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ヤンの章 ⑤ アゼリアの花に想いを寄せて
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「あら、ヤン。いらっしゃい、よく来たわね」
メロディの家は『リンデン』の12番地にある大きな1軒屋だった。
「ただいま~。ヤンを連れてきたわよ!」
メロディは大きな声で扉を開けると、正面の廊下からメロディの弟と妹達が姿を見せた。
「あ、ヤン。いらっしゃい」
16歳の弟のカミーユが声を掛けてきた。
「いらっしゃい。ヤン。久しぶりだね」
15歳の末っ子のアメリアが笑顔で挨拶してくる。
「お母さんはいる?」
「うん、ちょうど丸パンを焼いているところなんだ。ヤン、食べていくだろ?」
カミーユが尋ねてくる。
「当然よ。その為に連れてきたんだから。今日はね、ヤンに沢山食べてもらう為につれてきたのよ。早く上がって」
「う、うん。お邪魔します…」
メロディに促され、部屋に上がると確かにパンの焼ける美味しそうな香りがする。
リビングに行くと厨房の様子が見えた。そこで料理を作っているローラさんの姿が見えた。
「あら、久しぶりね。ヤン。元気だった?」
ローラさんが笑みを浮かべて僕を見る。
「はい、元気でした」
それにしても…驚いた。厨房のテーブルには焼き上がったパンが並べられているけれども、30個近くはありそうだ。まるで商売でも出来るのではないかと思える程の量だ。僕がパンを見る視線に気付いたのか、ローラさんが言った。
「このパンはね、ヨハン先生のお宅に届けるのよ。ケリーにまた赤ちゃんが生まれたから差し入れに持っていくのよ。ケリーはまだ安静にしていないといけない身体だから」
「そうですか…ケリーさん、また赤ちゃんが生まれたんですね」
アゼリア様が亡くなった後…僕はヨハン先生やケリーさんに申し訳なくて合わす顔が無かった。また再び会うきっかけとなったのが2人の結婚式の時だった。
聞いた話によると、あの時ケリーさんが着たウェディングドレスはアゼリア様がカイ先生と結婚した時に着たウェディングドレスと同じだったらしい。
ケリーさんは僕がお祝いの言葉を伝えた時に、言ってくれた。
『またあの丘の上に皆で一緒にピクニックに行きましょう。アゼリア様も待っていてくれていると思うから』
その言葉がきっかけで僕は再びヨハン先生とケリーさんの前に立てるようになったのだ―。
「今度生まれてきた赤ちゃんは始めての女の子だったんだって。だからアゼリア様のようにお花の名前をつけてあげたいってケリーが言ってたのよ」
ローラさんが次に焼くパンを窯に入れながら話してくれた。
「お花の名前かぁ…素敵な名前ね。私も結婚して女の子が生まれたらお花の名前をつけようかしら?」
そしてメロディは何故か僕の顔をチラリと見た。
「それじゃ、後10分焼いたら窯の様子を見てパンを取り出してくれる?今焼いているパンはあなた達の分だから」
ローラさんはバスケットにパンを入れながら僕達に言う。
「お母さん、ひょっとして今からケリーさんの所へ行くの?」
アメリアがローラさんに尋ねる。
「ええ、勿論よ。皆のお昼を届けに行くのだから」
「本当?!私も行っていい?赤ちゃんが見たいの!」
「そうね、人手が必要かもしれないから…一緒に来てもらおうかしら?」
「うん!すぐに準備してくるわ!」
アメリアは嬉しそうに言うとリビングを出て行った。
「それじゃ、メロディ。ヤンとカミーユにお昼を用意してあげて」
ローラさんはメロディに言った。
「ええ。任せておいて」
「よろしくね」
それだけ言うとローラさんは料理が入ったバスケットを持ってリビングを出ていってしまった。
「え~っ?!姉ちゃん、1人で出来るのかよ?料理苦手だろう?」
「うるさいわね。カミーユ!私だって料理の一つや二つ…」
そこでメロディは口ごもる。
「いいよ、メロディ。僕と一緒に準備しよう。これでも料理は得意だから」
「さすが、ヤンね。それじゃ一緒にやりましょう!」
こうして僕とメロディは2人で食事の準備を始めることになった―。
メロディの家は『リンデン』の12番地にある大きな1軒屋だった。
「ただいま~。ヤンを連れてきたわよ!」
メロディは大きな声で扉を開けると、正面の廊下からメロディの弟と妹達が姿を見せた。
「あ、ヤン。いらっしゃい」
16歳の弟のカミーユが声を掛けてきた。
「いらっしゃい。ヤン。久しぶりだね」
15歳の末っ子のアメリアが笑顔で挨拶してくる。
「お母さんはいる?」
「うん、ちょうど丸パンを焼いているところなんだ。ヤン、食べていくだろ?」
カミーユが尋ねてくる。
「当然よ。その為に連れてきたんだから。今日はね、ヤンに沢山食べてもらう為につれてきたのよ。早く上がって」
「う、うん。お邪魔します…」
メロディに促され、部屋に上がると確かにパンの焼ける美味しそうな香りがする。
リビングに行くと厨房の様子が見えた。そこで料理を作っているローラさんの姿が見えた。
「あら、久しぶりね。ヤン。元気だった?」
ローラさんが笑みを浮かべて僕を見る。
「はい、元気でした」
それにしても…驚いた。厨房のテーブルには焼き上がったパンが並べられているけれども、30個近くはありそうだ。まるで商売でも出来るのではないかと思える程の量だ。僕がパンを見る視線に気付いたのか、ローラさんが言った。
「このパンはね、ヨハン先生のお宅に届けるのよ。ケリーにまた赤ちゃんが生まれたから差し入れに持っていくのよ。ケリーはまだ安静にしていないといけない身体だから」
「そうですか…ケリーさん、また赤ちゃんが生まれたんですね」
アゼリア様が亡くなった後…僕はヨハン先生やケリーさんに申し訳なくて合わす顔が無かった。また再び会うきっかけとなったのが2人の結婚式の時だった。
聞いた話によると、あの時ケリーさんが着たウェディングドレスはアゼリア様がカイ先生と結婚した時に着たウェディングドレスと同じだったらしい。
ケリーさんは僕がお祝いの言葉を伝えた時に、言ってくれた。
『またあの丘の上に皆で一緒にピクニックに行きましょう。アゼリア様も待っていてくれていると思うから』
その言葉がきっかけで僕は再びヨハン先生とケリーさんの前に立てるようになったのだ―。
「今度生まれてきた赤ちゃんは始めての女の子だったんだって。だからアゼリア様のようにお花の名前をつけてあげたいってケリーが言ってたのよ」
ローラさんが次に焼くパンを窯に入れながら話してくれた。
「お花の名前かぁ…素敵な名前ね。私も結婚して女の子が生まれたらお花の名前をつけようかしら?」
そしてメロディは何故か僕の顔をチラリと見た。
「それじゃ、後10分焼いたら窯の様子を見てパンを取り出してくれる?今焼いているパンはあなた達の分だから」
ローラさんはバスケットにパンを入れながら僕達に言う。
「お母さん、ひょっとして今からケリーさんの所へ行くの?」
アメリアがローラさんに尋ねる。
「ええ、勿論よ。皆のお昼を届けに行くのだから」
「本当?!私も行っていい?赤ちゃんが見たいの!」
「そうね、人手が必要かもしれないから…一緒に来てもらおうかしら?」
「うん!すぐに準備してくるわ!」
アメリアは嬉しそうに言うとリビングを出て行った。
「それじゃ、メロディ。ヤンとカミーユにお昼を用意してあげて」
ローラさんはメロディに言った。
「ええ。任せておいて」
「よろしくね」
それだけ言うとローラさんは料理が入ったバスケットを持ってリビングを出ていってしまった。
「え~っ?!姉ちゃん、1人で出来るのかよ?料理苦手だろう?」
「うるさいわね。カミーユ!私だって料理の一つや二つ…」
そこでメロディは口ごもる。
「いいよ、メロディ。僕と一緒に準備しよう。これでも料理は得意だから」
「さすが、ヤンね。それじゃ一緒にやりましょう!」
こうして僕とメロディは2人で食事の準備を始めることになった―。
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