余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

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ヤンの章 ⑳ アゼリアの花に想いを寄せて

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 その日は1日中、メロディに避けられている気がした。いつもなら移動教室へ行く時、必ずと言っていい程にメロディは僕の元へ来たのに、今日はそんな事一度も無かった。

お昼ぐらいならメロディも僕と一緒に行くだろう。そうだ、午前の授業が終わったら僕の方から声を掛けてみよう…。

僕はメロディの背中を見つめながら思った―。


キーンコーンカーンコーン…

午前の授業全てが終了した。教科書やノートを片付けてメロディの席を見ると既にそこに姿は無かった。

「あれ…?メロディ…?」

すると隣に座るノエミが声を掛けてきた。

「あら?どうかしたの?ヤン」

「うん…メロディと食堂に行こうとしたんだけど…いつの間にかいなくなっていて…」

「気付かなかったの?さっきオルガ達と一緒に教室を出ていったわよ。だから珍しいなって思ったのよ。必ずいつもヤンの席に迎えに来るのに。…ひょっとして喧嘩でもした?」

「喧嘩…?そんな覚えは無いんだけどな…」

「ねぇねぇ、だったら私とサビナと3人で食堂に行かない?実は数学でどうしても分からない事が合ってヤンに教えてもらいたいんだけど…」

「サビナと?」

見ると、いつのまにか僕の背後にサビナが立っていた。

「あ、サビナ…」

僕が声を掛けるとサビナが嬉しそうに笑った。

「え?ヤン。私達と一緒にお昼食べてくれるの?」

「うん。ノエミが数学で分からないところがあるからと言って、一緒に食べることになったんだ。教科書と筆記用具を持っていったほうがいいかな?」

「い、いいのよ!そこまでしなくても。大体食堂に教科書を持っていったら変じゃない。口頭で教えてくれればいいから、ね?サビナ。貴女もそう思うでしょう?」

「ええ、そうよ。席が無くなる前に行きましょうよ!」

「う、うん…」

こうして僕はノエミとサビナに促され、3人で一緒に食堂へ行くことにした―。



****

 食堂に到着すると、既に大勢の生徒たちでごった返していた。

「あ!ヤンッ!あそこっ!あの真ん中の席が開いているわ!早く行きましょうよ!」

ノエミが僕の手を取って、席へと連れて行く。その後ろをサビナもついてくる。
3人で丸テーブルに座ると僕は早速手にしていた持ち手付きのアルミケースをテーブルの上に乗せた。

「あら、ヤン。それはひょっとしてお弁当だったの?」

サビナが尋ねてきた。

「うん、そうだよ。いつも作って持ってきてるから」

「え~自分で作ってきたの?すご~い。あ、そう言えばヤンは卒業後はレストランに就職するんだっけ?」

ノエミの言葉に驚く。

「え?ノエミ…知ってたの?」

「え?あ、う・うん。まぁね。それより中身見せてくれる?」

「いいよ」

蓋を開けると2人はすぐに覗き込んできた。そこにはハムやレタス、卵にチーズ、そして自家製いちごジャムのサンドイッチが入っている。

「わぁ!すごい、美味しそう!」
「本当ね。さすがはヤンだわ」

ノエミとサビナが驚きの表情で言う。

その時―


「ヤン?何してるのよ」

「え…?」

見上げると腕組みしたメロディが僕を鋭い目で見下ろしていた―。
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