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マルセルの章 ⑩ 君に伝えたかった言葉
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図星だったのだろうか?イングリット嬢は俺の言葉の後、口を閉ざしてしまった。
まずい…言い過ぎてしまったかもしれない。
「あ、あの。イングリット嬢…」
「…始めは…そんなつもりは無かったのです…」
「え?」
俯いたイングリット嬢が言葉を紡ぎ出した。
「ベンジャミンは父の会社の顧問弁護士を務めている先生の新米弁護士で、見習いとして父の元へ来てたのです。年齢も近かったことから不思議と話が合い、次第に打ち解け始めた頃に、ブライアンの事を相談するようになったのです。私とブライアンは年齢が離れすぎているので、話も全く合わず…いつも会話が途中で終わってしまい、気まずい沈黙ばかりが続いてしまうので彼と会う日は私にとって苦痛な時間でしかありませんでした。そこでベンジャミンに悩みを打ち明けたのです。婚約者と会うのが苦痛でたまらない…と」
そこまで言うと、イングリット嬢は自分のカップに手を伸ばし、口を付けるとすぐにソーサーの上に置いた。
「するとベンジャミンが言いいました。そんなに婚約者と会うのが苦痛な時間でしかないのなら婚約を解消して貰えばいいのではないかとアドバイスを受けたのです。親の言いなりになって、自分を犠牲にしてまで無理に結婚する必要はないのでは?と言われました。」
「えっ?!」
その言葉に驚いた。貴族同士の結婚…まして両家の思惑がある結婚はそう簡単に取り消すことが出来ないのに…?一体ベンジャミンと言う男は何という事をイングリット嬢に吹き込んでくれたのだろう。
「私は、このまま親の決めた通り…我慢してブライアンと結婚するつもりでしたが、ベンジャミンに言われて、考えが変わったのです。そこでまず両親に訴えました。彼との婚約を解消したいと」
「そうですか。ご両親は何と言われましたか?」
「何としても結婚を取り消すことは出来ないと言われました…」
イングリット嬢は悲しげに俯いた。
「…そうですか」
それは当然の事だろう。
「それで、もう一度ベンジャミンに相談したのです。両親には反対されてしまったので、他に何か方法は無いだろうかと…」
「…」
俺は黙って聞いていた。
「そして彼に言われました。それでは婚約者本人に婚約解消を申し出てみてはどうかと。そして私はすぐにブライアンにお願いしたのです。貴方と私では年齢が離れすぎているので、どうあってもこの結婚は不釣り合いなので婚約解消して下さいと。
「それを…ブライアン本人に伝えたのですか?」
「ええ、そうですよ?何がいけないのですか?」
「しかし、それではブライアンがあまりに気の毒…」
そこへイングリット嬢が畳み掛けるように言った。
「なら、私は気の毒では無いとおっしゃるのですか?子供の頃から、意にそぐわぬ相手と婚約を結ばされ…22歳になったら彼と結婚するように言われた私の気持ちが!」
「イングリット嬢…」
「マルセル様。私は12歳の時に初めてブライアンと会ったのです。その時、彼は幾つだったと思います?32歳だったのですよ?そして私にこう、言ったのです。『始めまして、僕の将来の花嫁さん』と。その時感じた嫌悪感…分かりますか?多感な年頃の娘が…父親とさほど年齢が変わらない男性に初対面でいきなりそんな事を言われて平気でいられるとお思いですか?」
「!」
それは衝撃的な話だった―
まずい…言い過ぎてしまったかもしれない。
「あ、あの。イングリット嬢…」
「…始めは…そんなつもりは無かったのです…」
「え?」
俯いたイングリット嬢が言葉を紡ぎ出した。
「ベンジャミンは父の会社の顧問弁護士を務めている先生の新米弁護士で、見習いとして父の元へ来てたのです。年齢も近かったことから不思議と話が合い、次第に打ち解け始めた頃に、ブライアンの事を相談するようになったのです。私とブライアンは年齢が離れすぎているので、話も全く合わず…いつも会話が途中で終わってしまい、気まずい沈黙ばかりが続いてしまうので彼と会う日は私にとって苦痛な時間でしかありませんでした。そこでベンジャミンに悩みを打ち明けたのです。婚約者と会うのが苦痛でたまらない…と」
そこまで言うと、イングリット嬢は自分のカップに手を伸ばし、口を付けるとすぐにソーサーの上に置いた。
「するとベンジャミンが言いいました。そんなに婚約者と会うのが苦痛な時間でしかないのなら婚約を解消して貰えばいいのではないかとアドバイスを受けたのです。親の言いなりになって、自分を犠牲にしてまで無理に結婚する必要はないのでは?と言われました。」
「えっ?!」
その言葉に驚いた。貴族同士の結婚…まして両家の思惑がある結婚はそう簡単に取り消すことが出来ないのに…?一体ベンジャミンと言う男は何という事をイングリット嬢に吹き込んでくれたのだろう。
「私は、このまま親の決めた通り…我慢してブライアンと結婚するつもりでしたが、ベンジャミンに言われて、考えが変わったのです。そこでまず両親に訴えました。彼との婚約を解消したいと」
「そうですか。ご両親は何と言われましたか?」
「何としても結婚を取り消すことは出来ないと言われました…」
イングリット嬢は悲しげに俯いた。
「…そうですか」
それは当然の事だろう。
「それで、もう一度ベンジャミンに相談したのです。両親には反対されてしまったので、他に何か方法は無いだろうかと…」
「…」
俺は黙って聞いていた。
「そして彼に言われました。それでは婚約者本人に婚約解消を申し出てみてはどうかと。そして私はすぐにブライアンにお願いしたのです。貴方と私では年齢が離れすぎているので、どうあってもこの結婚は不釣り合いなので婚約解消して下さいと。
「それを…ブライアン本人に伝えたのですか?」
「ええ、そうですよ?何がいけないのですか?」
「しかし、それではブライアンがあまりに気の毒…」
そこへイングリット嬢が畳み掛けるように言った。
「なら、私は気の毒では無いとおっしゃるのですか?子供の頃から、意にそぐわぬ相手と婚約を結ばされ…22歳になったら彼と結婚するように言われた私の気持ちが!」
「イングリット嬢…」
「マルセル様。私は12歳の時に初めてブライアンと会ったのです。その時、彼は幾つだったと思います?32歳だったのですよ?そして私にこう、言ったのです。『始めまして、僕の将来の花嫁さん』と。その時感じた嫌悪感…分かりますか?多感な年頃の娘が…父親とさほど年齢が変わらない男性に初対面でいきなりそんな事を言われて平気でいられるとお思いですか?」
「!」
それは衝撃的な話だった―
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