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ケリーの章 ⑰ 待ちわびていたプロポーズ

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 3人でローラさんの手作りのお弁当を頂いた。ジャムや生クリーム、ハムやレタスなどの様々な具材の入った可愛らしいロールサンド、スコーンにチキンサラダ、そしてデザートにプディング…。

「とっても美味しかったです、ローラさん」

すっかり御馳走になった私は笑顔で言った。

「フフ…良かったわ。料理上手なケリーに褒められるなんて」

ローラさんが食後の紅茶を飲みながら笑顔で私を見た。

「そ、そんな。私なんてまだまだです…」

「何言ってるの?オリバーに聞いたけど、ヨハン先生が言ってたそうよ?ケリーは仕事だけじゃなく、家事も得意だって。特にお料理の腕前は素晴らしいって褒めていたそうよ?」

「え…?ヨハン先生が…?」

するとローラさんはチラリと中庭の方を見た。そこにはヨハン先生の手作りのブランコに乗って遊んでいるアメリアの姿がある。

「アメリアも今ブランコで遊んでいるし…ケリー。そろそろ何があったのか、教えてくれるかしら?

「は、はい…」

私はテーブルの上で手をギュッと組むと言った。

「実は…私、ほんの数日前…ヨハン先生の紹介でマリー・ブラウン夫人と、そのご子息のトマスさんと言う方とレストランでお会いしたのです」

「え…?もしかして、ブラウンって…『リンデン』の富豪の商家の事?」

マリーさんが意外そうな顔を見せた。

「はい、そのブラウンさんです」

「そう言えば、オリバーが言っていたわ。今ブラウン家では跡取り息子のお嫁さんになる女性を探しているって…そこで若い独身女性達が騒いでいたそうよ。だけど最近になって候補の女性が決まったらしいのだけど…」

ローラさんの話に私は血の気が引いた。まさか、私がその候補者…?

「大丈夫?!ケリー。顔色が真っ青よ?しっかりして!」

ローラさんが声を掛けて来た。

「あ、あの…実は、私昨晩トマスさんに誘われて2人で一緒に食事をしているんです。でも、まさか候補者が私って事は無いですよね?私は小学校を途中で辞めているくらい、貧しい家柄の出身なんです。学だって無いのに…。それにこの町には私なんかよりもずっと素敵な女性達が沢山います。だからこんな私が…選ばれるはずが…」

段々声が小さくなっていく。そんな私をローラさんはじっと見つめていたが、やがて口を開くと言った。

「ケリー。貴女は何も知らなかったかもしれないけれど…ここ『リンデン』では貴女は評判の娘だったのよ?気立てが良くて明るくて…笑顔が素敵な女性って言う事で」

「え?そ、そんなはずは…」

「実はね、オリバーから聞いたのだけど、今まで幾つもヨハン先生のところにケリーの縁談の申し込みが来ていたらしいのよ。だけど、それら全てをヨハン先生が断っていたんですって。だから余程ケリーを手放したくないんだろうなって話していたけど…本当はそうじゃ無かったのかしらね…」

私にお見合い話が過去にも持ち込まれていたことを知ったのも初めてだし、その話をヨハン先生がお断りしていたのも初耳だった。けれど、それ以上に私が気になるのはローラさんの話しだった。

「あの…本当はそうじゃ無かった…って一体どういう意味でしょうか?」

「ええ。ヨハン先生は…ひょっとすると待っていたのかもしれないわ。より条件のいいお見合いの話が来るのを…」

「そ、そんな…」

けれど、脳裏にヨハン先生の言葉が蘇る。


< ブラウン商会はここ『リンデン』の町の富豪だから、生活に苦労することは無いと思うよ >

ヨハン先生が私にそう告げた事を―。
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