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第30日目 消えたアイテムを求めて ①
しおりを挟む翌朝―
気が付いてみると何故か私はベッドの上で眠っていた。そして今着ている服は戦闘用メイド服ではなく、フリルがたっぷりあしらわれた真っ白なドレス・・・。
うん、実に可愛らしい。まさにエリスにピッタリなドレスだ・・・って・・・・え?!ちょっと・・・待ってよ・・?
ガバッと起き上がると、何故かそこは今まで見た事もないような立派で広々とした部屋だった。
部屋の床と言い、壁と言い、全てが金色に輝いているし、天上に輝くステンドグラスは見事な薔薇の花を模ったデザインをしている。
そして極めつけが私が眠っているベッド。それは皮張りのゴージャスなキングサイズのベッドであった。
「何所、ここ・・・・?えっと昨夜は確か・・エリオットのラクダに乗ってホテルへ帰って・・・って?その後は?何があったんだっけ?」
駄目だ・・・まるで記憶喪失になったみたいに何も思い出すことが出来ない・・・。一体何があったのだろう?それにやたらゴージャスなこの部屋は・・?
その時・・・
バアアアンッと派手にドアが開かれた。
「キャアッ!!」
思わず驚きで悲鳴を上げてしまった。そして部屋の中に大股で入って来た人物は・・・・。
「エリスッ!目が覚めたかっ?!」
「え・・?タ・タリク王子・・・?」
何といきなり現れたのはタリク王子だったのだ。タリク王子は私のベッドにずかずかと近寄り、あろうことかそのままベッドの上に乗っかってくる。
さらに無遠慮に上から下までジロジロと見つめ・・・頬を赤らめると言った。
「おおっ!エリスッ!その服・・・よく似合ってるな。うん、俺の見立ては間違いなかった。その服は・・我が国の女性用の民族衣装で・・そ、その・・特別な祝い事の時にしか・・着用しない衣装なんだ。」
そして満足げに頷く。ええっ?!こ、これって・・・パジャマじゃなかったのっ?!
しかし・・・その特別な祝い事と言う言葉に何やら得体の知れぬ不安を感じた私はあえて聞こえないフリをした。それにしてもてっきり今自分が来ている服は・・・ネグリジェかとばかり思っていたのに・・・・・思わず再度自分の着用してい服を見つめていると、いつの間にかベッドの上に上がって来ていたタリク王子。
そんな彼とさりげなく距離を取ると尋ねた
「あ、あの・・・・。タリク王子。ここは・・・一体何所なのですか?それに・・な、なぜタリク王子がここにいるのですか?・・・はっ!ま、まさか・・また何者かに攫われたのですか?!それなら、すぐに二人でここから一緒に逃げましょうっ!」
慌ててベッドから飛び降りようとしたが、タリク王子の次の言葉で私は固まってしまった。
「ああ、ここは『アルハール』の王宮だ。」
タリク王子は頷きながら答える。
へえ~・・・・そうなんだ。王宮ねえ・・・。
お、王宮っ?!・・と言う事はタリク王子は拉致された訳では無かったのね・・。
え・・ええっ?!そ、それじゃひょっとして・・・。
「ちょ、ちょっと待って下さい。タリク王子っ!な、何故私は王宮にいるのですかっ?確か私は『白銀のナイト』の皆さん達と同じホテルに泊まっていたはずなんですけどっ!」
「ああ、そうだ。確かにお前はこの国一番の高級ホテルに宿泊していたな。そこを攫ってきたのだ。」
高級ホテルという単語を何故か強調するタリク王子。
「え?い・・・今何と仰りましたか?」
聞き間違いだろうか・・・?攫ってきたと言われた気がするのだけれど。
「何だ?聞き取れなかったのか?仕方ない奴だ・・・。いいだろう、もう一度言ってやる。エリス、俺はお前をあのホテルから攫ってきたのだ。」
「え・・ええええっ?!な・・・何故ですかっ?!」
信じられないっ!ま、まさか本当に私・・・誘拐されてしまったの?!
何それっ!怖っ!
思わず怯えた表情になり、さらにタリク王子から距離を置く。
「どうした?エリス。何故俺から距離を取る?」
「な・・何故、私を攫って来たのですか?こ、この国はお金持ちですよね?私は単なるメイドですよ?私を攫ったところで身代金なんか請求できませんよっ?!」
だから早く返してくださいと言わんばかりで涙目になってタリク王子を見つめる。
・・・勿論演技だけどね。
しかし、タリク王子はそんな私を頬を赤らめてポ~ッと見つめ・・・やがてニコニコしながら私の方へと迫って来ると私に言った。
「エリス・・・やっぱりお前は可愛いな・・・。」
そして距離を縮めるとスルリと右手で私の頬に触れて来る。
こ・・怖い・・・っ!
逃げ出したいけれども、この国は戦闘民族で何より人々の血を見るのが大好きな種族であると言われている。
実際、このゲームをプレイして、レア中のレアであるタリク王子が登場した時、その背景を知って驚いたくらいなのだ。
何故、恋愛乙女ゲームの世界で・・・血を好む戦闘民族が出て来るのよっ!
でもゲーム中で実際にタリク王子が殺戮する場面など出てきた事も無いのだが・・。
兎に角彼のプロフィールがおっかなすぎるのだ。
けれども今の私にはこの広い部屋でしかもベッドの上に2人きりと言うシチュエーションは最早恐怖でしかない。
ま、まずい・・。今私は色々な意味で非常に危険な状態に置かれている。
このピンチの時に『白銀のナイト』達は一体何処にいるのだろう?そこでいつもはめている私の必殺アイテム?腕時計でナイト達の行方を探そうと左腕に触れようとして・・・青ざめた。
う・・嘘っ!な・・・何で・・・っ?!
急いで左腕を眼前に持ってきて確認するも私の命の次に大切な液晶画面を表示させる事が出来る腕時計が・・・無いっ!そ、そんな・・・・。
そう言えば思い当たることがある。
何故気が付かなかったのだろう?今朝に限っていつもなら毎朝私の眼前に朝を告げる表示、及びその日の予定、そして一番肝心な攻略キャラについての説明と最近はコンピューターウィルスの発生場所を教えてくれる大事な大事な情報が眼前に表示されなかったのか・・・!
それは・・腕時計が無かったからだ。
一気に血の気が引いて顔が青ざめていくのが自分でも分かった。
そんな様子の私に流石のタリク王子も何かに気が付いたのか、声を掛けてきた。
「どうしたんだ?エリス。随分顔色が悪いようだが・・・?」
「タ・・タリク王子ッ!」
気付けば私は王子に自らにじり寄り、彼の襟首を掴んでいた。
「わ、私の腕時計はどうしたんですかっ?!返してくださいよっ!あれは・・あの腕時は命の次に大切な物なんですっ!お願いですから!か・え・し・て下さいよっ!」
タリク王子がおっかない人物だと言う事も忘れて、私は王子をガクガクと揺すぶりながら訴えた。
「ま、待て・・・お・・・落ち着け・・エリス・・・。腕時計とは何の事だ?お、俺がお前をこの部屋へ連れて来させた時には・・既に腕時計などはめていなかったぞ?」
「え・・?!そ、そんな・・っ!一体私をここへ連れて来るように命じた相手は誰なのですかっ?!」
きっと、その人物が・・・私の大切なアイテムを奪った犯人に違いないっ!
「ああ・・・。一応エリスは俺の花嫁候補の女性だからな・・・男にお前を触れさせるわけにはいかないだろう?だからお前を攫って来るように城に仕える女どもに命じたのだ。」
私は花嫁候補という単語について無視を決め込み、再度タリク王子に尋ねた。
「で、ではタリク王子。その女性達の名前を教えてくださいっ!」
「・・・知らん。」
「え?今・・何と仰りましたか?」
「だから知らん。いちいち王子が王宮に仕える下僕共の名前を知っていると思うのか?勿論顔も知らないぞ?」
その言葉を聞いて、ついに私は切れてしまった。
「いくら、王子だからと言って、偉そうに言わないで下さいよーっ!」
私が王子を怒鳴りつける声が部屋中に響き渡るのだった—。
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