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第7日目 ワックスがけと隠しイベント

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 液晶画面の音と、セットしておいた目覚まし時計の音で私は目覚める。
・・・今日で7日目か・・。私がこのゲームの世界に入り込んでもう1週間が経過するなんて早いものだ。

「よし、今日も張り切ってメイドの仕事をやりますか!」
元気よく?飛び起きると私は朝の支度を始めた・・・。


「エリス、ちょっと話があるんだけど。」

学食で食器洗いをしていると、不意に背後から声を掛けられた。振り向くとそこに立っていたのは黒髪、おかっぱヘアのカミラだった。

「何か御用でしょうか?」
私は食器を洗いながら返事をした。

「ちょっとっ!人と話をする時はこっちを向きなさいよっ!」

カミラはイライラした様子で話しかけて来る。ヤレヤレ・・・・。
「あの・・・後1時間以内に食器洗いを終わらせないと他の仕事に影響が出てしまうので・・申し訳ありませんが、このままの状態でお話させて下さい。」
手を休めずに言うと、カミラから物凄い殺気を感じる。・・・怖い女性だ・・・。

「わ・・・分かったわ。ならそのまま話を聞きなさい。さっきねえ、アベル様の所へ本日午後お部屋のお掃除に伺いますって言ったら・・何て言われたと思う?」

「さあ・・・。何と言われたのですか?」

「エリス・・・。しらばっくれないでよ!貴女・・・先週アベル様のお部屋のお掃除に行ったらしいじゃないのっ!アベル様はね、これからは貴女に部屋の掃除を頼むって言ったのよっ!何よ・・・新入りの下っ端風情のメイドが・・・よ、よりにもよってナイト様のお部屋の掃除をするなんて・・・っ!」

カミラは言うと、食器洗いをしている私の元へ近付くと見下ろしてきた。

「ふん!チビ女のくせにっ!」

へえ~。こうしてみるとカミラって背が高いんだ・・・。いや、エリスが低すぎるのかな?だけど・・・どう見てもカミラは・・・アベルより背が高いじゃんっ!これじゃ・・アベルには敬遠されるだろうなあ・・・。

「な・・何よっ!さっきから人の事ジロジロ見て・・・。」

「いえ、カミラさんは背が高くて美人でモデルさんの様で羨ましいなと思って、つい見惚れてしまいました。」
心にも無いことを言う。

「あ・・あら、そう?・・・って!お、お世辞なんか言ってもその手には乗らないわよっ!」

照れているのか少しだけ頬を赤く染めたカミラがいる。

「いえいえ、お世辞なんてとんでもないです。本当に思ったことを言っただけですから。実はこの間の週末にブティックへ服を買いに行ったのですが、どれもこれも背の低い私に似合う服が中々見つからなくて・・・。なのでカミラさんが羨ましいですよ。スラリと伸びた手足、美しい姿勢・・・。」
ああ、今の私は完全に二枚舌。我ながらよくもペラペラと口が回るなあ・・・。

「ま、まあ。今回はもういいわ。私は心が広いから・・・許してあげる。じゃあ、仕事頑張んなさいよ。」

私のお世辞ですっかり気を良くしたのか、カミラはご機嫌で去って行った。
ふう・・やっと行ってくれたか。さて。集中力がとぎれてしまったから、ここから先はピッチをあげなくちゃ。何と言ってもこの後は庭掃除とトイレ掃除、それに月に一度のワックスがけの仕事があるので牧場にも行かなければならない。

 何故、牧場に行くのか・・・。
それはこの学園のワックスがけは牛乳でワックスをかけるからだ。学園から南へ2キロほど行った先に小高い丘があり、そこには大きな牧場とミルク工場がある。そしてこの工場で余った牛乳を仕入れ、ワックスがけ作業は新人メイドと男性従業員の2名体制で行う事になっている。そして、その男性従業員と言うのが・・・。


「遅いぞっ!エリスッ!いつまで待たせるんだっ!」

学園の正門前に止めた荷馬車に乗っていたのはダン・スナイダー。男性従業員の中では一番大柄な体躯の持ち主だ。

「す、すみません・・・。こ、これでも急いで・・走ってきた・・・のですが。」
ハーハーと息を吐きながら私はダンに謝罪した。

「全く・・・効率が悪いからそんな事になるんじゃないのか・・。」

ダンはブツブツ言いながらも私に手を差し出した。

「ほら、乗れよ。」

「あ、ありがとうございます・・・。」
手を掴むとグイッと一気に引き上げられ、ダンの隣に座らされた。
うわあ・・・凄い力持ちだ。
「ダンさんは力持ちなんですね。」
思った通りの事を言ったのだが・・・。

「お世辞を言っても何も出てこないからな。それじゃ牧場へ向かうぞ。」

仏頂面で言われてしまった。

私は隣に座っているダンをチラリと見た。
彼はこちらに視線を移すことなく、黙って無言で馬車を走らせている。
ヤレヤレ・・・どうも私はアンとガルシア以外からは嫌われているようだ。
まあ悪役令嬢のエリスだから仕方が無いか。これ以上ダンに話しかけても怒られそうなので黙っていよう。

「おい、エリス。」

不意にダンが話しかけて来た。

「はい、何でしょうか?」

「黙ってないで何か話せ。」

「え・・・?話していいんですか?」

「ああ。隣で黙っていられると息が詰まる。」

「ええ?!そうなんですか?私はてっきり・・・話しかけられるのが嫌いなタイプだとばかり思っていました。」

「勝手に人を判断するな。」

相変わらず目線を合わさずにダンは言う。
「ダンさん・・・だって私の事嫌いなんじゃないですか?」

「別にお前に対してスキも嫌いの感情等何も持ち合わせていないが?」

相変わらずの口調で話すダン。
「え~そうなんですか?だって一度も私と視線を合わせないので、てっきり嫌われてると思いましたけど?」

「視線を合わせないのは、今俺は馬車を走らせているからだ。」

「本日待ち合わせ場所に着いた時・・・かなり私に怒ってらっしゃるようでしたが?」

「別に怒っちゃいない。この強面の顔はもともとだ。」

「あ・・・自分で強面と思ってらっしゃるんですねえ・・・。」

「当たり前だ。それでよく学園の女子学生達に怖がられている。待ったく・・俺は何もしていないのに。」

面白くなさそうに言う。

「なら、笑ってみてはいかがですか?」

「何も面白くないのに笑えるか。」

う~ん・・・中々頑固な男性だ。
「それを言ったら元も子もないじゃないですか。口角を上げるだけでいいんですから。ほら、見ていてください。」

私はダンの近くまで寄ると、ダンに顔が見えるような位置で口角を上げて微笑んでみた。

「!」
一瞬驚いた顔をするダン。

「お、おい!危ないじゃ無いかっ!前が見えなくなったら脱線するかもしれないだろう?!」

「あ、すみませんでした。」
・・・大袈裟だなあ・・・。

しかし、そんな事をしている内に馬車は牧場へと着いた。


「はい、それでは今月の納品書ですよ。はい、確かにお渡ししましたよ。」

牧場主さんは年配で白い髭を託した優しそうなお爺さんだった。
そして牛乳を受け取りに来た私を見て驚く。

「おや・・・まさか・・ひょっとしてお嬢さんが牛乳を引き取りに来たのですか?」

「ああ。俺と隣にいるメイドの2人で取りに来た。」

「大丈夫なんですか?この小柄なお嬢さんに牛乳・・・運べるでしょうかねえ。」

「運べようが運べまいが関係無い。ワックスがけの仕事は新人メイドがやる決まりになっているからな。」

ダンは腕組みをしながら言う。え・・・?そんなに多い量なのだろうか?

「わ・・・分かりましたよ。お嬢さん・・・それでは頑張って運んで下さいね。」

牧場主さんは言う。

「あ、あの・・・ちなみに運ぶ牛乳の量は・・・?」

「はい、こちらの容器に入っている牛乳ですよ。」

牧場主さんが示した牛乳は足元に置かれていた牛乳は妙に大きめの容器に入れられている。

「何だか・・・1本当たりの容器が大きくないですか・・・?」

「ええ、そうですね。1本あたり10ガロンになりますが・・・。」

「10ガロンっ?!」
そ、そんな・・・リットルでは無くガロン?!そんなの運べっこない!

「ダ・ダンさん・・・。運ぶの・・手伝って貰えますよ・・・・ね?」
おっかなびっくり後ろにいるダンに声をかける。

「何言ってるんだ?エリス。」

「ひえええっ!そ、そうですよね?す、すみませんでしたっ!図々しいお願いをして・・・っ!す、すぐに運びますっ!」

しかし、持ち上げようにもビクともしない。

「おい・・・エリス。何してるんだ?」

ダンが不思議そうな顔をして声を掛けて来た。

「え・・・あのだから・・牛乳を運ぼうと・・・。」

「おまえなあ・・そんなちっこい身体でこの牛乳が運べると思ってるのか?だから今回俺が牛乳を取りに行くのを名乗り出たのに・・・。」

え・・?自分から名乗り出た・・の?

「ほら、俺が全部運ぶから、お前は御者台に座って待ってろ。」

「・・・いいんですか?」

「当たり前だろ、ほら先に乗ってろよ。」

私が御者台に登ると、ダンはあっという間に10ガロンの牛乳を馬車に詰め込んで行く。
そしてダンが少し席を外した時、牧場主がやってきて私にこっそり耳打ちをしてきた。それは・・・すごく意外な話だった。

全ての牛乳を詰め終るとダンが御者台に乗り込んできた。
「よし、それじゃ行くか。」

そしてダンは手綱を持つと、馬車を学園に向けた―。


「ダンさん。」

声を掛けるとダンが言った。

「さん付けはしなくていい。」

「え・・でも・・・。」

「違和感なんだよ。ダンさん。なんて・・・おかしな響きじゃないか。だから今後はさん付けは無しだ。」

「はい、ダン。分かりました。それにしてもダンは見た目怖そうだけど・・・ほんとはすごく優しい人なんですね。」

「・・・俺は別に優しくはないぞ?」

「いえ、優しいですよ。実は・・さっき牧場主さんに聞いたんですけど、今まで10本全ての牛乳を荷台に乗せた男性従業員の方を見るのはダンが初めてだと言ってましたよ。大抵は・・半分はメイドさんに運ばせていたらしいですね。」

「・・・。」

ダンは少しだけ黙っていたが、やがて口を開いた。

「俺は・・・見た目がこうだから、俺の仕事は力作業ばかりなんだ。だからこの程度の仕事に駆り出された事は一度も無かったんだが・・・。この牛乳運びの仕事はくじびきでいつも決めるんだが・・・今回実はお前に対するメイドのやっかみがあって・・わざとあの小柄なニコルにやらせようとしたんだ。だが・・・あいつだってこんな重たい牛乳・・・全て運ぶのは無理だ。だから、俺が名乗り出たんだ。」

「ありがとうございます・・。ダン・。でも・・・何故私なんかの為に・・?」

「お前は・・・伯爵令嬢なのにメイドの仕事を頑張っているし・・・それに楽しそうに仕事をしている姿を見て・・応援したくなった。ただそれだけだ。」

・・・でもその話を聞けただけで私は十分だ。頑張れば・・・ちゃんと見ていてくれる人がいる。だから・・私は頑張れる。

「ありがとうございます、これからも・・・メイドの仕事頑張りますね。」

私が笑顔で言うと・・ダンは一瞬頬を染めて・・視線を逸らすと言った。

「まあ・・・張り切り過ぎて身体を壊さない程度に頑張れよ。」

その後、学園に戻って来た私とダンは手分けして学園中の廊下に牛乳ワックスをかけ・・・全て終了したころにはもう夕方の6時を回っていた。
だが、牛乳が入った容器を持ち歩いてくれたのはダンが全て引き受けてくれるので、私はその分楽をすることが出来た。


全ての作業が終わるとダンが言った。

「よし、頑張ったな。エリス。しかし・・驚いたぞ。エリスは・・・本当に手際がいいんだな。こんなに早くワックスがけが終わったのは初めてだ。いつも夜の7時過ぎ頃になるのに。」

「ダンが重たい牛乳を全て運んでくれたからですよ。」

笑顔で言うと、少しだけダンは顔を赤らめると言った。

「今度から・・・牛乳がけワックスの仕事をする時は俺に声をかけろよ。俺がお前に付いて行ってやるから。」

そう言って、初めてダンは口角を上げて笑った。
それは・・素敵な笑顔だった。


そして、次の瞬間ダンの頭上には好感度を示すハートのゲージと液晶画面が表示された。


『隠しイベント攻略成功おめでとうございます。攻略対象にダン・スナイダーが追加されました。この調子で攻略対象を増やして下さい。攻略対象が増えればゲームを有利に進める事が可能となります。』



第7日目終了—

メイドレベルが12に上がりました。
新らしいスキル『食器洗い』を手に入れました。
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