命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
80 / 107

5-1 ある会話

しおりを挟む
 あの日以来、私は死にかける程の事件に巻き込まれることは無かった。魔石探しは相変わらず体力の消耗が激しかったが、魔石の力にさらされる事にも身体が少しずつ慣れて来たのか、以前よりは多少身体は楽になっていた。そしてキリアンについても同じことが言えた。仲間になった初日は彼が私の傍から離れた途端、過去に命を落とした原因のひとつである毒蛇に噛まれた事で、不信感を抱いていた。けれどそれ以降は、魔石を奪おうとする者達を守ってくれたので、彼に対する疑念も徐々に消えて行った。


 魔石探しを始めて半月が経過した頃―

「そう言えば、知ってるかい?シルビア」

2人でダイニングルームで昼の食事を取っていた時の事、不意にキリアンが声を掛けて来た。

「何ですか?」

スプーンでスープをすくって飲みながら返事をした。

「明日、アンリ王子たちが城に帰って来るって話さ」

「!」

ユベールが…明日帰って来る…。だけど…。

「そうですか」

私は何食わぬ顔でサラダを口に入れた。

「あれ?それだけの反応なのかい?」

キリアンはフォークに刺したウィンナーを口に入れるとおどけた顔をした。

「それだけ?とは?」

「もっと喜ぶかと思ったけどな」

「別に喜ぶことはありません。アンリ王子が城に帰って来ても、私のする事は決まっていますから」

第一…私はもうユベールを自分のパートナーにする事は出来ないのだから。何故ならアンリ王子が許さないだろうし、それにユベールの好きな女性はジュリエッタなのだから。このまま距離を置いた方がいいのだ。私は…ユベールの信頼を得る事が出来たと思っている。過去12回のループに置いて、ここまで親しくなれたのは今回が初めてだから。なので今なら彼は私を殺す事は無いだろう。
多分、私はユベールを攻略する事が出来たはず。私の事を殺すには惜しい人間と思ってくれているに違いない。私はユベールが期待を裏切らないと信じている。

「ふ~ん…随分そっけないんだな。アンリ王子の事を言ったつもりはないのに」

キリアンはテーブルの上に乗っているフルーツに手を伸ばすと言った。

「…」

私は返事をしなかった。キリアンが何の話をしているのかは分かり切っていた。

「それじゃ、俺はこのまま引き続き魔石探しのパートナーを続けてもいいんだね?」

「ええ、キリアン様のご迷惑でなければお願いします」

もう今更次のパートナーを見つける気にもなれなかった。

「迷惑なんて思ってもいないさ。これからもよろしく、シルビア」

キリアンが右手を差し出して来たので、私も右手を差し出すとその手を強く握りしめられた―。


****

午後5時―

魔石探しの終わりの時間になった。

「はあ、はあ…」

荒い息を吐きながら廊下の壁に寄りかかり、私は言った。

「今日も…1日お付き合い頂き、ありがとうございました」

キリアンは腰のベルトに括り付けた袋の中に魔石を入れると言った。

「いや、俺は平気さ。それよりもシルビアの方が大変じゃないか。」

「大丈夫です…少し休めば体力も戻って来るので」

「そうなのかい?なら…いいけど」

「ところで今、魔石は何個集まっていますか?」

「そうだな…正確な数はまだ数えていないけど、多分80個はあると思うよ?」

「80ですか?」

「ああ。そうだよ」

「良かった…」

これで少しはゆっくり出来るかもしれない。

「シルビア、それじゃまた明日な」

「はい。また明日よろしくお願いします」

そして私とキリアンはその場で別れた―。


****

22時―

いつもの日課で私は自室で日記を書いていた。デスループを回避するために毎日日記を書かさず付けていたからだ。

「う~ん…」

日記を書き終え、伸びをした時ノックの音がした。

コンコン

「え…?」

誰だろう?こんな時間に…?

「誰ですか?」

扉の前に立ち、声を掛けた。

「俺だ、ユベールだ」

「えっ?!」

ガチャ

驚いて扉を開けた。するとそこには懐かしいユベールが半月ぶりに私の目の前に立っていた―。







しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...