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ミッション 2 好感度を10上げろ (イラスト有り)
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「さて、エリス・ベネット。お前は何故自分が牢屋に入れられたのかは当然分かっているのだろうな?」
連れてこられた部屋は妙に殺風景な部屋だった。家具と言えば、私の目の前にいる攻略対象の一人、ジェフリー・ホワイトが座っている椅子に、さらに横柄な態度で両足を乗せている机のみ。
但し、天井には無駄に立派なシャンデリアが取り付けてあり、部屋の中を明るく照らしている。
そして私は彼の前に必然的に立たされている格好になっている。
ああ・・・ゲームの世界ではスポーツマンタイプの爽やか好青年だったのに、自分が大嫌いなキャラ「エリス」の前ではこんなに横柄な態度を取っていたのね・・。これじゃあのプライドの高いエリスにとっては屈辱的で許せないはずだろう。正直、こんな態度を取られては流石の私も何か一言位言ってやりたくなる。
するとピロンと音が鳴り、再び目の前に液晶画面が表示された。一瞬驚きそうになったが何とか持ちこたえた。
うん、多分そうなると思っていたよ。だって、一応目の前の男は攻略対象だものね。だけど、実際はこんな男を攻略したいとは微塵も思えないのだが。
「おい、どうした?黙っていないで何とか答えろ!」
ダンッ!とテーブルを思い切り叩くジェフリー。思わずその音の大きさにビクリとする。そんな事言われても仕方が無いじゃないのよ。まだ選択肢の文字が表示されないんだから。
私は焦れながら言葉が表示されるのを待った。
やがて、現れた選択肢は・・・。
『1 だんまりを決める』
『2 分かりませんと答える』
えええ?!何よ、この2つしか選択肢が無いの?!どれを選んでも相手の神経を逆なでするような物じゃ無いのっ!
思わず選べずに黙っていると、ピッと音が鳴り、何と勝手に選択肢1番が選ばれてしまった。
ちょ、ちょっと待ってよっ!滅茶苦茶焦る私。
「ほう・・・そうやってだんまりを決め込むのか・・・。まあ、当然だろう。お前はあまりにも自分の犯した罪が多すぎて答えきれないのだろう?」
ジェフリーが意地悪そうな笑みを浮かべて私を見る。
え?何この人。私、何もしゃべったりしていないのに、勝手に納得しちゃってるよ。
すると再び表示されっぱなしのウィンドウに文字が現れる。
『ミッション2 攻略対象の好感度を10上げろ』
え・・・。今目の前にいるこの生意気そうな男の好感度を10上げろって言うの?
私はちらりとジェフリーの頭の上のハートを見る。ハートの色はブルーで数値はまさかのマイナス100。こんなに敵意むき出しの攻略対象の好感度を一気に10も上げるなんて出来るのだろうか?ああ・・・せめて-100ではなく、0だったらどんなにか良かったたのに。-100ではまともに話も付き合ってくれそうにないしなあ・・・。
「おい?エリス。まだだんまりを決め込むつもりか?まあ、お前がそこまで強情な態度を取り続ける限りはずっとあの牢屋に入れておいてもいいのだぞ?どのみちお前は既に両親から絶縁されてしまったのだからな。ククク・・・。」
演技がかった笑いで悪役令嬢「エリス」を馬鹿にして挑発しているのだろうが、残念。私は見た目は「エリス」だが、中身は全くの別人なのだよ?
だからここは冷静に対処しなくては・・・。
なのに・・・え?どうして?ミッションが出た切り、何も選択肢が表示されない。もしや今度は選択肢では無く先程の牢屋で発生したミッションと同様。脱出ゲーム的な要素で攻略しろと言うのだろうか・・・?
私はジェフリーに怪しまれないように視線だけをキョロキョロ動かした。
何か・・・何かこの状況を突破できるようなアイテムは・・?
「おい?さっきから何だかお前、落ち着かない様子だが一体どうしたと言うのだ?」
ジェフリーが首を傾げてこちらを見ている。マズイ!このままでは怪しまれる!
その時ジェフリーの上着の胸ポケットにカードケースが入っているのが目に止まった。
「あの、ジェフリー様。ひょっとすると胸ポケットに入っているのはトランプではありませんか?」
「あ、ああ。そうだ、良く分かったな。」
ジェフリーはポケットからトランプを取り出すと言った。
「俺はポーカーがやりたくてたまらないのに、何故か皆俺が誘っても忙しいからとか何とか言って逃げていくんだ・・・。」
つまらなそうにジェフリーは言った。それはそうだろう、このジェフリーという男はポーカーが滅茶苦茶弱いくせに、大好きなのだ。だからこそ質が悪い。
自分が負ければ腹を立てるし、勝てれば喜ぶ。だがこちらがゲームを早く終わらせたい為にわざと負ける様ならば途端に彼の逆鱗に触れてしまう。
だから彼を怒らせない為には、わざとギリギリのラインで勝ち負けを繰り返し
最後に彼が決めの一手で勝負に勝てればジェフリーの機嫌を損ねる事無くゲームを終わらせる事が出来るのだ。
よし、ならば・・・。
「ジェフリー様。もしよろしければ私がポーカーのお相手を致しましょうか?」
私は実はポーカーが得意中の得意なのである。相手がどんなカードを持っているのかおおよその見当を付ける事が出来る為、ジェフリーとほぼ大差なく勝ち続け、ラストゲームで彼に見事な役で勝たせる事位造作ない。でも・・・これで好感度を上げる事が本当に可能なのだろうか?
大体、ジェフリーはプライドの高い男だ。そして特に「エリス」を嫌っていた。
大嫌いな女とポーカーをするとはあまり思えないのだが、今の私にはこの方法しか思いつかなかった。
「何?お前とポーカーを俺がやるだと?」
案の定、ジェフリーはジロリと私を横目で睨みつけるように言った。
「フン!ふざけるな。いくら俺がポーカーが好きでも、お前のような奴と一緒にやるとでも思っているのか?」
腕組みをしながら言う。
あ・・・やっぱりね。うん、絶対にそう言われると思ったよ。全く・・・。だけど、私にだってこのゲームをクリアして抜け出さない事にはあのゲーム会社に文句を言ってやることも出来ない。
何より、一生このゲームの世界に閉じ込められてしまう事になってしまう。冗談じゃない。それだけは絶対に避けなければいけない。ここは何としても相手をうまくこちらのペースに乗せないと・・・。
「そうでしたか・・・それは残念です。実は私も最近ポーカーを覚えたばかりでまだまだ弱いのですが、このゲームの面白さにすっかりはまっていたのです。聞くところによるとジェフリー様もポーカーがお好きだと言う事だったので、是非一度プレイしてみたいと思ったのですが・・。私のような女とはポーカーなどしたくないですよね・・。」
わざと残念そうな口調で話して、俯いて見せた。
ジェフリーはプライドが高いだけに、少しでも相手が下出に出ると気を許してしまう単純な男なのだ。ある意味では扱いやすい人間でもある。
「う~ん・・・。おい、お前本当に『エリス・ベネット』なのか?今までと比べてあまりにも性格が違い過ぎるのだが・・・。牢屋に入れられ、暴れた直後に急に倒れたと聞いていたが・・・。原因はそれか?頭でも強く打っておかしくなったのか?」
ジェフリーは無遠慮に上から下までジロジロと私を見ながら言った。
「・・・そうですね。頭を打ってから正気に目覚めたのかもしれません。今までの自分を反省し、これからは誰の事も傷つけないようにひっそり目立たず、優しい人間になろうと思います。」
私が言うと、何故かジェフリーは肩を震わせている。
「ジェフリー様・・?」
「プッ!ハッハッハッ!!」
次の瞬間ジェフリーは大声で笑い始めた。
「お、お前がひっそり目立たず、優しい人間になるだって?そんな事出来るわけが無いだろう!ハハハッ!あ~苦しいっ!笑わせるな、冗談だろう?!」
私はジェフリーの笑いがやむまでじっと堪えた。
全く失礼な男だ。いくら何でも笑い過ぎでは無いだろうか?本物のエリスだったら、完全に切れて暴れているんだろうなあ・・・・。
暫く目の前の男はお腹を押さえて笑っていたが、ようやく笑いが止まったのか私を見上げた。
「うん・・・さっき言った事はどうやら本当だったらしいな?いつものお前なら、大暴れしてヒステリックに喚いていただろう。」
ようやくジェフリーは私の言葉を信じたのか、こちらを向いて机の上に投げ出していた両足を下に降ろした。
「いいだろう。お前の望み通りポーカーに付き合ってやる。貴重な時間をお前ごときに割いてやるのだからありがたく思えよ?」
偉そうに言うと胸ポケットからトランプの入ったカードケースを取り出した。
「それで、ルールはどうする?」
本来、ジェフリーが好んでプレイしていたドローポーカーはチップを使って賭けをしていた。が、ここは学院。賭け事などもっての他であったので、偽造チップを用いて賭けを行って遊んでいたのだ。しかし、使い道のない偽造チップを用いて迄本格的なポーカーをやりたかったのだろうか?どうにも私には理解出来ない。
「そうですね・・・。こちらにはチップもありませんし、何よりジェフリー様の貴重な時間を長時間割いてしまうのもご迷惑でしょうから・・・簡略化したポーカーでプレイしませんか?3回カードを交換して、その時持っていた手札が相手より強ければ勝ちというルールはいかかですか?そうですね・・・10回勝負でいきましょう。」
「よし、それでいいだろう。」
ジェフリーが私の提案に乗った!
「では・・・カードを切って配るぞ。」
言うとジェフリーはカードを取り出すと、おぼつかない手つきでカードを切り始めた。う・・・ま、まさかカードを切るのもここまで下手だったとは・・・。モタモタと切っていく姿はイライラを通り越して、最早こっけいさを感じる程だ。
そう言えば、ジェフリーというキャラクターは手先が不器用だって設定だったなあ。
「よ、よし・・・切ったぞ。」
ようやく全てのカードを切り終わったジェフリーは5枚ずつカードを配った。
「・・・・。」
「よし、やるか。ん?どうした?」
「い、いえ・・・・別に何でもありません・・・。」
うん、そうか。やはり私には立ったままポーカーをやらせようと言う訳ね。それにしても自分だけ堂々と椅子に座ってやるとは・・・。別に立ってやるのは構わないが、相手を見下ろしながらのカードゲームは何だかやりにくいし、下手したら相手の手札が見えてしまうのですが・・・。
あ~あ・・・なんでこんな男の好感度を上げなければならないのだ。一生-100でもこちらはちっとも構わないのだけど、ゲーム攻略の条件だしなあ・・・。
「よし、それではやるぞ。」
「はい。」
こうして私とジェフリーとのポーカーゲームが始まった・・・。
「よし、俺は5のツーペアだ。」
ジェフリーは揃った手札を見せた。
「私は7のツーペアです。私の勝ちですね。」
揃った手札を見せる。
「くうっ!な・・・なかなかやるな。だが、次はそうはいかんぞ。」
悔しそうに言うジェフリー。
私は心の中で溜息をついた。やれやれ・・・ここまでポーカーが下手だったとは・・たかだか5のツーペアで自慢げに見せるのだから。
「よ、よし。それじゃカードを切ろう・・。」
ジェフリーが手を伸ばしたのを私は止めた。
「お待ちください、ジェフリー様。カードは私が斬らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
貴方の切り方は夜が明けてしまいそうなんだよっ!心の中で思わず毒を吐いてしまう。
「うん?お前が切ると言うのか・・・まさかイカサマをするつもりじゃないだろうな?」
あ・・・心配するのはそこなのね?余程信頼もされていないんだね、私は。
「いいえ、まさか。カードを切るのにジェフリー様のお手を煩わせるのは申し訳ないと思いまして・・・。でも信用出来ないのであれば、私が切った後最後に何回か切って頂いても構いませんが?」
「うん、それならいい。」
腕組みをしながら横柄になずくジェフリー。やれやれ、全く・・・。
私は素早くカードを集めると鮮やかな手つきでカードを切り始めた。実はカードの切り方も自信があり、よくお酒の席等で披露して友人や同僚たちにディーラーになれば?などと勧められたこともあったのだ。
カードを切りながらチラリとジェフリーの反応を見ると、やはりこの男も食い入るように私のカードを切る手さばきを感心したかのように見つめている。
フフン、どうよ。少しは尊敬してくれたかしら?
「さあ、どうぞ。ジェフリー様。カードをお切りください。」
スッと私は切ったカードの山をジェフリーの前に差し出す。
「う、うむ・・・。」
まるで子供の様な手つきでジェフリーはカードを切ると言った。
「よ、よし・・・切ったぞ。」
「はい、ありがとうございます。それではカードを配りますね・・・。」
こうして2回戦が始まった―。
私達はお互い、勝ったり負けたりを繰り返しながらとうとうカードゲームは最終局面の10回目に至った。
ここまでの勝敗結果は私が4回勝ち、ジェフリーは5回勝っている。
後残り1回私が勝てば同点になってしまうが、そんなつもりはさらさらない。
ジェフリーに花を持たせるのだ。しかも今までにない素晴らしい役で—。
私は慎重にカードを配った・・・。
「う・・・うおおおおっ!きた!ついにきたぞ!」
ジェフリーが歓喜して揃った役を私に見せた。
「どうだっ?!キングとエースのフルハウスだっ!」
「お見事です、ジェフリー様。私の完敗ですね。私は9のワンペアでした。」
「や、やった・・・ついに俺は勝った!こんな素晴らしい手札で勝ったのだ!」
え・・・マジですか?
しかし、私はそれを顔に出さずに拍手をして言った。
「素晴らしかったです、ジェフリー様。」
そして彼の頭の上に浮かんでいるハートのゲージを見上げると・・
グググッと青のゲージが減って行き・・・数値は-80になったのだ。
えええっ?!嘘!20も減った!
目の前のジェフリーは嬉しそうに手札を見て笑っている。
再び私の目の前に液晶画面が表示された。
『おめでとうございます!ミッションクリアです。』
連れてこられた部屋は妙に殺風景な部屋だった。家具と言えば、私の目の前にいる攻略対象の一人、ジェフリー・ホワイトが座っている椅子に、さらに横柄な態度で両足を乗せている机のみ。
但し、天井には無駄に立派なシャンデリアが取り付けてあり、部屋の中を明るく照らしている。
そして私は彼の前に必然的に立たされている格好になっている。
ああ・・・ゲームの世界ではスポーツマンタイプの爽やか好青年だったのに、自分が大嫌いなキャラ「エリス」の前ではこんなに横柄な態度を取っていたのね・・。これじゃあのプライドの高いエリスにとっては屈辱的で許せないはずだろう。正直、こんな態度を取られては流石の私も何か一言位言ってやりたくなる。
するとピロンと音が鳴り、再び目の前に液晶画面が表示された。一瞬驚きそうになったが何とか持ちこたえた。
うん、多分そうなると思っていたよ。だって、一応目の前の男は攻略対象だものね。だけど、実際はこんな男を攻略したいとは微塵も思えないのだが。
「おい、どうした?黙っていないで何とか答えろ!」
ダンッ!とテーブルを思い切り叩くジェフリー。思わずその音の大きさにビクリとする。そんな事言われても仕方が無いじゃないのよ。まだ選択肢の文字が表示されないんだから。
私は焦れながら言葉が表示されるのを待った。
やがて、現れた選択肢は・・・。
『1 だんまりを決める』
『2 分かりませんと答える』
えええ?!何よ、この2つしか選択肢が無いの?!どれを選んでも相手の神経を逆なでするような物じゃ無いのっ!
思わず選べずに黙っていると、ピッと音が鳴り、何と勝手に選択肢1番が選ばれてしまった。
ちょ、ちょっと待ってよっ!滅茶苦茶焦る私。
「ほう・・・そうやってだんまりを決め込むのか・・・。まあ、当然だろう。お前はあまりにも自分の犯した罪が多すぎて答えきれないのだろう?」
ジェフリーが意地悪そうな笑みを浮かべて私を見る。
え?何この人。私、何もしゃべったりしていないのに、勝手に納得しちゃってるよ。
すると再び表示されっぱなしのウィンドウに文字が現れる。
『ミッション2 攻略対象の好感度を10上げろ』
え・・・。今目の前にいるこの生意気そうな男の好感度を10上げろって言うの?
私はちらりとジェフリーの頭の上のハートを見る。ハートの色はブルーで数値はまさかのマイナス100。こんなに敵意むき出しの攻略対象の好感度を一気に10も上げるなんて出来るのだろうか?ああ・・・せめて-100ではなく、0だったらどんなにか良かったたのに。-100ではまともに話も付き合ってくれそうにないしなあ・・・。
「おい?エリス。まだだんまりを決め込むつもりか?まあ、お前がそこまで強情な態度を取り続ける限りはずっとあの牢屋に入れておいてもいいのだぞ?どのみちお前は既に両親から絶縁されてしまったのだからな。ククク・・・。」
演技がかった笑いで悪役令嬢「エリス」を馬鹿にして挑発しているのだろうが、残念。私は見た目は「エリス」だが、中身は全くの別人なのだよ?
だからここは冷静に対処しなくては・・・。
なのに・・・え?どうして?ミッションが出た切り、何も選択肢が表示されない。もしや今度は選択肢では無く先程の牢屋で発生したミッションと同様。脱出ゲーム的な要素で攻略しろと言うのだろうか・・・?
私はジェフリーに怪しまれないように視線だけをキョロキョロ動かした。
何か・・・何かこの状況を突破できるようなアイテムは・・?
「おい?さっきから何だかお前、落ち着かない様子だが一体どうしたと言うのだ?」
ジェフリーが首を傾げてこちらを見ている。マズイ!このままでは怪しまれる!
その時ジェフリーの上着の胸ポケットにカードケースが入っているのが目に止まった。
「あの、ジェフリー様。ひょっとすると胸ポケットに入っているのはトランプではありませんか?」
「あ、ああ。そうだ、良く分かったな。」
ジェフリーはポケットからトランプを取り出すと言った。
「俺はポーカーがやりたくてたまらないのに、何故か皆俺が誘っても忙しいからとか何とか言って逃げていくんだ・・・。」
つまらなそうにジェフリーは言った。それはそうだろう、このジェフリーという男はポーカーが滅茶苦茶弱いくせに、大好きなのだ。だからこそ質が悪い。
自分が負ければ腹を立てるし、勝てれば喜ぶ。だがこちらがゲームを早く終わらせたい為にわざと負ける様ならば途端に彼の逆鱗に触れてしまう。
だから彼を怒らせない為には、わざとギリギリのラインで勝ち負けを繰り返し
最後に彼が決めの一手で勝負に勝てればジェフリーの機嫌を損ねる事無くゲームを終わらせる事が出来るのだ。
よし、ならば・・・。
「ジェフリー様。もしよろしければ私がポーカーのお相手を致しましょうか?」
私は実はポーカーが得意中の得意なのである。相手がどんなカードを持っているのかおおよその見当を付ける事が出来る為、ジェフリーとほぼ大差なく勝ち続け、ラストゲームで彼に見事な役で勝たせる事位造作ない。でも・・・これで好感度を上げる事が本当に可能なのだろうか?
大体、ジェフリーはプライドの高い男だ。そして特に「エリス」を嫌っていた。
大嫌いな女とポーカーをするとはあまり思えないのだが、今の私にはこの方法しか思いつかなかった。
「何?お前とポーカーを俺がやるだと?」
案の定、ジェフリーはジロリと私を横目で睨みつけるように言った。
「フン!ふざけるな。いくら俺がポーカーが好きでも、お前のような奴と一緒にやるとでも思っているのか?」
腕組みをしながら言う。
あ・・・やっぱりね。うん、絶対にそう言われると思ったよ。全く・・・。だけど、私にだってこのゲームをクリアして抜け出さない事にはあのゲーム会社に文句を言ってやることも出来ない。
何より、一生このゲームの世界に閉じ込められてしまう事になってしまう。冗談じゃない。それだけは絶対に避けなければいけない。ここは何としても相手をうまくこちらのペースに乗せないと・・・。
「そうでしたか・・・それは残念です。実は私も最近ポーカーを覚えたばかりでまだまだ弱いのですが、このゲームの面白さにすっかりはまっていたのです。聞くところによるとジェフリー様もポーカーがお好きだと言う事だったので、是非一度プレイしてみたいと思ったのですが・・。私のような女とはポーカーなどしたくないですよね・・。」
わざと残念そうな口調で話して、俯いて見せた。
ジェフリーはプライドが高いだけに、少しでも相手が下出に出ると気を許してしまう単純な男なのだ。ある意味では扱いやすい人間でもある。
「う~ん・・・。おい、お前本当に『エリス・ベネット』なのか?今までと比べてあまりにも性格が違い過ぎるのだが・・・。牢屋に入れられ、暴れた直後に急に倒れたと聞いていたが・・・。原因はそれか?頭でも強く打っておかしくなったのか?」
ジェフリーは無遠慮に上から下までジロジロと私を見ながら言った。
「・・・そうですね。頭を打ってから正気に目覚めたのかもしれません。今までの自分を反省し、これからは誰の事も傷つけないようにひっそり目立たず、優しい人間になろうと思います。」
私が言うと、何故かジェフリーは肩を震わせている。
「ジェフリー様・・?」
「プッ!ハッハッハッ!!」
次の瞬間ジェフリーは大声で笑い始めた。
「お、お前がひっそり目立たず、優しい人間になるだって?そんな事出来るわけが無いだろう!ハハハッ!あ~苦しいっ!笑わせるな、冗談だろう?!」
私はジェフリーの笑いがやむまでじっと堪えた。
全く失礼な男だ。いくら何でも笑い過ぎでは無いだろうか?本物のエリスだったら、完全に切れて暴れているんだろうなあ・・・・。
暫く目の前の男はお腹を押さえて笑っていたが、ようやく笑いが止まったのか私を見上げた。
「うん・・・さっき言った事はどうやら本当だったらしいな?いつものお前なら、大暴れしてヒステリックに喚いていただろう。」
ようやくジェフリーは私の言葉を信じたのか、こちらを向いて机の上に投げ出していた両足を下に降ろした。
「いいだろう。お前の望み通りポーカーに付き合ってやる。貴重な時間をお前ごときに割いてやるのだからありがたく思えよ?」
偉そうに言うと胸ポケットからトランプの入ったカードケースを取り出した。
「それで、ルールはどうする?」
本来、ジェフリーが好んでプレイしていたドローポーカーはチップを使って賭けをしていた。が、ここは学院。賭け事などもっての他であったので、偽造チップを用いて賭けを行って遊んでいたのだ。しかし、使い道のない偽造チップを用いて迄本格的なポーカーをやりたかったのだろうか?どうにも私には理解出来ない。
「そうですね・・・。こちらにはチップもありませんし、何よりジェフリー様の貴重な時間を長時間割いてしまうのもご迷惑でしょうから・・・簡略化したポーカーでプレイしませんか?3回カードを交換して、その時持っていた手札が相手より強ければ勝ちというルールはいかかですか?そうですね・・・10回勝負でいきましょう。」
「よし、それでいいだろう。」
ジェフリーが私の提案に乗った!
「では・・・カードを切って配るぞ。」
言うとジェフリーはカードを取り出すと、おぼつかない手つきでカードを切り始めた。う・・・ま、まさかカードを切るのもここまで下手だったとは・・・。モタモタと切っていく姿はイライラを通り越して、最早こっけいさを感じる程だ。
そう言えば、ジェフリーというキャラクターは手先が不器用だって設定だったなあ。
「よ、よし・・・切ったぞ。」
ようやく全てのカードを切り終わったジェフリーは5枚ずつカードを配った。
「・・・・。」
「よし、やるか。ん?どうした?」
「い、いえ・・・・別に何でもありません・・・。」
うん、そうか。やはり私には立ったままポーカーをやらせようと言う訳ね。それにしても自分だけ堂々と椅子に座ってやるとは・・・。別に立ってやるのは構わないが、相手を見下ろしながらのカードゲームは何だかやりにくいし、下手したら相手の手札が見えてしまうのですが・・・。
あ~あ・・・なんでこんな男の好感度を上げなければならないのだ。一生-100でもこちらはちっとも構わないのだけど、ゲーム攻略の条件だしなあ・・・。
「よし、それではやるぞ。」
「はい。」
こうして私とジェフリーとのポーカーゲームが始まった・・・。
「よし、俺は5のツーペアだ。」
ジェフリーは揃った手札を見せた。
「私は7のツーペアです。私の勝ちですね。」
揃った手札を見せる。
「くうっ!な・・・なかなかやるな。だが、次はそうはいかんぞ。」
悔しそうに言うジェフリー。
私は心の中で溜息をついた。やれやれ・・・ここまでポーカーが下手だったとは・・たかだか5のツーペアで自慢げに見せるのだから。
「よ、よし。それじゃカードを切ろう・・。」
ジェフリーが手を伸ばしたのを私は止めた。
「お待ちください、ジェフリー様。カードは私が斬らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
貴方の切り方は夜が明けてしまいそうなんだよっ!心の中で思わず毒を吐いてしまう。
「うん?お前が切ると言うのか・・・まさかイカサマをするつもりじゃないだろうな?」
あ・・・心配するのはそこなのね?余程信頼もされていないんだね、私は。
「いいえ、まさか。カードを切るのにジェフリー様のお手を煩わせるのは申し訳ないと思いまして・・・。でも信用出来ないのであれば、私が切った後最後に何回か切って頂いても構いませんが?」
「うん、それならいい。」
腕組みをしながら横柄になずくジェフリー。やれやれ、全く・・・。
私は素早くカードを集めると鮮やかな手つきでカードを切り始めた。実はカードの切り方も自信があり、よくお酒の席等で披露して友人や同僚たちにディーラーになれば?などと勧められたこともあったのだ。
カードを切りながらチラリとジェフリーの反応を見ると、やはりこの男も食い入るように私のカードを切る手さばきを感心したかのように見つめている。
フフン、どうよ。少しは尊敬してくれたかしら?
「さあ、どうぞ。ジェフリー様。カードをお切りください。」
スッと私は切ったカードの山をジェフリーの前に差し出す。
「う、うむ・・・。」
まるで子供の様な手つきでジェフリーはカードを切ると言った。
「よ、よし・・・切ったぞ。」
「はい、ありがとうございます。それではカードを配りますね・・・。」
こうして2回戦が始まった―。
私達はお互い、勝ったり負けたりを繰り返しながらとうとうカードゲームは最終局面の10回目に至った。
ここまでの勝敗結果は私が4回勝ち、ジェフリーは5回勝っている。
後残り1回私が勝てば同点になってしまうが、そんなつもりはさらさらない。
ジェフリーに花を持たせるのだ。しかも今までにない素晴らしい役で—。
私は慎重にカードを配った・・・。
「う・・・うおおおおっ!きた!ついにきたぞ!」
ジェフリーが歓喜して揃った役を私に見せた。
「どうだっ?!キングとエースのフルハウスだっ!」
「お見事です、ジェフリー様。私の完敗ですね。私は9のワンペアでした。」
「や、やった・・・ついに俺は勝った!こんな素晴らしい手札で勝ったのだ!」
え・・・マジですか?
しかし、私はそれを顔に出さずに拍手をして言った。
「素晴らしかったです、ジェフリー様。」
そして彼の頭の上に浮かんでいるハートのゲージを見上げると・・
グググッと青のゲージが減って行き・・・数値は-80になったのだ。
えええっ?!嘘!20も減った!
目の前のジェフリーは嬉しそうに手札を見て笑っている。
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