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第5日目 初めての休日 —後編—
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「いいえ、お役に立てて光栄です。それではお買い物をお楽しみ下さい。では私はこれで失礼致します。」
「待て、エリス。」
頭を下げて立ち去ろうとすると何故かフレッドから呼び止められた。
「はい・・・?何でしょうか・・・?」
「あ・・?い、いや・・・。」
何故か私を呼び止めてフレッドの方が戸惑いの顔を浮かべている。
「あ・・い、今までのエリスだったら色々と理由を付けてしつこく俺に付きまとっていたからな。・・・。それなのに今のお前はあっさり俺の前から去ろうとするから調子を崩して、お前を呼び止めてしまったのかもしれないな。」
本人を前にペラペラと本音を話すフレッド。
う~ん・・・それにしても好感度が上がったと言ってもまだまだ数値はマイナス70。やはり嫌いな人間にはそれなりの態度を取ると言う訳か。
「はい、今までの私とは違いますので、もうしつこく付きまとう事は今後一切致しませんのでご安心下さい。それでは私はこれで失礼致しますね。」
ニッコリ笑ってもう一度頭を下げて、今度こそ立ち去ろうとしたのだが・・。
「悪いが・・買い物に付き合って貰えないだろうか?」
目を伏せてフレッドが私に頼んできた。
「え?わ、私にですか?」
信じられない・・・。ゲームキャラ中、最もエリスを嫌っていたフレッドがエリスに買い物の同伴を頼むなんて・・・・。
するとまたもやピロリンと音楽が鳴って液晶画面が表示される。
『買いものに付き合って貰えないか頼まれました。何と答えますか?』
1 いいですよと笑顔で答える
2 物好きですねと答える
3 まるでデートみたいですねと答える
ひえええっ!何よ、この3番の選択肢は・・。こんな物を選べば私は先ほどの大男のように剣を突き付けられてしまうかもしれない。いや、物好きですねと答えても同じ対応を取られるかもしれない・・・そ、それだけは阻止しなければ・・・。
「ええ、いいですよ。」
私は笑顔で答えるしか無かった・・・。ああ・・本当は自分の買い物をしたかったのに・・・。でもここはフレッドの買い物に付き合って、すぐに退散すれば済むかもしれない。
「そうか・・・それは助かる。実はこの間エリスに言われた・・・オリビアの好きなベルガモットのハーブが欲しいのだが・・・どうも一人でこの店には入りにくくて・・。」
フレッドがチラリと店の中を覗きこむのを見て合点がいった。ああ・・・確かに中には女性客で溢れかえっている。この中に学園のアイドルとも呼べる『白銀のナイト』のフレッドが1人では入れないだろう。かと言って・・・私と2人で入っても目立つ事間違いない。
「あの・・・差し支えなければ私が替わりにお店の中で買物をしてきましょうか?」
「ええ?いいのか?」
「はい、いいですよ。私も何か買い物をしたいと思っておりましたので・・・。」
「そ、それでは・・・幾らぐらい金があれば足りそうだ?」
「う~ん・・・そうですね・・・。3000コインもあれば足りると思いますけど・・・?」
「よし、分かった!3000コインだな!」
フレッドは財布から3000コインを取り出すといきなり預けて来た。
「頼むっ!彼女が・・・オリビアが好みそうな商品を吟味して買って来てくれ。」
「はい、お任せください。」
私はニコリと笑って店内へと足を踏み入れた—。
店内は所狭しと学園に通う女子学生達で溢れかえっていた。しかし、幸い?な事に誰1人として私があの『エリス』だと気付く人はいなかった。よしよし、これなら無事に買い物を済ませる事が出来そうだ。
ゲーム中、ヒーロー達のヒロインに対する好感度が上がってくると、プレゼントを貰えるイベントが発生する。その時にヒロインの好きなプレゼント一覧で、この店で売られているベルガモットの香りのボディクリームがランクインされていたっけ・・・。
早速ヒロイン、オリビアの好きなボディクリームをゲットし、後は自分へのプレゼント?としてローズヒップティーを買う事にした。
その二つの商品を持ってカウンターへと行く。
「いらっしゃいませ、贈答用でしょうか?」
「あの、このボディークリームはラッピングをお願いします。このハーブティーは自分用なのでラッピングはいりません。あ、会計も別々でお願いしますね。」
そして買い物を無事に済ませ、店内を出ると少し店から離れた木の陰に隠れるようにフレッドが立っていた。ははあ~ん・・・そうとう他の人達に見つかるのが嫌なんだな?
「お待たせいたしました。モリス様。はい、こちらがオリビア様へのプレゼントです。ベルガモットのボディクリームですよ。きっと喜ばれると思います。こちらはおつりです。」
プレゼントとおつりを手渡しながら言った。
「ああ。すまなかった。所で・・・お前は何か買い物出来たのか?」
おつりを受け取りながらフレッドが尋ねて来た。
「ええ、買えました。」
笑顔で答える。
「うん・・・?おつりが多く無いか・・・?」
フレッドが受けとったおつりを見ながら言う。
「いえ?多くはありませんが?」
「いや、だっておかしいだろう?お前の買った品物の代金が引かれていないぞ?」
はあ?いきなり何を言い出すのだろう?
「ちょ、ちょっとお待ちください!何故私がモリス様のお金で自分の買い物をするのですか?自分の物は私の財布からお金を出して買いましたから。」
「あ・・・そうだったのか?俺はてっきり・・・いや以前のエリスだと勝手に人の財布から買い物をしていたからな・・・。」
フレッドがブツブツ言う言葉に私は唖然としてしまった。まさかこのゲーム世界のエリスは泥棒のような真似までしていたのだろうか・・・。
思わず項垂れるとフレッドが声を掛けて来た。
「おい、お前・・・本当に本物のエリスなのか・・?」
「はい。心を入れ替えたエリスです。それでは買い物も終わりましたし・・・失礼致します。」
そして私はまだ何か言いたげなフレッドを残し、さっさとその場を立ち去る事にした。一応念の為にフレッドの好感度を去り際に振り返って確認すると・・・数値の値はマイナス50になっていた—。
「あー。やっぱり1人は落ち着くなあ・・・。」
今、私はブティックで洋服と靴、鞄を買い、本屋さんで立ち読みして気にいった小説を見つけたので、そちらも購入し、今は大通りに面したオープンカフェで本を読みながらカフェオレを飲んでいた。
「それにしてもここがほんとにゲームの世界とはねえ・・・。」
頬杖をつき、町を行き交う人々を見ながらポツリと呟いた。上を見上げれば青空を流れる白い雲。そして木々のざわめき、頬を撫でる爽やかな風・・・。
ん・・・?その時私は通りをブラブラ歩いているジェフリーの姿を発見した。
うわっ!今度はジェフリーだ。どうして攻略対象に出会う確率がこうも高いのだろうか・・・?え・・?嘘・・?こっちに来る・・?
何故かジェフリーはこのカフェ目指して歩いてくる。ど、どうしてよ・・・っ!
咄嗟にメニュー表で顔を隠して俯いていると・・不意に視界が暗くなった。
ん・・?何でだろう・・?見上げると、何故かそこには私を見下ろす様に立っているジェフリーの姿が。
「よお、偶然だな。エリス。」
「は、はい・・・・。ぐ、偶然ですね。ジェフリー様」
挨拶をしながら私はジェフリーの頭の上に浮かぶ好感度のゲージを見る。
数値はこの間と同じマイナス80と変化はしていない。そうか、成程。このバーチャルゲームの世界は攻略対象を放置していても数値は下がらないのか・・・。それなら攻略しやすそうだ。
「うん?何だ?俺の頭の上に何かあるか?」
ジェフリーは自分の頭の上に手をかざしてみるが、当然彼の手には何も触れるものはない。
「お前は今1人なのか?」
ジェフリーは何故か勝手に私の向かい側の席に座りながら話しかけて来る。
え?ちょっと・・・何でそこに座るの?お願いだから休日位、静かに過ごさせて下さい。
「はい。1人でこのお店でお茶を楽しんでいました。」
「・・・1人で楽しいのか?」
「ええ。楽しいですよ。ほら、先程本を買ったんです。とても面白い冒険小説なんですよ。」
すると途端にジェフリーの目が見開かれる。
「え・・?エリス。おまえ・・・その本を読んでいるのか・・・?」
そんな本?一体どういう意味なのだろうか?まさか・・・・随分子供じみた本を読んでいると思われただろうか?
すると・・・。
「凄い偶然だなッ!エリス、俺も・・・その小説が大好きなんだっ!今は3巻まで発売されているんだが、もう次の話が待ちきれなくて・・・っ!」
「そうなんですか。凄い偶然ですね・・・。」
そしてあろう事か、ジェフリーは私がまだ読み終えていなにも関わらず、今発売されている本の内容を全て暴露してしまったのだっ!!
ああ・・・楽しみにしていたのに・・・。
ひとしきり喋り終えたジェフリーが突然言った。
「そうだ!エリスッ!明日1日俺に付き合えっ!」
とんでも無い事を言って来た。
そしてそれと同時に液晶画面が表示される。
『攻略対象に誘われました。何と答えますか?』
1 嫌です、お断りいたします
2 是非、よろしくお願いします
3 お願いです、放っておいて下さい
4 明日は別の用事が・・・
えええ~っ!自分の気持ち的には絶対に1番だ。だけど、ここは乙女ゲームの世界。攻略対象の好感度を上げなければ、ゲームの世界に永遠に閉じ込められる・・と言う事は、私は永遠にメイドの仕事をしなければならない事になる。冗談じゃないっ!仕方ない・・。
「はい、是非よろしくお願いします。」
私は笑顔で心にも無いことを言うのだった・・・。
「所でジェフリー様は何故お1人で行動されていたのですか?」
未だに私の前から立去らないジェフリー。何もしゃべらないのは流石にまずいので私は自分から会話を振ってみた。
「ああっ?!お前・・・それを俺に聞くのかあっ?」
途端に何故か機嫌が悪くなる。え・・・?何かマズイ事を尋ねてしまったのだろうか・・・?
「フンッ!オリビアめ・・・。折角俺が誘いに行ったのに・・・今日もアンディと過ごすだなんて・・・。」
ブチブチ言ってる言葉がばっちり聞こえてしまった。
「そうですか、オリビアさまはスチュアート様と御一緒されたのですね。でも、元気を出してください。確かに・・オリビア様はスチュアート様に夢中の様ですが、ジェフリー様は素敵な方ですから、きっとオリビア様と同じくらい素敵な女性が今に現れてくれますよ。世の中には女性は1人きりではありませんので、もう少し視野を広げてみてはいかがですか・・・?」
と、そこまで言って、ハッとなった。つ、つい・・・職場で同僚の恋愛相談を受けているような感覚で話をしてしまった・・・っ!今の私は嫌われ者のエリス。生意気な女めと怒鳴られてしまうかもしれない!
ジェフリーは呆然とした顔で私を見ていたが・・・。
「おい、エリス。お前・・・。」
「申し訳ございませんっ!
咄嗟に手をついて頭を下げる。
「エリス?」
「すみませんでした!私みたいな人間が偉そうな事を語ってしまい・・・ お気に触ったのなら謝罪致します。申し訳ございませんでしたっ!」
「お、おい。何言ってるんだ。顔を上げろよ。」
ジェフリーは慌てたように声を掛けて来た。
「は、はい・・・?」
そして私は驚愕した。なんとジェフリーの好感度がゼロになっていたのだ。
う・・・うそ・・・?一体何が起こったの?好感度が一気に80もあがるなんて・・・。
その時ピロリンと音が鳴り、液晶画面が表示された。
『おめでとうござます!フリートークモードが大成功しました。これより対象キャラが恋愛モードに入ります。この調子で今後も頑張ってミッションクリアを目指してください。』
そして前回と同様の画面が私の目の前に表示されるのだった。
ええええ?!い、いつの間にフリートークモードに入っていたの?!
「待て、エリス。」
頭を下げて立ち去ろうとすると何故かフレッドから呼び止められた。
「はい・・・?何でしょうか・・・?」
「あ・・?い、いや・・・。」
何故か私を呼び止めてフレッドの方が戸惑いの顔を浮かべている。
「あ・・い、今までのエリスだったら色々と理由を付けてしつこく俺に付きまとっていたからな。・・・。それなのに今のお前はあっさり俺の前から去ろうとするから調子を崩して、お前を呼び止めてしまったのかもしれないな。」
本人を前にペラペラと本音を話すフレッド。
う~ん・・・それにしても好感度が上がったと言ってもまだまだ数値はマイナス70。やはり嫌いな人間にはそれなりの態度を取ると言う訳か。
「はい、今までの私とは違いますので、もうしつこく付きまとう事は今後一切致しませんのでご安心下さい。それでは私はこれで失礼致しますね。」
ニッコリ笑ってもう一度頭を下げて、今度こそ立ち去ろうとしたのだが・・。
「悪いが・・買い物に付き合って貰えないだろうか?」
目を伏せてフレッドが私に頼んできた。
「え?わ、私にですか?」
信じられない・・・。ゲームキャラ中、最もエリスを嫌っていたフレッドがエリスに買い物の同伴を頼むなんて・・・・。
するとまたもやピロリンと音楽が鳴って液晶画面が表示される。
『買いものに付き合って貰えないか頼まれました。何と答えますか?』
1 いいですよと笑顔で答える
2 物好きですねと答える
3 まるでデートみたいですねと答える
ひえええっ!何よ、この3番の選択肢は・・。こんな物を選べば私は先ほどの大男のように剣を突き付けられてしまうかもしれない。いや、物好きですねと答えても同じ対応を取られるかもしれない・・・そ、それだけは阻止しなければ・・・。
「ええ、いいですよ。」
私は笑顔で答えるしか無かった・・・。ああ・・本当は自分の買い物をしたかったのに・・・。でもここはフレッドの買い物に付き合って、すぐに退散すれば済むかもしれない。
「そうか・・・それは助かる。実はこの間エリスに言われた・・・オリビアの好きなベルガモットのハーブが欲しいのだが・・・どうも一人でこの店には入りにくくて・・。」
フレッドがチラリと店の中を覗きこむのを見て合点がいった。ああ・・・確かに中には女性客で溢れかえっている。この中に学園のアイドルとも呼べる『白銀のナイト』のフレッドが1人では入れないだろう。かと言って・・・私と2人で入っても目立つ事間違いない。
「あの・・・差し支えなければ私が替わりにお店の中で買物をしてきましょうか?」
「ええ?いいのか?」
「はい、いいですよ。私も何か買い物をしたいと思っておりましたので・・・。」
「そ、それでは・・・幾らぐらい金があれば足りそうだ?」
「う~ん・・・そうですね・・・。3000コインもあれば足りると思いますけど・・・?」
「よし、分かった!3000コインだな!」
フレッドは財布から3000コインを取り出すといきなり預けて来た。
「頼むっ!彼女が・・・オリビアが好みそうな商品を吟味して買って来てくれ。」
「はい、お任せください。」
私はニコリと笑って店内へと足を踏み入れた—。
店内は所狭しと学園に通う女子学生達で溢れかえっていた。しかし、幸い?な事に誰1人として私があの『エリス』だと気付く人はいなかった。よしよし、これなら無事に買い物を済ませる事が出来そうだ。
ゲーム中、ヒーロー達のヒロインに対する好感度が上がってくると、プレゼントを貰えるイベントが発生する。その時にヒロインの好きなプレゼント一覧で、この店で売られているベルガモットの香りのボディクリームがランクインされていたっけ・・・。
早速ヒロイン、オリビアの好きなボディクリームをゲットし、後は自分へのプレゼント?としてローズヒップティーを買う事にした。
その二つの商品を持ってカウンターへと行く。
「いらっしゃいませ、贈答用でしょうか?」
「あの、このボディークリームはラッピングをお願いします。このハーブティーは自分用なのでラッピングはいりません。あ、会計も別々でお願いしますね。」
そして買い物を無事に済ませ、店内を出ると少し店から離れた木の陰に隠れるようにフレッドが立っていた。ははあ~ん・・・そうとう他の人達に見つかるのが嫌なんだな?
「お待たせいたしました。モリス様。はい、こちらがオリビア様へのプレゼントです。ベルガモットのボディクリームですよ。きっと喜ばれると思います。こちらはおつりです。」
プレゼントとおつりを手渡しながら言った。
「ああ。すまなかった。所で・・・お前は何か買い物出来たのか?」
おつりを受け取りながらフレッドが尋ねて来た。
「ええ、買えました。」
笑顔で答える。
「うん・・・?おつりが多く無いか・・・?」
フレッドが受けとったおつりを見ながら言う。
「いえ?多くはありませんが?」
「いや、だっておかしいだろう?お前の買った品物の代金が引かれていないぞ?」
はあ?いきなり何を言い出すのだろう?
「ちょ、ちょっとお待ちください!何故私がモリス様のお金で自分の買い物をするのですか?自分の物は私の財布からお金を出して買いましたから。」
「あ・・・そうだったのか?俺はてっきり・・・いや以前のエリスだと勝手に人の財布から買い物をしていたからな・・・。」
フレッドがブツブツ言う言葉に私は唖然としてしまった。まさかこのゲーム世界のエリスは泥棒のような真似までしていたのだろうか・・・。
思わず項垂れるとフレッドが声を掛けて来た。
「おい、お前・・・本当に本物のエリスなのか・・?」
「はい。心を入れ替えたエリスです。それでは買い物も終わりましたし・・・失礼致します。」
そして私はまだ何か言いたげなフレッドを残し、さっさとその場を立ち去る事にした。一応念の為にフレッドの好感度を去り際に振り返って確認すると・・・数値の値はマイナス50になっていた—。
「あー。やっぱり1人は落ち着くなあ・・・。」
今、私はブティックで洋服と靴、鞄を買い、本屋さんで立ち読みして気にいった小説を見つけたので、そちらも購入し、今は大通りに面したオープンカフェで本を読みながらカフェオレを飲んでいた。
「それにしてもここがほんとにゲームの世界とはねえ・・・。」
頬杖をつき、町を行き交う人々を見ながらポツリと呟いた。上を見上げれば青空を流れる白い雲。そして木々のざわめき、頬を撫でる爽やかな風・・・。
ん・・・?その時私は通りをブラブラ歩いているジェフリーの姿を発見した。
うわっ!今度はジェフリーだ。どうして攻略対象に出会う確率がこうも高いのだろうか・・・?え・・?嘘・・?こっちに来る・・?
何故かジェフリーはこのカフェ目指して歩いてくる。ど、どうしてよ・・・っ!
咄嗟にメニュー表で顔を隠して俯いていると・・不意に視界が暗くなった。
ん・・?何でだろう・・?見上げると、何故かそこには私を見下ろす様に立っているジェフリーの姿が。
「よお、偶然だな。エリス。」
「は、はい・・・・。ぐ、偶然ですね。ジェフリー様」
挨拶をしながら私はジェフリーの頭の上に浮かぶ好感度のゲージを見る。
数値はこの間と同じマイナス80と変化はしていない。そうか、成程。このバーチャルゲームの世界は攻略対象を放置していても数値は下がらないのか・・・。それなら攻略しやすそうだ。
「うん?何だ?俺の頭の上に何かあるか?」
ジェフリーは自分の頭の上に手をかざしてみるが、当然彼の手には何も触れるものはない。
「お前は今1人なのか?」
ジェフリーは何故か勝手に私の向かい側の席に座りながら話しかけて来る。
え?ちょっと・・・何でそこに座るの?お願いだから休日位、静かに過ごさせて下さい。
「はい。1人でこのお店でお茶を楽しんでいました。」
「・・・1人で楽しいのか?」
「ええ。楽しいですよ。ほら、先程本を買ったんです。とても面白い冒険小説なんですよ。」
すると途端にジェフリーの目が見開かれる。
「え・・?エリス。おまえ・・・その本を読んでいるのか・・・?」
そんな本?一体どういう意味なのだろうか?まさか・・・・随分子供じみた本を読んでいると思われただろうか?
すると・・・。
「凄い偶然だなッ!エリス、俺も・・・その小説が大好きなんだっ!今は3巻まで発売されているんだが、もう次の話が待ちきれなくて・・・っ!」
「そうなんですか。凄い偶然ですね・・・。」
そしてあろう事か、ジェフリーは私がまだ読み終えていなにも関わらず、今発売されている本の内容を全て暴露してしまったのだっ!!
ああ・・・楽しみにしていたのに・・・。
ひとしきり喋り終えたジェフリーが突然言った。
「そうだ!エリスッ!明日1日俺に付き合えっ!」
とんでも無い事を言って来た。
そしてそれと同時に液晶画面が表示される。
『攻略対象に誘われました。何と答えますか?』
1 嫌です、お断りいたします
2 是非、よろしくお願いします
3 お願いです、放っておいて下さい
4 明日は別の用事が・・・
えええ~っ!自分の気持ち的には絶対に1番だ。だけど、ここは乙女ゲームの世界。攻略対象の好感度を上げなければ、ゲームの世界に永遠に閉じ込められる・・と言う事は、私は永遠にメイドの仕事をしなければならない事になる。冗談じゃないっ!仕方ない・・。
「はい、是非よろしくお願いします。」
私は笑顔で心にも無いことを言うのだった・・・。
「所でジェフリー様は何故お1人で行動されていたのですか?」
未だに私の前から立去らないジェフリー。何もしゃべらないのは流石にまずいので私は自分から会話を振ってみた。
「ああっ?!お前・・・それを俺に聞くのかあっ?」
途端に何故か機嫌が悪くなる。え・・・?何かマズイ事を尋ねてしまったのだろうか・・・?
「フンッ!オリビアめ・・・。折角俺が誘いに行ったのに・・・今日もアンディと過ごすだなんて・・・。」
ブチブチ言ってる言葉がばっちり聞こえてしまった。
「そうですか、オリビアさまはスチュアート様と御一緒されたのですね。でも、元気を出してください。確かに・・オリビア様はスチュアート様に夢中の様ですが、ジェフリー様は素敵な方ですから、きっとオリビア様と同じくらい素敵な女性が今に現れてくれますよ。世の中には女性は1人きりではありませんので、もう少し視野を広げてみてはいかがですか・・・?」
と、そこまで言って、ハッとなった。つ、つい・・・職場で同僚の恋愛相談を受けているような感覚で話をしてしまった・・・っ!今の私は嫌われ者のエリス。生意気な女めと怒鳴られてしまうかもしれない!
ジェフリーは呆然とした顔で私を見ていたが・・・。
「おい、エリス。お前・・・。」
「申し訳ございませんっ!
咄嗟に手をついて頭を下げる。
「エリス?」
「すみませんでした!私みたいな人間が偉そうな事を語ってしまい・・・ お気に触ったのなら謝罪致します。申し訳ございませんでしたっ!」
「お、おい。何言ってるんだ。顔を上げろよ。」
ジェフリーは慌てたように声を掛けて来た。
「は、はい・・・?」
そして私は驚愕した。なんとジェフリーの好感度がゼロになっていたのだ。
う・・・うそ・・・?一体何が起こったの?好感度が一気に80もあがるなんて・・・。
その時ピロリンと音が鳴り、液晶画面が表示された。
『おめでとうござます!フリートークモードが大成功しました。これより対象キャラが恋愛モードに入ります。この調子で今後も頑張ってミッションクリアを目指してください。』
そして前回と同様の画面が私の目の前に表示されるのだった。
ええええ?!い、いつの間にフリートークモードに入っていたの?!
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