる私を何故か不思議そうな目で見る若者。
やがて呆れたように口を開く。
「ねえ・・お客さん。一体どうしたんだよ?食べないでくれとか、ちっとも美味しくないだとか・・・。」
その時、宿屋のおばあさんが料理を運んで戻って来た。そして私を見ると言った。
「おや!お客さんっ!良かった・・・気が付いたんだね?いきなりバタンと倒れて気絶してしまった時はどうしようかと思ったよ。ひょっとして栄養失調で倒れたのだとばかり思って・・・。見た所お嬢さんは随分痩せているからねえ・・・。」
「へ・・?」
すると若者が言った。
「俺はここの宿屋のおかみの孫なんだ。久しぶりに山へ入ったらシカを見つけて仕留めて来たんだよ。ここの所この酷い雨のせいで野生動物も姿を見せなくなってしまったからなあ。」
「え・・・?でもさっき久々の旅人だからと言ってましたけど・・?」
「ああ。この酷い雨のせいですっかり観光客が減ってしまったんだよ。」
若者が言う。
「折角ここまで連れて来たって・・・。」
「うん、うちの宿屋にお客さんが来るのは久しぶりだからねえ。」
お婆さんが頷く。
「いい獲物って言うのは・・・?」
「さっき言っただろう?山に入ってシカを仕留めて来たって。」
若者の答えに合点が言った。
何だ・・・全て私の勘違いだったのか・・・・。いきなり肩の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「お、おい。大丈夫か?お客さんっ!」
男が私を助け起こした。
「は、はい・・・。大丈夫です・・・。」
そこへ・・・グウウ~ッと大きな音を立てて私のお腹が鳴ってしまったっ!
驚いた顔で私を見つめる若者とおばあさん。そして、次の瞬間・・・。
「ハハハッ!随分大きな腹の音だったなあ?」
若者は笑った。
「ほら、お嬢さん。鹿肉のスープを作って来たからこれで栄養を付けておくれ?」
おばさんがスープを差し出してきた。
「は、はい・・・頂きます。」
真っ赤な顔でスープを受け取る私。
だけど・・・私は思った。
穴があったら入りたい—と。
部屋数は聞いたところによると、1人部屋が2部屋、2人部屋が5部屋のみの小さな宿屋で、今現在宿泊客は私のみ。一応1Fは食事処になってはいるのだが、メニューも何と言うかしょぼいし・・・あ、いやいやしょぼいなんて言い方では失礼かもしれない。良く言えば質素?とでも言っておこう。
「う~ん・・・。」
私はペラペラなメニューを見ながら頬杖をついていた。
「お嬢さん。注文は決まったかね?」
先ほど私をこの宿屋に案内して来たお婆さんが注文を取りにやって来た。
「え?ええ・・・はい。決めました。ではパンと野菜のスープと干し肉をお願いします。」
「おや?随分小食なんだねえ?」
お婆さんが私を見下ろすと言った。
へ?小食?だって・・だってメニュー表にはこれしか書いていないじゃないのっ!
そう、私が頼んだメニュー。それがここの宿屋の全てのメニューなのだ。全種類?を注文したのに小食と言われるとは・・・・・。ハッ!もしかして・・・。
「あの、この宿屋にはひょっとしてお得意様限定の裏メニューがあるんですか?」
「え?裏メニュー?裏メニューって何の事だい?」
お婆さんは首を傾げる。
「えっと・・つまり裏メニューと言うのは表には出てこないメニューの事ですけど・・・?」
「いや?そんなのはうちのメニューには無いよ。」
あっさり言われてしまった。え・・?一体どういう事?
「あの・・先程私が注文したら、随分小食なんだねえと言ったじゃないですか?私はこの宿屋の全種類のメニューを注文したつもりですが、小食だと言われたので、ひょっとするとこの店にはそいういうメニューが存在していると思ったのですけど・・?」
するとお婆さんは答えた。
「いや、私が小食なんだねえと尋ねたのはね・・・お嬢さんは全ての品を1つずつしか注文しなかったからだよ?普通の人なら3つずつ注文するんだけどねえ?」
「・・・・。」
その言葉を聞いて私は思わず絶句してしまった。ひょっとするとここのメニューは内容もしょぼいが、量も相当少ないのかもしれない。しかし、幾ら量が少なくてもまずければこちらは食したいとも思わない。
「い、いえ・・・取りあえず一品ずつで結構です・・・。」
「分かりました。それでは少しお待ちくださいね。」
そしてお婆さんは厨房の奥に引っ込んだので私は辛気臭い窓の外を見ながら溜息をついた。
全く、何て気の滅入る国なのだろう?空の色は不気味で、雨は降り止まない。
さっさとコンピューターウィルスを駆除してこんな場所とはおさらばだ。すぐに事が終われば学園に戻ろう。
それにしても・・・私はムカムカして来た。
全く『白銀のナイト』達め・・・。私に対する好感度がタリク王子の虚言?によって一気に下がり、学園へ戻るなんて・・・大体体型も身長も全然違うのに、何故私だと信じて疑わないのだろう?
「どうせ、全員学園へ戻ってのんびり過ごしているんでしょう。」
ポツリと呟き、何気なく腕時計に触れて『白銀のナイト』達の居場所の確認画面を表示し・・・固まってしまった。
え?嘘でしょう・・・?思わず身体が震えてしまった。
何故なら『アルハール』へ一緒に行った『白銀のナイト』達の居場所を示したのはここ、『インベル』だったからだ—。
その事実を知った途端に私は背筋がゾッとした。
「ま、まさか・・・。」
私が呟いたその瞬間。
「はい、お嬢さん。お待たせしたね。」
お婆さんが背後から声を掛けてきた。
「キャアアアッ!」
私は思わず絶叫し・・・不覚にも気絶してしまった—。
う・・・ん・・・。何だか近くで話声が聞こえて来る・・・。
「だから言っただろう?いきなり後ろから声をかけるなって。」
うん?男の人の声だ・・・。
「いや・・・まさかあんなに驚くとは思わなかったんだよ。」
あ・・この声は宿屋のお婆さんの声だ・・。
「とにかく怖がらせないでくれよ。折角久々の旅人なんだから、逃げたらどうするんだ?」
え・・・?今何て・?
この言葉で私の意識は完全に覚醒した。覚醒したが・・怖くて目が開けられないっ!何だかものすごく物騒な話をしている気がする・・・・。
「あ、ああ・・。確かにその通りだねえ・・。ここまで連れて来られたのに逃げられては元も子もない。」
う・・嘘でしょう?この2人は・・・私をどうするつもりなのよっ!
「兎に角、調理の続きをしてくるよ。」
お婆さんが立ち上る気配を感じた。
「ああ、そうしてくれよ。折角いい獲物が手に入ったんだからさ。」
え・・・獲物・・・獲物って・・もしかして私の事?この人達・・私を食べるつもりじゃ・・・。どうしよう、このまま眠っているフリをしていた方がいい?それとも今すぐ飛び起きて逃げるか・・・。しかし私の身体は恐怖の為か今では恐らく傍目からも分かるくらいプルプルと震えているだろう。その証拠に・・・・。
「ん?何だ・・・随分震えているな・・・ひょっとして寒いのか?」
男の声がして、私に近付いてくる気配を感じ・・・・腕に触れてきた。
「イヤアアアアンッ!!お、お願いっ!食べないでえっ!」
男の腕を振り払い、ガバッと飛び起きて涙目で私は男を見た。
目の前に呆然とした顔で立っている男は私と同じ位の年齢に見えた。
ダークブラウンの髪に青みがかかった黒い瞳の持ち主で中々のイケメンではあったのだが・・・。
彼等は食人族だっ!だから私は必死で涙目になって懇願する。
「お願いです、私なんか食べてもちっとも美味しくありません。どうか食べないで下さい、見逃してください、お願いします・・・。」
何度も何度もペコペコと頭を下げる私を何故か不思議そうな目で見る若者。
やがて呆れたように口を開く。
「ねえ・・お客さん。一体どうしたんだよ?食べないでくれとか、ちっとも美味しくないだとか・・・。」
その時、宿屋のおばあさんが料理を運んで戻って来た。そして私を見ると言った。
「おや!お客さんっ!良かった・・・気が付いたんだね?いきなりバタンと倒れて気絶してしまった時はどうしようかと思ったよ。ひょっとして栄養失調で倒れたのだとばかり思って・・・。見た所お嬢さんは随分痩せているからねえ・・・。」
「へ・・?」
すると若者が言った。
「俺はここの宿屋のおかみの孫なんだ。久しぶりに山へ入ったらシカを見つけて仕留めて来たんだよ。ここの所この酷い雨のせいで野生動物も姿を見せなくなってしまったからなあ。」
「え・・・?でもさっき久々の旅人だからと言ってましたけど・・?」
「ああ。この酷い雨のせいですっかり観光客が減ってしまったんだよ。」
若者が言う。
「折角ここまで連れて来たって・・・。」
「うん、うちの宿屋にお客さんが来るのは久しぶりだからねえ。」
お婆さんが頷く。
「いい獲物って言うのは・・・?」
「さっき言っただろう?山に入ってシカを仕留めて来たって。」
若者の答えに合点が言った。
何だ・・・全て私の勘違いだったのか・・・・。いきなり肩の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「お、おい。大丈夫か?お客さんっ!」
男が私を助け起こした。
「は、はい・・・。大丈夫です・・・。」
そこへ・・・グウウ~ッと大きな音を立てて私のお腹が鳴ってしまったっ!
驚いた顔で私を見つめる若者とおばあさん。そして、次の瞬間・・・。
「ハハハッ!随分大きな腹の音だったなあ?」
若者は笑った。
「ほら、お嬢さん。鹿肉のスープを作って来たからこれで栄養を付けておくれ?」
おばさんがスープを差し出してきた。
「は、はい・・・頂きます。」
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穴があったら入りたい—と。
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