上 下
7 / 22

第1幕 『星の銀貨』のヒロインの場合 ⑦

しおりを挟む
 ルナは凍えるような寒さの中、次の教会を目指して歩いていた。

(神様・・・どうぞ私をお守り下さい・・・。)

ルナは麻袋に入っている4本のパンを大事に少しずつ食べながら一つの村に辿り着いた。そこはルナが住んでいた村よりもずっと貧しい村だった。

(この村に教会はあるかしら・・・?)

ルナは教会を探して歩いていると、道端に1人の老人が倒れていた。その身体は痩せこけ、手足は針金のように細かった。

「おじいさんっ!大丈夫ですかっ?!」

ルナは驚いてその老人に駆け寄り、助け起こした。

「あ・・ああ・・・お腹が空いて・・もう死にそうです・・・。もう5日間何も口にしていないのです・・・。も、もし・・何か食べ物があるなら・・どうかこの私にお恵みを・・・。」

「そんな・・5日間も何も口にされていないのですか?分かりました。今すぐにパンを差し上げますね?」

ルナは自分の食べかけのパン以外、残りの3本のパンを全て老人に渡した。

「え・・こ、こんなに沢山のパンを頂いても構わないのですか・・?」

老人は信じられないと言わんばかりの目でルナを見た。

「ええ、お爺さん。私は自分の分のパンがあります。どうぞ食べてください。それでお伺いしたいのですが、この村に教会はありますか?」

「教会なら、この道をずっと真っすぐに行くとありますよ。」

老人の指さした方向には小高い丘があった。

「有難うございます。お爺さん。」

ルナはお礼を言うと、老人に手を振り教会を目指した。寒さに凍えながら歩き続け、ようやく教会へ辿り着いた。

「すみません!どなたかいらっしゃいますか?!」

しかしいくらドアを叩いても返事は無い。試しに押してみると、ドアは何なんく開いた。

「失礼します・・・。」

ルナはドアを開けて中へ入ると、そこは蜘蛛の巣だらけの古びた教会だった。
まるで何年も無人の様であった。

「まあ・・・ひょっとするとこの教会には神父様はいないのかもしれないわ。すみませんが、イエス様。今夜一晩泊めてください。その代わり、お掃除させて頂きますね?」

ルナは教会の中を探し回り、ほうきとぞうきんを見つけた。そこでほうきで埃や蜘蛛の巣を綺麗に払い、雑巾がけをすると教会は見違えるほど綺麗になった。

「神様、どうか私を見守っていて下さい。」

そしてルナはパンを一口だけかじると椅子の上に横になり、身体を縮こませて眠りについた。


 翌日―

 夜明けと共にルナは次の村へと旅立った。


 一足遅れてアーサーはルナがやって来た村へと足を踏み入れた。そして切り株の上に座っている1人の老人を見つけた。

「すみませんが、この村に若い娘さんが訪れませんでしたか?」

すると老人は答えた。

「ええ、昨日会いましたよ。それは優しい娘さんでした。飢え死にしそうだったこの私に自分のパンを3本もくれたのです。そして向こうにある朽果てた教会へ向かいましたよ。」

「本当ですか?有難うございます。」

アーサーは頭を下げると、急いで教会へ向かった。ようやく教会へ辿り着き、ドアを開けて驚いた。朽果てた教会と聞いていたのに、中はとても綺麗に掃除されていたからだ。

「こ・・・これは・・・やはり、その娘さんが掃除したのだろうか・・?」

驚くアーサーの後姿を黙って見届けていた老人は満足そうに頷くと、突然身体が金色に光り輝き、スッとその場で消え失せた―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

夫が不倫相手を妊娠させたので、離縁します。

杉本凪咲
恋愛
夫は妻である私に何も望まない。 なぜなら、彼が欲しいのは妻であって、私ではないから。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

処理中です...