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第23日目 特別休暇のススメ 後編 (残り時間59日)
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私が今回送り込まれてしまった『悠久の大地で君を待つ』という乙女ゲームは攻略対象の好感度が高くなると、ヒロインにプレゼントを贈る・・・・というイベントがある。そしてこのプレゼントを貰えれば、ほぼ攻略成功と言われているのだが・・・。
今、私は『白銀のナイト』達だけが使用できる特別室に連れて来られている・・と言うか拉致?されてこの部屋に来ているのであった。
豪華な皮張りのソファに座らされ、目の前には7人のイケメン、この学園のスター的存在ともいえる『白銀のナイト』と呼ばれる彼等が勢揃いしている。
「さあ、エリス。ここに並んでいるスイーツはこの学園のパティシエお手製の物ばかりなんだ。好きなだけ食べてくれ。」
笑顔でアベルが言う。
「私は美容効果、及び疲労効果もある特製ハーブティーを用意してある。特に味にはこだわり、甘みの効いたハーブティーが特徴だよ。さあ、飲んでごらん。」
まるで執事の如くカップにハーブティーを注ぎ込むエディ。
「エリス、肩が凝っていないかい?僕で良ければマッサージをしてあげるよ」
アドニスが笑顔たっぷりで背後から声をかけてくる。
「おい!どさくさに紛れてエリスに触るな!・・・切るぞ?」
ヒエエエッ!
最早本気で言ってるのか、冗談で言ってるのかは分からないが向かい側に座っているフレッドが視線だけでも相手を射殺さんばかりの恐ろしい目つきで、こちらを睨み付けている。睨んでいる相手は私では無いことは重々承知しているが・・・それにしても怖っ!怖すぎるよ・・・。思わず震えあがってしまった。
「おい、フレッド・・・。そんな目でこっちを見るな。エリスが震えているぞ?」
ジェフリーが溜息をつきながらフレッドを窘めてくれた。
「すまなかったな。エリス。・・・無理やり連れて来るような真似をしてしまって・・。」
エリオットが頭を下げてきた。
その言葉でようやく私は口を開いた。
「ええ、そうですよ。どれだけ私が驚いたと思いますか?いきなりですよ、いきなり背後から近付いてきてアンディ様の肩に担ぎ上られて・・気付けばこの部屋に連れて来られていたんですから。」
そう言いながら私は斜め向かいの席に座っているアンディに抗議した。
今迄の私は彼等の好感度がマイナス100という事もあって、低姿勢で言いたい事も我慢していたが・・・今では彼等の好感度は全員が200。<オリビア>によって最大好感度の数値を500にされてしまったが・・・彼等の様子を見る限り、多分優位?に立っているのは恐らく、この私・・・エリスなのは間違いない!
「すまなかった・・・。こうでもしなければ・・・お前が俺達に会ってくれるとは思えなかったから・・・。」
頭を下げた様子のアンディを見て思った。そう言えば・・アンディにはスーパー銭湯の件で借りがあったんだっけ・・・。あまり辛く当たるべきではないかな?
「いえ・・・アンディ様。もういいですよ。何とも思っていませんから、顔を上げてください。それに・・・。」
私は全員の顔を見渡すと言った。
「別に私は皆さんとは会わないと決めた覚えはありませんよ?」
「何?!それは本当か、エリスッ!」
いきなり嬉しそうに声を上げたのはフレッドだ。
「ほ・・・本当に・・・?」
瞳をウルウルさせるのはアドニス。う・・・そんな顔をされたら、ますます美人のお姉さんに見えてきてしまう。何というか・・色気を感じさせるなあ・・。ちょっぴりうらやましいかも・・・。
そして7人全員をぐるりと見渡しながら私は言った。
「はい、本当です。何故ならこの先も巨大な敵が私達の前に立ち塞がるからです!私はこの世界を守る使命を受けて、ここに存在しているのですから。」
「「「「「「「え?」」」」」」」
7人全員が唖然とした顔で私を見る。
「その強大な敵は私達の前に立ち塞がり、この世界を侵略しようとしています。今、まさにこの瞬間にも敵はじわじわと侵入し、私たちの世界を滅ぼそうとしているのです。これからは今まで以上に戦いが激しくなるのは間違いありません。敵を倒すには私1人の力ではとても不可能です。『白銀のナイト』様達の協力なくしては敵に打ち勝つ事等出来ません。なので、この先もどうか私にご協力お願い致します。」
そして頭を下げる。しんと静まり返る室内。
フフン・・皆、私のスピーチに度肝を抜かれているんだな?
「エリス・・・。お前・・・そんなに昨日の事がショックだったのか?」
何故かフレッドが悲し気な瞳で私を見つめると言った。
「ああ・・・。夢でも見ているつもりになっているんだな?だが、エリス。目を背けるな。これは現実だ。いいか、お前の部屋を・・・服を・・ぼろぼろにしてしまったのは俺達なんだ。本当に・・・すまなかった。」
エリオットが頭を下げながら言う。
「まあまあ、エリス。ほら、甘いものでも食べてまずは精神を落ち着けなって。ほら、何なら俺がたべさせてやろうか?」
アベルが私に近づいてくると、チョコをつまんで口元に持ってきた。
「ほら、口を開けてごらん。あ~ん。」
「ア~ン・・。」
ついつい、アベルにつられて口を開けると中にチョコが放り込まれた。モグモグ・・・。ゴクン。
うん、美味しい。
「「「「「「あっ!」」」」」」
それを見ていたアベル以外の男性陣が声をあげる。
「お、おまえ・・・!よくもエリスの『あ~ん』を・・・・!」
ジェフリーが怒りの声を上げる。
うん?何よ、私のあ~んって・・・。
「よ・・・よし、なら僕もエリスに食べさてあげるよ!さあ、エリス。何が食べたい?クッキー?それともシュークリームがいいかな?」
アドニスがトレーに次々とスイーツを乗せて私の前に差し出してきた。
「い、いえ・・。今はお腹がすいていないので・・・。」
引きつった笑みを浮かべながら私は思った。
な・・・何なの?一体この状況は・・・!
「そうだな、エリスにはまず私の作った特製ハーブティーを・・・。」
エディの言葉にフレッドが言う。
「フン、また温室で育てた怪しげなハーブを他の人間で実験するつもりだな?」
「え・・・・?」
思わずその言葉に凍り付いてエディの顔を見ると、何故かサッと視線をそらされてしまった。ま・まさか・・・私を本当に実験台に・・・?
というか、こんなところで油を売っている場合ではないっ!
「あ、あの・・私は・・・。」
そこまで言いかけた時、突如としてエリオットが口を開いた。
「でもエリス。ロメリアの町で突然別れてしまった時はどれだけ心配したか・・・。」
そうだった・・・!一番肝心な事を忘れていた。ベソとノッポの処へ行かなくては!
「あ、あのその話はまた今度にしていただけますか?実は私・・・急ぎの用事があるんです!」
慌てて席を立ちあがると言った。
「え?急ぎの用事って・・・何所へ行くつもりだったんだ?」
フレッドがじっと私を見つめてきた。
う・・・ま、まずい・・・。「ベソ」と「ノッポ」の処へ行くと知られたら・・・。
どうもフレッドは彼らを敵視しているところがあるからな・・・。
「洋服を・・・買いに行くんですよ。この通り、私が今来ている服は同僚から借りたメイド服ですからね。」
わざとらしくフッと冷めた目で言う。
「「「「「「「・・・・・。」」」」」」」
全員が押し黙ってしまった。おおっ!これは・・・効果てきめんだっ!
よし、今のうちに・・・退散しようっ!
「そ、それでは皆さん、これで失礼致しますね~。」
そして私は脱兎のごとくその場を後にした。途中、待てエリスッ!と誰かに呼び止められたが、待てと言われて待つバカはいないッ!
数分後-
「ベソ、ノッポ。いる?」
コンコンとドアをノックしながら私は2人の名を呼んだ。
いま、私は2人がいると思われる『管理事務局』と呼ばれる怪しげな部署に来ているのだ。
するとガチャリとドアが開かれ、顔をのぞかせたのはベソであった。
「あ、ベソ!」
「ひっ!エ・エリスさんっ!」
ベソは悲鳴を上げると、何故かバタンとドアを閉めてしまった。
「こら~っ!ドアを開けなさいよっ!」
ドアをドンドン激しく叩き続け、ようやく観念したかのようにベソがドアを開けるとため息をつくように言った。
「・・・どうぞ、エリスさん。」
「全く・・・最初から素直に入れてくれればいいのに・・・。」
中へ入って私は仰天してしまった。なんとその部屋には何台ものPCが並べられていたからである。その中の1台に真剣に向き直っていたのは他でも無い、ベソであった。
「うわああ・・・・ファンタジー世界には合わない光景だわ・・・・。」
この部屋だけ、別世界だ。天井にはこの世界ではありえない蛍光灯が付いているし、所狭しと電源コードが床の上を這っている。
「だから中へ入れたくなかったんですよ・・・。上からはテストプレイヤーのエリスさんに出来るだけゲームの世界観を壊さないように、決してこの部屋を見せないようにと言われいたのに・・・。」
ノッポがPCを打つ手を止めてこちらを見ると言った。
その言葉を聞いて思わずカチンとくる私。
ムッカ~ッ!!
「あ・・・あのねえっ!だったら、この世界のコンピュータウィルスを私に駆除させないでよっ!名前を聞かされただけで十分興ざめするレベルなんだからね?大体、何故私にウィルス駆除をさせるかな?!貴方たちスタッフがするべき仕事なんじゃないの?!」
「ひいっ!そ、そんな事言われても・・・こちらも人手不足で・・・。」
ノッポが悲鳴を上げる。
「そ、そうですよっ!エリスさんは我々の業界の事を知らないから、そんな風に言えるんですよっ!あ、あんな鬼畜の用な会社で馬車馬のように働かされている我々の事を・・・!」
あ~あ・・・ついにベソが涙ぐんで話し出したよ・・・。
「わ・・・分かったわよ・・。もういいから・・・それよりも貴方達もプログラマーなんでしょう?」
「は、はい・・。」
「一応は・・・。」
ベソとノッポが交互に応える。
「そう、それじゃあさ、私の部屋・・・『白銀のナイト』達によって滅茶苦茶にされた私の部屋と・・・燃やされた服を元通りにしてよ。それ位簡単でしょ?」
「ええええ?な、何故俺たちが・・・。」
ノッポが露骨に嫌そうな顔をする。
「あ・・・それじゃいいのね?コンピューターウィルスの駆除・・・そんな事を言うならもう手を貸さないわよ?確か・・貴方達、私よりずっとレベルが低いはずだったよね?悪いけど駆除は2人だけでやってくれる?私は攻略キャラの好感度を挙げるので精いっぱいだから。」
「ヒイイッ!お、俺達だけで駆除なんて・・無理ですよっ!だって外側からの駆除もしなくてはならなくて。手が足りませんよっ!」
ベソが半べそ?をかいている。
「それなら私の部屋と洋服を元通りに戻してね?あ、出来れば部屋はグレードアップしてくれると嬉しいかな?」
「わ、分かりましたよ・・・やればいいんでしょう?やれば・・・。」
するとノッポがPCに座るとそれは見事なタイピングさばきでプログラムを書き直していく・・・。
そしてものの5分程で作業が終了したのか、キーボードから手を放すと、フウとため息を一つ、着くと言った。
「はい、エリスさん。もう貴女のお部屋はこれでグレードアップしましたよ。」
「うわあっ!本当に?ありがとうっ!」
思わず、ノッポに抱き着く私。
「うわああああっ?!な・な・何するんですかあっ?!」
・・何やら思い切り照れているように見えるが・・・うん、何も言わないでおこう。
「それじゃ、ありがとう、ベソ!ノッポ!また来るね?」
そしてすっかりご機嫌になった私は宿舎へと戻り、そ~っと自分の部屋を開けて見ると・・・。
「おおっ!な・・・何と素晴らしいっ!」
部屋の広さは2倍近く広くなったし、窓も大きくなっている。部屋のカーテンはピンクのフリル・・う~ん、これはちょっと嫌かな・・・?それにクローゼットもりっぱになっているではないか!
「うん、いいね~。」
すると、背後でドアをノックする音が聞こえた。
「はいはいーい。」
ご機嫌で部屋を開けると、なんと『白銀のナイト』達が再び全員集合していた。
「エリス・・・部屋は気にいってくれたか?」
おもむろに口を開いたのは一番先頭に立っていたアンディである。
「え?へ、部屋ですか・・・?ええ。気に入りましたよ。前よりもずっと広くなったし、明るく綺麗になったし・・?」
すると背後からエリオットが顔をのぞかせると言った。
「良かった。気に入ってくれて。その部屋は・・・俺達全員からのプレゼントだ。」
「え?」
だって、これは・・・ノッポがプログラムを書き直したんじゃなかったっけ・・?
「今度の休暇の日は俺達全員でエリスの洋服を買いに行くと決めたから、予定開けとけよ?俺たちでプレゼントさせてくれよな?」
そこへジェフリーが笑顔で進み出てきた。
「は、はあ・・・。」
其のあとも、残りの白銀の騎士たちが私に代わる代わる声を掛けてゆき、全員が最後は笑顔で手を振って去って行ったのである。
そして彼らの好感度は全員が250になっていた。
「え・・・?これは一体どういう事・・・?」
その時、ピロリンと音楽が鳴って液晶画面が表示された。
『皆には内緒でエリスさんのゲームが有利になるように少しプログラムを修正しました。これは俺からのプレゼントです。-ノッポより―』
私は液晶画面を見て首を捻った。
もしかして・・・ノッポも攻略対象になったの・・・かな?
「アハハ・・・まさかね~・・・。」
そして今日も私の1日は過ぎて行く―。
『第23日目、お疲れさまでした。残り時間は59日になります。コンピュータウィルス<オリビア>が動き始めます。彼女に負けないように頑張って下さい。』
今、私は『白銀のナイト』達だけが使用できる特別室に連れて来られている・・と言うか拉致?されてこの部屋に来ているのであった。
豪華な皮張りのソファに座らされ、目の前には7人のイケメン、この学園のスター的存在ともいえる『白銀のナイト』と呼ばれる彼等が勢揃いしている。
「さあ、エリス。ここに並んでいるスイーツはこの学園のパティシエお手製の物ばかりなんだ。好きなだけ食べてくれ。」
笑顔でアベルが言う。
「私は美容効果、及び疲労効果もある特製ハーブティーを用意してある。特に味にはこだわり、甘みの効いたハーブティーが特徴だよ。さあ、飲んでごらん。」
まるで執事の如くカップにハーブティーを注ぎ込むエディ。
「エリス、肩が凝っていないかい?僕で良ければマッサージをしてあげるよ」
アドニスが笑顔たっぷりで背後から声をかけてくる。
「おい!どさくさに紛れてエリスに触るな!・・・切るぞ?」
ヒエエエッ!
最早本気で言ってるのか、冗談で言ってるのかは分からないが向かい側に座っているフレッドが視線だけでも相手を射殺さんばかりの恐ろしい目つきで、こちらを睨み付けている。睨んでいる相手は私では無いことは重々承知しているが・・・それにしても怖っ!怖すぎるよ・・・。思わず震えあがってしまった。
「おい、フレッド・・・。そんな目でこっちを見るな。エリスが震えているぞ?」
ジェフリーが溜息をつきながらフレッドを窘めてくれた。
「すまなかったな。エリス。・・・無理やり連れて来るような真似をしてしまって・・。」
エリオットが頭を下げてきた。
その言葉でようやく私は口を開いた。
「ええ、そうですよ。どれだけ私が驚いたと思いますか?いきなりですよ、いきなり背後から近付いてきてアンディ様の肩に担ぎ上られて・・気付けばこの部屋に連れて来られていたんですから。」
そう言いながら私は斜め向かいの席に座っているアンディに抗議した。
今迄の私は彼等の好感度がマイナス100という事もあって、低姿勢で言いたい事も我慢していたが・・・今では彼等の好感度は全員が200。<オリビア>によって最大好感度の数値を500にされてしまったが・・・彼等の様子を見る限り、多分優位?に立っているのは恐らく、この私・・・エリスなのは間違いない!
「すまなかった・・・。こうでもしなければ・・・お前が俺達に会ってくれるとは思えなかったから・・・。」
頭を下げた様子のアンディを見て思った。そう言えば・・アンディにはスーパー銭湯の件で借りがあったんだっけ・・・。あまり辛く当たるべきではないかな?
「いえ・・・アンディ様。もういいですよ。何とも思っていませんから、顔を上げてください。それに・・・。」
私は全員の顔を見渡すと言った。
「別に私は皆さんとは会わないと決めた覚えはありませんよ?」
「何?!それは本当か、エリスッ!」
いきなり嬉しそうに声を上げたのはフレッドだ。
「ほ・・・本当に・・・?」
瞳をウルウルさせるのはアドニス。う・・・そんな顔をされたら、ますます美人のお姉さんに見えてきてしまう。何というか・・色気を感じさせるなあ・・。ちょっぴりうらやましいかも・・・。
そして7人全員をぐるりと見渡しながら私は言った。
「はい、本当です。何故ならこの先も巨大な敵が私達の前に立ち塞がるからです!私はこの世界を守る使命を受けて、ここに存在しているのですから。」
「「「「「「「え?」」」」」」」
7人全員が唖然とした顔で私を見る。
「その強大な敵は私達の前に立ち塞がり、この世界を侵略しようとしています。今、まさにこの瞬間にも敵はじわじわと侵入し、私たちの世界を滅ぼそうとしているのです。これからは今まで以上に戦いが激しくなるのは間違いありません。敵を倒すには私1人の力ではとても不可能です。『白銀のナイト』様達の協力なくしては敵に打ち勝つ事等出来ません。なので、この先もどうか私にご協力お願い致します。」
そして頭を下げる。しんと静まり返る室内。
フフン・・皆、私のスピーチに度肝を抜かれているんだな?
「エリス・・・。お前・・・そんなに昨日の事がショックだったのか?」
何故かフレッドが悲し気な瞳で私を見つめると言った。
「ああ・・・。夢でも見ているつもりになっているんだな?だが、エリス。目を背けるな。これは現実だ。いいか、お前の部屋を・・・服を・・ぼろぼろにしてしまったのは俺達なんだ。本当に・・・すまなかった。」
エリオットが頭を下げながら言う。
「まあまあ、エリス。ほら、甘いものでも食べてまずは精神を落ち着けなって。ほら、何なら俺がたべさせてやろうか?」
アベルが私に近づいてくると、チョコをつまんで口元に持ってきた。
「ほら、口を開けてごらん。あ~ん。」
「ア~ン・・。」
ついつい、アベルにつられて口を開けると中にチョコが放り込まれた。モグモグ・・・。ゴクン。
うん、美味しい。
「「「「「「あっ!」」」」」」
それを見ていたアベル以外の男性陣が声をあげる。
「お、おまえ・・・!よくもエリスの『あ~ん』を・・・・!」
ジェフリーが怒りの声を上げる。
うん?何よ、私のあ~んって・・・。
「よ・・・よし、なら僕もエリスに食べさてあげるよ!さあ、エリス。何が食べたい?クッキー?それともシュークリームがいいかな?」
アドニスがトレーに次々とスイーツを乗せて私の前に差し出してきた。
「い、いえ・・。今はお腹がすいていないので・・・。」
引きつった笑みを浮かべながら私は思った。
な・・・何なの?一体この状況は・・・!
「そうだな、エリスにはまず私の作った特製ハーブティーを・・・。」
エディの言葉にフレッドが言う。
「フン、また温室で育てた怪しげなハーブを他の人間で実験するつもりだな?」
「え・・・・?」
思わずその言葉に凍り付いてエディの顔を見ると、何故かサッと視線をそらされてしまった。ま・まさか・・・私を本当に実験台に・・・?
というか、こんなところで油を売っている場合ではないっ!
「あ、あの・・私は・・・。」
そこまで言いかけた時、突如としてエリオットが口を開いた。
「でもエリス。ロメリアの町で突然別れてしまった時はどれだけ心配したか・・・。」
そうだった・・・!一番肝心な事を忘れていた。ベソとノッポの処へ行かなくては!
「あ、あのその話はまた今度にしていただけますか?実は私・・・急ぎの用事があるんです!」
慌てて席を立ちあがると言った。
「え?急ぎの用事って・・・何所へ行くつもりだったんだ?」
フレッドがじっと私を見つめてきた。
う・・・ま、まずい・・・。「ベソ」と「ノッポ」の処へ行くと知られたら・・・。
どうもフレッドは彼らを敵視しているところがあるからな・・・。
「洋服を・・・買いに行くんですよ。この通り、私が今来ている服は同僚から借りたメイド服ですからね。」
わざとらしくフッと冷めた目で言う。
「「「「「「「・・・・・。」」」」」」」
全員が押し黙ってしまった。おおっ!これは・・・効果てきめんだっ!
よし、今のうちに・・・退散しようっ!
「そ、それでは皆さん、これで失礼致しますね~。」
そして私は脱兎のごとくその場を後にした。途中、待てエリスッ!と誰かに呼び止められたが、待てと言われて待つバカはいないッ!
数分後-
「ベソ、ノッポ。いる?」
コンコンとドアをノックしながら私は2人の名を呼んだ。
いま、私は2人がいると思われる『管理事務局』と呼ばれる怪しげな部署に来ているのだ。
するとガチャリとドアが開かれ、顔をのぞかせたのはベソであった。
「あ、ベソ!」
「ひっ!エ・エリスさんっ!」
ベソは悲鳴を上げると、何故かバタンとドアを閉めてしまった。
「こら~っ!ドアを開けなさいよっ!」
ドアをドンドン激しく叩き続け、ようやく観念したかのようにベソがドアを開けるとため息をつくように言った。
「・・・どうぞ、エリスさん。」
「全く・・・最初から素直に入れてくれればいいのに・・・。」
中へ入って私は仰天してしまった。なんとその部屋には何台ものPCが並べられていたからである。その中の1台に真剣に向き直っていたのは他でも無い、ベソであった。
「うわああ・・・・ファンタジー世界には合わない光景だわ・・・・。」
この部屋だけ、別世界だ。天井にはこの世界ではありえない蛍光灯が付いているし、所狭しと電源コードが床の上を這っている。
「だから中へ入れたくなかったんですよ・・・。上からはテストプレイヤーのエリスさんに出来るだけゲームの世界観を壊さないように、決してこの部屋を見せないようにと言われいたのに・・・。」
ノッポがPCを打つ手を止めてこちらを見ると言った。
その言葉を聞いて思わずカチンとくる私。
ムッカ~ッ!!
「あ・・・あのねえっ!だったら、この世界のコンピュータウィルスを私に駆除させないでよっ!名前を聞かされただけで十分興ざめするレベルなんだからね?大体、何故私にウィルス駆除をさせるかな?!貴方たちスタッフがするべき仕事なんじゃないの?!」
「ひいっ!そ、そんな事言われても・・・こちらも人手不足で・・・。」
ノッポが悲鳴を上げる。
「そ、そうですよっ!エリスさんは我々の業界の事を知らないから、そんな風に言えるんですよっ!あ、あんな鬼畜の用な会社で馬車馬のように働かされている我々の事を・・・!」
あ~あ・・・ついにベソが涙ぐんで話し出したよ・・・。
「わ・・・分かったわよ・・。もういいから・・・それよりも貴方達もプログラマーなんでしょう?」
「は、はい・・。」
「一応は・・・。」
ベソとノッポが交互に応える。
「そう、それじゃあさ、私の部屋・・・『白銀のナイト』達によって滅茶苦茶にされた私の部屋と・・・燃やされた服を元通りにしてよ。それ位簡単でしょ?」
「ええええ?な、何故俺たちが・・・。」
ノッポが露骨に嫌そうな顔をする。
「あ・・・それじゃいいのね?コンピューターウィルスの駆除・・・そんな事を言うならもう手を貸さないわよ?確か・・貴方達、私よりずっとレベルが低いはずだったよね?悪いけど駆除は2人だけでやってくれる?私は攻略キャラの好感度を挙げるので精いっぱいだから。」
「ヒイイッ!お、俺達だけで駆除なんて・・無理ですよっ!だって外側からの駆除もしなくてはならなくて。手が足りませんよっ!」
ベソが半べそ?をかいている。
「それなら私の部屋と洋服を元通りに戻してね?あ、出来れば部屋はグレードアップしてくれると嬉しいかな?」
「わ、分かりましたよ・・・やればいいんでしょう?やれば・・・。」
するとノッポがPCに座るとそれは見事なタイピングさばきでプログラムを書き直していく・・・。
そしてものの5分程で作業が終了したのか、キーボードから手を放すと、フウとため息を一つ、着くと言った。
「はい、エリスさん。もう貴女のお部屋はこれでグレードアップしましたよ。」
「うわあっ!本当に?ありがとうっ!」
思わず、ノッポに抱き着く私。
「うわああああっ?!な・な・何するんですかあっ?!」
・・何やら思い切り照れているように見えるが・・・うん、何も言わないでおこう。
「それじゃ、ありがとう、ベソ!ノッポ!また来るね?」
そしてすっかりご機嫌になった私は宿舎へと戻り、そ~っと自分の部屋を開けて見ると・・・。
「おおっ!な・・・何と素晴らしいっ!」
部屋の広さは2倍近く広くなったし、窓も大きくなっている。部屋のカーテンはピンクのフリル・・う~ん、これはちょっと嫌かな・・・?それにクローゼットもりっぱになっているではないか!
「うん、いいね~。」
すると、背後でドアをノックする音が聞こえた。
「はいはいーい。」
ご機嫌で部屋を開けると、なんと『白銀のナイト』達が再び全員集合していた。
「エリス・・・部屋は気にいってくれたか?」
おもむろに口を開いたのは一番先頭に立っていたアンディである。
「え?へ、部屋ですか・・・?ええ。気に入りましたよ。前よりもずっと広くなったし、明るく綺麗になったし・・?」
すると背後からエリオットが顔をのぞかせると言った。
「良かった。気に入ってくれて。その部屋は・・・俺達全員からのプレゼントだ。」
「え?」
だって、これは・・・ノッポがプログラムを書き直したんじゃなかったっけ・・?
「今度の休暇の日は俺達全員でエリスの洋服を買いに行くと決めたから、予定開けとけよ?俺たちでプレゼントさせてくれよな?」
そこへジェフリーが笑顔で進み出てきた。
「は、はあ・・・。」
其のあとも、残りの白銀の騎士たちが私に代わる代わる声を掛けてゆき、全員が最後は笑顔で手を振って去って行ったのである。
そして彼らの好感度は全員が250になっていた。
「え・・・?これは一体どういう事・・・?」
その時、ピロリンと音楽が鳴って液晶画面が表示された。
『皆には内緒でエリスさんのゲームが有利になるように少しプログラムを修正しました。これは俺からのプレゼントです。-ノッポより―』
私は液晶画面を見て首を捻った。
もしかして・・・ノッポも攻略対象になったの・・・かな?
「アハハ・・・まさかね~・・・。」
そして今日も私の1日は過ぎて行く―。
『第23日目、お疲れさまでした。残り時間は59日になります。コンピュータウィルス<オリビア>が動き始めます。彼女に負けないように頑張って下さい。』
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