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第3話 ある占い師との出会い 3
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「一体、何なんだ⁉ あの女は! 食事と飲み物を提供する店で俺の大嫌いな香水の匂いを振りまいて………挙げ句にあんなに胸元の大きく開いた服を着るなんて頭がおかしいんじゃないか⁉ まるであれでは娼婦と同じだ!」
怒りに身を任せ声を荒げるエルウィンをスティーブは必死で宥める。
「大将、落ち着いて下さい。他の客たちに聞かれますって! もしかすると、あの娘が目当てでこの店に来ている客たちがいるかもしれないじゃないですか! 余り目立つ行動は控えてくださいよ」
辺境伯エルウィンはあまり顔を知られてはならない。彼を狙う暗殺者が多くいるからだ。なので目立つ行動は控えるように日頃から注意を払っていなけらばならいのである。
「チッ! 全く……」
エルウィンは舌打ちすると腕組みをして料理が運ばれてくるのを待つことにした――
**
「うん、この煮込み料理……子羊の肉はあまり食したことが無かったが、なかなかうまいじゃないか」
エルウィンが満足気にうなずく。
「ええ、そうですね。それにこの異国のワイン、料理に合いますぜ」
まるで水のようにワインを飲みながらスティーブはチラリとエルウィンの様子をうかがった。
(良かった……あんなに苛ついていたから、一時はヒヤヒヤしたが料理のおかげで機嫌が直ったようだ。大将が単純な性格で助かった)
この地域では越冬期間に入る11月が、最も日が短くなる。窓の外は既に茜色に染まっていた。スティーブは外の景色を見ると、エルウィンに声を掛けた。
「大将、今夜の宿はどうされますか? あの娘の言う通り、隣の宿屋に宿泊しますか?」
「冗談じゃない、却下だ。お前、あの女が言った台詞を忘れたのか? 就寝時にワインを届けに来ると言ったんだぞ?」
スティーブを睨みつけるエルウィン。
「え? ええ……そうですが……それが何か?」
「ワインに何か妙なものを混ぜて運んでくるかもしれないじゃないか。俺は毒薬には耐性があるが、あいにくそれ以外の薬を盛られてでもしてみろ? たまったものじゃない。つまり、寝る前にワインを届けに来るっていうのは……そういうことなんだ! みなまで言わせるな」
「あ……」
その言葉にスティーブはある事件のことを思い出した。
それはエルウィンが14歳の頃、越冬期間中にランベールの手引で城に滞在していた娼婦が彼に恋い焦がれ、就寝前の飲み物に睡眠薬を盛り……ことを成し遂げてしまった過去を。
あの事件以来エルウィンはますます女性に対し、潔癖症になってしまった。そして自分に近づく女を徹底的に排除してきたのだった。
「分かりました。では宿屋は別の場所を探しましょう」
「ああ、当然のことだ」
そして、エルウィンはワインを口にした。
****
ふたりが酒場を出る頃には、すっかり日は傾き星が瞬き始めていた。町は昼間よりも一層盛り上がりを見せ、あちこちでは大道芸人が様々な芸を披露している。
「随分賑やかですね」
「ああ、そうだな。なかなかの盛況ぶりだ。悪くない」
エルウィンが頷いたその時。
「そこの黒髪のお兄さん、ちょっと寄っていきませんか?」
不意にエルウィンは声を掛けられた――
怒りに身を任せ声を荒げるエルウィンをスティーブは必死で宥める。
「大将、落ち着いて下さい。他の客たちに聞かれますって! もしかすると、あの娘が目当てでこの店に来ている客たちがいるかもしれないじゃないですか! 余り目立つ行動は控えてくださいよ」
辺境伯エルウィンはあまり顔を知られてはならない。彼を狙う暗殺者が多くいるからだ。なので目立つ行動は控えるように日頃から注意を払っていなけらばならいのである。
「チッ! 全く……」
エルウィンは舌打ちすると腕組みをして料理が運ばれてくるのを待つことにした――
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「うん、この煮込み料理……子羊の肉はあまり食したことが無かったが、なかなかうまいじゃないか」
エルウィンが満足気にうなずく。
「ええ、そうですね。それにこの異国のワイン、料理に合いますぜ」
まるで水のようにワインを飲みながらスティーブはチラリとエルウィンの様子をうかがった。
(良かった……あんなに苛ついていたから、一時はヒヤヒヤしたが料理のおかげで機嫌が直ったようだ。大将が単純な性格で助かった)
この地域では越冬期間に入る11月が、最も日が短くなる。窓の外は既に茜色に染まっていた。スティーブは外の景色を見ると、エルウィンに声を掛けた。
「大将、今夜の宿はどうされますか? あの娘の言う通り、隣の宿屋に宿泊しますか?」
「冗談じゃない、却下だ。お前、あの女が言った台詞を忘れたのか? 就寝時にワインを届けに来ると言ったんだぞ?」
スティーブを睨みつけるエルウィン。
「え? ええ……そうですが……それが何か?」
「ワインに何か妙なものを混ぜて運んでくるかもしれないじゃないか。俺は毒薬には耐性があるが、あいにくそれ以外の薬を盛られてでもしてみろ? たまったものじゃない。つまり、寝る前にワインを届けに来るっていうのは……そういうことなんだ! みなまで言わせるな」
「あ……」
その言葉にスティーブはある事件のことを思い出した。
それはエルウィンが14歳の頃、越冬期間中にランベールの手引で城に滞在していた娼婦が彼に恋い焦がれ、就寝前の飲み物に睡眠薬を盛り……ことを成し遂げてしまった過去を。
あの事件以来エルウィンはますます女性に対し、潔癖症になってしまった。そして自分に近づく女を徹底的に排除してきたのだった。
「分かりました。では宿屋は別の場所を探しましょう」
「ああ、当然のことだ」
そして、エルウィンはワインを口にした。
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ふたりが酒場を出る頃には、すっかり日は傾き星が瞬き始めていた。町は昼間よりも一層盛り上がりを見せ、あちこちでは大道芸人が様々な芸を披露している。
「随分賑やかですね」
「ああ、そうだな。なかなかの盛況ぶりだ。悪くない」
エルウィンが頷いたその時。
「そこの黒髪のお兄さん、ちょっと寄っていきませんか?」
不意にエルウィンは声を掛けられた――
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