24 / 129
第12日目 好感度、少し下げさせて頂きます―前編
しおりを挟む
『おはようございます。12日目の朝が始まりました。まずは2名の攻略キャラの好感度が100を超えました。おめでとうございます!
その特典と致しまして、現在攻略可能なキャラクターのステータスを表示する事が出来るようになりました。
こちらのステータスはいつでも自由に閲覧する事が出来ます。さらにステータス表示画面では攻略キャラの現在の好感度の表示と貴女に対する今の気持ちも同時に表示されます。
ご機嫌の時は赤い色、機嫌が悪い時は青く表示されます。
これらを参考にしつつ、好感度の微調整を行うとゲームを有利に進める事が出来るでしょう。
それでは本日も張り切って頑張りましょう。』
「う~・・今更遅いのよっ!」
空中に浮かんでいるメニュー表示画面に向かって私は思わず枕を投げつけ・・・無残にも顔の上に枕が落下してしまう。
「そ・・そうよっ!ステータスなのよっ!どうして・・・こんな一番肝心な事に今迄気付かなかったんだろうっ!普通はゲーム開始と同時に・・ステータスが表示されるのは当然っ!なのに・・・なのに!どうして好感度が上がってからステータスが表示されるのよっ!絶対これはゲーム制作者の意図的悪意を感じる・・・。そうよ、この制作会社は私に目を付けていたんだっ!こ、この私を・・ゲームオーバーにする為に・・・!」
頭をぐしゃぐしゃかきむしりながら・・・時計を見る。
「ああっ!ま・まずい・・・っ!ち、遅刻するっ!」
と、取り合えず仕事に遅刻は・・・まずいっ!後の事は・・・仕事をしながら考えようっ!
そして急いで支度をして、部屋を猛ダッシュで飛び出した。
「お・・おはよう・・・ご、ございます・・・。」
ハアハア荒い息を吐きながら、何とか業務開始1分前にギリギリセーフで厨房に到着。
「お、おう・・・おはよう・・・・。だ、大丈夫か?エリス。朝一から何だか疲れ切った顔してるぞ?」
ガルシアが厨房から出て来て声を掛けて来た。
「あれ~、エリスどうしたの?いつもならとっくに厨房に着いていたのに・・まさか私が先になるとは思わなかったよ。」
既にアンは出勤していたらしい。
「う、うん。ごめんね・・ちょ、ちょっと寝坊しちゃって・・・。」
まだハアハア言いながら呼吸を整えていると、突然背後から無言で水の入ったコップがズイッと私の目の前に差し出されてきた。
「え・・?」
何だか・・・非常に嫌な予感がする。
おっかなびっくり振り返るとそこには満面の笑みを称えた・・・トビーがいた。
出た・・・。好感度120の男が・・・。私が今一番関わってはいけないキャラの1人が朝っぱらからいきなり現れるなんてっ!
「どうしたんだい?エリス。そんなに息せき切って・・・。ああ、いいんだよ。君は普段から真面目に仕事をしているのだから少々の遅刻位は目をつむってあげるよ。さあエリス。喉が渇いているのだろう?僕が用意したミント入りの新鮮なミネラルウオーターを飲んでごらん?」
トビーは気持ち悪い言葉遣い、気持ち悪い動きで私にグラスを差し出してきた。
「おい・・・一体何だ、あれは・・・・。」
「ほんとだ・・・何か悪い物でも拾い食いしたんじゃ無いの・・・?」
ガルシアとアンがヒソヒソ話しているが・・・全部丸聞こえなんですけど・・・。
その証拠にトビーの耳がピクピクと動いている。
耳を動かせるなんて・・・中々器用な人だなあ・・・。
「あ、どうもありがとうございます・・・。」
お礼を言ってグラスを受け取るが・・まさか、これ位の事で・・好感度が上がったりしないよね?!
そしてトビーの好感度を見ると・・・ホッ・・良かった・・・。今のところ数値の変動は無かった。ふう・・心臓に悪すぎる。まあ・・・喉が渇いていたから取り合えずお水は貰っておこう。
ゴクゴク・・ゴクン。
うっ!勢いあまってミントの葉まで飲んでしまった。
「どうだったかい、エリス。ミント入りのスペシャルミネラルウォーターの味は?」
トビーが顎に手をやり、男のくせに品を作りながらながら尋ねて来る。・・・その姿はまるで・・・オネエのようにも見える。も、もしや・・そいういタイプだったのかっ?!しかも水のネーミングまで変わっているし。
「は、はあ・・・。美味しかったですが・・・ただ、ミントの葉まで一緒に飲み込んでしまいました。」
「な?何?!ほ、本当か、エリス。」
「はい、本当です。どうせミントの葉をいれるなら大きめの瓶か何かに予めミントの葉と水を付け込んでおいて、出来れば香りをしみこませたお水だけ頂きたかったですね。」
ペラペラと自分の意見を述べると、トビーがガクリと首をうなだれた。
「た、確かに・・・エリス。君の言う通りだった。・・・僕の配慮が足りなかったようだね。すまなかった。今後は君のアドバイス通りにさせてもらうよ・・・。」
言いながら、ふらふらと厨房を出て行く。そして・・・トビーの好感度は115に減って・・いた・・・?
おおっ!意外と簡単に好感度を下げる事に成功したッ!と言う事は・・・うん!少しだけこのゲームの攻略方法が見えてきた気がするっ!
よし・・・みてなさいよ・・・。私はこのゲームに絶対勝利し、必ず元の世界へ戻ってやるんだからっ!
まずは手始めに・・・。
「ガルシアさんっ!仕事・・・・早く仕事を下さいッ!!」
そう、まずはメイドの仕事を頑張って、スキルポイントを貯めて・・・もっとメイド力を上げて仕事の効率化を図ってやるッ!
私はジャガイモの皮むきをしながら、心に固く誓った。
そして今日の私の目標も定まった!
まずは・・朝の仕事が片付いたら、ダンの元を訪ねよう。
彼には気の毒かもしれないが・・・。
ダン・・・。悪いけど、貴方の好感度・・・本日下げさせて頂きますっ!
ついでに・・・今まで躊躇していたが、『白銀のナイト』達の好感度を上げていかなくては・・・。
頭の中で色々考えつつ、私はジャガイモの皮むきに専念した。
「ええっ?!今日は・・・ダンはこの学園で仕事・・・していないのっ?!」
リネン室でアンと一緒に洗濯物を畳みながら私は残念なお知らせを聞いてしまった。
「うん、そうだよ。ダンはね、力持ちだから学園併設の別の施設で働く事が多いんだよね。確か今日は学園の分校で樹木の作業をするって言ってたよ。でも多分夕方5時には戻って来ると思うよ。」
「そうなんだ・・・。」
何だ、残念・・・。折角ダンの好感度を下げられるチャンスだったのに・・・。
うん?でも待てよ・・・。どうすれば少しだけ嫌われる事が出来るのだろうか?
私のそんな様子を見てアンが声を掛けて来た。
「あら~何何?もしかしてエリス・・・・。ダンに恋しちゃったのかな?そう言えばダンもエリスの事気になるみたいだよ?」
アンが何やら含み笑いしながら私を見る。
「うん・・・どうすればダンに少しだけ嫌われるか・・・考えていたんだよね。」
そこまで言って・・・初めて私は自分が今の台詞を口に出していた事に気が付いた。
「え・・・そ、そうなの?!ひょっとして・・・ダンはエリスの好みのタイプの男では無かったんだね?!もしかして・・・ほ、他に誰か気になる相手がいるとか・・・それでダンを傷つけないように少しずつ嫌われて行く作戦を・・?」
何故かアンがかなり深読みしているようだが・・・。そこで咄嗟に取り繕った嘘をペラペラと並べる。
「ほ、ほら~私って、この学園の嫌われ者じゃない?そんな私に構っていたらダンの評判が落ちゃうんじゃないかな~って思ってさ・・・・。あ、で、でも今の話は絶対に内緒だからねっ?!」
「おお~成程・・・。でもエリス・・そんなに世間の目を気にする必要は無いと思うけどなあ・・・。」
最期の洗濯物を畳みながらアンが言う。
「そ、それもそうだね。も、もう成り行きに任せようかなっ?さっ!早く次の仕事に行って来よっと!またね、アン。」
そして私は逃げるようにリネン室を後にして・・・現在学園のトイレ掃除にいそしんでいた。
し、仕方が無い。夕方・・・ダンの元を訪ねるとして・・それまでに・・少しだけ彼の好感度を下げる方法を考えておかなくては・・・。
でもその前に・・・まだ一度も接触を図れていない、「アドニス・ブラットリー」そして「エリオット・レーン」には何としても一度は会っておかないと・・・。
ゲームの要領が少しだけ掴めてきたところで気付いたのだが、どうも『白銀のナイト』達はやはり最初からエリスを嫌っているし、何より彼等の恋人はオリビアだ。
だから好感度の最初のスタートの値はまさかのマイナス100だし、当然好感度も上がりにくい。
一方のサブキャラないし、モブキャラはスタート地点はマイナスからではないし、好感度の上がり方が異常に早い。
これではあまりにゲームバランスが悪すぎる。普通に接しているだけで好感度が100を軽く突破してしまうのだから。
そしてもし仮に好感度がマックスを迎えてしまえば、恐怖?のこ・告白イベントが待っている・・・!
元・モブキャラたちに告白される前に・・・何とか『白銀のナイト』達の好感度を上げなければ・・。は・破滅だ・・・。
そこへ数人の男子学生がトイレに入って来た。
「「え・・・?」」
男子学生は目を見開いている。
「あ・・・!」
し・・・しまった!!こ・こ・ここは・・・男子トイレだったのだっ!
慌てて周りを見渡せば・・・明らかに女性用トイレと作りが違うっ!
それに今迄気付かなかったとは・・・・。
「ア・・・・ハハハ・・・。ど、どうも・・・。」
慌ててごまかし笑いをする。そう、通常は・・・男性用トイレはメイドがするべき場所では無いのだっ!!
「た・・・大変だっ!メイドの痴漢がいるぞっ!!」
1人の男子学生が私を指さして叫んだ。酷いっ!人聞きの悪いっ!
慌てて掃除用具を掴んで逃げようとするも・・・呆気なく私は2人の男子学生に捕まり・・・・。生徒会室へと連行されてしまった—。
「まさか・・・お前が男子トイレに忍び込んでいた犯人だとはな・・・。」
今、私は『白銀のナイト』の1人、「エリオット・レーン」の前に立たされていた。
しかし・・・不慮の事故とは言え、まさかあのエリオットにこんな形で出会う事になるとは・・・最・悪だっ!!
私は頭上の好感度をチラリとみると、やはり好感度はマイナス100を示しているし、彼自身もまるでゴミでも見るかのような冷たい視線で私を見ている。
うう・・・気まずい。
実はゲーム作中でエリオットは風紀委員の委員長をしていたのだ。
ああ・・・ゲームの神様。どうか私をお助け下さい・・・。
私は天を仰ぎ見て・・・。
「何処を見ている、ベネット。」
おもいきりエリオットに睨まれてしまった。
「ベネット・・・お前・・・オリビアに嫌がらせするだけに留まらず・・・とうとう痴女にまで成り下がったのか・・・。それ程男に飢えていたとはな・・・。」
寒い・・何て寒い目で私を見て来るのだろう。まるでブリザードが吹き荒れてきそうな視線だ。流石好感度-100は伊達じゃないっ!
「い、いえ。あのですね。それには大きな誤解が・・・・」
そこまで言いかけた時、ピロリンと液晶画面が表示される。
バッ馬鹿ッ!な・・・何でこんな時に選択肢が現れるのよっ!きっとまともな選択肢しか出てこないはず・・・っ!
『攻略キャラが何やら激怒しています。何と答えますか?』
ああ・・とうとう恐れていた事態が・・・。
私は覚悟を決めて、次の選択肢を待つことにした。
1 ついにバレてしまいましたか
2 これには大きな理由が・・・
3 少しくらいいいじゃないですか
4 実は・・・頼まれたんです
やはり、私の予想通り・・・碌な選択肢が無い。一番無難な答えは2番だろうけど・・・エリオットが納得できる理由をすぐに考えられる自信がない。
仕方が無い・・・。4番を選んで・・・トビーに犠牲になってもらおう!
一応仮にも彼はリーダーなのだから、・従業員達を命に代えて?でも守る必要があるのだっ!
「実は・・・頼まれたんです。」
「頼まれた?誰に?」
うん。やはりそうなるよね。だから私はトビーの名前を口にしようとした瞬間・・。
「俺が頼んだんだよっ!」
ガラリと扉が開かれた—。
その特典と致しまして、現在攻略可能なキャラクターのステータスを表示する事が出来るようになりました。
こちらのステータスはいつでも自由に閲覧する事が出来ます。さらにステータス表示画面では攻略キャラの現在の好感度の表示と貴女に対する今の気持ちも同時に表示されます。
ご機嫌の時は赤い色、機嫌が悪い時は青く表示されます。
これらを参考にしつつ、好感度の微調整を行うとゲームを有利に進める事が出来るでしょう。
それでは本日も張り切って頑張りましょう。』
「う~・・今更遅いのよっ!」
空中に浮かんでいるメニュー表示画面に向かって私は思わず枕を投げつけ・・・無残にも顔の上に枕が落下してしまう。
「そ・・そうよっ!ステータスなのよっ!どうして・・・こんな一番肝心な事に今迄気付かなかったんだろうっ!普通はゲーム開始と同時に・・ステータスが表示されるのは当然っ!なのに・・・なのに!どうして好感度が上がってからステータスが表示されるのよっ!絶対これはゲーム制作者の意図的悪意を感じる・・・。そうよ、この制作会社は私に目を付けていたんだっ!こ、この私を・・ゲームオーバーにする為に・・・!」
頭をぐしゃぐしゃかきむしりながら・・・時計を見る。
「ああっ!ま・まずい・・・っ!ち、遅刻するっ!」
と、取り合えず仕事に遅刻は・・・まずいっ!後の事は・・・仕事をしながら考えようっ!
そして急いで支度をして、部屋を猛ダッシュで飛び出した。
「お・・おはよう・・・ご、ございます・・・。」
ハアハア荒い息を吐きながら、何とか業務開始1分前にギリギリセーフで厨房に到着。
「お、おう・・・おはよう・・・・。だ、大丈夫か?エリス。朝一から何だか疲れ切った顔してるぞ?」
ガルシアが厨房から出て来て声を掛けて来た。
「あれ~、エリスどうしたの?いつもならとっくに厨房に着いていたのに・・まさか私が先になるとは思わなかったよ。」
既にアンは出勤していたらしい。
「う、うん。ごめんね・・ちょ、ちょっと寝坊しちゃって・・・。」
まだハアハア言いながら呼吸を整えていると、突然背後から無言で水の入ったコップがズイッと私の目の前に差し出されてきた。
「え・・?」
何だか・・・非常に嫌な予感がする。
おっかなびっくり振り返るとそこには満面の笑みを称えた・・・トビーがいた。
出た・・・。好感度120の男が・・・。私が今一番関わってはいけないキャラの1人が朝っぱらからいきなり現れるなんてっ!
「どうしたんだい?エリス。そんなに息せき切って・・・。ああ、いいんだよ。君は普段から真面目に仕事をしているのだから少々の遅刻位は目をつむってあげるよ。さあエリス。喉が渇いているのだろう?僕が用意したミント入りの新鮮なミネラルウオーターを飲んでごらん?」
トビーは気持ち悪い言葉遣い、気持ち悪い動きで私にグラスを差し出してきた。
「おい・・・一体何だ、あれは・・・・。」
「ほんとだ・・・何か悪い物でも拾い食いしたんじゃ無いの・・・?」
ガルシアとアンがヒソヒソ話しているが・・・全部丸聞こえなんですけど・・・。
その証拠にトビーの耳がピクピクと動いている。
耳を動かせるなんて・・・中々器用な人だなあ・・・。
「あ、どうもありがとうございます・・・。」
お礼を言ってグラスを受け取るが・・まさか、これ位の事で・・好感度が上がったりしないよね?!
そしてトビーの好感度を見ると・・・ホッ・・良かった・・・。今のところ数値の変動は無かった。ふう・・心臓に悪すぎる。まあ・・・喉が渇いていたから取り合えずお水は貰っておこう。
ゴクゴク・・ゴクン。
うっ!勢いあまってミントの葉まで飲んでしまった。
「どうだったかい、エリス。ミント入りのスペシャルミネラルウォーターの味は?」
トビーが顎に手をやり、男のくせに品を作りながらながら尋ねて来る。・・・その姿はまるで・・・オネエのようにも見える。も、もしや・・そいういタイプだったのかっ?!しかも水のネーミングまで変わっているし。
「は、はあ・・・。美味しかったですが・・・ただ、ミントの葉まで一緒に飲み込んでしまいました。」
「な?何?!ほ、本当か、エリス。」
「はい、本当です。どうせミントの葉をいれるなら大きめの瓶か何かに予めミントの葉と水を付け込んでおいて、出来れば香りをしみこませたお水だけ頂きたかったですね。」
ペラペラと自分の意見を述べると、トビーがガクリと首をうなだれた。
「た、確かに・・・エリス。君の言う通りだった。・・・僕の配慮が足りなかったようだね。すまなかった。今後は君のアドバイス通りにさせてもらうよ・・・。」
言いながら、ふらふらと厨房を出て行く。そして・・・トビーの好感度は115に減って・・いた・・・?
おおっ!意外と簡単に好感度を下げる事に成功したッ!と言う事は・・・うん!少しだけこのゲームの攻略方法が見えてきた気がするっ!
よし・・・みてなさいよ・・・。私はこのゲームに絶対勝利し、必ず元の世界へ戻ってやるんだからっ!
まずは手始めに・・・。
「ガルシアさんっ!仕事・・・・早く仕事を下さいッ!!」
そう、まずはメイドの仕事を頑張って、スキルポイントを貯めて・・・もっとメイド力を上げて仕事の効率化を図ってやるッ!
私はジャガイモの皮むきをしながら、心に固く誓った。
そして今日の私の目標も定まった!
まずは・・朝の仕事が片付いたら、ダンの元を訪ねよう。
彼には気の毒かもしれないが・・・。
ダン・・・。悪いけど、貴方の好感度・・・本日下げさせて頂きますっ!
ついでに・・・今まで躊躇していたが、『白銀のナイト』達の好感度を上げていかなくては・・・。
頭の中で色々考えつつ、私はジャガイモの皮むきに専念した。
「ええっ?!今日は・・・ダンはこの学園で仕事・・・していないのっ?!」
リネン室でアンと一緒に洗濯物を畳みながら私は残念なお知らせを聞いてしまった。
「うん、そうだよ。ダンはね、力持ちだから学園併設の別の施設で働く事が多いんだよね。確か今日は学園の分校で樹木の作業をするって言ってたよ。でも多分夕方5時には戻って来ると思うよ。」
「そうなんだ・・・。」
何だ、残念・・・。折角ダンの好感度を下げられるチャンスだったのに・・・。
うん?でも待てよ・・・。どうすれば少しだけ嫌われる事が出来るのだろうか?
私のそんな様子を見てアンが声を掛けて来た。
「あら~何何?もしかしてエリス・・・・。ダンに恋しちゃったのかな?そう言えばダンもエリスの事気になるみたいだよ?」
アンが何やら含み笑いしながら私を見る。
「うん・・・どうすればダンに少しだけ嫌われるか・・・考えていたんだよね。」
そこまで言って・・・初めて私は自分が今の台詞を口に出していた事に気が付いた。
「え・・・そ、そうなの?!ひょっとして・・・ダンはエリスの好みのタイプの男では無かったんだね?!もしかして・・・ほ、他に誰か気になる相手がいるとか・・・それでダンを傷つけないように少しずつ嫌われて行く作戦を・・?」
何故かアンがかなり深読みしているようだが・・・。そこで咄嗟に取り繕った嘘をペラペラと並べる。
「ほ、ほら~私って、この学園の嫌われ者じゃない?そんな私に構っていたらダンの評判が落ちゃうんじゃないかな~って思ってさ・・・・。あ、で、でも今の話は絶対に内緒だからねっ?!」
「おお~成程・・・。でもエリス・・そんなに世間の目を気にする必要は無いと思うけどなあ・・・。」
最期の洗濯物を畳みながらアンが言う。
「そ、それもそうだね。も、もう成り行きに任せようかなっ?さっ!早く次の仕事に行って来よっと!またね、アン。」
そして私は逃げるようにリネン室を後にして・・・現在学園のトイレ掃除にいそしんでいた。
し、仕方が無い。夕方・・・ダンの元を訪ねるとして・・それまでに・・少しだけ彼の好感度を下げる方法を考えておかなくては・・・。
でもその前に・・・まだ一度も接触を図れていない、「アドニス・ブラットリー」そして「エリオット・レーン」には何としても一度は会っておかないと・・・。
ゲームの要領が少しだけ掴めてきたところで気付いたのだが、どうも『白銀のナイト』達はやはり最初からエリスを嫌っているし、何より彼等の恋人はオリビアだ。
だから好感度の最初のスタートの値はまさかのマイナス100だし、当然好感度も上がりにくい。
一方のサブキャラないし、モブキャラはスタート地点はマイナスからではないし、好感度の上がり方が異常に早い。
これではあまりにゲームバランスが悪すぎる。普通に接しているだけで好感度が100を軽く突破してしまうのだから。
そしてもし仮に好感度がマックスを迎えてしまえば、恐怖?のこ・告白イベントが待っている・・・!
元・モブキャラたちに告白される前に・・・何とか『白銀のナイト』達の好感度を上げなければ・・。は・破滅だ・・・。
そこへ数人の男子学生がトイレに入って来た。
「「え・・・?」」
男子学生は目を見開いている。
「あ・・・!」
し・・・しまった!!こ・こ・ここは・・・男子トイレだったのだっ!
慌てて周りを見渡せば・・・明らかに女性用トイレと作りが違うっ!
それに今迄気付かなかったとは・・・・。
「ア・・・・ハハハ・・・。ど、どうも・・・。」
慌ててごまかし笑いをする。そう、通常は・・・男性用トイレはメイドがするべき場所では無いのだっ!!
「た・・・大変だっ!メイドの痴漢がいるぞっ!!」
1人の男子学生が私を指さして叫んだ。酷いっ!人聞きの悪いっ!
慌てて掃除用具を掴んで逃げようとするも・・・呆気なく私は2人の男子学生に捕まり・・・・。生徒会室へと連行されてしまった—。
「まさか・・・お前が男子トイレに忍び込んでいた犯人だとはな・・・。」
今、私は『白銀のナイト』の1人、「エリオット・レーン」の前に立たされていた。
しかし・・・不慮の事故とは言え、まさかあのエリオットにこんな形で出会う事になるとは・・・最・悪だっ!!
私は頭上の好感度をチラリとみると、やはり好感度はマイナス100を示しているし、彼自身もまるでゴミでも見るかのような冷たい視線で私を見ている。
うう・・・気まずい。
実はゲーム作中でエリオットは風紀委員の委員長をしていたのだ。
ああ・・・ゲームの神様。どうか私をお助け下さい・・・。
私は天を仰ぎ見て・・・。
「何処を見ている、ベネット。」
おもいきりエリオットに睨まれてしまった。
「ベネット・・・お前・・・オリビアに嫌がらせするだけに留まらず・・・とうとう痴女にまで成り下がったのか・・・。それ程男に飢えていたとはな・・・。」
寒い・・何て寒い目で私を見て来るのだろう。まるでブリザードが吹き荒れてきそうな視線だ。流石好感度-100は伊達じゃないっ!
「い、いえ。あのですね。それには大きな誤解が・・・・」
そこまで言いかけた時、ピロリンと液晶画面が表示される。
バッ馬鹿ッ!な・・・何でこんな時に選択肢が現れるのよっ!きっとまともな選択肢しか出てこないはず・・・っ!
『攻略キャラが何やら激怒しています。何と答えますか?』
ああ・・とうとう恐れていた事態が・・・。
私は覚悟を決めて、次の選択肢を待つことにした。
1 ついにバレてしまいましたか
2 これには大きな理由が・・・
3 少しくらいいいじゃないですか
4 実は・・・頼まれたんです
やはり、私の予想通り・・・碌な選択肢が無い。一番無難な答えは2番だろうけど・・・エリオットが納得できる理由をすぐに考えられる自信がない。
仕方が無い・・・。4番を選んで・・・トビーに犠牲になってもらおう!
一応仮にも彼はリーダーなのだから、・従業員達を命に代えて?でも守る必要があるのだっ!
「実は・・・頼まれたんです。」
「頼まれた?誰に?」
うん。やはりそうなるよね。だから私はトビーの名前を口にしようとした瞬間・・。
「俺が頼んだんだよっ!」
ガラリと扉が開かれた—。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【完結】平凡な私が地獄の神に溺愛されています!ー大聖女に転生予定が、気まぐれに地獄へ堕とされたら、地獄の神の溺愛と断罪が待っていました
碧桜 汐香
恋愛
素直で社畜体質っぽいし、浄化魔法が使えてマッサージ機代わりになるからという理由で、神々の手によって、死者の列から掬い上げられ、神の使い人になったテラス。
神の使いと呼ばれる動物たちの事務処理をするのが仕事だ。ハラスメントに業務を押し付けられる日々だが、テラスはNOと言えずに大量の仕事を抱えてる毎日を送っている。
ある日、そんなテラスに地獄への配置換えが命じられた。地獄の労働環境は最悪で、不浄な空気の中では使い人は長く生きられないとされる。
生きることも諦めて地獄に向かったが、そんなテラスを向かえる地獄は、最高の労働環境で、イケメンな地獄の神に溺愛されることとなった。
途中、元上司が自身の左遷に反乱を起こしたりするが、地獄の神が圧倒的な力で断罪される。
特定の宗教はモデルにしておりません。作者自身の想像でございます。地獄等について、調べてから書いておりますが、宗教観に詳しくありませんので、物語として楽しんでいただけると幸いです。
時々読み返して確認し直しているので、手直しが入っております。物語の本筋には影響は与えないようにしております。
他サイト様にも掲載中です。

【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。
更新日 2/12 『受け継ぐ者』
更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話)
02/01『秘密を持って生まれた子 2』
01/23『秘密を持って生まれた子 1』
01/18『美之の黒歴史 5』(全5話)
12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』
12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12 『いつもあなたの幸せを。』
9/14 『伝統行事』
8/24 『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
『日常のひとこま』は公開終了しました。
7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18 『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和7年1/25
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。

【完結】無能聖女と呼ばれ婚約破棄された私ですが砂漠の国で溺愛されました
よどら文鳥
恋愛
エウレス皇国のラファエル皇太子から突然婚約破棄を告げられた。
どうやら魔道士のマーヤと婚約をしたいそうだ。
この国では王族も貴族も皆、私=リリアの聖女としての力を信用していない。
元々砂漠だったエウレス皇国全域に水の加護を与えて人が住める場所を作ってきたのだが、誰も信じてくれない。
だからこそ、私のことは不要だと思っているらしく、隣の砂漠の国カサラス王国へ追放される。
なんでも、カサラス王国のカルム王子が国の三分の一もの財宝と引き換えに迎え入れたいと打診があったそうだ。
国家の持つ財宝の三分の一も失えば国は確実に傾く。
カルム王子は何故そこまでして私を迎え入れようとしてくれているのだろうか。
カサラス王国へ行ってからは私の人生が劇的に変化していったのである。
だが、まだ砂漠の国で水など殆どない。
私は出会った人たちや国のためにも、なんとしてでもこの国に水の加護を与えていき住み良い国に変えていきたいと誓った。
ちなみに、国を去ったエウレス皇国には距離が離れているので、水の加護はもう反映されないけれど大丈夫なのだろうか。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)
音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。
それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。
加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。
しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。
そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。
*内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。
尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる