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「ふ、ふん。エリス、お前中々やるな・・・。また機会があったらお前とのポーカーに付き合ってやってもいいぞ?」
ジェフリーは腕組みをしながら言う。だ、れ、が、もう一度ポーカーを付き合うだって?冗談じゃない、もう二度とこんな男とはゲームをやりたいとは思わない。大体幾ら何でもエリスの事を嫌っているからだとしても、自分は座り、私には立たせたままポーカーをやらせるなんて人としてどうかと思う。
その時また液晶画面が表示される。
『1 結構ですと答える』
『2 はい、是非もう一度 と笑って答える』
『3 無言で立っている』
ああ・・・ここでも選択しなければならないのね。だとしたらここは・・・。
「はい、是非もう一度。」
私はにっこり笑って答えるのだった。・・・何が悲しくてこんな選択をしなければならないのだろう。
するとジェフリーから意外な提案がされた。
「よし、エリス。本来なら大罪を犯したお前は牢屋に入れておかなければならないのだが、お前は鍵の束が自分の手元に落ちてきたにも関わらず牢屋から逃げ出そうとしなかった。しかも逃げなかった理由が自分が逃げれば、鍵束を無くしてしまった男が罪に問われてしまうのではないかと思ったから・・・だと言ったよな?」
「はい、確かに言いましたが・・・?」
何だろう?この男は一体何が言いたいのだ?
「そこで・・・だ、今回のお前に免じて牢屋行きだけは免除してやる。その代わり・・・。」
ジェフリーは意地悪そうな笑みを浮かべると言った。
やれやれ・・・幾ら好感度を上げたからと言っても所詮は好感度-80の男。
-100だろうが、-80だろうが、冷たい塩対応は当分つづいていくのだろう。
きっとまた嫌みな言葉をぶつけて来るに決まっている。
しかし、ここはぐッと我慢だ。
「明日からお前はこの学院のメイドとして働くのだ。どうせ家族からも絶縁され、行き場を無くしてしまっただろう?特例として学院長がお前をメイドとして置いてやろうと言う事になったんだ。それで俺がお前を信用に値する人間かどうか確認してくるように命じられた訳だ。まあ・・・俺の見立てでは少しはお前を信用しても良いかと判断した。牢屋から出られるのは俺のお陰だからな?ありがたく思えよ?」
おや?少しはそれでも私に対する見立てが変化したようだ・・・・。
そこでまた開きっぱなしのウィンドウに文字が表示される。
『1 メイドなどやれるかと断る』
『2 はい、どうもありがとうございますと言う』
『3 牢屋に戻りたいと言う』
1も2の選択肢もあり得ない。ここは素直に返事をしよう。
「はい、どうもありがとうございます。」
お礼を言って頭を下げるとジェフリーに妙な顔をされた。
「おい・・・お前・・。本気で言ってるのか?普通ならメイドなどやれるかと断る所だろう?」
しまった!選択肢をまちがえてしまっただろうか?
「まあ、いい。お前の様な我儘お嬢様育ちの人間にメイドの仕事が務まるのか・・・今からみものだな。せいぜい頑張って働けよ。使えない人間だと見切られて俺達に牢屋に逆戻りにされないようにな。」
俺達・・・それはきっと恐らくこの学院に通う彼等の事を指しているのだろう。つまりあれだ、私は今後彼等の機嫌を損ねないようにメイドの仕事を務めなければならないと言う訳か。でも牢屋に入れられるよりはずっとマシだ。
「よし、それじゃこの俺が早速案内してやるからついて来い。」
ジェフリーは立ち上がると、私の事を顎でしゃくった。ムカ!いちいち頭にくる態度を取る男だ・・・。私は頭の中でジェフリーの顔を2、3発殴って置いた。
「ここが今日からお前の部屋だ。」
着いた先は学院の職員たちが使う建物の最上階。広さが6畳ほどの部屋だった。
どうやら屋根裏部屋になっているようで、天井の壁が斜めになっている。
へえ~こんな場所があったのか・・・。
部屋の中には備え付けのベッドにタンス、そして小さなテーブルと椅子が2脚置いてある。壁には大きな姿見が埋め込まれていた。
部屋には窓もついているし、殺風景だがカーテンも付いていたので今の私にとっては安値の賃貸住宅のようにも見える。
「どうだ・・・。あまりにも狭くて酷い部屋だからショックで言葉が出ないか?」
私の前に立っていたジェフリーが振り返ると言った。
すると再び私の前に一度は消えていた液晶画面が現れた。
『ここから先はフリートークモードに入ります。相手の機嫌を損ねないように会話をして見ましょう。』
ふ~ん・・。そんなモードがあるのか・・・。なら大丈夫、社会人として培ってきた適応力を発揮してやる!
「いえ、そんな事はありません。今の私にはこの部屋は十分すぎる程素敵です。私のような者の為にこのようなお部屋を用意して頂き、本当に感謝申し上げます。」
深々と頭を下げる。
「な、何いっ?!お・お前・・今何と言った?!」
私の言葉にジェフリーは飛び上がる程大袈裟に驚いた。
「ほ、本気で言ってるのか?本来のお前なら、こんな部屋になど住めるかと言って大暴れするところだろう?」
何故か焦りながらしゃべっているなあ・・・。
「いいえ、先程も申しましたが私は心を入れ替えました。メイドの仕事も誠心誠意を尽くして頑張ります。どうぞよろしくお願い致します。」
頭を下げてジェフリーの好感度のゲージを見るが、ピクリとも動かない。
う~ん・・・この態度では駄目だったか・・・それとも好感度が動くには何か条件があるのだろうか?
「・・・・。」
腕組みをしながら私を睨むような眼つきで見ていたジェフリーはやがて廊下に向かって言った。
「もういい。こっちへ来てくれ。」
おや?誰かいたのだろうか?
そこへ現れたのがエリスと同年代位の少女だった。
茶色の髪の毛は後ろで1つにまとめられ、黒いワンピースに白いエプロンドレスを着けている。どこからどうみてもメイドさんだ。瞳の色は灰色で、陰鬱な表情を浮かべている。
「おい、アン。こいつが明日からお前と一緒に働くメイドのエリスだ。たっぷり仕事を教えて使えるメイドにするんだぞ?」
こ・・・こいつ・・・。今ジェフリーにこいつ呼ばわりされたよ。一体何処まで腹の立つ男なのだろう。やはり好感度-80はだてじゃない。しかし・・・いざこの男の好感度が仮にマックスになった時の対応を見て見たい気もする。
俄然闘志が湧いてきた。見てなさいよ、今に絶対私に屈服させてやるんだから—。
「それじゃ、俺は疲れたからもう部屋へ戻る。」
ジェフリーはそれだけ言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
部屋に残されたのは私とメイドのアンの2人きり。
相変わらずアンは陰鬱な表情で無言で立っている。
「え~と・・・アンさん。これからよろしくお願いします。」
とりあえず挨拶をしてみる。
「・・・でいい。」
するとアンが今にも消え入りそうな声を出した。
「はい?」
最初の言葉が聞き取れなかったので、聞き直してみた。
「アンでいい・・・。敬語も必要無いから。」
「う、うん・・・。よ、よろしくアン。」
「起床時間は朝の5時。まず着替えたら1階の階段下に来て。詳しい事は明日の朝説明するから。こっちに来て。」
アンは手招きして私を呼んだ。
「この廊下を行った突き当りにバス・トイレがあるからそこを使って。」
「それじゃまた明日。」
アンはそれだけ言うと去って部屋を出て行った。一体何所へ行くのだろうと私もドアの外へ出て後姿を見送っていると、隣の部屋へと入って行った。
「なんだ・・・私の隣の部屋だったのか・・・。」
自分の部屋へ戻ると扉をバタンと閉めた。さて・・・今日からここが私の住む場所となるのか・・。しかしこのゲームをクリアするまで、後どの位のミッションがあるのだろうか?
攻略対象は何人いるのか、全員を攻略しなければこの世界から抜けられないのか・・・全く分からない事だらけだ。
「!」
その時、私は重要な事に気が付いた。まだ自分の今の姿を確認していなかったのだ。
ゲームの中のエリスはきつい釣り目に派手な化粧をしていたが・・・実際のエリスはどうなのだろうか?
早速私は壁に埋め込まれている姿見をのぞき込み・・・・絶句した。
まさにそこに映っている私は酷い姿だった。
つりあがった眼にど派手なメイク。目元はこれでもかと言うくらいに真っ青なアイシャドウを塗っているし、真っ赤なグロスはまるで魔女の様だ。頬には何だか薄紫色のパウダーでも乗せているのか妙な具合になっている。元の原型の素顔がこれでは全く分からない。
「な・・・なんて酷いメイクなの・・・。」
思わず顔を背けたくなってしまう。そう言えばずっと顔が妙にひきつるように感じていたのは厚塗りのメイクのせいだったのかもしれない。いつまでもこのようなメイクをしていたら肌がボロボロになるのは目に見えている。
「な、何かメイクを落とせるようなものは・・・。」
しかし、そのようなものは何一つこの部屋には見当たらない。
とりあえず、備え付けのクローゼットを開けて見ると、中にはメイド服と寝間着・・・だろうか?上下のパジャマのような衣類が入っている。
そしてクローゼットの中に大きなボストンバックが入っているのを見つけた。
「これは何だろう・・・?」
ボストンバッグを引っ張り出すと、ファスナーを下げて中身を確認してみる。
衣類や下着、そして洗顔セットが入っていた。これはおそらくエリスの私物なのだろう。
「シャワー・・浴びれるのかな?」
改めて自分の姿をよく見てみる。
金に輝くストレートな髪は、悪役令嬢エリスの自慢である。しかし、それに引き換え来ている服は茶色のみすぼらしいワンピース。まさに囚人が切る衣装だ。
この衣装に着がえさせられた時のエリスの姿が何となく目に浮かぶ。
きっと相当暴れたんだろうな・・・。でも今の私はこんな服はどうだって構わない。
問題はこのメイクである。
エリスは釣り目ではあるが、目鼻立ちははっきりしているし唇だって小さい。
きっとメイクを落とせばきつそうな印象の顔は払拭されるはず・・・。
まずは外見から変えていかないとね。
そして私は着がえの寝間着とお風呂セット?をもって、私はバスルームへと向かった。
中々シャワールームの使い方が分からず、悪戦苦闘しながらシャワーを浴びて部屋へ戻ると早速鏡で今の自分の姿を確認してみる。
「おおっ!これは・・・すごく美人じゃないのっ!」
私は喜びの声を上げた。きつそうな釣り目はメイクのせいだったようだ。濃い厚化粧を落とした後に現れたのは、外見だけならヒロインになれそうな美しいエリスの素顔だったのである。
エリス・・・どうしてこれほど美人だったのにあんなメイクをしていたのかな・・?まあ、別にそんなのはどうでもいいか。何せ明日からはメイドの仕事が待っているのだ。多分メイドと言うからには朝から晩まで働かされるのだろう・・・。体力仕事になりそうだから早めに今夜は休んだ方が良さそうだ。
ベッドサイドには目覚まし時計が置かれていた。時刻は夜の11時。
5時に起床と言われていたので、10分前にセットした。
早速ベッドに潜り込む。うん、少しマットレスは堅いが、これくらいなら全然問題なく眠れる。
「フワア・・・。」
欠伸をすると、私は徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
願わくばこれは全て夢で、目覚めたら自分の部屋でありますように・・・。
ジェフリーは腕組みをしながら言う。だ、れ、が、もう一度ポーカーを付き合うだって?冗談じゃない、もう二度とこんな男とはゲームをやりたいとは思わない。大体幾ら何でもエリスの事を嫌っているからだとしても、自分は座り、私には立たせたままポーカーをやらせるなんて人としてどうかと思う。
その時また液晶画面が表示される。
『1 結構ですと答える』
『2 はい、是非もう一度 と笑って答える』
『3 無言で立っている』
ああ・・・ここでも選択しなければならないのね。だとしたらここは・・・。
「はい、是非もう一度。」
私はにっこり笑って答えるのだった。・・・何が悲しくてこんな選択をしなければならないのだろう。
するとジェフリーから意外な提案がされた。
「よし、エリス。本来なら大罪を犯したお前は牢屋に入れておかなければならないのだが、お前は鍵の束が自分の手元に落ちてきたにも関わらず牢屋から逃げ出そうとしなかった。しかも逃げなかった理由が自分が逃げれば、鍵束を無くしてしまった男が罪に問われてしまうのではないかと思ったから・・・だと言ったよな?」
「はい、確かに言いましたが・・・?」
何だろう?この男は一体何が言いたいのだ?
「そこで・・・だ、今回のお前に免じて牢屋行きだけは免除してやる。その代わり・・・。」
ジェフリーは意地悪そうな笑みを浮かべると言った。
やれやれ・・・幾ら好感度を上げたからと言っても所詮は好感度-80の男。
-100だろうが、-80だろうが、冷たい塩対応は当分つづいていくのだろう。
きっとまた嫌みな言葉をぶつけて来るに決まっている。
しかし、ここはぐッと我慢だ。
「明日からお前はこの学院のメイドとして働くのだ。どうせ家族からも絶縁され、行き場を無くしてしまっただろう?特例として学院長がお前をメイドとして置いてやろうと言う事になったんだ。それで俺がお前を信用に値する人間かどうか確認してくるように命じられた訳だ。まあ・・・俺の見立てでは少しはお前を信用しても良いかと判断した。牢屋から出られるのは俺のお陰だからな?ありがたく思えよ?」
おや?少しはそれでも私に対する見立てが変化したようだ・・・・。
そこでまた開きっぱなしのウィンドウに文字が表示される。
『1 メイドなどやれるかと断る』
『2 はい、どうもありがとうございますと言う』
『3 牢屋に戻りたいと言う』
1も2の選択肢もあり得ない。ここは素直に返事をしよう。
「はい、どうもありがとうございます。」
お礼を言って頭を下げるとジェフリーに妙な顔をされた。
「おい・・・お前・・。本気で言ってるのか?普通ならメイドなどやれるかと断る所だろう?」
しまった!選択肢をまちがえてしまっただろうか?
「まあ、いい。お前の様な我儘お嬢様育ちの人間にメイドの仕事が務まるのか・・・今からみものだな。せいぜい頑張って働けよ。使えない人間だと見切られて俺達に牢屋に逆戻りにされないようにな。」
俺達・・・それはきっと恐らくこの学院に通う彼等の事を指しているのだろう。つまりあれだ、私は今後彼等の機嫌を損ねないようにメイドの仕事を務めなければならないと言う訳か。でも牢屋に入れられるよりはずっとマシだ。
「よし、それじゃこの俺が早速案内してやるからついて来い。」
ジェフリーは立ち上がると、私の事を顎でしゃくった。ムカ!いちいち頭にくる態度を取る男だ・・・。私は頭の中でジェフリーの顔を2、3発殴って置いた。
「ここが今日からお前の部屋だ。」
着いた先は学院の職員たちが使う建物の最上階。広さが6畳ほどの部屋だった。
どうやら屋根裏部屋になっているようで、天井の壁が斜めになっている。
へえ~こんな場所があったのか・・・。
部屋の中には備え付けのベッドにタンス、そして小さなテーブルと椅子が2脚置いてある。壁には大きな姿見が埋め込まれていた。
部屋には窓もついているし、殺風景だがカーテンも付いていたので今の私にとっては安値の賃貸住宅のようにも見える。
「どうだ・・・。あまりにも狭くて酷い部屋だからショックで言葉が出ないか?」
私の前に立っていたジェフリーが振り返ると言った。
すると再び私の前に一度は消えていた液晶画面が現れた。
『ここから先はフリートークモードに入ります。相手の機嫌を損ねないように会話をして見ましょう。』
ふ~ん・・。そんなモードがあるのか・・・。なら大丈夫、社会人として培ってきた適応力を発揮してやる!
「いえ、そんな事はありません。今の私にはこの部屋は十分すぎる程素敵です。私のような者の為にこのようなお部屋を用意して頂き、本当に感謝申し上げます。」
深々と頭を下げる。
「な、何いっ?!お・お前・・今何と言った?!」
私の言葉にジェフリーは飛び上がる程大袈裟に驚いた。
「ほ、本気で言ってるのか?本来のお前なら、こんな部屋になど住めるかと言って大暴れするところだろう?」
何故か焦りながらしゃべっているなあ・・・。
「いいえ、先程も申しましたが私は心を入れ替えました。メイドの仕事も誠心誠意を尽くして頑張ります。どうぞよろしくお願い致します。」
頭を下げてジェフリーの好感度のゲージを見るが、ピクリとも動かない。
う~ん・・・この態度では駄目だったか・・・それとも好感度が動くには何か条件があるのだろうか?
「・・・・。」
腕組みをしながら私を睨むような眼つきで見ていたジェフリーはやがて廊下に向かって言った。
「もういい。こっちへ来てくれ。」
おや?誰かいたのだろうか?
そこへ現れたのがエリスと同年代位の少女だった。
茶色の髪の毛は後ろで1つにまとめられ、黒いワンピースに白いエプロンドレスを着けている。どこからどうみてもメイドさんだ。瞳の色は灰色で、陰鬱な表情を浮かべている。
「おい、アン。こいつが明日からお前と一緒に働くメイドのエリスだ。たっぷり仕事を教えて使えるメイドにするんだぞ?」
こ・・・こいつ・・・。今ジェフリーにこいつ呼ばわりされたよ。一体何処まで腹の立つ男なのだろう。やはり好感度-80はだてじゃない。しかし・・・いざこの男の好感度が仮にマックスになった時の対応を見て見たい気もする。
俄然闘志が湧いてきた。見てなさいよ、今に絶対私に屈服させてやるんだから—。
「それじゃ、俺は疲れたからもう部屋へ戻る。」
ジェフリーはそれだけ言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
部屋に残されたのは私とメイドのアンの2人きり。
相変わらずアンは陰鬱な表情で無言で立っている。
「え~と・・・アンさん。これからよろしくお願いします。」
とりあえず挨拶をしてみる。
「・・・でいい。」
するとアンが今にも消え入りそうな声を出した。
「はい?」
最初の言葉が聞き取れなかったので、聞き直してみた。
「アンでいい・・・。敬語も必要無いから。」
「う、うん・・・。よ、よろしくアン。」
「起床時間は朝の5時。まず着替えたら1階の階段下に来て。詳しい事は明日の朝説明するから。こっちに来て。」
アンは手招きして私を呼んだ。
「この廊下を行った突き当りにバス・トイレがあるからそこを使って。」
「それじゃまた明日。」
アンはそれだけ言うと去って部屋を出て行った。一体何所へ行くのだろうと私もドアの外へ出て後姿を見送っていると、隣の部屋へと入って行った。
「なんだ・・・私の隣の部屋だったのか・・・。」
自分の部屋へ戻ると扉をバタンと閉めた。さて・・・今日からここが私の住む場所となるのか・・。しかしこのゲームをクリアするまで、後どの位のミッションがあるのだろうか?
攻略対象は何人いるのか、全員を攻略しなければこの世界から抜けられないのか・・・全く分からない事だらけだ。
「!」
その時、私は重要な事に気が付いた。まだ自分の今の姿を確認していなかったのだ。
ゲームの中のエリスはきつい釣り目に派手な化粧をしていたが・・・実際のエリスはどうなのだろうか?
早速私は壁に埋め込まれている姿見をのぞき込み・・・・絶句した。
まさにそこに映っている私は酷い姿だった。
つりあがった眼にど派手なメイク。目元はこれでもかと言うくらいに真っ青なアイシャドウを塗っているし、真っ赤なグロスはまるで魔女の様だ。頬には何だか薄紫色のパウダーでも乗せているのか妙な具合になっている。元の原型の素顔がこれでは全く分からない。
「な・・・なんて酷いメイクなの・・・。」
思わず顔を背けたくなってしまう。そう言えばずっと顔が妙にひきつるように感じていたのは厚塗りのメイクのせいだったのかもしれない。いつまでもこのようなメイクをしていたら肌がボロボロになるのは目に見えている。
「な、何かメイクを落とせるようなものは・・・。」
しかし、そのようなものは何一つこの部屋には見当たらない。
とりあえず、備え付けのクローゼットを開けて見ると、中にはメイド服と寝間着・・・だろうか?上下のパジャマのような衣類が入っている。
そしてクローゼットの中に大きなボストンバックが入っているのを見つけた。
「これは何だろう・・・?」
ボストンバッグを引っ張り出すと、ファスナーを下げて中身を確認してみる。
衣類や下着、そして洗顔セットが入っていた。これはおそらくエリスの私物なのだろう。
「シャワー・・浴びれるのかな?」
改めて自分の姿をよく見てみる。
金に輝くストレートな髪は、悪役令嬢エリスの自慢である。しかし、それに引き換え来ている服は茶色のみすぼらしいワンピース。まさに囚人が切る衣装だ。
この衣装に着がえさせられた時のエリスの姿が何となく目に浮かぶ。
きっと相当暴れたんだろうな・・・。でも今の私はこんな服はどうだって構わない。
問題はこのメイクである。
エリスは釣り目ではあるが、目鼻立ちははっきりしているし唇だって小さい。
きっとメイクを落とせばきつそうな印象の顔は払拭されるはず・・・。
まずは外見から変えていかないとね。
そして私は着がえの寝間着とお風呂セット?をもって、私はバスルームへと向かった。
中々シャワールームの使い方が分からず、悪戦苦闘しながらシャワーを浴びて部屋へ戻ると早速鏡で今の自分の姿を確認してみる。
「おおっ!これは・・・すごく美人じゃないのっ!」
私は喜びの声を上げた。きつそうな釣り目はメイクのせいだったようだ。濃い厚化粧を落とした後に現れたのは、外見だけならヒロインになれそうな美しいエリスの素顔だったのである。
エリス・・・どうしてこれほど美人だったのにあんなメイクをしていたのかな・・?まあ、別にそんなのはどうでもいいか。何せ明日からはメイドの仕事が待っているのだ。多分メイドと言うからには朝から晩まで働かされるのだろう・・・。体力仕事になりそうだから早めに今夜は休んだ方が良さそうだ。
ベッドサイドには目覚まし時計が置かれていた。時刻は夜の11時。
5時に起床と言われていたので、10分前にセットした。
早速ベッドに潜り込む。うん、少しマットレスは堅いが、これくらいなら全然問題なく眠れる。
「フワア・・・。」
欠伸をすると、私は徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
願わくばこれは全て夢で、目覚めたら自分の部屋でありますように・・・。
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