余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

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ヤンの章 ⑫ アゼリアの花に想いを寄せて

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「シスターアンジェラ…。僕はどうしたらいいのでしょう。ベンジャミン先生の養子縁組を受ければ…きっとマリーを傷つけてしまいますよね?」

「ヤン…。貴方は…本当はどうしたいの?」

「僕は…」

僕は本当はどうしたいのだろう?欲を言えば大学へ行ってもっと勉強したい。だけどアゼリア様のお墓がある『リンデン』を離れる事には抵抗がある。僕はアゼリア様を見殺しにしてしまったかもしれないんだ。僕が出来る事は月命日にお墓参りをすること。それが贖罪だと…自分に言い聞かせてきた。僕は罪人だ。だからそんな恵まれた環境に身を置いてはいけない。そんな資格はないのだから。

「ヤン兄ちゃん?どうしたんだよ。別に悩むことなんかないだろ?俺だったらそんないい話、飛びつくけどな。だって親もいない平民がいきなり貴族になれちゃうんだぜ?しかも上の大学まで行かせてくれるんだろう?」

「ヨナス…」

ヨナスの言うことは尤もだろう。僕だって…過去にあんな事が無ければ迷わず先生からの養子縁組に飛びついていたかもしれない。だけど僕は…。

「ヤン…まだアゼリアの事を引きずっているのね?だけど、本当にあれは貴方のせいではないのよ?ヨハン先生もカイザード先生も…そしてマルセル先生だって皆仕方の無かったことだったて言ってるじゃないの」

シスターアンジュの言ってる事は理解出来る。だけど、それでも僕はあの時、アゼリア様の寝顔に見惚れて、異変に気づかなかったんだ。僕が見ている前で息を引き取ったのは間違いないのだから。その証拠に…アゼリア様の手はまだ温かかった…。

「ヤン…私は本当はね…貴方は優秀な人だから大学まで進んで欲しいと思っていたのよ?貴方ならきっとヨハン先生のように人の助けになれるような大人になれるだろうから…。だけど、ここ最近不景気な世の中であまり教会に寄付してくれる人の数も減ってしまったから、教会からは大学へ行かせて上げることが出来ないのよ…」

シスターアンジュは一度そこで言葉を切ると続けた。

「ヤン、ベンジャミン先生の話…私はすごく良いと思うわ。貴方が料理が好きなことは知っているけれど、大学に行ったって料理は出来るし…」

「シスターアンジュ…」

「もう余り悩んでいる時間は無いわ。早めに答えを出すのよ。1人で決められないなら色々な人に相談するのも良いと思うわ」

「俺は賛成だからな。マリーの事なんか気にするなよ」

「ヨナス…」

「ヤンお兄ちゃん…メロディお姉ちゃんと行っちゃうの?」

カレンの言葉にハッとなった。

そうだった。僕はメロディに『ハイネ』行きを進められていた…。だけど、メロディには相談する気にはなれなかった。彼女なら絶対にベンジャミン先生の養子になることを勧めるに決まっている。

「う~ん…それはまだ分からないよ。だけど、この事はメロディに黙っていてくれるかな?もし断った場合…メロディをがっかりさせたくないからさ」

そしてシスターアンジェラとヨナスを見た。

「2人もメロディには黙って頂けますか?お願いします。結論が出たら…メロディに話しますから」

「ヤン…」
「ヤン兄ちゃん…」

2人はあまり納得していない様子だったけれども、結局は頷いてくれた―。
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