命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
91 / 107

5−12 切ない恋心

しおりを挟む
 温かい…。

 もっと温まりたくてその温もりに身体を押し付け…うす暗い部屋の中で不意に私は目が覚めた。そして自分の置かれている状況に気付き、ギョッとした。何故かと言うと、私はベッドの上で逞しい男性の胸に顔を押し付ける形でぴったり寄り添うように眠っていたからだ。そして男性の腕は私をしっかりと抱きしめている。
男性も眠っているのだろう。私の頭の上で気持ちよさげに寝息を立てているのが分る。

え?え?

あまりの事に頭はパニックを起こしていた。視線だけをグルリと動かせば、薄暗い中で、ここが自分の部屋であると言う事が分った。
ちょっと待って…。
私と同じベッドで眠っている男性は…この腕は一体誰の腕なのだろう?どうしてこんな事になっているのだろう?

ドク
ドク
ドク…

緊張で心臓の音が大きくなる。一体この人物は誰なのだろう…?顔を上に挙げて確認し…私は思わず悲鳴を上げそうになった。何と私のベッドで一緒に眠っていたのは他でもない、ユベールだったのだ。

嘘…?どうしてユベールがここにいるのだろうか?いや、それ以前にどうしてこのような事になっているのだろう…?
兎に角、この状況はいろいろまずい気がする。仮に誰かが部屋に入ってきてこんな姿を見られでもしたら勘違いされてしまう。
は、離れなくては…。

グイッ

「…」

グイッ

「…」

駄目だ、ユベールの力が強すぎて離れる事も出来ない。も、もう一度…

「駄目だ…もっと寝ていろ…」

突然頭の上でユベールの気怠げな声が聞こえてきて抱き寄せる力が強まった。

ドキッ!

妙に色気のあるその声に顔が真っ赤になるのが自分で分かった。心臓が口から飛び出るのではないかと思うくらい鼓動が早まる。ま、まさか目が覚めて…?恐る恐る上を見上げれば相変わらずユベールは気持ちよさげに眠っている。
それにしても…こうしてユベールを間近でじっくり見るのは初めてだけど、改めて思う。なんて美しい顔なのだろうと。まつげも長く、鼻筋も高く通っている。本当に男性にしておくには惜しい位の美男子だ。
胸に押し付けられたユベールの心臓の規則正しく波打つ音が聞こえてくる。
ユベールの身体からはオリエンタル系の香りがしている。

ドキ
ドキ
ドキ
ドキ…

さっきから心臓の音が早鐘をうち、とてもではないが寝ていられる状況ではない。
こんなに長い間異性に抱擁された経験がない私には刺激が強すぎる。ましてや相手はユベールなのだから尚更だ。ユベールの傍は安心する。やっぱり私はユベールが好きなんだ。ユベールの香りを吸い込みたくて、彼の胸に顔を擦り付けた時…。

「ジュリエッタ…」

ユベールがその名を口にした。

「!」

途端に我に返った。
あ…。
わ、私は一体何を…。今の一言で全身に冷水を浴びせられたかのように血の気が引いていく。
そうだった。すっかり忘れてしまっていたけれども…ユベールの好きな女性はジュリエッタなのだ。ユベールはジュリエッタがアンリ王子の恋人であってもユベールの気持ちは揺らぐことはない。そして私も…ユベールが好きだけれども、決してこの恋が叶うことは無い。

「ユベール様…」

気付けば私は泣いていた。過去12回の死を繰り返してきた時にもどうしようもない孤独と恐怖に苛まされて来たけれども、決して泣くことは無かったのに、今は叶わぬ恋に涙している自分がいた。
でも…泣いたら駄目だ。今ユベールが目を覚ませば何故泣いているのか追求されてしまうから。
私は必死で涙をこらえ、目をゴシゴシとこするとそっと、ユベールに自分の身体を預けた。

ごめんなさい、ユベール。貴方が誰を愛しているか知っているけれども…。

どうか今だけは…このままでいさせて下さい。

そして私は再び目を閉じた―。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...