17 / 119
第17話 私の思惑通り
しおりを挟む
「この馬鹿息子がっ!」
「うるさいっ!馬鹿親っ!」
「親に向かって馬鹿親とは何ですかっ!!」
応接室の扉の前に立つと部屋の中から激しい親子喧嘩の声が聞こえてくる。
「全く…何という方達だ…親子喧嘩を他人の屋敷でするとは…」
父がため息をつく。
「お父様、早く中へ入りましょう。そうでなければ親子喧嘩はますます激しくなっていくかもしれません」
私の言葉に兄が賛同した。
「ええ、アンジェラの言う通りだと思います」
「ああ、分かった。では中へ入るぞ」
そして父はノブを握ると、扉を大きく開け放った。
「どうもお待たせ致しました。娘を連れてまいりましたよ」
するとコンラート親子は3人共ソファから立ち上がったままで一斉にこちらを振り向いた。
「アンジェラッ!」
私の姿を見たニコラスはすかさず鋭い声を上げ…。
「いい加減にしろっ!」
コンラート伯爵に無理やり頭を鷲掴みにされ、再び頭を下げさせられた。
「アンジェラ嬢、この度は息子が君に手を上げそうになったと聞かされた。本当に申し訳なかった。どうか愚かな息子を許しては頂けないだろうか?屋敷に連れ帰った後もよーく言い聞かせるので、どうか許してくれっ!」
「ええ、私からもどうかお願いします。馬鹿な息子を許して頂けないかしら?私達は貴女程ニコラスの妻としてふさわしいお嬢さんはいないと思っているのよ。ニコラスを支えていけるのは貴女の様に大人びて賢い方だけなの。だから許して貰えないかしら?」
夫人が懇願してきた。
「…」
一方のニコラスは未だに伯爵に頭を押さえつけられたまま、口を閉ざしている。しかし、その肩は小刻みに震えている。ひょっとすると必死で怒りを抑えているのかもしれない。
「まぁ、皆さん落ち着いて下さい。取りあえず掛けませんか?アンジェラがニコラス様に話があるそうなので」
父の言葉に、その場にいた全員がソファに腰かけた。そして私は父の隣に座る。
向かい側の席にはニコラスが両親に挟まれて座っていた。
「アンジェラ嬢からの話?ああ、ぜひ伺わせてくれ。おい、良く聞いているんだぞ?」
コンラート伯爵はニコラスに言い聞かせた。
「そうよ、アンジェラさんの話を一言一句聞き洩らさないようにしなさい」
夫人はニコラスの耳元で言う。
「…」
ニコラスは両サイドから両親に言い聞かせられ、明らかに不満そうな表情を浮かべながら私に言った。
「アンジェラ…話とは何だ?」
すると兄がすかさず口を挟む。
「ニコラス様、まずはアンジェラに始めに言う事があるのではないですか?」
「!」
ビクリとニコラスの肩が跳ね…怯えた様子で私を見ると頭を下げて来た。
「わ、悪かった…アンジェラ…つい、今日はあ、頭に血が上って…アンジェラに手を上げてしまいそうになって…すまなかった…です。ゆ、許して下さい…」
ニコラスは私に頭を下げて来たけれども、心からの謝罪でないことはすぐに分った。恐らくコンラート伯爵夫妻もその事は気付いているだろう。その証拠に2人共私の事をちらちらと見ている。
「…分りました。今回は…特別に許して差し上げます。ただ…今後同じような事を後3回繰り返した場合はこちらから婚約破棄させて頂きます。それで宜しいでしょうか?」
「な、何と3回も?!流石はアンジェラ嬢だ!我が息子の度量の無さを考慮して3回もチャンスを与えてくれるなんて…本当にニコラスの嫁になって頂くのにこれ以上の優れた人材はいない。そうは思わないか?」
コンラート伯爵は嬉しそうに夫人に言う。
「ええ、本当ですわ。ニコラス、アンジェラ嬢に感謝しなさい?お前の様に怒りっぽい人間を3回も許して下さるそうなのだから感謝するのよ?」
先程からニコラスは怒りを抑えてブルブルと震えている。…ひょっとしてニコラスは私が待ち望んでいた言葉を発するのだろうか?
私は固唾を飲んで見守った。
「ふ、ふざけないでくれっ!何が後3回も?だ!よし、いいだろう!そこまで言うまら…後1度でもアンジェラに手を上げそうになってしまった場合…人前だろうとどこであろうとアンジェラからの即刻婚約破棄を受けてやるよっ!どうだ?」
「ニコラスッ!」
「お前、何て事を言うのだっ!」
伯爵と夫人が同時に声を上げた。
「はい、ではそうさせて頂きます」
私はすかさず返事をした。やはりニコラス。私の思惑通りの言動を取ってくれた。彼の短気な性格を利用しつつ、自分の株を上げる。これこそが私の狙いだ。
「「「「「「え…?」」」」」」
私の家族をはじめ、全員が驚いた様子で私を見る。
「ニコラス様の言う通り…後一度でも私に手を上げる素振りを見せた場合、即刻その場で婚約破棄をこちらか申し上げます。宜しいですね?」
しかし、ニコラスは返事をしない。
「ニコラス様?お返事が聞こえないのですが?」
「あ、ああっ!わ、分ったよ…」
ニコラスはやけ気味に返事をした。
こうして私の思惑通り、ニコラスが後1度でも手を上げようとしたならば、即刻その場で婚約破棄出来る権利を私は手に入れたのだった―。
「うるさいっ!馬鹿親っ!」
「親に向かって馬鹿親とは何ですかっ!!」
応接室の扉の前に立つと部屋の中から激しい親子喧嘩の声が聞こえてくる。
「全く…何という方達だ…親子喧嘩を他人の屋敷でするとは…」
父がため息をつく。
「お父様、早く中へ入りましょう。そうでなければ親子喧嘩はますます激しくなっていくかもしれません」
私の言葉に兄が賛同した。
「ええ、アンジェラの言う通りだと思います」
「ああ、分かった。では中へ入るぞ」
そして父はノブを握ると、扉を大きく開け放った。
「どうもお待たせ致しました。娘を連れてまいりましたよ」
するとコンラート親子は3人共ソファから立ち上がったままで一斉にこちらを振り向いた。
「アンジェラッ!」
私の姿を見たニコラスはすかさず鋭い声を上げ…。
「いい加減にしろっ!」
コンラート伯爵に無理やり頭を鷲掴みにされ、再び頭を下げさせられた。
「アンジェラ嬢、この度は息子が君に手を上げそうになったと聞かされた。本当に申し訳なかった。どうか愚かな息子を許しては頂けないだろうか?屋敷に連れ帰った後もよーく言い聞かせるので、どうか許してくれっ!」
「ええ、私からもどうかお願いします。馬鹿な息子を許して頂けないかしら?私達は貴女程ニコラスの妻としてふさわしいお嬢さんはいないと思っているのよ。ニコラスを支えていけるのは貴女の様に大人びて賢い方だけなの。だから許して貰えないかしら?」
夫人が懇願してきた。
「…」
一方のニコラスは未だに伯爵に頭を押さえつけられたまま、口を閉ざしている。しかし、その肩は小刻みに震えている。ひょっとすると必死で怒りを抑えているのかもしれない。
「まぁ、皆さん落ち着いて下さい。取りあえず掛けませんか?アンジェラがニコラス様に話があるそうなので」
父の言葉に、その場にいた全員がソファに腰かけた。そして私は父の隣に座る。
向かい側の席にはニコラスが両親に挟まれて座っていた。
「アンジェラ嬢からの話?ああ、ぜひ伺わせてくれ。おい、良く聞いているんだぞ?」
コンラート伯爵はニコラスに言い聞かせた。
「そうよ、アンジェラさんの話を一言一句聞き洩らさないようにしなさい」
夫人はニコラスの耳元で言う。
「…」
ニコラスは両サイドから両親に言い聞かせられ、明らかに不満そうな表情を浮かべながら私に言った。
「アンジェラ…話とは何だ?」
すると兄がすかさず口を挟む。
「ニコラス様、まずはアンジェラに始めに言う事があるのではないですか?」
「!」
ビクリとニコラスの肩が跳ね…怯えた様子で私を見ると頭を下げて来た。
「わ、悪かった…アンジェラ…つい、今日はあ、頭に血が上って…アンジェラに手を上げてしまいそうになって…すまなかった…です。ゆ、許して下さい…」
ニコラスは私に頭を下げて来たけれども、心からの謝罪でないことはすぐに分った。恐らくコンラート伯爵夫妻もその事は気付いているだろう。その証拠に2人共私の事をちらちらと見ている。
「…分りました。今回は…特別に許して差し上げます。ただ…今後同じような事を後3回繰り返した場合はこちらから婚約破棄させて頂きます。それで宜しいでしょうか?」
「な、何と3回も?!流石はアンジェラ嬢だ!我が息子の度量の無さを考慮して3回もチャンスを与えてくれるなんて…本当にニコラスの嫁になって頂くのにこれ以上の優れた人材はいない。そうは思わないか?」
コンラート伯爵は嬉しそうに夫人に言う。
「ええ、本当ですわ。ニコラス、アンジェラ嬢に感謝しなさい?お前の様に怒りっぽい人間を3回も許して下さるそうなのだから感謝するのよ?」
先程からニコラスは怒りを抑えてブルブルと震えている。…ひょっとしてニコラスは私が待ち望んでいた言葉を発するのだろうか?
私は固唾を飲んで見守った。
「ふ、ふざけないでくれっ!何が後3回も?だ!よし、いいだろう!そこまで言うまら…後1度でもアンジェラに手を上げそうになってしまった場合…人前だろうとどこであろうとアンジェラからの即刻婚約破棄を受けてやるよっ!どうだ?」
「ニコラスッ!」
「お前、何て事を言うのだっ!」
伯爵と夫人が同時に声を上げた。
「はい、ではそうさせて頂きます」
私はすかさず返事をした。やはりニコラス。私の思惑通りの言動を取ってくれた。彼の短気な性格を利用しつつ、自分の株を上げる。これこそが私の狙いだ。
「「「「「「え…?」」」」」」
私の家族をはじめ、全員が驚いた様子で私を見る。
「ニコラス様の言う通り…後一度でも私に手を上げる素振りを見せた場合、即刻その場で婚約破棄をこちらか申し上げます。宜しいですね?」
しかし、ニコラスは返事をしない。
「ニコラス様?お返事が聞こえないのですが?」
「あ、ああっ!わ、分ったよ…」
ニコラスはやけ気味に返事をした。
こうして私の思惑通り、ニコラスが後1度でも手を上げようとしたならば、即刻その場で婚約破棄出来る権利を私は手に入れたのだった―。
113
お気に入りに追加
4,728
あなたにおすすめの小説

愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~
ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

「役立たず」と言われ続けた辺境令嬢は、自由を求めて隣国に旅立ちます
ネコ
恋愛
政略結婚の婚約相手である公爵令息と義母から日々「お前は何も取り柄がない」と罵倒され、家事も交渉事も全部押し付けられてきた。
文句を言おうものなら婚約破棄をちらつかされ、「政略結婚が台無しになるぞ」と脅される始末。
そのうえ、婚約相手は堂々と女を取っ替え引っ替えして好き放題に遊んでいる。
ある日、我慢の限界を超えた私は婚約破棄を宣言。
公爵家の屋敷を飛び出した途端、彼らは手のひらを返して「戻ってこい」と騒ぎ出す。
どうやら私の家は公爵家にとって大事で、公爵様がお怒りになっているらしい。
だからといって戻る気はありません。
あらゆる手段で私を戻そうと必死になる公爵令息。
そんな彼の嫌がらせをものともせず、私は幸せに過ごさせていただきます。

領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~
ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる