悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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第2日目スタート

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 ジリジリジリジリ・・・!
う~ん・・・もう朝かあ・・・。もっと眠っていたいのになあ・・。
パチリと目を開けると、そこは見慣れぬ天井。
なんだ、やっぱりこの世界か。てっきり目が覚めたら元の世界かと思っていたんだけどな・・。
私はベッドの中で伸びをするとムクリと起き上がった。

 ベッドから起き上がるとメイド服に着替え、髪の毛は邪魔にならないように後ろで1本の三つ編に結わえ、室内に備え付けの昨夜は気が付かなかった洗面台でバシャバシャ顔を洗う。
次にエリスの私物の化粧水やら乳液を顔にペタペタ塗って鏡を見て思う。
うん、やっぱり化粧しないエリスの方がずっと美人じゃないの。

「えっと、確か階段下に来てと言われてたよね・・・。」
その時、ピロンと音が鳴って私の目の前に液晶画面が表示された。
うわっ!いきなりの不意打ちはやはり驚かされる。

『おはようございます。2日目の朝がやってきました。本日はメイドのお仕事を頑張って下さい。仕事をすればする程、スキルポイントがたまります。スキルポイントがたまるとお部屋の模様替えや、女子力アップ、メイド力アップなどお好みのポイントとしてそれぞれ振り分ける事が可能になります。また、出会う人達に挨拶をすると、何か良い事が起こるかもしれません。それでは本日も頑張って下さい。』

私はまだドキドキする心臓を押さえながらメッセージを呼んだ。
「ふ~ん・・・。スキルポイントか・・・いわゆる経験値と似たようなものなのかな?まあ家事はそれ程嫌いじゃ無いから、メイドの仕事頑張ってみようかな?」

 急いで1階階段下に来てみると、まだアンの姿が見えない。あれ・・・時間間違えたかな?
しかし、それから5分待っても10分待ってもアンが来る様子が見られない。
う~・・・。段々焦れてきた。メイドの仕事なんてきっと沢山あるはずだよね?
それなのに寝坊していても良いのだろうか?
私は駆け足で最上階まで駆け上がり、アンの部屋へ行くとドアをノックした。

「アン!アン!もう時間とっくに過ぎてるけど?!」
それでも起きる気配が無いので、試しにドアノブを回してみるとガチャリと開いた。

「あ・・開いちゃった・・。」
と言うか、こんな事をしている場合では無い。
「アン!起きてるの?!」
ベッドの上はこんもり盛り上がっているし、微かに寝息が聞こえてくる。
やっぱり寝ていたのか・・・。
「アン、アンってば!起きてよ!」
ゆさゆさ揺すぶると、ようやく呻き声が聞こえて、寝ぼけ眼を擦りながらアンがムクリと起き上がって言った。

「あれ・・・どちら様・・?」

「何言ってるの!私、エリスよ。今日からメイドの仕事を教えてくれるんでしょう?」

「あ!そうだった!」

ガバリと布団から起き上がるとアンは言った。

「とりあえず、1階の厨房へ行ってくれる?そこに料理長がいると思うから。」

「え?厨房って何処にあるの?」」

そんな急に厨房って言われても何処にあるか分かるはずが・・・。
そこで再びピロンと音が鳴って液晶画面が表示される。そこに乗っていたのはこの建物の見取り図が載っている。おおっ!これは便利。
見取り図によると厨房は正面玄関から入って一番右手にある部屋のようだ。

「厨房の場所は・・・。」

アンが言いかけたのを制すように私は言った。

「ああ、大丈夫!取り合えず下に降りてみるから!」
私は再び駆け足で階段を駆け下りて厨房へと走り込むと、大柄の天然パーマの青年が調理器具を出している最中で、私とばっちり目が合った。

「あん?何だ?新しいメイドか?」

「お早うございます!本日からこちらでメイドとしてお世話になりますエリス・ベネットと申します。今朝はこちらでお手伝いするように申し付けられましたので、伺いました。どうぞよろしくお願い致します!」
元気よく挨拶してみた。

「うわ・・・朝っぱらからテンションの高い女だな・・・。アンとは全く真逆のタイプだ。でもまあいいか。俺の名前はガルシアだ。ここの料理長をしている。それじゃ早速、そこにある野菜を洗って皮むきをしてくれ。」

ガルシアが指さした先には巨大なザルに入ったジャガイモと玉ねぎ、カブがてんこ盛りに入っていた。
うわ・・・これを全部皮をむいて洗うのね・・・。

「どうした?出来ないのか?」

ガルシアは何処か挑戦的な笑みを浮かべて私を見る。

「いいえ、大丈夫です。やります。」
学生時代はファミレスでアルバイトをしていたのだ。これ位の作業、どうって事は無い。私は腕まくりをすると早速野菜を洗い、黙々と皮むき作業を行っていった・・。


「お・・・終わりました。」
ようやく全ての野菜の皮むきを終えた私は料理長のガルシアに報告した。

「おう!終わったのか!お前、初めての割には中々やるな、どれ。見せて見ろ。」

私は黙ってザルに入った皮をむいた野菜を見せた。

「ふむ・・・。」

ガルシアはその内の1つを手に取り確認している。

「うん・・・よし、いい出来だ!やるじゃないか、え~と・・。」

「エリスです。」

「うん、そうだ。エリスだ。初めての割には上出来だ!よくやった!」

するとピロンと液晶画面が表示された。

『おめでとうございます。初めてのスキルポイントを得られる事が出来ました。このようにしてスキルポイントが得られるので、この調子でお仕事を頑張って沢山スキルポイントを貯めてください。』


『獲得スキルポイント  50』

う~ん・・・。このスキルポイント50と言うのが多いのか、少ないのか今の段階ではちっとも分からない。取りあえずはメイドの仕事を頑張っていくしかないかな・・。そこまで考えて私はある事に気が付いた。

「あの、ガルシアさん!アンはどうしたんですか?!」

「ああ・・・アンか・・?あいつ、今日もサボりか・・?」

へ・・・サボり・・?

「あいつはな、仕事をさぼってばかりなんだよ。ただでさえこの学院で働いている人間は少ないって言うのに、アイツは不真面目でサボる事ばかり考えていて・・・。あんた・・エリスだっけ?この学院にはな、本当に働いている従業員が少なすぎるんだよ・・・。雇ってもすぐに皆辞めちまうし・・・。まあ、エリスは真面目そうだから、せいぜい辞めないように頑張ってくれよな?」

最期に背中をバンバン叩かれてしまった。

 そんなにこの学院は従業員がいないのか。まさにブラック企業と言う訳か。でも何故働いている従業員が少ないのかな・・・・?
ガルシアには辞めないように頑張ってくれと言われたが、こちらは辞めたくてもやめられない事情があるのだから、耐えるしかないだろう。
 となると・・・スキルポイントを振り分けるにはやはりメイド力だろうな。恐らくメイド力のスキルが上がれば、より効率的に作業をこなす事が可能そうだし。

 しかし、困ったな・・・。アンが仕事をさぼって行方不明なら次の仕事をどうすればいいのかがさっぱり分からない。そう思っていた矢先に再び液晶画面が表示される。

『本日のお仕事メニュー』

 1 リネンの洗濯
 2 学食の食器の後片付け
 3 校舎の掃除
 4 庭掃除        

これ等を効率的に終わらせましょう。

ひえええっ!こ、これを今日全てやらないとならない訳?!何と無謀な・・・!

「おい?どうした?さっきから難しい顔をしたり、困った顔をしたり・・・何かあったのか?」

ガルシアが心配そうに声をかけてくる。

「い、いえ。大丈夫です。なんでもありませんから。ところでガルシアさん、リネン室は何処にありますか?」

「リネン室なら隣にあるが・・・ああ、分かった!洗濯をするんだな?」

「はい、これもメイドのお仕事ですから。」

「リネン室なら隣だ。恐らく籠の中に洗濯物がたまっているはずだから、頑張れよ。」

「はい、分かりました。」
頑張る・・・?何を頑張るのだろう?



「え・・・・。」
リネン室へとやってきた私は山積みになっているリネンに言葉を無くしていた。
どうすればこんなにためこんでいるのだろうか?それに洗濯方法はどうするのだろう。まさか・・・洗濯板で1枚1枚手洗いをするのだろうか?!
呆然と立ち尽くしていると、ようやくアンがやってきた。

「あれ、どうしたの?エリス。こんな所で。」

何とも呑気に声をかけて来る。

「こんな所でも何も・・・・これを全部洗濯しないといけないんでしょう?私、洗濯の仕方がわからないんだけど。やっぱり洗濯板で洗剤つけて、ゴシゴシ手洗いするの?」

「え?洗濯板?手洗?一体何の話し?」

アンはキョトンとした顔をしている。

「え・・・?だから洗濯の方法を・・・。」

「ああ、そうか。エリスは洗濯の方法を知らないんだね?それじゃ教えてあげる。そこのリネンが入った籠を持ってきてくる?」

アンは籠を一つ抱えると言った。

「う、うん・・・。」
私も籠を抱えてアンの後に付いていくと、何故か外に出て行く。一体何処へ行くのだろう・・・?
するとアンは建物の裏手に周ると、そこには井戸らしき物があった。
え?!ま、まさかこの井戸で洗うの?!

「どうしたの?早くおいでよ。」

躊躇している私をふしぎそうに見ながらアンは声をかけてきた。
しぶしぶ私はアンの近くへ行き、井戸を覗き・・・ん?こ、これは・・・・・井戸じゃない!
井戸だと思っていたのに、中を覗くと水がグルグルグルグルと渦を巻いて回転している。それはまるで洗濯機のようだった。

「ア、アン・・・これは・・・?」
私は洗濯機?を指差して傍らにいるアンに尋ねた。

「うん、この中に洗濯物を入れて洗濯するんだけど・・・ねえ、もしかすると知らなかったの?こんなの一般的な物だけど・・・?」

「あ、ハハハ・・・。洗濯は洗濯板で洗ってたから・・・。」 
咄嗟に笑って誤魔化す。

「へ~未だにそんな原始的な洗濯してる人がいたんだ・・・。」

「げ、原始的・・・。」
まさか、ハイテクな世界で生きてきた私がファンタジー世界の住人に原始的と言われるとは・・・。
「それで、ただ中に入れるだけでいいの?」
気を取り直してアンに尋ねる。

「うん、そう。ここに洗濯物を全部入れて。ほら。ここにつまみがあるでしょう?大体2時間位に設定すれば、洗濯物が終わっているから。」

「脱水とかは?」

「脱水?」

「つ、つまり、洗った洗濯物を絞るとか・・・。」

「そんな必要無いよ。だって洗い終わったら乾かしもしてくれるもの。」

ええっ?!な、なんて便利なのだろう・・・。そんなに便利なら何故あれ程洗濯物がたまっていたのだろうか・・・。
私がチラリとアンを見ると、私の言いたい事が伝わったのか、アンは言った。

「私さ・・・低血圧で朝が弱くて起きれないんだよねえ。仕事は多いし、それでリネンがたまっちゃって・・・。」

やれやれ・・・同僚が仕事サボり魔だとは、前途多難だ。けれどもスキルポイントを貯める為に頑張らなければ!
私は闘志を燃やすのだった。
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