転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
87 / 108

5章 3 彼がここにいる理由

しおりを挟む
「何あれ…… 」
「どうして男子学生がここに……?」

リオンの姿を見て、女子学生たちがひそひそ話を始めた。それだけではない。

「あの人、どうしてヴェールを被っているのかしら?」
「何か理由があるのかも……」

「まずいわね……今の言葉がロザリンの耳に入れば大変なことになるわよ」

エイダがそっと耳打ちしてきた。

「そうよね……」

リオンとロザリンは距離の離れた場所に座っている。聞こえていなければいいのだけれど……。

しかし――

「うるさいわねっ!! 私達は見世物じゃないのよっ!!」

突如としてロザリンが立ち上がり、周囲を見渡すとヒステリックに叫んだ。

「ロザリン、落ち着いて」

リオンが慌てたように、ロザリンの腕を掴んだ。

「何よっ!! 離しなさいよ! ヴェールのことを口走ったのは誰なの! 手を上げなさいよ!!」

『……』

けれど、静まり返った教室で、手を上げる人など誰もいない。

その態度にロザリンは怒りの為か、身体を震わせている。
女子学生たちはヒステリックに叫ぶロザリンに恐れをなしてか、誰も一言も口を利かない。
まるで水を打ったかのように、教室内は静まり返っていた。

「ロザリン……とにかく、座ろう。皆さん、お騒がせしてすみませんでした」

リオンは立ち上がると、教室を見渡して謝罪の言葉を述べた。

「何よ! どうして謝らなければいけないのよ! 元はと言えば、人のことをコソコソいう人達が悪いんでしょう!!」

謝るリオンに対して、切れるロザリン。

「頼むから、落ち着いてくれよ、ロザリン。また授業に出られなくなってもいいのかい?」

「……」

その言葉にロザリンは俯くと着席した。そこでリオンも再び席に座ったのだが、すっかり教室の雰囲気は変わってしまった。
誰もが口を開くこと無く、緊張感が漂っている。

恐らく、この教室にいる誰もがロザリンのヒステリックぶりに驚いて言葉を無くしているのだろう。

――その時。

教室の扉が開き、黒いローブを羽織った女性教師が現れた。
女性教師は教壇に立つと、挨拶を始めた。

「新入生の皆さん、初めまして。私は風属性の魔術を担当する、セイラ・ワイアットです。最初に説明しておくことがあります。……リオン・ハイランドさん」

「はい」

名前を呼ばれてリオンは席を立った。すると再びクラス中の女子学生の目がリオンに集中する。
すると先生の口から驚きの言葉が飛び出した。

「本来、魔術の授業は男女別れて受けるものではありますが、特例として彼はこちらのクラスで授業を受けることになります」

その言葉に少しだけ教室がざわめいた。

え……? リオンが女子学生と一緒に魔術の授業を受ける?
しかも「風」属性なんて……本来、リオンは「炎」属性だったはずなのに。

まさか、ロザリンの為に……?

「リオン・ハイランドです。よろしくお願いします」

リオンは周囲の視線を浴びながら自己紹介すると、着席する。

「それでは、これから第1回目の『風』属性の魔術講義を始めます。まず、この魔法の特徴についてですが……」

まるで何事も無かったかのように、女性教師による魔術の授業が始まった……。

 
 授業を受けながら、私は斜め前方の席に座っているリオンの姿をそっと伺った。
彼はまっすぐ前を向いて先生の説明を聞いている。

リオンの表情は暗い。
まるで全てを諦めきっているように見えてしまう。

彼の魔力暴走から6年……恐らくハイランド家の人々はずっとロザリンによって苦しめられてきたのだろう。
私のとった行動は、ひょっとすると間違いだったのだろうか?

授業の間……私はずっと自問自答し続けるのだった――

しおりを挟む
感想 362

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...