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第31日目 雨の都『インベル』 ①

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「あの・・・・タリク王子。」

私とタリク王子は今『アルハール』の宿屋に来ている。

「うん。何だ?エリス。」

タリク王子はニコニコしながら私の前に座っている。

「確か先程同じ宿には泊まるけれども、部屋は別々と仰っていましたよね?」

怒りを抑えながら静かな口調で私は語る。

「うむ。確かそう言ったかな?」

顎をさすりながらタリク王子はあさっての方角を見つめる。

「なら、どうして今私とタリク王子は同じ部屋にいるんですか?!」

ダンッとテーブルを拳で叩く私。それを見ても、最早タリク王子は顔色1つ変えない。チッ・・・大分私の行動に耐性がついてきたようだ。

「うん、それは良い質問だ。実はな、エリス。この町の宿屋が何故か今夜に限って一杯だったのだ。そして唯一空いていたのかこの宿屋でたった一部屋だけ偶然空いていたんだ。」

見え透いた嘘を平気で言うタリク王子に私は言った。

「そうですか、ならタリク王子は王宮へお帰り下さい。ここは私が1人で泊まりますので。」

「そうか、ならエリス。お前も一緒に王宮へ戻ろう。」

「お断りします。」

「グッ・・・お、お前・・・一応尋ねるが俺が誰だか知っているよな?」

タリク王子が苦虫を潰したような顔で私を見る。

「はい、一応は。貴方はこの国の王子『タリク・タリク・・・・タリク王子です!」

もうこの名前しか覚えてないわっ!

「お、お前・・・俺の名前・・・ひょっとすると忘れているのか・・?」

何故か私を指さしながら身体をプルプルとチワワのように震わせるタリク王子。王子でなければ人の事を指さすなと言ってやりたいところだが・・ここは我慢だ。

「もう、そんな事はどうでもいいではないですか。それよりも早く『インベル』の事を話してさっさとお帰り下さい。」

もう、すっかりぞんざいな言葉遣いになっているが、何故かタリク王子ならこんな言葉を使っても、もう大丈夫な気がしてきたから不思議なものだ。

「くそ・・・惚れた弱みだ。不思議と何を言われても腹が立たないっ!」

タリク王子は悔しそうに言いつつも、何故か頬を染めて私を見ている。ひょっとすると、これは惚れた弱みとかではなくタリク王子にMっ気があるのではないだろうか?

「さあ、タリク王子。早く教えて下さいよ。大体今何時だと思っているんですか?もう真夜中の2時なんですよ?私は朝にはここを出発して『インベル』に向かわないとならないのですから。」

部屋に掛けてある壁掛け時計を指さしながら私は言った。

「わ・・・分かった。それ程までに教えて欲しいのなら教えてやろう。実は『インベル』と言う国は1年を通して雨ばかり降る国なのだ。」

「え?1年中ですか?」

「ああ。そうだ。」

知らなかった・・・。私はこのゲームをクリアしているが、大体『インベル』なんて国は聞いたことが無い。

「そんな国なのに人は住んでるんですか?」

私は疑問に思ったことを尋ねてみた。

「ああ。勿論人は住んでるぞ?」

「信じられない・・・1年中雨しか降らない国に住む人達がいるなんて・・・。」

「まあ、あの国の民が敢えて何故そんな土地に住むのかはそれなりの理由があるのだがな。」

「理由・・・どんな理由ですか?」

私はタリク王子にずいっと一歩近づくと尋ねた。何やら金の匂いがする・・かな?

「あの国はとにかく雨が多いので、とても希少価値の高い苔が沢山生えているのだ。ヒカリ苔・・・別名「ダイヤの苔』とも言われている。」

「ダイヤの苔?何故そんな命名が?」

「ああ。それはまるでダイヤのように価値のある苔だからだ。あの国の者たちはその苔を採取して世界中に高値で売りつけている。それだけじゃないぞ。幻のキノコとも言われているそれは美味な高級キノコも自生しているのだ。当然それも彼らは採取して・・・・。」

「なるほど、高値で売りつけているわけですね?」

「ああ・・・そうなんだ。だから彼らは・・・とにかく余所者を嫌う。」

「え?」

何だろう・・・今のタリク王子の言葉に鳥肌が一瞬立ったのは。

「彼らは働かずとも簡単に金を稼げる宝を持っているわけだ。だから昔はよく余所者があの国へ入り込み、彼らの財産とも呼べる苔やキノコを盗みに入り込み・・・。」

タリク王子はそこで言葉を切った。

「あ、あの・・・タリク王子、変なところで話を切らないで下さいよっ!それでつ、続きを・・・。」

あ、なんか声が震えてきちゃったよ・・・。

「それで、ある日を境にあの国へ入り込んだ余所者は二度と姿を見せる事が無くなったらしい・・・。」

タリク王子は背筋が寒くなるような声色で言った。

「え?え・・?ひょっとして・・・そ、それって・・・・。」

駄目だ・・もう私の頭の中には恐ろしい考えしか浮かんでこない。

「ああ・・・恐らくはあの国へ侵入した者は・・・。」

「ストップ!タリク王子っ!」

気付けば私は両手でタリク王子の口を塞いだ。嫌だ嫌だ、そんなおっかない話は聞きたくないっ!だって・・・私は今からその国へ向かわないといけないのだからっ!

「ど、どうした?エリス?」

タリク王子はさりげなく私の両手を握りしめると顔を近づけてきた。

「ちょ、ちょっと離れて下さいよっ!とにかく・・・その話はもう結構です。私は・・・何があってもそこへ行かなくてはならないのですから。」

「エリス・・・。」

タリク王子は私を見つめると言った。

「よし、分かった!エリス・・俺もお前について行くぞ?何せお前は将来の俺の妃になるのだからな!」

「それはあり得ませんっ!でもついて来て下さいっ!」

自分でも図々しいとは思うが・・・そんな危険な国、1人より2人で行った方が・・・絶対良いに決まっているっ!

「よ、よし・・・。な、なら・・お前がそこまで言うなら・・一緒にどこまでもついて行くぞっ!」


そしてこの夜、私とタリク王子の即席パーティーが誕生した。


朝日が顔に当たっているのだろうか・・・

「う・・・ん・・・。眩しい・・それに重い・・・・。」

何だろう?何か背中から身体に巻き付かれている気がする・・・。え?巻き付かれて・・・?
パチリと目を覚ますと、何と私のベッドの中にタリク王子が一緒に入り、抱き着いて眠っているではないかっ!
ま・まさかっ!!

慌てて自分の恰好を見て・・・安堵のため息をつく。
よ、良かった・・・私もタリク王子もちゃんと服を着ている・・・と言う事は何の過ちも起きていないと言う事だ。

しかしそうなると今度は今の状況にむかむかしてきた。
大体何故タリク王子が私と同じベッドに入っているのだ?!し、しかも・・・こんなに密着して!

兎に角、この状況から抜け出さなくては・・・。
しかしタリク王子の腕を外そうとしてもちっとも動かすことが出来ない。

「ぐぬぬぬ・・・。」

必死で外そうとしても外せない。そしてその時私は気が付いた。私を羽交い絞めにしているタリク王子の身体が小刻みに震えている。

ま、まさか・・・。

「タリク王子・・・。ひょっとして・・起きていますよね?」

「・・・・。」

しかしタリク王子は無反応だ。

「ねえ、起きていますよね?!」

「・・・。」

タリク王子はあくまで無反応だ。
かくなるうえは・・・。

「タリク王子・・・おはようのキスでもしましょうか?」

「何っ?!本当かっ?!」

ガバッと跳ね起きるタリク王子。

「あ・・・。」

「タリク王子・・・・。やっぱり起きていましたね・・・?」

私はジト目でタリク王子を見つめて言った。


「う、うむ!たった今、目が覚めたのだっ!ではエリス。朝食を食べ終えたら出発しよう!」


それから1時間後・・・私とタリク王子は『インベル』へ向かって出発した―。
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