悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
72 / 129

第28日目 死の砂漠から呼ぶ者は ⑤

しおりを挟む
『アルハール』
そこは広大な砂漠のある国。
エタニティス学園前の駅から終点『ロメリア』迄電車に乗り、そこからさらに電車を乗り換え、『ナディル』という水の都と呼ばれる国を経由して、2時間電車に揺られると、ようやく砂漠の国『アルハール』に辿り着く。
私達が到着した時には既に夕方の6時になっていた。

「つ、疲れた・・・・。」

駅のホームにフラフラと降り立って最初に言葉を突いて出たのがこの言葉。

「大丈夫か?エリス。」

肩に手を置き、心配そうに尋ねてきたのはアンディだ。

「は、はい・・。流石に6時間も電車に乗ってると・・疲れますね・・・。で、でも皆さんは・・よく平気でいられますね・・?」

「ああ、俺達モンスター討伐の依頼が学園から入ってくれば、どんなに遠い場所だって行くからな。それにしてもエリス。顔色が悪い・・・真っ青な色をしているぞ?おんぶしてやろうか?」

アベルが隣に来ると声を掛けてきた。

「フン。お前がおんぶだって?無理無理、よし、エリス。俺がおんぶしてやるよ?俺はアベルと違って力も強いしな?」

ジェフリーはアベルを押しのけ、にやりと笑うと私の前に腰を落した。

「え、いえいえ・・・。1人で歩けますから大丈夫ですよ。」

苦笑いしながら遠慮する。冗談じゃないっ!アベルが敵意を込めた目で睨んでいるのにジェフリーにおんぶして貰った日には命が幾つあっても足りそうにない・・・かもしれない。

「おい・・・!ジェフリー・・。それは一体どういう意味だ・・・?」

身体から何やら黒いオーラ?の様な物を放出しながらアベルはジェフリーを睨み付けている。
するとその様子に気付いたジェフリーは立ち上がり、アベルに対峙すると言った。

「別に・・・言葉通りの意味だけど?お前はチビなんだからエリスをおんぶするのは無理だって言う事だ。」

「ちょ、ちょっとジェフリー様!」

慌てて2人の間に割って入ろうとすると、何故かエリオットに引き寄せられる。

「よせ、エリス。また巻き込まれるぞ?」

「また?またって・・?な、何言ってるんですか!喧嘩は止めないと!」

「ああ。別にいいんだってば。ほら、僕達って普通の人達よりも魔力が強いでしょう?放っておくと体内に魔力が溜ってしまうんだ。あまり溜まり過ぎると体内で魔力が暴走してしまうから、たまにああやって魔力を放出させるガス抜きが必要なんだよ。」

アドニスがニコニコしながら言う。

「え・・?そうなんですか?!」
知らなかった・・・。この乙女ゲーマーの私でも知らない事実があったなんて・・・!

「まあ、黙って見ているといいさ。多分あの2人・・そうとう魔力が溜っていたんだと思うよ?」

アドニスが教えてくれるのはいいのだが・・・お願いですから耳元で囁くように言わないで下さい。

「アドニス、少しエリスから離れろ。ほら見ろ、震えてるじゃ無いか。」

おおっ!流石はアンディ。よく見てくれている。しかし・・・。
未だにジェフリーとアベルは激しく睨み合いを続けている。

「おい。ジェフリー。お前・・・さっき俺の事をチビと言ったが、俺はエリスよりも13㎝背が高いんだからな?」

おおっ!こ、細かい・・・。

「ふん?たかが13㎝だろう?俺はエリスより28㎝背が高いぞ?」

咄嗟に計算したのだろうか?!驚きだっ!
腕組みをしながらわざと見下ろす様に?ジェフリーが言う。

「くっ・・・あ、あのなあ・・・エリスは言ってくれたんだよ!まだその気になれば身長なんて幾らだって伸びる事が出来るってな?!」

ん?そんな事言ったっけ・・?まあ・・確か似たような台詞を言ったかもしれなが・・細かい事なんて、いちいち覚えていられなし。

尚も激しく口喧嘩を続ける2人の身体から黒いオーラ?が徐々に増え始め・・それはやがて上空へと舞い上がり、激しくぶつかり合った。

ドーンッ!!

そして辺り一帯を爆風が舞い上がり、風に煽られるメイド服!

「イヤアアアアアンッ!!な・・何なのよおおおっ!!」」

必死でスカートを押さえ、まくれるのを防ぐ私。そんな私を真っ赤な顔で見つめるのはアドニスとアンディ、そしてエリオット。

やがて爆風が完全に収まると、そこには見事に地面に伸びたジェフリーとアベルの姿が転がっていた。

「よし、終わったな。それじゃ回収して先へ進むか。」

か、回収って・・・・。
エリオットの言葉に無言で頷くアンディとアドニス。そしてジェフリーはアンディに、アベルはアドニスに担ぎ上げられ、彼等の荷物を持ったのがエリオット。
おおっ!何と見事な連携プレー。

「よし、少し無駄な時間を取ってしまったけれど・・・そろそろ行こうか?エリス。砂漠の夜は冷えるからな?」

ニッコリと笑顔でエリオットは私に左手を差し出してきた。

「は、はあ・・。」

そして私はエリオットに手を引かれ?白銀のナイト達と共に、町の中へと足を踏み入れるのだった—。


 そこは『アルハール』で一番豪華なホテルだった。

「ああ、お待ちしておりましたよ?勇者の御一行様!」

揉み手をしながら私達を出迎えたのはU字型の口髭に整えた支配人だった。
うん?勇者の御一行・・?何やら勘違いされているような・・・・?

「学園から連絡が来ていると思うが、本日この宿に予約は入れられているか?」

エリオットが尋ねる。

「ええ、勿論でございますとも!最高級のスイートルームをご用意しておりまよ。おや?メイドを連れていらしたのですか?」

支配人は私を見るなり言った。

ガーンッ!た、確かに・・・私は学園のしがないメイドだ・・・。しかし学園の外まで出て「メイド」呼ばわりされるとは・・。

「いや?彼女は・・・。」

エリオットが言いかけた所へ支配人が言葉を被せてきた。

「宜しいでしょう!メイド用の部屋も用意致しましょう。丁度エコノミータイプの・・・まあ必要最低限のお部屋が1つ空いておりますのでメイドにはそちらの部屋を・・・ヒッ!」

支配人は突然悲鳴を上げた。
何故かと言うと、それはアンディ、アドニス、エリオットが支配人を恐ろしい目つきで睨んでいたからだ。

「おい、貴様・・・今エリスの事を何と言った?」

グイッと襟首を捕まえてエリオットが支配人にドスの効いた声で言う。

「僕の耳にはメイドって聞こえたけど・・・?」

アドニスも珍しく怒りを露わにしている。

「ああ・・・俺も確かに聞いた。俺達のエリスをこの男はメイドと呼んだな・・・。」

いつの間に私は俺達のエリスになっていたのだろう?
アンディは腕組みをしながら支配人を睨み付けている。

「あ、あの・・・皆さん。落ち着いて下さい。確かに私はメイドですから・・。」

冗談じゃないっ!こんなホテルの中でまた魔力でも放出された日にはどんな目に遭うか分かったものでは無い!

「あ・・・・・す・す・すみませんっ!こ、このように美しいお嬢様をメイド呼ばわりしてしまいして・・ど、どうかお許し下さいッ!!」

支配人は涙目になって訴えている。

「なら、彼女・・・エリスにもっと素晴らしい部屋を用意してやれ。」

アンディは支配人の耳元で囁くように言う。ねえ、仮にも正義の味方?である白銀のナイトがそんな態度を取って良いの?

「ああ・・・そうだ。彼女の為に最高級の部屋を用意しなれば我々はこのまま帰るぞ?」

エリオットッ!!それじゃあまるで脅迫だからっ!!

「ヒイイッ!わ、分かりました!た・直ちにお部屋をご用意させて頂きますっ!」

最早支配人は涙目だ。

「言っておくけど・・・待たされるのは嫌だからね?」

アドニスのとどめの一言はホテルの従業員達を恐れさせるには十分過ぎるものだった。


こうして私も最高級の御1人様用?スイートルームに泊る事が決定した—。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

ど天然で超ドジなドアマットヒロインが斜め上の行動をしまくった結果

ファンタジー
アリスはルシヨン伯爵家の長女で両親から愛されて育った。しかし両親が事故で亡くなり叔父一家がルシヨン伯爵家にやって来た。叔父デュドネ、義叔母ジスレーヌ、義妹ユゲットから使用人のように扱われるようになったアリス。しかし彼女は何かと斜め上の行動をするので、逆に叔父達の方が疲れ切ってしまうのである。そしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 表紙に素敵なFAいただきました! ありがとうございます!

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...