悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

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第23日目 特別休暇のススメ 前編

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「う~ん・・・蜘蛛・・・蜘蛛が・・・襲ってくる・・・。」

「エリス・・・エリスってば。」

誰かが身体を揺すぶっている・・・。

「い・・いや・・・。来ないで・・。蜘蛛嫌い、蜘蛛怖い・・・。食べないで下さい・・・!」

「エリスッ!目を開けてってば!」

ついに誰かが大きな声をあげた。

「ハッ!!」

慌ててガバリと飛び起きると、私を見下ろすように立っていたのは他でもない、メイド仲間のアンだった。

「あ・・・お、おはよう・・・アン・・。」

寝ぼけ眼の目を擦りつ、ソファベッドの上からアンに朝の挨拶をする。

「おはようじゃないよ~エリスッたら。ずっとうなされてたんだよ?クモ怖いとか食べないで下さいとか・・・。ほんとに大丈夫?」

「う、うん。大丈夫・・・。心配かけてごめんね・・・。」
頭を押さえながら溜息をつく。


 今私がいる部屋は同僚メイドのアンの部屋である。そもそも何故私がこの部屋で眠っていたのかと言うと・・・話しは昨日の夕方に遡る―。



 巨大蜘蛛との死闘?を繰り広げ、(実際には杖を出しただけで、その後は蜘蛛の糸でグルグル巻きにされただけなのだが)ベソとノッポによって命拾いした私はやっとの思いで自室へ辿り着き、ドアを開けた途端に仰天してしまった。
何と私の部屋の中には神妙な面持ちをした『白銀のナイト』達が全員集合していたからである。

「ええ?!み、皆さん・・・ま・まだ私の部屋にいたんですかっ?!」

すると一番近くに立っていたアベルが項垂れながら私に言った。

「エリス・・・ごめん・・・。」

え?ごめんって・・?

「すまない、こんな事になるとは思わなかったんだ。これは・・想定外だった。」

神妙な面持ちでエディが言う。想定外?何の事だろう?

「だから僕は場所を変えようって言ったんだよ?」

アドニスがジェフリーを睨み付けるように言った。

「う・・・うるさいっ!そもそも先に魔法を発動させたのは、エリオット!お前だろう?!」

ジェフリーがエリオットを指さす。

「何をっ?!人のせいにするのかっ?!」

エリオットが激怒しながらフレッドを指さす。

「だ・・大体、フレッドが先に剣を抜いたからだろう?!」

「確かに抜いたが、俺はすぐに収めただろう?!」

フレッドがエリオットに喰ってかかる。
一方の私はすっかり蚊帳の外に置かれているが、息を吸い込むと言った。

「あの!皆さんっ!」

私の鋭い声に全員がビクリとなって私を見る。

「喧嘩なら外でやって頂けますか?私は少し前・・・死闘を繰り広げてきてヘトヘトなんです・・・。部屋で休ませて頂きたいのですが・・・。」

「な・・何っ?!死闘だって・・・一体なにがあったんだっ!エリスッ!」

すると突然一番奥からアンディが飛び出してくると、私の両肩をガシイッと掴んできた。

「エリスに馴れ馴れしく触るなッ!」

フレッドがアンディの肩を掴む。

「うるさいっ!それよりも今はエリスの話が大事だっ!」

アンディが言い返すと、アベルが負けじという。

「そんなに接近しなくても話は聞けるだろうっ!!」

「「「な・・・なんだと~っ!!!」」」

いがみ合うアンディとフレッド、そしてアベル。それを黙って見守る残りの4人。
え?ちょっと・・・何で黙って見守ってるのよっ!もうこうなったら私が止めるしかない。

「い・・いい加減にして下さいっ!!」

ピタリと動きを止める3人。
私の一喝で、ようやくその場が納まった。

「もう詳しい話は明日話ますから・・取りあえず今日は部屋で休ませて下さ・・・い・・・?」

その時になって、私はようやく自分の部屋の異変に気が付いた。
何となく部屋全体が焼け焦げたような臭いが漂っている・・・。
え?焼け焦げた臭い?
ま・まさか・・・!
白銀のナイト達をかき分け、部屋の中へと入った私は絶句してしまった。
何と私の部屋が黒焦げになっているでは無いか。
ベッドから床、壁、天井まで至る所が見るも無残に真っ黒に焼け焦げている。
呆然と佇む私に、背後からアンディの声が聞こえてきた。

「あ・・・い、いや・・。実は、エリス、これには・・訳が・・。」

しかし、アンディの話等、どうでもいい!今私にとって一番重要なのは・・・!
キッとクローゼットを見ると素早く近付き、バタンと開ける。
そして、私の目に飛び込んできたのは・・・・!

「アア~ンッ!!イヤアアアアア~ンッ!!私の、私の大切な服が・・・く・黒焦げにいいっ!!」

気付けば、またしても私は妙に色気?のある声で叫んでいた。・・・どうもエリスは衝撃が強すぎると色気のある叫び声になるようだ。

「な・・・なんて声を上げるんだ・・・!」

フレッドが顔を真っ赤に染めているし、他のナイト達も全員俯いて顔を赤らめている。
しかし、私の興奮は止まらない。
ああっ!こ・・・これはまだ一度も袖を通したことが無いワンピースッ!!

「イヤアア~ンッ!!ど、どうしてこんな酷い事・・・・するんですかああっ?!」

半分涙目になり、無意識のうちに身体をくねらせながら焼け焦げた服を抱きしめる私に声をかける白銀のナイトは誰もいない。代わりに全員が真っ赤な顔で私を無言で見下ろしているばかりだ。

「な・・・何見てるんですかあッ?も・・・もうイヤッ!皆さん・・・出て行って下さいよおっ!」

そして問答無用で彼等を部屋から追っ払うとバタンとドアを閉め、ゼーゼーと荒い息を吐いて、焼け焦げた床にペタンとへたり込んでしまった。

う~っ!あ・・・あいつら・・私がこんなに怒っているのに・・・真っ赤な顔で見下ろしているだけなんて・・・・!
恐らく私の不在中にも関わらず、彼等はあの部屋で口論を続け・・・互いの魔力が発動してしまったのだろう。そして今のような状況に・・・。

「はあ~・・・・。」

私は深いため息をついて今の部屋の惨状を見渡した。

「まあ彼等ばかりを責めても仕方が無いか・・・。ある意味可哀そうな人達なんだし・・・・。」

何せ、『白銀の騎士』に選ばれた彼等は、魔力が強すぎて油断していると辺りに魔力を放出してしまうと言う憐れな体質の持ち主たちなのだ。普段は魔力を押さえる為に指輪をはめているが、それですら抑えきれない場合もある。まして、誰かが魔力を放出すると、それに触発されてしまうのだから厄介である。

「もう・・・いいや。服の事は諦めよう・・。「ベソ」と「ノッポ」に頼めば、チョイチョイと直してくれるかもしれないし・・・。それより・・・。」

私は腰に手を当てると部屋の惨状を見渡した。

「今夜は何処に寝ればいいのよ・・・・。」

頭を押さえながら私は呟いた—。



 それが今回、何故私がアンの部屋で目を覚ましたかの事の経緯である。行き場を無くして困っていた所を、それなら私の部屋で寝ればいいと言ってくれたのだ。
そこで学園の余っているソファーベッドを力持ちのダンに頼んで運んでもらったのである。その際にダンは、全く白銀の騎士だとか言っておいて、こんな酷い事をするとは、なんて奴らなのだとブツブツ文句を言っていたっけ・・・。
・・・ひょっとするとダンは『白銀のナイト』達にあまり良い感情を持っていないのかもしれない。


「それにしても災難だったよね~。あんな事になっちゃうなんてさ。私は仕事で見てなかったけど、それは物凄い爆発音が聞こえたらしいよ?それなのにあのナイト様達は誰も怪我1つ負っていないそうだから、本当に凄いよネ~。」

「アハハハ・・・そ、そうだね。」

私は返事をしながら思った。凄い?そんな問題じゃ無いんだってば!彼等といると・・・最近身の危険を感じるのだ。何せ、あの水クラゲを駆除した帰り・・エディ
にエリオット、そしてアドニスの魔力がぶつかり合って、私は巻き添えを食って気絶した挙句に奇妙な部屋に囚われて・・・。
ん・・?
そうだ。そもそも私は何故オリビアに囚われてしまったのだろう?

「エリス?どうしたの?急に考えこんだりして・・・?」

アンが心配そうに覗き込んできた。

「あ、うううん、大丈夫、大丈夫、何でも無いから。あ~あ・・・それにしても困ったなあ。大事な服・・・ぜーんぶ燃えちゃったんだから・・・。」

がっくり肩を落としながら言う。

「そうだよね・・・エリスは洋服持ちだったから・・・辛いよね・・・。あ、でも待って!エリスは『白銀のナイト』様達のお気に入りだから・・・ひょっとするとプレゼントがもらえるかもしれないよ~。」

意味深にアンは言うが・・・いや、絶対にそれは無いだろう!大体、エリスは貴族である白銀のナイト達によって爵位を剥奪されてメイドの地位に落とされた悪女のわけだし、そもそもこのゲームの世界観は身分の上下関係が厳しい世界なのだ。
よって貴族がメイドにプレゼントなどあり得ない。


大きく伸びをしながらベッドから起き上がると私は言った。

「あははは~。無い、無いってば。そんな話。それよりアン。今日は貴女のメイド服を貸してくれる?」

こうして着る服を無くした私はアンのメイド服を借りる事にした。

「ねえ・・・エリス。本当に今日はその姿でいるの?折角仕事がお休みなのに・・・。」

「うん、仕方が無いよ。だって服が全部燃えちゃったんだからさ。」

その後・・・。
アンが仕事に行くのを見送ると、私は腕時計を操作して、液晶画面を表示させると画面をマップに切り替えた。

「さて・・・昨日、『ベソ』と『ノッポ』が現れたって事は・・またあの怪しげな部署『管理事務局』が出来たに違いないわ・・・。場所はどこかな・・・?あ!あったわ!」

その『管理事務局』は体育館の裏手にある旧校舎の一室にあるようだった。

「よし、ちゃっちゃっと行って、要件を済ませてこよう!」

意気込み勇んでアンの部屋を出ると、私は管理事務局へと向かった。

きっと『ベソ』と『ノッポ』ならあの日、何が起こったのか知ってるはずだからね!

そうして私は後を付けられている事にも気付かず、『管理事務局』へと向かった—。
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