悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

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第12日目 好感度、少し下げさせて頂きます―前編

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『おはようございます。12日目の朝が始まりました。まずは2名の攻略キャラの好感度が100を超えました。おめでとうございます!
その特典と致しまして、現在攻略可能なキャラクターのステータスを表示する事が出来るようになりました。
こちらのステータスはいつでも自由に閲覧する事が出来ます。さらにステータス表示画面では攻略キャラの現在の好感度の表示と貴女に対する今の気持ちも同時に表示されます。
ご機嫌の時は赤い色、機嫌が悪い時は青く表示されます。
これらを参考にしつつ、好感度の微調整を行うとゲームを有利に進める事が出来るでしょう。
それでは本日も張り切って頑張りましょう。』


「う~・・今更遅いのよっ!」
空中に浮かんでいるメニュー表示画面に向かって私は思わず枕を投げつけ・・・無残にも顔の上に枕が落下してしまう。

「そ・・そうよっ!ステータスなのよっ!どうして・・・こんな一番肝心な事に今迄気付かなかったんだろうっ!普通はゲーム開始と同時に・・ステータスが表示されるのは当然っ!なのに・・・なのに!どうして好感度が上がってからステータスが表示されるのよっ!絶対これはゲーム制作者の意図的悪意を感じる・・・。そうよ、この制作会社は私に目を付けていたんだっ!こ、この私を・・ゲームオーバーにする為に・・・!」
頭をぐしゃぐしゃかきむしりながら・・・時計を見る。
「ああっ!ま・まずい・・・っ!ち、遅刻するっ!」

と、取り合えず仕事に遅刻は・・・まずいっ!後の事は・・・仕事をしながら考えようっ!
そして急いで支度をして、部屋を猛ダッシュで飛び出した。


「お・・おはよう・・・ご、ございます・・・。」

ハアハア荒い息を吐きながら、何とか業務開始1分前にギリギリセーフで厨房に到着。

「お、おう・・・おはよう・・・・。だ、大丈夫か?エリス。朝一から何だか疲れ切った顔してるぞ?」

ガルシアが厨房から出て来て声を掛けて来た。

「あれ~、エリスどうしたの?いつもならとっくに厨房に着いていたのに・・まさか私が先になるとは思わなかったよ。」

既にアンは出勤していたらしい。

「う、うん。ごめんね・・ちょ、ちょっと寝坊しちゃって・・・。」

まだハアハア言いながら呼吸を整えていると、突然背後から無言で水の入ったコップがズイッと私の目の前に差し出されてきた。

「え・・?」

何だか・・・非常に嫌な予感がする。
おっかなびっくり振り返るとそこには満面の笑みを称えた・・・トビーがいた。
出た・・・。好感度120の男が・・・。私が今一番関わってはいけないキャラの1人が朝っぱらからいきなり現れるなんてっ!

「どうしたんだい?エリス。そんなに息せき切って・・・。ああ、いいんだよ。君は普段から真面目に仕事をしているのだから少々の遅刻位は目をつむってあげるよ。さあエリス。喉が渇いているのだろう?僕が用意したミント入りの新鮮なミネラルウオーターを飲んでごらん?」

トビーは気持ち悪い言葉遣い、気持ち悪い動きで私にグラスを差し出してきた。

「おい・・・一体何だ、あれは・・・・。」

「ほんとだ・・・何か悪い物でも拾い食いしたんじゃ無いの・・・?」

ガルシアとアンがヒソヒソ話しているが・・・全部丸聞こえなんですけど・・・。
その証拠にトビーの耳がピクピクと動いている。
耳を動かせるなんて・・・中々器用な人だなあ・・・。

「あ、どうもありがとうございます・・・。」

お礼を言ってグラスを受け取るが・・まさか、これ位の事で・・好感度が上がったりしないよね?!
そしてトビーの好感度を見ると・・・ホッ・・良かった・・・。今のところ数値の変動は無かった。ふう・・心臓に悪すぎる。まあ・・・喉が渇いていたから取り合えずお水は貰っておこう。
ゴクゴク・・ゴクン。
うっ!勢いあまってミントの葉まで飲んでしまった。

「どうだったかい、エリス。ミント入りのスペシャルミネラルウォーターの味は?」

トビーが顎に手をやり、男のくせに品を作りながらながら尋ねて来る。・・・その姿はまるで・・・オネエのようにも見える。も、もしや・・そいういタイプだったのかっ?!しかも水のネーミングまで変わっているし。

「は、はあ・・・。美味しかったですが・・・ただ、ミントの葉まで一緒に飲み込んでしまいました。」

「な?何?!ほ、本当か、エリス。」

「はい、本当です。どうせミントの葉をいれるなら大きめの瓶か何かに予めミントの葉と水を付け込んでおいて、出来れば香りをしみこませたお水だけ頂きたかったですね。」
ペラペラと自分の意見を述べると、トビーがガクリと首をうなだれた。

「た、確かに・・・エリス。君の言う通りだった。・・・僕の配慮が足りなかったようだね。すまなかった。今後は君のアドバイス通りにさせてもらうよ・・・。」

言いながら、ふらふらと厨房を出て行く。そして・・・トビーの好感度は115に減って・・いた・・・?
おおっ!意外と簡単に好感度を下げる事に成功したッ!と言う事は・・・うん!少しだけこのゲームの攻略方法が見えてきた気がするっ!
よし・・・みてなさいよ・・・。私はこのゲームに絶対勝利し、必ず元の世界へ戻ってやるんだからっ!

まずは手始めに・・・。

「ガルシアさんっ!仕事・・・・早く仕事を下さいッ!!」

そう、まずはメイドの仕事を頑張って、スキルポイントを貯めて・・・もっとメイド力を上げて仕事の効率化を図ってやるッ!
私はジャガイモの皮むきをしながら、心に固く誓った。

そして今日の私の目標も定まった!
まずは・・朝の仕事が片付いたら、ダンの元を訪ねよう。
彼には気の毒かもしれないが・・・。
ダン・・・。悪いけど、貴方の好感度・・・本日下げさせて頂きますっ!
ついでに・・・今まで躊躇していたが、『白銀のナイト』達の好感度を上げていかなくては・・・。
頭の中で色々考えつつ、私はジャガイモの皮むきに専念した。


「ええっ?!今日は・・・ダンはこの学園で仕事・・・していないのっ?!」

リネン室でアンと一緒に洗濯物を畳みながら私は残念なお知らせを聞いてしまった。

「うん、そうだよ。ダンはね、力持ちだから学園併設の別の施設で働く事が多いんだよね。確か今日は学園の分校で樹木の作業をするって言ってたよ。でも多分夕方5時には戻って来ると思うよ。」

「そうなんだ・・・。」
何だ、残念・・・。折角ダンの好感度を下げられるチャンスだったのに・・・。
うん?でも待てよ・・・。どうすれば少しだけ嫌われる事が出来るのだろうか?
私のそんな様子を見てアンが声を掛けて来た。

「あら~何何?もしかしてエリス・・・・。ダンに恋しちゃったのかな?そう言えばダンもエリスの事気になるみたいだよ?」
アンが何やら含み笑いしながら私を見る。

「うん・・・どうすればダンに少しだけ嫌われるか・・・考えていたんだよね。」
そこまで言って・・・初めて私は自分が今の台詞を口に出していた事に気が付いた。

「え・・・そ、そうなの?!ひょっとして・・・ダンはエリスの好みのタイプの男では無かったんだね?!もしかして・・・ほ、他に誰か気になる相手がいるとか・・・それでダンを傷つけないように少しずつ嫌われて行く作戦を・・?」

何故かアンがかなり深読みしているようだが・・・。そこで咄嗟に取り繕った嘘をペラペラと並べる。
「ほ、ほら~私って、この学園の嫌われ者じゃない?そんな私に構っていたらダンの評判が落ちゃうんじゃないかな~って思ってさ・・・・。あ、で、でも今の話は絶対に内緒だからねっ?!」

「おお~成程・・・。でもエリス・・そんなに世間の目を気にする必要は無いと思うけどなあ・・・。」

最期の洗濯物を畳みながらアンが言う。

「そ、それもそうだね。も、もう成り行きに任せようかなっ?さっ!早く次の仕事に行って来よっと!またね、アン。」

そして私は逃げるようにリネン室を後にして・・・現在学園のトイレ掃除にいそしんでいた。
し、仕方が無い。夕方・・・ダンの元を訪ねるとして・・それまでに・・少しだけ彼の好感度を下げる方法を考えておかなくては・・・。
でもその前に・・・まだ一度も接触を図れていない、「アドニス・ブラットリー」そして「エリオット・レーン」には何としても一度は会っておかないと・・・。
ゲームの要領が少しだけ掴めてきたところで気付いたのだが、どうも『白銀のナイト』達はやはり最初からエリスを嫌っているし、何より彼等の恋人はオリビアだ。
だから好感度の最初のスタートの値はまさかのマイナス100だし、当然好感度も上がりにくい。
一方のサブキャラないし、モブキャラはスタート地点はマイナスからではないし、好感度の上がり方が異常に早い。
これではあまりにゲームバランスが悪すぎる。普通に接しているだけで好感度が100を軽く突破してしまうのだから。
そしてもし仮に好感度がマックスを迎えてしまえば、恐怖?のこ・告白イベントが待っている・・・!
元・モブキャラたちに告白される前に・・・何とか『白銀のナイト』達の好感度を上げなければ・・。は・破滅だ・・・。

 そこへ数人の男子学生がトイレに入って来た。

「「え・・・?」」

男子学生は目を見開いている。

「あ・・・!」
し・・・しまった!!こ・こ・ここは・・・男子トイレだったのだっ!
慌てて周りを見渡せば・・・明らかに女性用トイレと作りが違うっ!
それに今迄気付かなかったとは・・・・。

「ア・・・・ハハハ・・・。ど、どうも・・・。」

慌ててごまかし笑いをする。そう、通常は・・・男性用トイレはメイドがするべき場所では無いのだっ!!

「た・・・大変だっ!メイドの痴漢がいるぞっ!!」

1人の男子学生が私を指さして叫んだ。酷いっ!人聞きの悪いっ!

慌てて掃除用具を掴んで逃げようとするも・・・呆気なく私は2人の男子学生に捕まり・・・・。生徒会室へと連行されてしまった—。


「まさか・・・お前が男子トイレに忍び込んでいた犯人だとはな・・・。」

今、私は『白銀のナイト』の1人、「エリオット・レーン」の前に立たされていた。
しかし・・・不慮の事故とは言え、まさかあのエリオットにこんな形で出会う事になるとは・・・最・悪だっ!!
私は頭上の好感度をチラリとみると、やはり好感度はマイナス100を示しているし、彼自身もまるでゴミでも見るかのような冷たい視線で私を見ている。
うう・・・気まずい。

 実はゲーム作中でエリオットは風紀委員の委員長をしていたのだ。
ああ・・・ゲームの神様。どうか私をお助け下さい・・・。
私は天を仰ぎ見て・・・。

「何処を見ている、ベネット。」

おもいきりエリオットに睨まれてしまった。

「ベネット・・・お前・・・オリビアに嫌がらせするだけに留まらず・・・とうとう痴女にまで成り下がったのか・・・。それ程男に飢えていたとはな・・・。」

寒い・・何て寒い目で私を見て来るのだろう。まるでブリザードが吹き荒れてきそうな視線だ。流石好感度-100は伊達じゃないっ!

「い、いえ。あのですね。それには大きな誤解が・・・・」

そこまで言いかけた時、ピロリンと液晶画面が表示される。

バッ馬鹿ッ!な・・・何でこんな時に選択肢が現れるのよっ!きっとまともな選択肢しか出てこないはず・・・っ!

『攻略キャラが何やら激怒しています。何と答えますか?』

ああ・・とうとう恐れていた事態が・・・。
私は覚悟を決めて、次の選択肢を待つことにした。

1 ついにバレてしまいましたか
2 これには大きな理由が・・・
3 少しくらいいいじゃないですか
4 実は・・・頼まれたんです

やはり、私の予想通り・・・碌な選択肢が無い。一番無難な答えは2番だろうけど・・・エリオットが納得できる理由をすぐに考えられる自信がない。
仕方が無い・・・。4番を選んで・・・トビーに犠牲になってもらおう!
一応仮にも彼はリーダーなのだから、・従業員達を命に代えて?でも守る必要があるのだっ!

「実は・・・頼まれたんです。」

「頼まれた?誰に?」

うん。やはりそうなるよね。だから私はトビーの名前を口にしようとした瞬間・・。

「俺が頼んだんだよっ!」

ガラリと扉が開かれた—。
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