余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

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ケリーの章 ③ 待ちわびていたプロポーズ

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「あ、あの…ヨハン先生、お食事って…」

ドキドキしながら尋ねるとヨハン先生が笑顔で言った。

「うん、実はねこの近所にレストランが出来たのは知っているよね?」

「はい、勿論知っています。いつもお客さんが並んでいる程、人気のレストランですから」

「そこへ今夜行ってみよう。患者さんに聞いたんだけど、あそこのレストランは週に1度、ピアノの生演奏が聞けるらしいんだ。それが今夜なんだよ」

「そうなんですか?」

ピアノの生演奏が聞ける…しかもヨハン先生と2人でレストランなんて初めての事だ。まる夢の様な話にうっとりした。

「その店は少し格式が高いから男性はスーツ着用で、女性もそれなりのドレスを着なくてはいけないんだ」

「あ…」

ヨハン先生の言葉で私は現実に引き戻される。私は…そんなお洒落な服は持っていない。いつもお洗濯のしやすい麻のワンピースとエプロン姿ばかりで余所行きの服など持っていなかった。

「どうしたんだい?ケリー」

ヨハン先生が私の変化に気付いて声を掛けて来た。

「私…やっぱり行けません。レストランには…ヨハン先生お1人でどうぞ行ってらして下さい」

「え?何故行けないんだい?」

「私、余所行きの服を持っていないからです。だから…」

するとヨハン先生が言った。

「余所行きの服ならあるじゃないか?」

「え…?」

「ケリー。アゼリアの形見の服があるだろう?それを着ればいいじゃないか」

「アゼリア様の…」

私はアゼリア様から形見分けとして生前アゼリア様が着ていた服を全て譲り受けていた。本当なら私は貰える立場の人間では無かったのだけれど、遺品の整理をしていた時に、アゼリア様の遺言状が見つかったからだ。自分の服は全て私に譲ってあげて下さいと遺言状に書かれていた。
アゼリア様から頂いた洋服は季節の物を合わせて全部で25着あった。けれども私はまだ一度もそれらの服に袖を通した事が無かった。何故なら…私がその服を着れば、ヨハン先生が嫌でもアゼリア様を思い出し…辛い気持ちになってしまうだろうと思うと、どうしても着る事が出来なかったのだ。

「ケリー?どうかしたのかい?」

私が黙りこくってしまったので、ヨハン先生が心配そうに声を掛けて来た。

「あ、あの…私なんかがアゼリア様のドレスを着てもいいのでしょうか…?」

恐る恐る尋ねるとヨハン先生が私の頭を撫でてきた。

「いいに決まっているじゃないか?きっとケリーが着てくれたら…天国のアゼリアも喜んでくれると思うよ?」

だけど…ヨハン先生の顔は何処か少し寂しげに見えた―。
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